デイヴ・グルーシンの「コンドル」サウンドトラック盤 | "楽音楽"の日々

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音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

ネットでのお友達であるジェフBさんのブログで、フュージョン・ギタリストLee Ritenourが演奏する「Three Days Of The Condor」が話題になっていました。
$"楽音楽"の日々-First Course
Lee Ritenourの1976年のデビュー・アルバム「First Course」に収録されているんですが、この曲はその前年1975年に公開された映画「コンドル(Three Days Of The Condor)」のタイトル曲なんです。

で、今回はその映画のサウンドトラック・アルバムを紹介しましょう。
$"楽音楽"の日々-コンドル
残念ながら、日本でもアメリカでもCDは発売されていないようです。
私が持っているのは、(たぶん)イタリアで発売されたものです。東京出張の際に渋谷のHMVで偶然見つけて衝動買いしたのは、いったい何年前のことでしょう?

映画音楽の世界で当時売れっ子になっていたデイヴ・グルーシン(Dave Grusin)が、その勢いに乗って作り上げた傑作です。

CDには詳しいクレジットは全く載っていないんですが、私が独自に調べて判明したミュージシャンだけを列挙しておきます。

Dave Grusin : Keyboards, Arrange, Conduct
Harvey Mason : Drums
Chuck Rainey : Bass
Lee Ritenour : Guitars
Tom Scott, Ernie Watts : Sax
Marti McCall, Jim Gilstrap : Vocal

実は、リトナーの「First Course」とほぼ同じメンバーなんですね。
推測すると、リトナーは1975年の10月にこの曲を録音してますので、サウンドトラックを録音した2~3ヶ月後あたりでしょうか?
完全にグルーシンの「ファミリー」という位信頼できるメンバーになっていたのでしょう。

一曲目の「Condor!」が、テーマ曲です。
映画の雰囲気を象徴するような「クール」なサウンドは、「見事!」の一言です。
ハーヴィー・メイソンとチャック・レイニーが作り出すファンキーなリズムと、ホーン・セクションのリフ。それに小編成のストリングスがメロディを奏でる構成は、完璧です。
リトナーのソロは全くないんですが、メロディとアレンジを合わせてグルーシンの代表曲と言うべき名曲だと断言できます。
このオリジナルに近いアレンジで比較的簡単に聴けるものは、現時点では2種類あります。
ひとつは、1982年7月7日の武道館公演を録音した「Dave Grusin and the N.Y./L.A. Dream Band」というCDです。
$"楽音楽"の日々-Dream Band
この武道館ライヴは私は生で体験してますので、詳しいことはまたの機会に書きます。
このアルバムでの「コンドル」では、リトナーはリズムに徹していて、もうひとりのギタリスト、故エリック・ゲイル(Eric Gale)がアドリブ・ソロを弾いています。アレンジもテンポも、オリジナルにかなり近いものですが、ドラムスがスティーヴ・ガッド(Steve Gadd)でベースがアンソニー・ジャクソン(Anthony Jackson)というニューヨークのリズム・セクションなので、ニュアンスがかなり違って聴こえます。これは、おすすめです。
もうひとつは、デイヴ・グルーシンの1987年リリースのアルバム「Cinemagic」に収録されているヴァージョンです。
$"楽音楽"の日々-Cinemagic
タイトルから想像できるとおり、グルーシンの映画音楽の代表曲をリメイクした作品です。
ここでは、オリジナルと違っているのは、ベースのエイブラハム・ラボリエル(Abraham Laboriel)くらいで、ハーヴィーとリーがちゃんと演奏しています。こちらのほうが、オリジナルのサントラに近いと思います。

サウンドトラックに話を戻すと、テーマ曲のヴァリエーションが多いのですが、もう一つのテーマがフェイ・ダナウェイ(Faye Dunaway)扮するKathyの為のテーマです。
スローなLove Themeなんですが、リトナーの美しいシングル・トーンのメロディを引き継ぐのが、トム・スコット(Tom Scott)のサックスです。
どっかで聴いたことのあるメロディのような気がします。そう、一部で盛り上がった「Taxi Driver」のテーマ曲に似てるんです。
こちらのほうが、若干甘い感じではあるんですが、メロディの途中で転調するあたりもよく似てます。サックスも同じトム・スコットだし・・・。
ちなみに「Taxi Driver」は、「コンドル」の翌年です。しかも、舞台は同じニューヨークです。

リー・リトナーのファンにとっては、メロディやアドリブがほとんどないので物足りないかもしれません。
けれども、リズムの刻み方やオブリガートの付け方など、その当時のリトナーのテクニックのオンパレードで、聞き流すにはあまりにもったいない内容です。
特に、セッション・ヴォーカリスト、ジム・ギルストラップ(Jim Gilstrap)がソロ・ヴォーカルをとる「I've Got You Where I Want You」では、R&Bまたはディスコっぽい曲調でのリトナーのリズム・ギターとアドリブ・ソロが炸裂します。
リトナーの数あるセッションの中で、これだけ派手なアドリブを聴かせるのは、この曲が初めてじゃないかと思います。
とにかく、リトナーのファンと全ギタリストは、好き嫌いにかかわらず一度は聴いておくべき重要な作品だと言えます。

そうそう、リトナーはこの曲がいたって気に入っているようで、2002年リリースの「Rit's House」でもリメイクしています。
$"楽音楽"の日々-Rit'sHouse
こちらでの「コンドル」は、あまり原型を留めていませんが、ファンキーな演奏は文句無しにカッコ良いです。一聴の価値はあります!

ところで、この記事を書くにあたって、映画の本編も10数年ぶりに観なおしました。
当時絶好調だったロバート・レッドフォード(Robert Redford)と、一番美しい頃のフェイ・ダナウェイが好演しています。
それにも増して、シドニー・ポラック(Sidney Pollack)監督の演出が見事です。
原作の「コンドルの6日間」を半分の3日間に短縮した脚本も、映画的に納得できるものですが、冬のニューヨークを描ききった監督の手腕には脱帽です。
今は亡き貿易センター・ビルも重要な舞台になっていますし。
私個人的には、レッドフォード扮する「コンドル」が着ている、ジーンズにツイードのジャケットとピーコートに憧れていた頃を思い出しました。まさにイメージどおりの「ニューヨーカー」だったんですよねー。
改めて観直してみると、おぼろげな印象以上に良く出来た作品でした。
$"楽音楽"の日々-cliff&max
良く練られた脚本と繊細な演出が、クールでサスペンスフルな作品に仕上げているんだと思います。シドニー・ポラックの最高傑作の一本であることは間違いありません。
助演のマックス・フォン・シドー(Max Von Sydow)と、クリフ・ロバートソン(Cliff Robertson)の存在感あふれる演技も見事です。

映画ファンも音楽ファンも楽しめる、忘れられた傑作「コンドル」を是非ご覧になってみて下さい!
決して「無駄な時間」には、ならないハズです。