
私を含めて観客が5人という映画館で「BALLAD 名もなき恋のうた」を観てきました。
あまりの評判の悪さに全く期待せずに行ったせいか、そんなに落胆する程のものではありませんでした。
この作品は、劇場用アニメ「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」の実写版リメイクです。
「クレしん」は、なかなかみごとな佳作で私も初めて観た時は、不覚にも泣いてしまいました。ブログにも記事を書いていますので、先にそれを読んで頂くとありがたいです。
私がこの「BALLAD~」を観たいと思った理由は、二つあります。
まず、私のお気に入りのアニメをどのように実写化しているのか、というのに興味がありました。
そして、その監督が「ALWAYS 三丁目の夕日」で「大監督」の仲間入りをした山崎貴だということです。
恥ずかしながら、傑作と呼ばれる「ALWAYS~」はまだ観ていません。
けれども、もともとCGイフェクトの専門家である山崎氏の手腕は、断片的に見た「ALWAYS~」の画像でもよくわかります。CGを意識させずに自然に見せる画づくりは、見事です。ですから、今回の「BALLAD~」でもスケールの大きな映像を見せてくれるハズだと思っていました。
プログラムを見てみると、今回のリメイクは監督自身が「クレしん」を観て、自ら望んだものだったようです。
脚本も彼自身が担当していますので、全責任を彼が負っているということになります。
で、実際に観終わっての感想は・・・なにか釈然としないものが残りました。
オープン・セットとロケとCGをフルに生かした映像は、予想をはるかに越えて「見事!」でした。
城や大群衆による戦闘場面などは、実写のみではとても不可能なものですが、見事にリアルな出来になっていました。時代考証をしっかりして、出来るだけ当時の様子に近づけるように留意されているとのことでした。けれどもそれは「クレしん」で原恵一監督がすでに考証済みのものに付け加えたに過ぎません。
ストーリーは驚くほど「クレしん」そのものです。
新しいシチュエーションは、真一(アニメの「しんのすけ」)が小学生で自転車と共にタイムスリップして、その自転車がうまく生かされていることぐらいでしょうか。さらに、彼のお父さんの仕事がカメラマンという設定になっていて、写真もポイントになっています。ケータイのカメラや動画撮影機能も、うまい使い方をされています。
私の見方は、どうしても「クレしん」との比較になってしまいます。
「クレしん」を知らずにこの作品を観た人の感じ方は、全く違うかもしれません。
では、純粋に「映画」として観るとどうでしょう?
まず、主演の草彅剛は残念ながら「鬼の井尻」と呼ばれた武将としては、ちょっと弱すぎる気がします。
セリフまわしも一本調子で、凛とした雰囲気が出ていません。実は期待していたんですが、がっかりしてしまいました。
姫を演じた新垣結衣は、イメージではぴったりだったんですが、彼女の良さが生かされていないように思いました。もし、私が監督をしたら、もっと魅力的に見せることができたんじゃないかと思うくらい悲しい出来になっていました。決してミスキャストじゃないと思うのですが・・・。
とてもウマかったのは、敵役を嬉々として演じていた大沢たかおと、真一を演じた武井証クンですね。
二人とも生き生きとしていて、この作品が「駄作」になってしまうのを救っているように思えます。
監督は、原作のテーマである「年齢差を超えた、男同士の友情」よりも、「身分の差を超える、恋のゆくえ」に重点を置いています。残念ながらそのことが「ありきたりのストーリー」になってしまっている原因かもしれません。まるで「子供向け」のストーリーのようです。「クレしん」が「大人が感動できる」作品になっていることと、対照的ですね。
また、「クレしん」はギャグ・アニメであるにもかかわらず、とてもリアルな出来だったのに比べて、「BALLAD~」は実写でありながら妙に嘘っぽい印象になってしまっていました。
角川映画の「戦国自衛隊」を思い出したのは、私だけでしょうか?
私個人的に嬉しかったのは、真一の母親として夏川結衣が出演していることでした。
この夏の連ドラ「任侠ヘルパー」でも草彅クンと共演していて、女の強さと弱さを見事に表現していて私のハートを鷲掴みにしたのでした。現在、私の一番のお気に入り女優です。
結論は、オリジナルの「クレしん」を越えることができなかった作品だということです。
映像的に目を見張るものが多かったので、非常にもったいない気がします。
やはり「金打(きんちょう)」のエピソードがないのは、最大の失敗だったと言えます。お分かりにならない方は「クレしん」をご覧下さい。
この世界、「たられば」は禁物かもしれませんが・・・もし、VFXだけを山崎氏が担当して、本編をクロサワが撮っていたなら、とんでもない傑作が誕生していたかもしれません・・・。ちょっと安直な考えですかね?