【今日の1枚】Eloiteron/Lost Paradise(エロイテロン/失楽園) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Eloiteron/Lost Paradise
エロイテロン/失楽園
1981年リリース

翳りのある味わい深いメロディを持つ
ツインキーボードによるシンフォニックロック

 1981年に自主制作盤を残して消えたスイスの幻のプログレッシヴロックグループ、エロイテロンの唯一のアルバム。そのアルバムはメロトロンやピアノ、オルガン、シンセサイザー、ストリングスなどを駆使する2人のキーボード奏者を中心に、12弦ギター、フルート、トランペットなどの楽器を効果的に使用した翳りのある味わい深いシンフォニックサウンドとなっている。溢れんばかりのメロトロンの使用と、職人気質の傾向が強いスイス人らしい繊細で温もりのある音作りに、現在、再評価されているアルバムでもある。

 エロイテロンは1981年にスイスの中央にある大都市チューリッヒで結成されたグループである。グループは6人編成であり、中心となっているのはクリスチャン・フライ(グランドピアノ、オルガン、シンセサイザー、メロトロン、ストリングス、エレクトリックピアノ、ヴォーカル)、マルティン・フライ(グランドピアノ、オルガン、シンセサイザー、メロトロン、ストリングス)、シュテファン・フライ(フルート、イングリッシュホルン、コルネット、トランペット、ソプラノサックス)を演奏する3人の兄弟であり、ツインキーボードとトランペットを含む管楽器が特徴のグループといえる。音楽学校に通い比較的裕福な家庭に育ったフライ兄弟は、キング・クリムゾンやイエス、ジェネシスといった英国のプログレッシヴロックグループを好み、自分たちの音楽を実現しようとヘブライ語で神々の土地を意味するエロイテロンというグループを結成する。そこには彼らの知人であるダニ・ライマン(ドラムス)、ハリー・シェラー(ベース、エレクトリックギター、シンセサイザー、ヴォーカル)、そして1976年から様々なロックグループを渡り歩いてきたプロのミュージシャンであるミヒャエル・ヴィンクラー(12弦ギター、エレクトリックギター)が加わり、活動を開始している。彼らは地元のカレッジで演奏した以外はほとんどライヴは行わず、もっぱら自宅や近くのスタジオを借りて、クリスチャンとマルティンのキーボード奏者が作曲した楽曲をメインにリハーサルを行ったという。そして早くもチューリッヒにあるレコーディングスタジオに入り、そこで大作指向の2曲を含むアルバムの全9曲をレコーディングをしている。もしかしたら彼らはレコード会社を介さずに最初から自主制作盤で出そうと考えていたのだろう。同年にグループと同名のエロイテロンという自主レーベルを立ち上げ、1981年末に『Lost Paradise(失楽園)』というタイトルでリリースすることになる。ジャケットはタイトルにふさわしい地平線と太陽を描いたジャケットデザイン上にドクロを中心とした禍々しいジャケットを被せたものにしている。ドクロの左目には穴が開いて下のジャケットの太陽が覗く凝ったものになっているという。こうしてリリースされたアルバムは、メロトロンやピアノ、オルガン、シンセサイザー、ストリングスというヴィンテージ級のキーボードを2人が操り、12弦ギターやフルート、トランペットといった管楽器を駆使したメロディアスなシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Time Reflection(タイム・リフレクション)
02.Once(ワンス)
03.Fantasia(ファンタジア)
04.Where(楽園)
05.Yapituttiperslikkenberg(ヤビツッティパースリッケンベルク)
06.Hommage À M...(オマージュ・ア・M…)
07.Octopus(オクトパス)
08.Tree Of Conflicts(矛盾だらけの木)
09.Old Man's Voice(老人のつぶやき)

 アルバムの1曲目の『タイム・リフレクション』は、オルガンが演奏する中、素晴らしいキーボードのメロディで始まり、切れの良いベースが特徴の楽曲。クラシカルな中でピアノをベースとしたトランペットソロとなり、一瞬、ジャズの雰囲気を醸成するが、後に押し寄せるようなメロトロンとオルガンを中心とした荘厳なシンフォニックロックとなる。後半にはエレクトリックピアノによる軽快なアンサンブルとなって終えている。2曲目の『ワンス』は、軽快なドラミング上でなだらかなピアノソロから始まり、鳥のさえずりのようなシンセサイザーが加わり、イージーリスニングともいえる優しい楽曲。後にアップテンポな曲調に変わり、サックスがリードするリズミカルな演奏と多彩なキーボードを駆使した展開が待っている。スティーヴ・ハケット風のギターが絡み、ジェネシスの影響が感じられるオルガンのバッキングが印象的である。3曲目の『ファンタジア』は、流麗なピアノソロから始まり、オルガンとフルートが絡むクラシカルな雰囲気から、リズムセクションが加わると一気に疾走感のあるアンサンブルに突入する。そしてイングリッシュホルンやオルガン、ピアノ、ギター、フルートが次々とリードしたメロディアスながら技巧性を魅せつけた楽曲になっている。4曲目の『楽園』は、ギターとオルガンを中心としたオープニングからヴォーカルが初めて登場したポップでキャッチーなナンバー。その後、荘厳なオルガンやメロトロンをバックにハケット風のギターが織り成した展開となっており、短いながらも巧妙なアレンジのセンスが光った内容になっている。5曲目の『ヤビツッティパースリッケンベルク』は、トランペットとドラムスがリードしたオープニングからバックのグランドピアノやエレクトリックピアノによるジャズフュージョンタッチのある楽曲。とにかくベースが光っており、ポップな中に一定の緊迫感をもたらせている。6曲目の『オマージュ・ア・M…』は、12弦ギターとフルート、ピアノによる抒情性あふれるアコースティカルな楽曲となっており、メロトロンとコーラスを交えた荘厳な楽曲から突然、ダークでテクニカルな曲調を挟んでいる。後半はストリングスを交えた一大シンフォニックロックとなっている。7曲目の『オクトパス』は、ケビン・ムーアを思い出させる流麗なピアノソロ上に重厚なシンセサイザーを被せた楽曲。エフェクトをかけたピアノとフルートを経て、抒情性のあるギターソロが展開される。そのギターソロのバックにもメロトロンが使用されている。8曲目の『矛盾だらけの木』は6分強の楽曲であり、柔らかなピアノソロからオルガンとアコースティックギターが加わり、情感的なヴォーカルを湛えたフォークロックとなっている。ヴォーカルの合間に波のように漂うメロトロンの響きが素晴らしく、後半ではシンセサイザーによるソロで盛り上げている。最後はアコースティカルギターのカッティングから流れるようなピアノとメロトロンをバックにしたヴォーカルで終えている。9曲目の『老人のつぶやき』は、7分を越える楽曲となっており、バロック風のフルートのアンサンブルから流麗なピアノソロ、そしてリズムセクションを含んだ演奏へと変わり、荘厳さを湛えたサウンドになっていく。そんなアコースティカルなバック上で切々と歌い上げるヴォーカルが夢心地な雰囲気を創り上げている。中盤からはリズミカルなテンポの中でフルートやピアノが演奏され、抒情的なエレクトリックギターによるメロディアスなソロが待っている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、1曲の中にピアノやメロトロン、オルガンといった多様なキーボードを何重にも駆使し、ギターや管楽器、ストリングスを巧妙に用いたアレンジ力の高い楽曲が多い。とにかく押し寄せるようなメロトロンの響きと量は鮮烈であり、後にキーボードの愛好家が好んだ逸品として認識されたのもうなずける。

 アルバムは自主制作盤だったため、多くの人に行きわたらなかったが、彼らは自分たちの音楽が世に出せたことに満足したという。その後は地元のチューリッヒで大学やクラブで演奏を続けたが、メンバーは次第にバラバラとなり1984年に解散している。メンバーのほとんどはセッションミュージシャンやスタジオエンジニアとして活躍していくことになるが、唯一、ギタリストのミヒャエル・ヴィンクラーは、解散後にチューリッヒの音楽学校でクラシックギターを学び直し、1988年から1991にかけてベルン音楽学校で最高の学位を得て卒業。そのあいだに映画音楽の作曲や編曲に関わるようになったという。彼は1985年にEos Guiter Quartetのメンバーとなる一方、ソロギタリストとしての活動が長く、1988年にロドリーゴなどの楽曲を演奏したファーストソロアルバムをリリースしている。その後もEos Guiter Quartetのメンバーとして5枚のアルバムに貢献し、また、複数のソロアルバムも発表しており、最新作は2010年の『Michael Winkler Plays Bach』である。そして2016年からはブラスバンドであるクエルビートのメンバーとして活躍している。本アルバムは廃盤後、日本のレーベルであるタチカ・レコーズが2003年に非公式のCD盤としてリリースされているが、正式に再発されるのは2013年のベル・アンティーク盤のSHM-CDリマスターである。リマスター盤のジャケットは青地をバックに貼られた地平線の彼方に浮かぶ太陽になっているが、オリジナルにあったドクロの禍々しいジャケットも別紙として封入されている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は自主制作盤ながら、メロトロンやシンセサイザーといったヴィンテージ級のキーボードを駆使したスイスのプログレッシヴロックグループ、エロイテロンの唯一作『失楽園』を紹介しました。1980年代のアルバムですが、メロトロンを含む多種多様なキーボードをふんだんに使用したアルバムとしてキーボードの愛好家によく知られた傑作として名高いです。それでも意外と情報は少なく、3年あまりの活動期間と自主制作のアルバム1枚を残したのみで解散していることも起因していますが、チューリッヒ以外での活動は無く、解散後のメンバーが表舞台から消えてしまったのが大きいかと思われます。本アルバムはそんな軽快でツインキーボードをメインとしたシンフォニックロックとなっていますが、ロックグループとしては珍しいトランペットを導入している点がグループの大きな特徴といえます。さらに不協和ともいえるギターをはじめ、ピアノやシンセサイザー、メロトロンなどによって紡ぎ出される繊細さがあり、全体的に翳りある非常に味わい深いサウンドになっています。ちなみに封入されているドクロを中心とした禍々しいジャケットが実際の地平線に浮かぶ太陽のジャケット上に被せる形になっていて、ドクロの左目部分が破かれて下からジャケットの中心の太陽が覗くという凝ったものだったそうです。本レビューではオリジナルに準じてドクロを中心としたジャケットを表示しています。

 さて、アルバムはメロトロンをはじめ、ピアノやオルガンといったツインキーボードの特色を最大限に活かしたアルバムとなっています。楽曲によってはフルートやトランペット、サックスといった管楽器が使用されており、ジャズ風味なアンサンブルもありますが、キーボード奏者のしっかりしたクラシックの素養がベースにあるため、テンポや曲調が巡るましく変わってもメロディアスで聴きやすくなっているのが大きなポイントとも言えます。また、ギターがスティーヴ・ハケット風であり、彼らが影響を受けたというジェネシス風の煌びやかなアンサンブルも垣間見えて、意外と予想を裏切る展開もあり、短い曲の中でプログレッシヴさが息づいているのも好感が持てます。メロトロンファンだけではなく、その重厚なキーボードによる高いアレンジをぜひ堪能してほしい1枚です。

それではまたっ!