【今日の1枚】Glass/No Stranger To The Skies | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Glass/No Stranger To The Skies
グラス/ノー・ストレンジャー・トゥ・ザ・スカイズ
2000年リリース(1973年~1977年録音)

プログレッシヴロックとジャズロックを
新たな解釈で融合した隠れた逸品

 1968年に結成してオルタナティヴ・インストゥメンタル・ミュージックを切り開いてきたアメリカのプログレッシヴトリオ、グラスの2000年にリリースしたスタジオ兼ライヴレコーディングアルバム。そのアルバムはメロトロン、フェンダーローズ、エレクトリックピアノ、クラヴィネット、シンセサイザーを駆使する多彩なキーボードを中心としたシンフォニックロック&ジャズロックが融合したクオリティの高いプログレッシヴロックとなっている。スタジオでレコーディングするもレコード会社と契約に至らず1977年に解散してしまうが、1999年に再結成した際に1973年~1977年に残したスタジオレコーディング盤とライヴ盤がミックスCDとして陽の目を見ることになる。

 グラスはアメリカのワシントン州ポートタウンゼントで、1968年に結成したグループである。メンバーはグレッグ・シャーマン(キーボード)、ジェフ・シャーマン(ベース)の兄弟と、幼馴染のジェリー・クック(ドラムス)のトリオ編成で、当初はザ・ヴェイゲスト・ノーションというグループ名でカヴァー曲を中心に活動をしている。1968年9月6日に彼らはシアトル・センター・コロシアムで行われたジミ・ヘンドリックスのコンサートを観に行った際、オープニングアクトとして出演した英国のグループ、ザ・ソフト・マシーンに魅了され、その後、グループ名をグラスと改名してオリジナル曲のみを演奏し始めたという。1970年に作曲スキルに磨きをかけるため、ジェフとグレッグはラスベガスのジャズのアレンジャーたちが集ったフェイマス・アレンジャーズ・クリニックに参加。1971年にはエバーグリーン州立大学に通うためにワシントン州オリンピアに移ってはキャンパスの人気グループとなり、その後もオリンピアやシアトル、タコマ、ベリンガム、ポートタウンゼントなどの会場で行われた数多くのライヴに出演し、彼らは地元でかなりの注目と称賛を得ることになる。1971年1月22日のシアトルのイーグルス・オーディトリアム・ビルで行われた最初のジミ・ヘンドリックス追悼コンサートでは、オリジナルの曲を演奏した唯一のグループだったとされている。1975年にはプロのスタジオでデモテープを録音して、彼らはテープを手に様々なレコード会社に売り込み、契約を獲得しようとしたが失敗している。理由はパンク/ニューウェーヴとディスコの台頭による音楽業界の変化である。一流のロックグループでさえレーベルから解雇される時代に、プログレッシヴロックに手を伸ばすアメリカのレコード会社は皆無だったという。彼らは1975年の夏に英国のロンドンに渡って望みをつなごうとしたが、プログレッシヴな音楽の不況は英国の方が深刻であり、結局は何も得られぬままアメリカに戻っている。1977年にシアトル初のケイ・スミス・スタジオで追加の録音が行われたが、それを聴いたすべての人から好意的なコメントがあったにも関わらず、レコーディング契約は結ばれなかったという。彼らはこの状況に失望と幻滅を感じてしまい、グループとしての活動を停止し、メンバーそれぞれの道に進むことになる。本アルバムはその時のスタジオでレコーディングされた楽曲を掘り起こしてクリーンアップし、当時のライヴ録音とカップリングして独自レーベルから2枚組CDとしてリリースされたものである。

★曲目★
【The Studio Sessions】
01.No Stranger To The Skies(ノー・ストレンジャー・トゥ・ザ・スカイズ)
02.Give The Man A Hand(ギヴ・ザ・マン・ア・ハンド)
03.Domino(ドミノ)
04.The Myopic Stream(ザ・ミオピック・ストリーム)
05.For Ursula Major And Sirus The Dog Star(フォー・ウルスラ・メジャー&サイラス・ザ・ドッグ・スター)
【The "Live" Recordings】
06.Broken Oars Pt 1~6(ブロークン・オール パート1~6)
07.Changer(チェンジャー)
08.Home(ホーム)
09.Patrice Mersault's Dream(パトリス・メルソーの夢)

 アルバムは5曲のスタジオセッション盤とライヴレコーディング盤の2枚組CDとなっている。1曲目の『ノー・ストレンジャー・トゥ・ザ・スカイズ』は9分に及ぶ大曲となっており、グレッグ・シャーマンのエレクトリックピアノによるジャズリフに重なるようなメロトロンから始まり、全体的にフュージョンを模したインストゥメンタル曲になっている。ザ・ソフト・マシーンの『サード』とキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』の両方を融合したジャジーさと荘厳さ、ダイナミックさ、そしてコズミックさを持っており、心地よいペースとムードに変化した楽曲である。2曲目の『ギヴ・ザ・マン・ア・ハンド』は、リズムセクションを強調したジャズフュージョンのアプローチとなった楽曲。後に浮遊感のあるエレクトリックピアノを中心としたキーボードが乱立し、途中からメロトロンが力強く鳴り響く。最後は流麗なグランドピアノのソロによって到達としている。3曲目の『ドミノ』は、エレクトリックピアノを中心とした複数のキーボードが絡み合い、カンタベリーミュージックの要素を持った楽曲。中盤からはフルートやアコースティックギターによる抒情性のあるサウンドに変化し、後半はピアノを軸としたジャズフュージョンで締めている。4曲目の『ザ・ミオピック・ストリーム』は、アーロン・コープランドとフュージョンが出会ったような曲で、流麗なピアノを中心としたアンサンブルとなっている。シンセサイザーを活用したところはリック・ウェイクマンを彷彿とさせる。後半は曲調が変化し、メロトロンを駆使した中世風のクラシカルな展開となる。5曲目の『フォー・ウルスラ・メジャー&サイラス・ザ・ドッグ・スター』は12分に及ぶ大曲で、バロック風のアップテンポな輪舞から始まり、今度はピアノを中心としたホンキートンクとなってリズミカルな演奏が続いた楽曲。リズムセクションとリード楽器の相互作用から生まれるジャズ的な内容になっているが、非常にクラシカルであり幻想的ですらある。6曲目の『ブロークン・オール パート1~6』は、6章からなる組曲となっており、静寂な波の音と楽器音からメロトロンを中心とした荘厳なシンフォニックロックで幕を開け、後にクラヴィネットによる王宮風のアンサンブルからコズミックなシンセサイザー音となり、エマーソン・レイク&パーマーの『恐怖の頭脳改革』を彷彿とさせる素晴らしいリズムセクションとキーボードによる共演となる。12分後には曲調が変わってフュージョン風のジャズロックとなり、19分あたりからフルートとアコースティックギターを交えた抒情的なサウンドに変わり、最後はキーボードを主体としたアグレッシヴなアンサンブルとなって終えている。7曲目の『チェンジャー』は、タイトなリズム上でメロディアスなキーボードとワイルドなベースが鳴り響いた楽曲。途中からクラヴィネットとエレクトリックピアノの優しいサウンドによって一気に夢心地な気分になるが、最後はテクニカルなジャズロックを聴かせてくれる。8曲目の『ホーム』は、美しいアコースティックギターと弦楽器、ティンパニによるアンサンブルとなっている。メロトロンがバックで流れており、中世風のサウンドを演出している。9曲目の『パトリス・メルソーの夢』は、緩急のあるリズムセクションとクラヴィネットによるリリカルな楽曲となっている。手数の多いドラミングと独特のベースラインが強調された聴き応えのある内容である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、グレッグ・シャーマンの多彩なキーボードとジェフ・シャーマンのワイルドなベースと巧みなギター、そしてジェリー・クックのジャジーなドラミングが三位一体となって、プログレッシヴロックとジャズフュージョンを行き来するような独特なサウンドを築き上げている。彼らが目指そうとしたものはシンフォニックジャズであり、うまく時代が結びつけばヨーロッパで成功していてもおかしくはないアレンジメントの高いサウンドである。

 グラスは1975年にドラマーのジェリー・クックが脱退しており、1976年に代わりに長年の友人であるポール・ブラックが加入して存続。その年の夏、しばらくニューヨークへ移って公演を行い、翌年にシアトルに戻ってジェリーと最後のスタジオレコーディングを行った後に解散を宣言している。その後、20年以上経った1999年にインターネットの普及とプログレッシヴロックの再興による動きから、シャーマン兄弟は昔のファンと連絡を取りながら新しいビジネス関係を築き、その年に再度メンバーが集結してグループを再結成。掘り起こした古いテープをデジタル化にし、グラスの音楽とメンバーのソロレコーディングをリリースするために、独自の小規模レーベル、Relentless Pursuit Recordsを設立している。時間をかけてデジタルクリーンアップと編集を経て、2000年に1973年から1977年までのスタジオセッションとライヴレコーディングを収録した2枚組CDをリリースすることになる。それが本アルバムである。このリリースの成功を受けて、2002年と2003年に米国ワシントン州シアトルのムーア劇場で開催されたプログマン・カムス・ミュージック・フェスティバルに出演。さらに2002年と2004年にメキシコやカルフォルニア州クレアモントでもコンサートの企画され実現している。彼らのライヴパフォーマンスは称賛され、フランスのムゼアレコードから正式に『ノー・ストレンジャー・トゥ・ザ・スカイズ』の再リリース。これによってグラスは世界的に認知されることになる。その後もシャーマン兄弟は27年ぶりのアルバムに向けて新曲を作り、2005年に『イルミネーション』をリリースしている。そのアルバムにはヒュー・ホッパーやリチャード・シンクレア、フィル・ミラーという往年のカンタベリー出身のミュージシャンがゲストとして参加している。グラスは2000年代も精力的にアルバム制作を行い、2007年には『Glass Live At Progman Cometh』、2009年には『Spectrum Principle』、2014年には『Palindrome』がリリースされている。最新アルバムは2年という長い歳月をかけてレコーディングした2018年の『Emergence』である。また、グラスはカンタベリーの舞台を描いた2015年の映画『ロマンティック・ウォリアーズIII:カンタベリー物語』に出演しており、DVDには26分を超えるパフォーマンス映像と2つのインタビューを収録しているという。現在はアメリカのオンラインオーディオ配信プラットフォームであるBandcampで定期的に楽曲を発表しており、70歳を超えた3人のレベルの高い演奏を聴くことができる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は時代を越えて初CD化を果たしたアメリカのプログレッシヴロックグループ、グラスの『ノー・ストレンジャー・トゥ・ザ・スカイズ』のアーカイヴアルバムを紹介しました。どちらかというとグラスは再結成後の活動が盛んであり、現在でもBandcampで楽曲を配信するグループですが、本アルバムは1975年頃の録音が25年の時を経て2000年代になって初めて陽の目に当たった作品です。調べてみたら1970年代末は英国をはじめとするパンク/ニューウェーヴの台頭で、レーベルの契約どころかレコード化すらできなかったグループだと知って、またパンク/ニューウェーヴによって淘汰されたプログレか~と思わず心の中で叫んでしまいました。これだけクオリティの高い楽曲であるにも関わらず、比較的に寛容だと言われたアメリカのレコード会社ですら契約に至らなかったとは驚きです。でも、良い作品というのは時代を越えると言いますが、2000年の初CD化を経て再結成後のグラスの活躍はホントに巡るましいです。

 さて、グラスの楽曲は英国のエマーソン・レイク&パーマーやキング・クリムゾンの影響が感じられるものの、どちらかというとザ・ソフト・マシーンを中心としたカンタベリーミュージックに影響を受けたサウンドに近くなっています。面白いのは1曲の中にメロトロン、またはクラヴィネットを使用したシンフォニック調やエレクトリックピアノを使用したジャズロック調、シンセサイザーを使用すればコズミック調といったサウンドが混ざっていて、1970年代のプログレッシヴロックとジャズロックの良い部分をミックスした感じになっています。これをユニークと取るかアレンジの妙と取るかは聴く人によりますが、私個人としては非常に新鮮に聴こえました。演奏技術も思った以上に高く、特にリズムセクションがワイルドでグイグイと引っ張ってくれます。やっぱりゾクゾクとするようなメロトロンやフェンダーローズ、エレクトリックピアノがふんだんに使用されていることから、キーボードロックだけではなくジャズロックファンにもぜひオススメしたい1枚です。どの曲も聴き応え十分です。

それではまたっ!