【今日の1枚】Gryphon/Midnight Mushrumps(グリフォン/真夜中の饗宴) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gryphon/Midnight Mushrumps
グリフォン/真夜中の饗宴
1974年リリース

ロックに古楽を持ち込み
唯一無比のスタイルを確立した傑作

 古楽器を利用する王立音楽院卒のミュージシャンによって結成されたプログレッシヴロックグループ、グリフォンのセカンドアルバム。そのアルバムはアコースティックギターやピアノなどをはじめ、ハープシコード、リコーダー、バスーン、クルムホルンといった古楽器を巧みに利用し、中世ルネサンスを強く感じさせた格調高い気品あふれるサウンドとなっている。田舎風のトラディショナルフォークだった前作に比べて、本作では19分に及ぶ大曲があり、プログレッシヴロックと伝統音楽が見事に融合した唯一無比のスタイルを確立した傑作誉れ高い1枚。本アルバムの功績により、英国国立劇場でのコンサートを認められた史上初のロックグループとなっている。

 グリフォンの歴史は1971年に英国王立音楽大学に在学していたリチャード・ハーヴェイ(リコーダー、クルムホルン、マンドリン、キーボード、ヴォーカル)とブライアン・ガランド(バスーン、トロンボーン、クルムホルン、リコーダー、キーボード、ヴォーカル)の出会いから始まっている。2人は古楽器を用いて中世音楽やルネッサンス音楽に英国の伝統的な民族音楽を組み合わせたアコースティカルな演奏をするデュオとして活動を始めている。後に彼らはチェリー・ウッドというフォークグループにいたギタリストのグレアム・テイラーを加えて、3人編成のスペルホーンというグループを結成。そしてプログレッシヴなハードロックを演奏していたジャガーナットというグループにいたドラマーのデヴィッド・オーベールを加入させて、1971年末にグリフォンという名で活動をしている。初めて公の場に姿を現した彼らはエレクトリックギターやキーボードに加え、これまでロックでは使用されてこなかったファゴットやクルムホルンといった管楽器を用いた格調高い演奏に、周囲の注目を集めたと言われている。主にジャズクラブやパブを中心に活動をしていた彼らは、1973年にフォーク/トラッドの名門として知られるトランスアトランティックレコードと契約。同年にデビューアルバムの『鷲頭、獅子胴の怪獣~Gryphon~』をリリースすることになる。そのアルバムは全12曲中のほとんどの楽曲が、古典やトラッド音楽をアレンジしたフォーク調のサウンドになっていたが、好評を得て美術館でのギグや古楽の講義を行うなど、従来のロックグループとは違った舞台で演奏することになったという。その中には国立劇場で行われた英国の劇作家シェイクスピアの『テンペスト(あらし)』があり、後にそのシェイクスピアの音楽を委託されたことで次のアルバムに着手することになる。ファーストアルバムで民間の伝承音楽やトラッドの音楽を高レベルにアレンジした彼らは、次にオリジナル志向を強めることになり、オーベールと共にジャガーナットに在籍していたベーシストのフィリップ・ネスターを加入させている。ベーシストが加入したことでよりロック色が強まり、躍動感のあるサウンドとなったという。彼らはオックスフォードシャー州にあるチッピング・ノートン・レコーディング・スタジオに入り、レコーディングエンジニアはデイブ・グリンステッドが務めたセカンドアルバム『真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』を1974年にリリースすることになる。そのアルバムは19分に及ぶ3部構成の曲になった『シェイクスピアに捧ぐ:真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』を中心に、その1曲を除いた全ての楽曲をメンバーが作曲したナンバーとなっており、古楽器を用いた英国の伝統音楽とプログレッシヴロックが見事に融合した名盤である。
 
★曲目★
01.Midnight Mushrumps(シェイクスピアに捧ぐ:真夜中の饗宴)
02.The Ploughboy's Dream(田舎の少年の夢)
03.The Last Flash Of Gaberdine Tailor(仕立屋の最後のひらめき)
04.Gulland Rock(ガランド・ロック)
05.Dubbel Dutch(ちんぷんかんぷん)
06.Ethelion(エテリオン)

 アルバム1曲目の『シェイクスピアに捧ぐ:真夜中の饗宴』は、19分に及ぶ大作になっており、シェークスピア劇の前奏曲として依頼されたものである。ハルモニウムにバスーンが重なる教会音楽にも似た荘厳なイントロから、非常にクラシカルなイメージが広がった内容になっている。2分過ぎからアコースティックギターのアンサンブルにベースやパーカッションが重なり、リコーダーやハープシコードが彩りを与えたバロック調のサウンドになっていく。曲は次々と転調を繰り返しながらも古楽器やアコースティックギターの巧みな使用によって、まるで現代と過去を行き来するような不思議な感覚に陥ってしまうほどである。中世の宮廷音楽を思わせる視覚的な印象を持たせたリチャード・ハーヴェイの作曲スキルの高さが伺える名曲となっている。2曲目の『田舎の少年の夢』は、ヴォーカルが加わったアルバム唯一のトラッドナンバー。荘厳なキーボードのイントロからアコースティックギターやパーカッションによるフォークソングだが、クルムホルンやキーボードを活かしたシンフォニック調になっている。3曲目の『仕立屋の最後のひらめき』は、アコースティックギターを中心とした技巧的な楽曲となっており、中世風の構造のイントロが印象的である。ファゴットとクルムホルンの音色は非常に心地よく、バスーンやリコーダーが加わった多彩なフレーズによるインタープレイがユーモラスである。4曲目の『ガランド・ロック』は、そのタイトル通りブライアン・ガランドが作曲したキーボードとリコーダーがメインの楽曲である。ほの暗いピアノとオルガンによるイントロから始まり、ハープシコードやアコースティックギター上で奏でる美しいリコーダーが支配した内容になっている。クラシックをベースにした非常にプログレッシヴ色の強いナンバーである。5曲目の『ちんぷんかんぷん』は、明るい伝統的なフォークの雰囲気を前面に出した楽曲。次々に転調を重ねたテクニカルなナンバーであり、アコースティックギターやクルムホルン、リコーダー、ファゴットによる愛らしいアンサンブルになっている。6曲目の『エテリオン』は、予想外の笑い声から始まり、激しいティンパニを含めたタイトなリズムセクションによるスピーディーな展開が心地よいナンバー。ファゴットとフルートが引き継ぎ、後にフルートやパーカッション、アコースティックギター、キーボード、ベースによる重厚なアンサンブルになっていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ダイナミックさは無いもののアコースティックギターやキーボード上に古楽器の使い方が非常にクラシカルであり、転調を重ねるフレーズは意外にも刺激的である。フォーク調のアコースティックギターにベースが重なってキーボードがメロディを紡ぎ、パーカッションがアクションを添え、リコーダーとハープシコードがバロック調の雰囲気を与えるという、宮廷音楽さながらの格調の高いサウンドをまさに現代に呼び起こしたものにしている。

 巧みに古楽器を用いて格調高い演奏を披露した本アルバムは大好評を得て、さらに一部の曲がロイヤル・シェイクスピア劇団によって演じられた『テンペスト(あらし)』でも使用され、この作品をきっかけに音楽業界でも注目されるようになる。グリフォンは英国の国立劇場でコンサートを行うことが認められ、この場所で演奏した史上初のロックグループとなっている。このコンサートを偶然観に来ていた当時のイエスのマネージャーだったブライアン・レーンの目に留まり、1974年秋のイエスの北米ツアーに同行し、このツアーをきっかけにアメリカデビューも果たしている。このアメリカデビューは、グリフォンにとって古楽のエッセンスを取り入れたプログレッシヴロックを続けるべきか、それともアメリカ市場向けのサウンドに変化していくべきかといったプレッシャーが生まれたという。サードアルバムの『女王失格』は、そんなグループのプレッシャーを抱える前の1974年夏ごろにリリースされている。しかし、ギターとキーボードを中心としたロックというスタイルに、彼らのルーツであるトラッドの手法と古楽のエッセンスを極限にまで取り入れた、他の追随を許さないプログレッシヴロックの傑作となっている。1975年にはベーシストだったフィリップ・ネスターが脱退し、新ベーシストのマルコム・ベネットとアコースティックベースのジョナサン・デイヴィーが参加した4枚目となるアルバム『レインダンス』を発表。しかし、イエスとのツアーでアメリカ市場を意識したのかよりポップなサウンドに変化した内容になっている。4枚目のアルバムをリリース後、ギタリストのグレアム・テイラーとベーシストのマルコム・ベネットが脱退。1977年にはレーベルを移籍し大幅なメンバーチェンジを行ってリリースされた5枚目のアルバム『反逆児~Treason~』は、ヴォーカルをフィーチャーしたロック&ポップなスタイルになったという。時代の流れとはいえ、すでにプログレッシヴなサウンドの面影は無くなり、他のプログレグループと同じようにパンク/ニューウェイヴの影響もあって、グループはその年に解散することになる。解散後のメンバーのうち、リチャード・ハーヴェイはソロアーティストとしてTVのサウンドトラックを中心とした作品を多く残しており、グレアム・テイラーはアーシュリー・ハッチングスのアルビオン・バンドやホーム・サーヴィスといったグループでプレイしている。解散から30年以上経った2007年に、ウェブサイト上でグリフォンの再結成を突然発表し、ロンドンのクイーン・エリザベス・ホールで最後の公演から実に32年ぶりとなるコンサートを開催している。メンバーはリチャード・ハーヴェイとブライアン・ガランド、グレアム・テイラー、デヴィッド・オーベールのオリジナル4人が集まり、ファーストアルバム『鷲頭、獅子胴の怪獣』のナンバーを披露。その後、ベーシストのジョナサン・デイヴィー、キーボード奏者にグラハム・プレスケットが加わり、2015年まで精力的にライヴ活動を行っている。2018年にはタイトなスケジュールのためにリチャード・ハーヴェイはグループを去ってしまうが、新しいメンバーと共に制作されたアルバム『ReInvention~再確立~』をリリース。また、2020年には最新アルバム『Get Out Of My Father's Car! 』を発表し、現在でも精力的に活動をしているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は彼らのルーツである古典音楽のエッセンスを取り入れ、中世ルネッサンスを思わせる宮廷音楽のようなサウンドとなったグリフォンのセカンドアルバム『真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』を紹介しました。グリフォンは古典的な音楽とエレクトリックなロックの融合によって究極的なサウンドとなったサードアルバムの『女王失格』に次ぐアルバムレビューになりますが、ロックと格調高い中世の音楽を見事に融合した本アルバムを推す人も多いです。他にもバスーンやクルムホルンといった楽器を用いたフォークロックグループやプログレッシヴロックグループは存在しましたが、メンバーのほとんどがクラシック音楽の教養があり、それが楽曲によく表れたグループと言っても良いです。

 さて、本アルバムはトラディショナルフォークだった前作から、エレクトリックギターやキーボード、そして新たにベース奏者が加わって、スケール感のある躍動感に満ちたクラシカルロックへと華麗な変貌を遂げた内容になっています。とにかく1曲目の『シェイクスピアに捧ぐ:真夜中の饗宴』は、シェークスピア劇の前奏曲として依頼されたもので、リチャード・ハーヴェイの作曲スキルが遺憾なく発揮されたかなり重厚なインストゥメンタル曲になっています。まるでオーケストラと言っても良いほど音のレンジが広く、明らかに中世の宮廷音楽のような雰囲気を与えた内容になっていて、19分という長さを感じさせない超ド級の名曲となっています。また、クルムホルンやバスーン、テナーリコーダー、ファゴットといった伝統的な楽器の音に対する愛情も込められていて、その稀有な美しさは言葉では言い表せないほどです。レコードでいうB面は組曲のような連続性がある5曲になっていて、特に3曲目の『仕立屋の最後のひらめき』は、アコースティックな楽器と管楽器による素晴らしいインタープレイが満載の挑戦的なフォークミュージックになっていて個人的に好きな楽曲の1つです。また、6曲目の『エテリオン』は、激しいティンパニと笑い声から始まり、後にファゴットとフルートが引き継ぎ、パーカッションやキーボード、ベースによる夢のようなメロディになっていて、彼らの作曲&アレンジセンスの高さも伺えます。そういう意味では全体的に透き通った中世の音楽と、キャッチーでありながらエッジのある冒険的なフォークの相互作用が見事に取れたプログレシヴロック&フォークロックの傑作だと思います。

 ロックと伝統音楽が見事に融合した唯一無比のスタイルを確立しつつも、今イチ、メジャーになり切れないグリフォンですが、プログレッシヴロックファンの間では非常に尊敬されているグループです。ぜひ、彼らのロックと中世の音楽の融合による華麗なるアンサンブルを聴いてほしいです。

それではまたっ!