【今日の1枚】Laser Pace/Granfalloon(レーザー・ペイス/グランファルーン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Laser Pace/Granfalloon
レーザー・ペース/グランファルーン
1974年リリース

エレクトロ二ック・ジャングルと言わしめた
奇妙な魅力を持ったファンク系プログレ

 1959年にジョン・フェイヒーとエド・デンソンが共同設立し、伝説のプリミティヴなギターやフォークをメインとしたアメリカのTakomaレコードが、唯一カタログに載せたプログレッシヴロック作品として知られるレーザー・ペースの唯一のアルバム。そのアルバムはモーリーン・オコナーのソウルフルで幅広いヴォーカルをはじめ、サイケデリックロックやファンク、ディスコ、フリーフォームなジャズ、エクスペリメンタルが渾然一体となった摩訶不思議なサウンドとなっており、さらにモジュラーシンセサイザーやメロトロンを効果的に使用した、まさに「エレクトロニック・ジャングル」と言わしめた孤高の逸品となっている。2008年にデッカから初CD化となり、2018年にはFEEDING TUBE RECORDSから限定500枚のレコードがリイシューされるなど、現在、ファンク系プログレッシヴロックの最高傑作として認知されている。

 レーザー・ペースはジョニー・キャッシュやビーチ・ボーイズ、バンド・オブ・ジプシー、ロジャー・ミラー、ジョン・フェイヒーといった多くのアーティストを手掛けるレコーディングエンジニア、ダグ・デッカーが中心となって、アメリカのロサンゼルスで結成されたグループである。彼は元々、1960年代からロサンゼルスのサーフ&ロックシーンで活躍したOpus1というグループでベース兼ヴォーカルを務めていたアーティストである。後に彼はグループを脱退して地元のウォーリー・ハイダー・スタジオのエンジニアを務めるかたわら、ベース楽器を演奏するセッションマンとなっていたが、モーリーン・オコナーを妻にした時から自身でメンバーを集めてグループを作りたいと考えていたという。モーリーン・オコナーは元The She'sというガールズバンドでギター兼ヴォーカルで活躍してきたアーティストで、シングルをレコーディングした際にエンジニアだったダグ・デッカーと付き合い始めており、後に2人は結婚している。大きく動き始めたのはOpus1で共に演奏していたドラマーのクリス・クリステンセンとの再会だろう。デッカーとクリステンセンは意気投合して、モーリーン・オコナーと共に新たなグループであるレーザー・ペースを1972年に結成する。3人は早速、オリジナル曲を作り始め、作成した曲を実現するためのメンバーを集めたという。ダグ・デッカーはエンジニアを務めていた際に多くのセッションミュージシャンやロサンゼルスを拠点とするミュージシャンに声をかけ、ラリー・パーソンズ(フェンダーローズ、ピアノ、オルガン、シンセサイザー)、ジム・ディヴィセク(シンセサイザー、キーボード)、カール・ヴァン・ヤング(クラヴィネット)、ラリー・ウルフ(ソプラノサックス)、ウェルドン(ドラムス)、ジョージ・ベル(パーカッション)がメンバーとなっている。ダグ・デッカーはベース、シンセサイザー、メロトロン、妻のモーリーン・オコナーはヴォーカル、ギター、シンセサイザー、ピアノ、メロトロン、そしてクリス・クリステンセンはメインドラムスを担当。グループはリハーサルを経てレコーディングを行い、その曲を知り合いであるTakomaレコードの設立者のジョン・フェイヒーに聴かせている。フェイヒーはあまりにも実験的なサウンドに面食らい、「まるで電子音のジャングルにいるようだ」と周囲に語っていたというが、最終的にレコードリリースの約束をしている。ダグ・デッカーはプロデュース兼エンジニアを務め、マスタリングに友人であるジョン・ゴールデンを採用して、さらに1年をかけてレコーディングを行い、デビューアルバム『グランファルーン』を1974年にリリースする。そのアルバムはメロトロンやフェンダーピアノ、クラヴィネットを含む4人のキーボード奏者にサックス、ギター、リズムセクションという特殊な編成で、サイケデリックロックやファンク、ディスコ、ジャズ、エクスペリメンタルといったジャンルが渾然一体となったあまりにも斬新で画期的なサウンドとなっている。

★曲目★
01.Closet Casualty(クローゼットの惨事)
02.Avatar(アバター)
03.“Whoever” You Are “You”(誰でも~あなたは~あなた)
04.Sky Fell(スカイ・フェル)
05.Endless(エンドレス)
06.Oh Yeah?(オー・イエー?)
07.Redemption(贖罪)
08.Scatter(散乱)

 アルバムの1曲目の『クローゼットの惨事』は、ランダムなシンセサイザーの進行と軽いパーカッシブな音の中で、ソウルフルなモーリーン・オコナーのヴォーカルが冴え渡った楽曲。一聴するとファンクロックのイメージが付きまとうが、中盤にはプログレ的なインストパートが充実しており、単なるファンクではないことが分かる。2曲目の『アバター』は、スペイシーなシンセサイザーの中でファンキーなギターリフとサックスの音が組み合わさったアシッドジャズ風の楽曲。ベースがメロディラインを持っており、その渦巻くサウンドの中で揚々と歌い上げるヴォーカルが頼もしい。後半になると多彩な楽器が入り組みながらフェードアウトしている。3曲目の『誰でも~あなたは~あなた』は、軽いパーカッション上で煌びやかなシンセサイザーとメロウなギターを中心としたソウルファンク。ここではモジュラーシンセサイザーやフェンダーローズを効果的に使用しており、聴く者に浮遊感を与えている。4曲目の『スカイ・フェル』は、多彩なパーカッションと複雑なリズムがミックスされた中で、こちらもベースがメロディラインを担った楽曲。ワウワウのギターとエレクトリックピアノによるインタープレイがあり、ジャズ的なアプローチのある内容になっている。5曲目の『エンドレス』は、壮大なメロトロンをバックにファンキーなリズムとワウギターで突き進んだ楽曲。後半に奏でられるメロトロンは、一瞬、キング・クリムゾンを思わせる。6曲目の『オー・イエー?』は、ファンキーな男性ヴォーカルを中心とした楽曲。後半では電子音とギター、そして性急ともとれるドラムによるユニークなアップテンポ曲になっている。7曲目の『贖罪』は、重いベースと柔らかなピアノ、そしてメロウなギターをバックにしたヴォーカル曲。緩やかなインタープレイとなっており、次第にシンセサイザーを加えた荘厳な楽曲に変化していく。8曲目の『散乱』は8分を越える実験的な楽曲。パーカッションやドラムと電子音やシンセサイザーのインプロヴィゼーションを中心に、不協和音のピアノの音色とワウがかったギターが加わり、ファンキーなノリだが全体的に即興的な流れで進んでいく。途中から狂乱的なピアノと電子音の即興となり、リズムセクションやギターも加わってまさに渾然一体と化して終えている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、アシッドジャズとソウル&ファンクをベースに、ランダムともいえるシンセサイザー音とモーリーン・オコナーのワイドなヴォーカルが楽曲を決定付けたユニークなサウンドになっている。後半になるにつれて複雑な即興的な演奏が多くなっていくが、全てをカバーするドラムとベースの安定感があってこそだろう。最後の曲のドラムスと電子音の即興はありそうで無かった芸当であり、そこに不協和音のピアノが入り混じることで摩訶不思議な世界観を構築した興味深い内容になっている。

 アルバムはカントリーやフォークロックを中心に輩出してきたTakomaレコードの中で、実験的でプログレッシヴロックなアルバムを出したことは極めて異例だろう。様々なジャンルを融合したサウンドはなかなか受け入れてもらえず、売り上げは散々だったと言われている。彼らは次の構想も練ることも無く、リリース後まもなく解散している。ダグ・デッカーは後にTakomaレコード専門のスタジオエンジニアとなり、多くのアーティストのレコーディングエンジニアとして活躍。ドラマーのクリス・クリステンセンは、ミッドナイト・フライヤーというグループを結成し、地元のクラブやレストランチェーン店で地道に活動。その後、チャック・バリスのザ・ゴング・ショーに出演して賞を獲得している。1977年に今度はアヴァンポップ/パンクグループであるHot Food To Go!というグループを結成し、ドラマーから作曲をメインとするソングライターとなっている。その後は作曲家兼アーティストとして様々なミュージシャンと共演し、テレビやドキュメンタリー、映画の音楽を作曲するなど、現在でも幅広い活躍をしている。ヴォーカル兼ギタリストのモーリーン・オコナーは、1980年にニューウェーヴのグループであるNew Mathのメンバーとなり、1枚のアルバムをリリースしている。その後はカルフォルニアのロングビーチに移住し、歌手として活躍してきたが2014年8月17日に残念ながら亡くなっている。唯一のアルバムはすぐに廃盤となったが、マサチューセッツ州にいるプログレ愛好家のスコット・スワード氏によって掘り起こされ、2008年にデッカレコードより初CD化を果たしている。また、その10年後の2018年にFEEDING TUBE RECORDSから限定500枚のレコードがリイシューされ、その斬新でありながら奇妙なプログレッシヴロックを多くの人たちが耳にすることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はレコーディングエンジニアを中心に、サイケデリックロックやジャズ、ファンク、電子音を融合した実験的なサウンドを提示したアメリカのプログレッシヴロックグループ、レーザー・ペースの唯一作『グランファルーン』を紹介しました。『グランファルーン』とはアメリカの小説家でエッセイストでもある故カート・ヴォネガットが作った用語で、実際にはお互いに何の親近感も持たずに親和性のある仲間のふりをした人々を表現した言葉だそうです。この言葉がレーザー・ペースのグループを指したものなのかは不明ですが、アルバム自体は混沌というか奇妙というかなかなか言葉では言い表せない内容になっています。ベースはアシッドジャズとソウル&ファンクだと思われますが、そこにサイケデリックやディスコ、エクスペリメンタル、エレクトロニックといったジャンルが渾然一体になっていて、さらにモジュラーシンセサイザーやメロトロン、クラヴィネット、フェンダーローズ、オルガンを多用しているという摩訶不思議なサウンドになっています。長年にわたってカントリーミュージックやフォークロックをリリースするTakomaレコードを愛聴してきた人は、その奇妙なサウンドを聴いた時、かなり衝撃を受けたのではないかと想像できます。

 さて、アルバムですが、このようなサウンドが生まれた背景には、多くのアーティストのレコーディングを手掛けたエンジニアのダグ・デッカー(別名ダグ・デストリオ)の貪欲とも言える新たな音探しにあり、彼はその中でも電子楽器の可能性を見出していたそうです。彼はサーフグループを経て、ウォーリー・ハイダー・スタジオの下で多くのプロジェクトに取り組み、その中でエレクトロニクスのドゥーダッド(ワウワウやブックラ)の使用に重点を置いて蓄積したと言われています。それが当時斬新だったモジュラーシンセサイザーやフェンダーローズ、クラヴィネット、メロトロンといったキーボード奏者を4人を据えた非常にユニークなグループとなったわけです。そんなシンセサイザーを多用してソウルフルでファンキーなジャズロックという斬新なアプローチが、すでに1970年代初頭で行われていたというのが驚きです。逆を言えばこのようなサウンドを理解するには、当時のカルフォルニアの音楽シーンを考えると無理だったのだろうと思います。ジョン・フェイヒーが「まるで電子音のジャングルにいるようだ」と言わしめたのは伊達じゃなかったということです。

 ちなみにモーリーン・オコナーのヴォーカルは混沌としたサウンドの中でも、全く負けていないほどソウルフルです。もしかしたらファンク系プログレの最高峰ではないかと思われる本アルバムは、意外と病みつきになるかも知れませんよ。

それではまたっ!