「フォルティッシッシモ」の誘惑 | "楽音楽"の日々

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音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

神戸弘陵学園高校マーチングバンド部。彼らとの出会いは、衝撃的でした。

 

 

2019年の11月24日に開催された「第1回大阪キャッスルマーチング」。私のお目当ては、当然京都橘でした。大阪城をバックにして青空の下開催されたこのイヴェントは、とても楽しいものでした。関西近郊の中高生のバンドが出演したイヴェントで、強烈な印象を残したのが神戸弘陵学園高校マーチングバンド部だったのです。彼らは「ブラスエキスポ」の常連でもあって、私は名前だけは知っていましたが、完全にノーマークでした。とりあえず、動画をご覧ください。いつもお世話になってるst.taketoさん撮影です。

 

 

私の第一印象は、「なんじゃこりゃあ!?」でした。

楽器の編成こそドラムコー団体のものだけど、それまでに見たことのないパフォーマンスでした。思いっきり歪んだエレキ・ベースの音に、ツイン・ドラム。完全にハード・ロックです。しかも吹奏楽器は常に全力。

「そんなにフルパワーで演ってて良いの?」音楽的な疑問が先に立ってしまって、そっと動画を閉じたのでした。「見なかったことにしよう・・・。」

ところが、オススメに出てくる彼らの関連動画を続けて見てしまったのです。そうしているうちに、彼らのモットーが「見る人に元気と笑顔を与える」ことや「困難に立ち向かっている人へエールを送る」ということを知りました。このイヴェントでも、この年の7月に放火殺人事件にあった京都アニメーションへのエールとして「けいおん!」のメドレーを演奏しています。

 

彼らのパフォーマンスはどれも元気をもらえるんですが、もう一つ動画をご覧ください。彼らの公式チャンネルから「青春の輝き2018」です。

 

 

私が彼らに感じている魅力のひとつは、その選曲にあります。新旧とり混ぜてのポップスが基本ですが、他のバンドで聞いたことのない曲も結構あるんです。新しい曲は部員からのリクエストもあるでしょうが、古い曲を彼らが知っているはずもなく、おそらく顧問の趣味が大きいんだと思います。ほぼ私と同年代だと思えますし、R&Bやソウルがお好きなのも窺い知れます。楽器の編成から考えても、おそらくほとんどの曲は顧問が編曲しているんだと思っています。

印象的なたっぷりの羽飾りがついたヘルメットは、これの影響かな?と想像してます。世代的にも納得できますしね。

 

 

わずか2年ほどの活動期間でしたが、私の世代に与えたインパクトは絶大でした。ほら、トランペットを回すのもやってるし。まぁ、元祖はアメリカのR&Bのバンドですけど。

このヘルメットには似つかわしくない女子部員のミニ・スカート(キュロット・タイプですが)が、とっても可愛くて印象に残ります。2014年の共学化から、女性がいることのメリットを生かした構成になっています。男子校時代のものも「バンカラ」っぽい雰囲気も感じられて、私は結構好きです。その時代の動画をご覧ください。日本パルスが発売している「It's Showtime!」から、2012年のマーチングバンド関西大会の動画です。

 

 

ここでは、前年に起こった東日本大震災の被災者へ向けてのエールを送っています。

 

 

 

 

楽譜を見ることが日常の方ならご存知の記号「f」、フォルテと読みます。「強く」という意味ですね。通常の譜面においてその最上級は「fff」、これはフォルティッシッシモと読みます。「最も強く」ですね。「f」をもっと重ねて表現するのもありますが、通常は「fff」が最上級です。

私の彼らの印象は、これ「フォルティッシッシモ」なのです。

私の勝手な想像ですが、部員数が少ないことをカヴァーするための策として始まったのかもしれません。「とにかくパワーで負けたくない」という思いが、ツイン・ドラムを含むパーカッション隊の人数と吹奏楽器のフルパワーに繋がっているように思えます。さらに、音量だけでなく、気持ちも「フォルティッシッシモ」であることが彼らの最大の魅力だと私は確信しているのです。テンポが速すぎることや、荒っぽい演奏でリズムが揃ってないなんていうことも軽〜く凌駕する「勢い」に魅了されるのです。

 

 

 

 

彼らは、人数が少ないことを逆手に取って、それぞれがいろんなことをやります。違う楽器を演奏したり、ドラムメジャーはバトントワリングをしたり、楽器を置いて本気のダンスをしたり・・・。それが演目のヴァリエーションに繋がって、次は何が来るのかと期待させてくれるのです。そんなところを楽しめる動画をひとつご覧ください。慶次郎前田さん撮影の「Smile Myodani」です。

 

 

このイヴェントが開催されたのは、2022年の4月30日。年度の始めで、入部したての1年生はパレードとステージの最後の曲にしか加わっていません。究極の少人数でのパフォーマンスなのです。トロンボーンは一人で頑張ってるし、パーカッション・パートの一人はギターに持ち替えたりしています。曲によっては、トランペットの部員がクラリネットを吹いたりします。そして、ここで注目すべきは、初っ端から存在感抜群のベーシストです。彼女は、何度もフルートと持ち替えて八面六臂の大活躍です。彼女だけを追っかけていると、スリル満点です。フルートを置いてベースを肩に掛けた瞬間に第1音を出したりします。「間に合うのか?」とヤキモキするんですが、毎回ギリギリのタイミングで見事に決めてくれます。

曲のヴァリエーションの豊かさは、このイヴェントがピカイチだと思います。

 

 

最後に、最新のパフォーマンスをご覧ください。11月23日に開催された「高校生フェスティバル」での演奏です。神戸のイヴェントだったら、「この人にお任せ」のMK KOBEさんの撮影です。

 

 

どの高校も同じですが、この時期のパフォーマンスはその期の集大成といった感じで、どこも充実しています。

ここでは、Michael Jacksonの「BAD」を演奏してくれています。他のバンドが演奏しているのを聴いたことがないので、なかなか嬉しいものです。私個人的には、Bruno MarsがAnderson .Paakと共演したユニットSilk Sonicが2021年にリリースして大ヒットした「Leave The Door Open」を演ってくれているのが非常に嬉しいです。2021年の1年間で私が最もハマって聴いた曲なのです。

オリジナルのPVをご覧ください。

 

 

私のようなソウル好きが狂喜乱舞する70年代のスウィート・ソウルの雰囲気で、印象に残る美しいメロディが抜群の名曲です。

多分、顧問の趣味からの選曲なのでしょう。私のツボをくすぐる選曲をしてくれる神戸弘陵の名物顧問も、勇退されることが決まっているようです。既に後任も決まっている噂もあります。このバンドに合わせた編曲ができることは大前提ではありますが、R&Bテイストの選曲ができるのかが心配です。

更に、O-vils.や横山コーチとの繋がりも出来てきたようです。これからの展開に期待して見守ることだけが、ファンにできることですね。

 

 

こうやって、彼らの熱い思いが詰まった「フォルティッシッシモ」の誘惑に釣られて、また次の動画を見てしまうのです。