【今日の1枚】Samadhi/Samadhi(サマディ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Samadhi/Samadhi
サマディ/サマディ
1974年リリース

イタリアらしいダイナミズムと
異国風エキゾチズムが絡み合った名盤

 元ラコマンダータ・リチェヴータ・リトルノ(通称RRR)やイ・テオレミ、ルオヴォ・ディ・コロンボといったイタリアの実力派メンバーらによって結成されたサマディの唯一作。そのアルバムは流麗なオルガンやピアノといったドラマティックなキーボードをはじめ、弦楽器、フルートによる抒情性、そしてプログレッシヴロックらしい変拍子を用いた曲展開など、ダイナミズムとエキゾチズムが絡み合ったイタリアらしい秀逸な作品となっている。イル・ヴォーロとは別のスーパーグループでありながらアルバムは15年近く埋もれていたが、1989年の初CD化によって陽の目を見ることになった隠れた名盤でもある。

 サマディは元ラコマンダータ・リチェヴータ・リトルノ(通称RRR)のメンバーだったルチアノ・レゴリ(ヴォーカル)とジョヴァンニ・チヴィンテンガ(ギター)の2人が、グループ脱退後に新たなミュージシャンを集めて1974年に結成したグループである。RRRは1972年にイタリアンロックシーンにおいて重要な野外フェスティバル「ヴィラ・パンフィーリ・ポップ・フェスティバル」でデビューを飾ったローマ出身のグループで、同年にフォニット・チェトラから1枚のアルバムをリリースしている。アルバムはオザンナにも似たヘヴィネスの中にジャズのエッセンスが感じられるサウンドだったが、セールスに結びつかず、1974年にグループは分裂することになる。分裂の理由はシンフォニックロックを強めたいルチアノとジョヴァンニに対して、ジャズ志向を強めようとする他のメンバーとの音楽の方向性による衝突である。結局、グループはジャズ志向を強めることになり、ルチアノとジョヴァンニはグループから離れることになる。残ったメンバーは新たにKathy’s Clownという名で活動したが、すぐに3人のメンバーを加えて再度RRRの名で活動をしている。しかし、メンバーが相次いで脱退したこともあり、翌年にはアルバムを残すことなく解散している。一方のルチアノとジョヴァンニの2人は有能なミュージシャンを集めるために奔走。最初に目を付けたのが元オルガンロックグループのフリー・ラヴやジャズ色の強いカレイドンというグループに在籍していたステファノ・サバティーニ(キーボード)である。彼の煌びやかなピアノやオルガンは、シンフォニックロックを標榜とする2人にとって重要な役割を持つミュージシャンとなる。そしてリズムセクションにはテクニカル・シンフォニックロックとして著名なルオヴォ・ディ・コロンボのメンバーであったルッジェロ・ステファーニ(ドラムス、パーカッション)、ヘヴィロックを演奏していたイ・テオレミのメンバーであったアルド・ベッラノーヴァ(ベース)に声をかけている。また、他にもステヴォ・サラジッチ(フルート、サックス)、サンドロ・コンティ(ドラムス)も参加し、7人編成となった時点でグループ名をサマディとしている。彼らは早速、ステファノ・サバティーニとアルド・ベッラノーヴァを中心に曲作りが行われ、詩人で俳優のエンリコ・ラザレスキによる歌詞を付け、ジョヴァンニ・チヴィンテンガとステヴォ・サラジッチが編曲。こうして完成した曲を元にRRR時代から付き合いのあるレーベル、フォニット・チェトラと契約し、トリノにあるフォニット・チェトラ・スタジオでアルバムのレコーディングを行うことになる。エンジニアはダニーロ・ジラルディが務め、プロデュースはジョヴァンニ・チヴィンテンガが兼任し、1974年にデビューアルバムとなる『サマディ』がリリースされる。そのアルバムはルチアノ・レゴリの印象的なヴォーカルやスリリングなリズムセクション、切れ味の鋭いアコースティックピアノを中心としたキーボードを中心に、ジャズやロック、ポップ、クラシックなどが織り込まれ、スケール感がありながら抒情的であり、ダイナミズムとエキゾチズムが絡み合ったプログレらしい秀逸な逸品となっている。

★曲目★ 
01.Un Uomo Stanco(疲れた男)
02.Un Milione D'Anni Fa(一千年前)
03.L'Angelo(天使)
04.Passaggio Di Via Arpino(アルピーノ通りの推移)
05.Fantasia(空想)
06.Silenzio(静寂)
07.L'Ultima Spiaggia(波打ち際)

 アルバムの1曲目の『疲れた男』は、ルチアノ・レゴリの伸びやかなヴォーカルと効果的なリズムセクション、そしてポップ感覚のキーボードによる明るい楽曲。キャッチーなメロディの中にリズミカルなピアノと魅惑的なラインを弾くベースが冴えわたっており、ジャズ風の軽快な曲調になっている。2曲目の『一千年前』は、ステヴォ・サラジッチ指揮のストリングスをバックに、甘いギターやキーボードが絡み合うシンフォニックな楽曲。エキゾチックなパーカッションとクラシカルなオーボエや流麗なピアノが彩りを加えており、全体的にスケール感のある内容に仕上げている。3曲目の『天使』は、アコースティックギターで始まり、その後はエレクトリックギターやピアノ、リズムセクションと続き、メロディアスなヴォーカル曲となる。泣きのギターソロをはじめ、ホルンといった管楽器がアクセントとなったジャズ風味のグルーヴ感のある演奏となっている。4曲目の『アルピーノ通りの推移』は、パーカッションをフィーチャーしたイントロからフルートが絡み、アコースティックピアノやホーンセクションが加わり、即興的なジャズテイストの強い楽曲となる。後にエフェクトをかけたギターやフルートのソロが展開し、リズムセクションとピアノとのリリカルなアンサンブルになっていく。5曲目の『空想』は、オルガンとピアノ、そしてベースが先導したリズムセクションが素晴らしい楽曲。イエスのようなコーラスとエレガントなフルートがあり、勇壮な管楽器が絡み合ったプログレッシヴロックらしい一面を魅せた内容になっている。6曲目の『静寂』は、オルゴールのような音色からアコースティックギターとエレクトリックギター、そして流麗なピアノをバックにしたヴォーカル曲。2本のギターによるアンサンブルは絶妙で、メロトロンのようなストリングスが響いたり、多彩な楽器による独創的な奇抜さが散りばめられた実験性のある内容になっている。7曲目の『波打ち際』は、8分に及ぶ大曲。リリカルなピアノソロをバックにしたルチアノ・レゴリの端正なヴォーカルから、リズムセクションが加わりフルートやハープのような弦楽器となり、様々なフレーズを盛り込んだ楽曲となる。アコースティックピアノを中心に各楽器のパートが絡み合い、情熱的なヴォーカルと共に次第に高揚していくフィナーレにふさわしい内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、甘美なメロディラインに魅惑的なヴォーカルやスリリングなリズムセクション、ジャズ&クラシックに長けたキーボードプレイ、そして彩りを与えるフルートや管楽器、ストリングスなど各楽器の演奏は、技巧的であり円熟味のあるレベルに達している。何よりも支配的なアコースティックピアノと存在感のあるベースが顕著であり、電子楽器に頼らない楽曲づくりは彼らミュージシャンとしての自信の表れと言っても良いだろう。

 本アルバムは40日に及んだ優れたレコーディングによる作品だったが、残念ながらプロモーションが無かっただけではなく、レーベルのフォニット・チェトラが元オザンナのエリオ・ダンナとダニーロ・ルスティッチによるUno(ウーノ)の立ち上げに費やされたため、ほぼ会社から無視されてしまったとされている。市場にはあまり出回らなかったためか本アルバムの存在を知っている人はほとんどなく、セールス的には芳しくなかったというのが実情だろう。彼らはアルバムリリース後にライヴ活動を行うことなく解散している。ヴォーカリストだったルチアノ・レゴリは音楽業界から離れ、肖像画家として活動して成功。1990年代にはローマのヘヴィメタルグループであるDGMのヴォーカリストとして復帰している。ギタリストのジョヴァンニ・チヴィンテンガは、後にギターからベースに転向し、人気のセッションミュージシャンとなっている。彼は1980年代からイタリアの映画作曲家であるエンニオ・モリコーネとは100以上のサウンドトラックに参加しているという。ドラマーのルッジェロ・ステファーニは、イタリアの作曲家でピアニストであるレミジオ・デュクロスのアルバムに参加するなどセッションミュージシャンとして活躍。ベーシストのアルド・ベッラノーヴァはセッションミュージシャン兼作曲家となり、作詞家のエンリコ・ラザレスキのアルバムにも作曲家として参加している。キーボード奏者のステファノ・サバティーニは、特定のグループには所属せず、ソロミュージシャンとして1990年代まで4枚のアルバムをリリースしている。その後も彼は多くのロックミュージシャンやジャズミュージシャンとのコラボを長年にわたって行なっているという。本アルバムは廃盤となり、レーベルが再プレスを行うことなく10年以上も眠ったままだったが、1980年代に海賊盤が出回ったことで、急遽フォニット・チェトラから限定枚数のCD盤が1989年に再発し、1991年にはLP盤も続けて再発している。日本では1996年にベル・アンティークより「ユーロ・ロック・マスター・ピース」シリーズの1枚としてCD化され、多くのプログレファンがその圧巻のクオリティに酔いしれることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイルヴォーロが表なら、このグループこそ裏のスーパーグループであると良く言われるイタリアのプログレシヴロックグループ、サマディの唯一のアルバムを紹介しました。サマディは1989年にフォニット・チェトラから初CD化、1991年にレコードの再発を果たしていますが、それまでレーベルのLPQという特異なシリーズからのリリースだったため、謎のグループとされてきました。後に元ラコマンダータ・リチェヴータ・リトルノ(通称RRR)やイ・テオレミ、ルオヴォ・ディ・コロンボといった名グループのメンバーによって結成されたスーパーグループだったことが判明しています。日本では1996年に再発されたベル・アンティークの「ユーロ・ロック・マスター・ピース」で知った人も多いのではないかと思われます。私もその1人です。後で知りましたが2011年にはアルカンジェロからSHM-CDのリマスター盤も出ているようですね。イタリアのプログレッシヴロックグループは、オイルショックによる経済低迷などが原因で解散を余儀なくされたパターンが多いのですが、サマディはそのあおりに加えてレーベルから無視されてしまったという悲惨なグループと言っても良いと思います。これだけクオリティの高い作品であるにも関わらず、レーベルサイドのプロモーションが無いと全く売れないという証左でもあり、本来であればプロモーションを兼ねたライヴが行われるはずがそれも無く、スーパーグループにしてはあまりにもひっそりしたものになってしまっています。きっとこうしたグループは他にもあるんだろうな~と、つくづく考えさせられます。

 さて、本アルバムですが古典的なプログレッシヴロックにジャズの要素を加味したサウンドとなっていて、ポップスやカンタベリーなどのスタイルと音色がうまく融合したプログレッシヴポップといっても良い内容になっています。サマディと聞くとインド仏教、もしくはヒンドゥー教を想い起こしますが、「雑念を離れて心を一つの対象に集中した状態」という意味でインドの瞑想の世界で広く培われてきた言葉です。彼らにとってはあくまで東洋思想の一環としてそのままグループ名にしたそうです。ジャケットからして東洋的なイメージがありますが、サウンド自体はエキゾチックさあってもイタリアらしい明朗さのある内容になっています。いくつものグループを渡り歩いてきたメンバーによる演奏には文句のつけようが無いほど技巧的であり、特にスラブ系管楽器奏者のステヴォ・サラジッチ指揮のストリングス導入もあってレコーディングのレベルも高いです。個人的にはステファノ・サバティーニの流麗なアコースティックピアノとアルド・ベッラノーヴァの存在感のあるベースラインは素晴らしいのひと言です。電子楽器にあまり頼らない楽曲からして、彼らの演奏に対する自信は相当なものがあります。1曲目のキャッチーなポップソングからシンフォニックロック、ジャズロックと進み、そして最後の曲の『波打ち際』で甘美なメロディラインを繰り返し、ピアノとコーラスがせめぎ合いながら高揚していく流れは、アルバムとしての完成度も非常に高いと思っています。ぜひ、スーパーグループらしい円熟味のある演奏を聴いてほしいです。

それではまたっ!