渡辺貞夫の「Morning Island」 | "楽音楽"の日々

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音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

私の、宝物のひとつ。

 
 

1979年リリースの、渡辺貞夫の名盤「Morning Island」です。

まずは、何と言ってもアルバム・ジャケット。

操上和美氏による美しい写真。一目でニューヨークとわかる爽やかな写真。貞夫さんの満面の笑みに、マンハッタンの青い空。

この写真のあまりの出来の素晴らしさに、アルバム・タイトルを入れるスペースが無くなったということを、当時の「アドリブ」誌で読んだ記憶があります。

そんな素敵なアルバム・ジャケットに、無礼にも直筆サインをもらってしまいました。このアルバムの主役二人ですね。だから、宝物。

で、アルバム・タイトルが入った裏ジャケが、こちら。

 

こちらも素敵な写真です。

レコーディングが1979年の3月で、その合間にジャケ写の撮影があったようですが、初春の澄んだ空気と奇跡的な快晴の天気のおかげで、このような歴史に残るアルバム・ジャケットが完成したのでした。

 

 

 

ということで、「捨て曲」なしの名盤「Morning Island」は、是非とも全曲通して聴いていただきたいものです。

 

 

前作「California Shower」の大ヒットから1年。「同じ路線で、もう一作」と考えるのが、制作者としては普通のことですね。

ところが今回は、ちょっと捻ってきました。

渡辺貞夫とDave Grusinの楽曲に、Daveのアレンジ。同じなのは、ここまで。

舞台を、カリフォルニアからニューヨークに移して、メンバーも総入れ替え。大らかな雰囲気を作り出していた前作から、都会的なソリッドな音に変化しています。最近の音楽ではアメリカの東と西での音の違いというのはそれほど感じられませんが、ここでは明らかに違っています。

リズム隊を中心に、メンバーをおさらいしておきましょう。

 

ドラムスはSteve Gadd、ベースにFrancisco Centeno、ギターはJeff Mironov(Eric Galeが、ソロで2曲にゲスト参加。)、パーカッションにRubens Bassini。まさに「ザ・ニューヨーク」といったメンバーですね。それに、トランペットのMarvin Stammを中心にした分厚いホーン・セクションと、David Nadienが率いるストリングス・チームが加わります。

メンバーの名前を見るだけで、音が聞こえてきます。

 

 

 

さて、アルバムはフュージョン史上に残る名曲「Morning Island」から始まります。

 

 

アルト・サックスやソプラニーノの印象が強いナベサダへの期待を軽〜く裏切る、フルート曲です。とても覚えやすいメロディ。どこを切ってもナベサダ印。

Jeffの軽くミュートしたリズム・ギターからFranciscoのベースが加わるイントロから、この曲の世界へ引き込まれます。レゲエにカリプソ風味のリズム・パターン。きっちりしたリズムなのに、リラックスしたムードで気持ち良いですね。後半のナベサダのアドリブ・ソロも、当時私はフルートで散々コピーしていました。今でも全て諳んじることができるほど、身に染み付いています。

フルートでもサックスに共通する素朴さを貫く貞夫さんの個性は、実に見事と言う他ありません。

 

 

2曲目は、明らかにニューヨークのファンク、「Down East」です。

 

 

 

ミックスが、ドラムの音を大きくしていて、Steveが楽しそうに叩いてるのが目に浮かびます。Jeffの高音部を生かしたリズム・カッティングにFranciscoの絶妙なベース・パターン。ソプラニーノのアドリブのバックでは、当時のSteveの代名詞であるカウベルが目立つ16ビートがとても気持ち良いです。もちろんEric Galeのギター・ソロも粘っこくて、素朴な貞夫さんとの対比が面白い効果を生んでいます。

また、先日訃報記事を書いたばかりのバリトン・サックス奏者Ronnie Cuberの音が、派手なホーン・セクションの低音部をしっかり支えています。彼が入っていなかったら、全く違う雰囲気に仕上がっているはずです。

 

 

「Serenade」は、「セレナーデ」ですよ。もう、それ以外のタイトルは考えられないそのままの雰囲気の曲です。

 

 

 

DaveのFender RhodesをバックにしたJeffのナチュラルな音で奏でられるイントロから、曲世界にどっぷりとハマる事になります。Jeffはメロディが始まっても、シングル・ノートを中心にしたバッキングで大活躍。ついつい耳がそちらに行ってしまいます。もちろん、誰が聞いても「ナベサダ!!」と言うアルト・サックスのメロディと音色。安心して聴ける「大人の音楽」ですね。

 

 

レコードのA面最後を飾るのは、「We Are The One」です。

 

 

 

ホーン・セクションとストリングスによる派手なイントロが印象的です。単純なメロディをカラフルに彩るDaveのアレンジの素晴らしさを堪能することができます。この曲は、特にリズム隊のグルーヴが抜群で、ナベサダのアルトによるアドリブも一層燃えているように感じます。

 

 

「Home Meeting」は、軽快なシャッフルです。

 

 

 

ここでの主役は、低音部と高音部を行き来するホーン・セクションです。いかにもニューヨークといった雰囲気のホーン・アレンジは、実に見事です。これ、演奏してて楽しいだろうなー。リズム隊も、とっても楽しそう。音は派手ではないものの、自己主張しているFranciscoのベースに注目です。貞夫さんも、気持ち良くブロウしています。

 

 

さて、ここからはDaveが作曲したものが2曲続きます。

 

 

 

「サダオのための小さなワルツ」という邦題のこの曲は、タイトル曲を聴いたDaveが貞夫さんが吹くことを想定して作ったんじゃないかと勝手に想像しています。

基本的にDaveの生ピアノと貞夫さんのフルートのデュエットという形ですが、控え目なストリングスが実に美しいです。フルートの音と絶対被らないように繊細にアレンジされていて、聴けば聴くほど感激してしまいます。

まるで、Daveが担当する映画音楽でも使われそうな美しい名曲だと思います。

 

 

続く「Samba Do Marcos」は、Sergio Mendesがヒットを連発していた頃にアレンジを担当していたDave Grusinらしい、実に爽快なサンバです。

 

 

 

今回も、Jeffのクリアな音のイントロが、抜群です。こんな音で都会的なブルース色を出す例は、あまりないような気がします。

Steveによるカウベルのパターンから、カーニヴァルの始まりです。貞夫さんのアルトも、絶好調ですね。DaveによるRhodesのアドリブは、低音を使った導入部が彼のセンスを感じます。

こんなリズムのはっきりした曲なのに、ホーン・セクションが入っていません。気付きました?軽やかさを出すのには、ホーン・セクションは邪魔になると判断したDaveの判断は、結果として吉と出たようです。

 

 

いよいよ最後の曲は、「Inner Embrace」です。

 

 

 

ナベサダ印の穏やかなメロディ。バックで目立っているFranciscoのベースは、基本からはみ出してはいないものの品の良さを感じます。音に個性があって、私のお気に入りです。

内省的なムードもありながら多幸感溢れる曲は、幸せなエンディングに相応しいと言わざるを得ない素晴らしさです。

終盤は、ナベサダの音も消えて、Daveのキーボードとストリングスだけがリフレインしながらフェイドアウトしていきます。もう一度最初から聴きたくなる、美味しい締めくくりですね。

 

 

 

久々にじっくり聴いてみたのですが、やはり傑作!この気持ち良さは、クセになります。

如何だったでしょうか?本格的に冬を迎えたこの時期、ほっこりできる名盤でした。