第59回定期演奏会、やっと完結編。 | "楽音楽"の日々

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音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

さて、充実の京都橘高校の定期演奏会も、オレンジのユニフォームに着替えてクライマックスへ向かいます。

 

 

写真は、京都橘のSNSからお借りしました。

 

最初は、吹奏楽界での大人気曲「September」です。京都橘も随分前から散々演奏してきています。けれども、今期はとても珍しい展開を見せています。と言うのは、同じ「September」の譜面を期の途中で変更しているのです。今期初めてこの曲を披露したのは、8月の長崎遠征の時でした。近年ではあまり演奏されない真島俊夫氏編曲の譜面を使っていて、新鮮な驚きでした。台湾遠征を含めて、年内はこの譜面でのパフォーマンスをしていました。ところが、年が明けてから、以前演奏していた熱帯ジャズ楽団ヴァージョンに戻したのです。これは私の想像ですが、定期演奏会に向けて各楽器が活躍できるパートがたくさんあって、さらにピアノでリズムを刻むところでは全員で自由にダンスできるということから、こちらの譜面にしたのだと思います。ヴィジュアル面から考えると、間違いなくこちらの方が映えますもんね。

ということで、今回のステージです。全体が素晴らしいのですが、ここでの注目はカラーガードの活躍です。2枚のフラッグをクロスした形から広げると、アルト・サックスのソロが始まるという粋な演出をしています。このサックス二人のソロは、それぞれの個性も際立っていて実に魅力的です。途中のピアノだけのところでは、当然のように全員でノリノリのダンス。続くパートでのカラーガードの振り付けも、とんでもなく可愛いですね。さらに終盤にはアドリブ風の「書き譜」があって、通常はアルト・サックスのソロで演奏されます。今回はその部分をアルト・サックス7人がユニゾンで演奏します。良く揃っていて、最後の見せ場を作ってくれました。このアイデアと、それを実現できるそれぞれの技量の高さには、心から拍手を送りたいと思うのです。

 

 

続いては、「バンドとコーラスのためのソーラン・ファンク」です。「ソーラン節」を大胆にアレンジしたのは、現代の吹奏楽界で高く支持されている作編曲家・星出尚志氏です。彼の人気を決定付けた名アレンジと言えるでしょう。

実は、ずっと私のお気に入りの動画があるんです。それは、今アニメ・ファンの中で話題になっている「青のオーケストラ」のモデルになっている、幕張総合高校シンフォニック・オーケストラ部の2019年のイヴェントでの演奏です。ここでは、吹奏楽編成でのパフォーマンスです。

 

 

キレッキレのダンスに目が行ってしまいますが、大所帯の演奏が実に素晴らしいです。一体感があって、何よりも全員が楽しそうだということが伝わって、見る者を幸せにしてくれます。この曲のパフォーマンスとしては決定版だ、と勝手に思っていました。

で、昨年京都橘が台湾遠征した際に、非公開だった最初の公式演奏のプログラムにこのタイトルを見つけた時は、正直不安でした。単に台湾で良く知られている日本の曲、ということだけの理由だったら、「あの」クオリティを凌ぐことは難しいのではないか?ということが私が危惧した理由です。京都橘のこの曲のパフォーマンスが公開されたのは、台湾から戻ってからのことでしたが、私の不安は全くの杞憂でした。演奏しながら全員がダンスする、という世界中でも橘にしかできないパフォーマンスに昇華していたのです。

 

 

まだこの時は、中間部の全員が同じ音の動きをするシンコペーションの部分(実は、このアレンジ最大の聴かせどころ!)に不安があったのですが、今回の定期演奏会ではちゃんと仕上げてきました。さすが「なんとかする」京都橘の面目躍如です。

 

 

3年生だけのメンバーでの演奏は、鈴木英史氏編曲の「明日に架ける橋」です。

名曲なのでたくさんの譜面があるようです。このアレンジは私は初めて聴いたので、調べてみました。出だしから「えっ?」と思ったのですが、鈴木氏自身の言葉で開設されていました。ワーグナー作曲の「エルザの大聖堂への行列」をベースにして、今流行りの「マッシュアップ」に近い感じでアレンジされています。時にはメロディも大胆に変えたりして、かなり「攻めた」アレンジになっています。コード進行がサイモン&ガーファンクルのオリジナルにとらわれていないのもとても意欲的です。ハーモニーの美しさを味わう魅力的なアレンジだと思います。ガイダンスの演奏がありました。真島俊夫指揮のオオサカ・シオン・ウィンド・オーケストラの演奏で、どうぞ。

 

 

京都橘の演奏は、ドラムメジャーやカラーガードも演奏に参加して32人のパフォーマンスです。この学年は楽器のバランスが良いので、とても美しい響きです。少ない人数でも、とてもカラフルに感じます。パーカッションが7人もいるのに、ドラム・セットを使わずにスネア・ドラムがリズムの中心になっているのも大胆な構成で見事です。カンパニー・フロントでは、客席から自然に拍手が起きます。充実の一年を総括する、堂々たるパフォーマンスでした。

 

 

吹奏楽の世界で今でも人気の曲「君の瞳に恋してる」は、金山徹氏のアレンジです。

京都橘としては、久々の演奏だと思います。確か、2015年に演奏していたような記憶があります。今回のパフォーマンスは、京都橘でしか実現できない可愛さ満載の振り付けで魅了されます。特に、ポンポンを使ったカラーガードのダンスは、踵がお尻に付くほどのジャンプが目新しくて、とんでもなく可愛いです。

 

 

そして、次期ドラムメジャーのクラリネット・ソロをフィーチャーして今期の人気曲になった「メモリーズ・オブ・ユー」は、意表をつく3年生のソロで演奏されました。彼女は、緊張しているのは目にも明らかですが、演奏そのものは余裕さえ感じさせる見事なものでした。京都橘では、年間のパフォーマンスで2年生がソロを担当するケースが多いのですが、定期演奏会では3年生がソロを担うことがしばしばあります。その素晴らしさに初めて気付かされることも、数多くあるのです。これも、定期演奏会の楽しみのひとつなのです。

 

 

ステージを締めくくるのは、当然「Sing, Sing, Sing」です。

今回は、昨年の定期演奏会で披露されたヴァージョンとほぼ同じ構成でした。マーチングコンテストのために鈴木英史氏が作曲した「The Sing」から始まって、いつもの岩井直溥編曲版での演奏になります。昨年あったクラリネット・ソロが省かれて、低音パートのユニゾンになったくらいが変更点でしょうか。そして、最大の見もの&聴きものは、後半のパート毎のプレゼンテーションです。確か、昨年のプログラムでは、この部分の作曲は顧問の兼城先生と書いてあった記憶があります。昨年の初披露は、私にとって衝撃でした。今年も、譜面はほぼ同じです。細かなマイナーチェンジはあったかもしれませんが。ただ、同じ譜面を使っても、振り付けやフォーメーションは全く新しいものになっています。サックス・パートでは、椅子を使っておしゃれな見せ方をします。続くホルン&トロンボーン・セクションは、ちょっとだけ不協和音を取り入れて美しいアンサンブルを聴かせてくれます。木琴・鉄琴パートは、敢えて「超絶技巧」の方向に行かずに可愛くまとめているのも京都橘の色が出ていて、とても好きです。クラリネット&フルートのパートでは、それぞれの入れ替わりのフォーメーションが意外性を取り入れていて、楽しませてくれます。そして、音楽的にうまく出来ているのが、次の低音パートです。スーザフォン、ユーフォニアム、バリトン・サックス、バス・クラリネットなんですが、普段目立たない楽器の音まではっきり聴き取れる見事な作曲です。もちろん、各演奏者の技量があってのことですね。トリは、先生の専門でもあるトランペット・パートです。トランペットのアンサンブルのカッコ良さを知り尽くしている先生ならではの、素晴らしい作曲だと思います。既に発売されている昨年のDVDをお持ちの方は、もう一度見直してみてください。

 

発売している日本パルスの公式チャンネルに、そのダイジェスト版がアップされています。トランペット・パートの最後の部分が見れます。

 

 

ここから全員揃ってのクライマックスへなだれ込みます。何度見ても鳥肌が立ちます。このアレンジ、通常のマーチング・ステージの定番にしてもらいたいと思っているのは、私だけでしょうか?

いずれにしても、兼城先生の作曲の技術の一端が垣間見える、素晴らしいパートです。

 

 

 

さてさて、マーチングの本編が終了して、部長の挨拶です。

明るい口調で、内容も素晴らしいものでした。過剰にウェットにならないのは、今回の定期演奏会全体を通しての印象です。それぞれの期によって随分カラーが違っていることも、毎年定期演奏会を見る楽しみのひとつなのです。

 

そして、伝統的なRod Stewartの「Sailing」の演奏で、各パート毎のご挨拶。いつもながら、その美しい佇まいに感動させられます。

 

顧問の兼城先生の挨拶も、生徒ひとりひとりに寄り添ったもので、簡潔でありながら感動的なものでした。

 

締めくくりは、Carpentersの「青春の輝き」で、卒業生を送り出します。最後に部長を送り出した後、メロディを高らかに奏でるのですが、ここでも先生の拘りが見えます。敢えてメロディをはっきり区切って、「ウェットさ」よりも「明日への希望」を感じさせる印象に変えています。繊細ですが、とても見事なサウンド処理だと思います。

 

 

 

とても充実した定期演奏会でしたが、公式の動画は2年先のDVD発売を待つしかないんでしょうね。

昨年から頻繁に密着してくれている関西テレビの動画がありました。とても貴重な場面が多いので、これからもずっと密着してもらいたいものです。関西テレビさん、お願いします。

 

 

 

 

 

今年も来賓として来場されていた前顧問の田中宏幸氏がSNSで呟いておられた感想が、私の思いと同じで安心しました。

 

「着実に、ステップアップしている。」

 

もう、これに尽きると思います。

 

 

 

さあ、120期の皆さん、今年の活躍を楽しみにしていますよー。