【今日の1枚】Ruphus/Ranshart(ルーファス/ランシャート) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Ruphus/Ranshart
ルーファス/ランシャート
1974年リリース

北欧らしい洗練された音世界を構築した
ノルウェー産シンフォニックロック

 1970年代のノルウェーを代表するプログレッシヴロックグループ、ルーファスのセカンドアルバム。ファーストアルバムはハード色とジャズロック色を内包したヘヴィプログレを展開していたが、本アルバムはメロトロンをはじめとする多彩なキーボードやフルートを織り交ぜた幻想的なシンフォニックロックになっており、親しみあふれるキャッチーなメロディや卓越したコーラスワークが素晴らしい内容になっている。新たなヴォーカリストとなったルーン・オストダールの声質がイエスのジョン・アンダーソンに似ており、リッケンバッカーのベースやクランチなギターを加味したアンサンブルは、まさしく『サードアルバム』、『こわれもの』期のイエスの影響が感じられる北欧プログレの傑作である。

 ルーファスは1970年2月にノルウェーの首都オスロで、ベース兼フルート奏者のアスレ・ニルセンによって結成されたグループである。当初は地元のミュージシャンを集めて演奏していたがメンバーの出入りが激しく、1972年の夏頃にはアスレ・ニルセンとハンス・ペッター・ダニエルセン(ギター)だけが残ったという。そこにケル・ラーセン(ギター)とホーコン・グラフ(キーボード)、グドニー・アスパス(ヴォーカル)、ルーン・サンビー(ヴォーカル)、ソー・ベンディクセン(ドラムス)が加わり、ルーファスを構成する最初のラインナップとされている。彼らはハモンドオルガンとハードなギターを中心としたブリティッシュロックを意識した演奏だったが、タイトなリズムセクションを擁したジャズロック風の要素を持ち合わせていたという。オスロを中心にライヴ活動を行い、その甲斐もあって1973年に大手ポリドールとレコード契約することに成功している。彼らは同年夏にノルウェーのトロンデラーグにある小さな町ミラケルに赴き、アルバム用の作曲やリハーサルを行い、1ヵ月後の9月にスタイン・ロバート・ルドヴィクセンをプロデューサーに迎えてオスロにあるローゼンポリ・スタジオでレコーディングを行っている。1973年冬にリリースされたデビューアルバム『ニュー・ボーン・デイ』は、英国のキング・クリムゾンやジェスロ・タル、イエス、そしてデンマークのサヴェージ・ローズといった多様な音楽を内包した強烈なヘヴィ・プログレッシヴロックとなっており、2人の優秀なヴォーカリストを擁する独自の地位を確立したグループとして人気を集めたという。しかし、リリース直後にギタリストのハンス・ペッター・ダニエルセンがレコードプロデュース業&サウンドエンジニアに専念するために脱退。残った6人でシングル『フライング・ダッチマン・ファンタジー』を制作してリリースしている。その後、1974年春にルーン・サンビー、同年秋にはグドニー・アスパスが相次いで脱退してしまい、2人のヴォーカリストが抜ける事態になってしまう。彼らは新たなヴォーカリストを探し、最終的にルーン・オストダールが就任することになる。このルーン・オストダールの声質がイエスのジョン・アンダーソンに非常に似ており、グループの音楽の方向性が自然とイエス寄りになっていくことになる。アスレ・ニルセンはリッケンバッカーのベースに持ち替え、ホーコン・グラフのキーボードにはメロトロンが加わることになる。5人となった彼らは1974年10月にオスロのロジャー・アーンホフ・スタジオに入り、ルーファス自身がプロデュースを担当してレコーディングをしている。こうして1974年末にセカンドアルバム『ランシャート』がリリースされることになる。そのアルバムは前作よりも英国のプログレッシヴロックの影響を多分に受けたクラシカルなシンフォニックロックに重点を置いたスタイルをとり、オルガンやシンセサイザー、メロトロンといった多種多様なキーボードとギター&ベースのラインが紛れもなくイエスに近づけた興味深い作品となっている。

 ★曲目★ 
01.Love Is My Light(ラブ・イズ・マイ・ライト)
02.Easy Lovers(イージー・ラヴァーズ)
03.Fallen Wonders(フォールン・ワンダーズ)
04.Pictures Of A Day(ピクチャーズ・オブ・ア・デイ)
05.Back Side(バック・サイド)

 アルバムの1曲目の『ラブ・イズ・マイ・ライト』は、シャープなギターカッティングのリフからオルガンやメロトロンを加えたアンサンブルとなるシンフォニックロック。ヴォーカルラインではピアノやスティーヴ・ハウばりのギターフレーズがバックに鳴り響き、ハイトーンのコーラスが華やかである。シンプルかつ口当たりのいいリフやリッケンバッカーのベース、ファルセットのスキャットがハーモニーとして入ってくるところがいかにもイエスっぽく感じてしまう。2曲目の『イージー・ラヴァーズ』は、メロウなアコースティックギターのアルペジオにシンセサイザーが絡むオープニングから、荘厳なメロトロンをバックにしたヴォーカルが印象的なメロディアスな楽曲。途中からムーグシンセサイザーを加味したポップなサウンドとなり、抒情的なコーラスハーモニーがアメリカンロック的な雰囲気を作り出している。3曲目の『フォールン・ワンダーズ』は、変拍子のあるギターフレーズを中心とした複雑な前奏とバリエーション豊かなオルガンとのコンビネーションが親しみのある楽曲。オルガンとのユニゾンにリズムセクションも絡み、ヴォーカルやコーラスなど全体的にポジティヴなサウンドになっているのが好印象である。非常にイエス的だが卓越したコーラスワークも相まって、北欧ならではのリリシズムに溢れている。4曲目の『ピクチャー・オブ・ア・デイ』は、8分を越える大曲となっており、SEとシンセサイザーによるオーブニングからメロトロンやフルートを交えた美しいシンフォニックロックとなるインストゥメンタル曲。ゆったりとしたリズムに乗せてギターやシンセサイザー、フルートが豊かな響きで展開していく。途中でブレイクして一気にフルートとメロトロンによるリリカルな演奏となり、クラシカルでプログレッシヴな音像を創生している。後半になるにつれて厚みのあるキーボードとフルートによるアンサンブルとなり、宇宙的な電子音が散りばめられながらフェードアウトしている。5曲目の『バック・サイド』も8分に及ぶ楽曲となっており、オルガン、シンセサイザー、メロトロンなどのキーボードを中心としたシンフォニックロック。静かなメロトロンをバックにハイトーンヴォイスとコーラス、リッケンバッカーのベースがいかにもイエスっぽい。中盤のシンセサイザーのソロに絡むリズム隊やギターもなかなかテクニカルであり、彼らの演奏レベルの高さが伺える。最後は伸びやかなヴォーカルを経て、重厚なキーボードによるアンサンブルでフェードアウトしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、イエスの『サードアルバム』や『こわれもの』に影響を受けているのは間違いなく、スリリングなギターや疾走感のあるリッケンバッカーのベース、ヴォーカル、コーラスワーク、変拍子を多用したパートはまさしくイエスである。ただ、イエスよりもいかにも北欧といえるリリシズムに溢れた多彩なキーボードが幻想的で牧歌的な音世界を構築しており、ポジティヴな歌心と確かな演奏があってこその素晴らしい作品だと言える。

 アルバムは重厚とも言えるシンフォニックロックとなったが、イエスに寄り過ぎたサウンドがかえって評判を悪くしたという。彼らはすぐに今の音楽性を捨てて、ヴォーカルのルーン・オストダールを解任し、再度辞めたグドニー・アスパスを招聘。また、その頃、キーボード奏者のホーコン・グラフは、ノルウェーのジャズギタリスト兼作曲家であるジョン・エバーソンと共にジャズロックグループのムース・ルースで演奏したことがあり、そこから得たインスピレーションをグループに持ち帰っている。メンバー全員がグラフが持ち帰ったジャズ作品に傾倒することになり、彼らはジャズロックを根差した音楽を目指すようになる。1975年12月にジャズギタリストであるテリエ・リプダルがプロデューサーが担当したサードアルバム『レット・ユア・ライト・シャイン』がリリースされる。このアルバムはルーファスのキャリアにおいてターニングポイントとなった作品であり、ヨーロッパだけではなくドイツにもグループ名が広がった作品にもなっている。1976年には西ドイツでギグしたことを皮切りにドイツを中心にツアーを行い、いくつものコンサート会場は満員だったという。また、『レット・ユア・ライト・シャイン』はドイツのブレインレーベルからもリリースされ、多くのラジオでも流れたそうである。しかし、その成功の機運もキーボード奏者のホーコン・グラフとヴォーカリストのグドニー・アスパスという2人の重要なメンバーの脱退によって翳り始める。ホーコン・グラフはフリーのミュージシャンの道に進み、ヴァネッサやホーク・オン・フライトといった多くのノルウェーのジャズグループやロックグループを渡り歩くことになる。一方のグドニー・アスパスは子供を産んだことでツアーよりも母親として接していきたいとの願いで音楽活動から身を引いている。彼女は1980年代にダーリングスというグループのメンバーとして再活動し、1982年のメロディグランプリに出演。その後も歌手として活動を続け、2021年に歌手部門のガムレン賞を受賞している。2人の代わりにはヤン・シモンセ​​ン(キーボード)、シルヴィ・リレガード(ヴォーカル)が加入し、彼らは西ドイツを活動の拠点としながら1977年に4枚目のアルバム『インナー・ヴォイス』、1978年には5枚目のアルバム『フライング・カラーズ』をリリースしている。1978年にはドラムスのソー・ベンディクセン、キーボード奏者のヤン・シモンセ​​ン、ヴォーカルのシルヴィ・リレガードが脱退してしまい、後任にはウド・ダーメン(ドラムス)、ケル・ロニンゲン(キーボード)、一時的にグドニー・アスパスが再加入している。1979年に6枚目となるアルバム『マン・メイド』をリリースするが、レコーディングの時点でウド・ダーメンは脱退しており、ビョルン・イェンセンに代わっていたという。6枚目のアルバムはスティーヴ・オドネルとコリン・ジェニングスをプロデューサーとして英国でレコーディングされ、その後に行われた大規模なヨーロッパツアーも成功したものの、相次ぐメンバーチェンジでグループは疲弊。1981年の春にドイツで行われたツアーを最後に解散することになる。解散後、ギタリストのケル・ラーセンは、ラーセンという自身のグループを結成し、ジョン・エバーソンのアンサンブル集団であるワーク・ファニーハウアーズに参加。その後はセッションギタリストとして活躍している。ベース兼フルート奏者のアスレ・ニルセンは、オーディオレンタル会社クルージング(CAC)を設立。その後、1980年から1984年にかけてマリウス・ミュラーやコルネリス・フリースウェイク、ニュー・ジョーダル・スウィンガーズらと共演し、スタジオエンジニアやレコードプロデューサーとして活躍していくことになる。1996年にはダブルコンピレーションアルバムがリリースされた際、ルーファスは何度も再結成を試みたが実現に至っていない。それはドラマーのソー・ベンディクセンが耳鳴りをはじめとする難聴に苦しんでいたためである。しかし、2000年代以降はノルウェーやドイツの重要な音楽イベントに、ビョルン・イェンセンを加えたメンバーで演奏しているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイエス寄りのシンフォニックロックとなった、ノルウェーのプログレッシヴロックグループ、ルーファスのセカンドアルバム『ランシャート』を紹介しました。ルーファスはポリドールという大手レコード会社からリリースされたこともあって、早くから日本でもノルウェーの代表するプログレグループとして知っている方も多いと思います。どちらかというとジャズフュージョン寄りだったサードアルバムの『レット・ユア・ライト・シャイン』や4枚目の『インナー・ヴォイス』のほうが有名であり、シンフォニックアルバムとなった本アルバムは彼らのキャリアにおいて極めて異質の作品です。異質となってしまった原因はヴォーカルのルーン・オストダールの加入ですが、イエスのジョン・アンダーソンに似ていた彼の声質を活かすために、一気にサウンドをイエスに寄せてしまったことに尽きます。アルバム自体はオルガンやシンセサイザー、メロトロンといった多種多様なキーボードとギター&ベースのコンビネーションが紛れもなく初期のイエスを感じさせます。それでもハーモニーやコーラスを加味させたメロディアスなサウンドは、シンフォニックロックとしても一級品で、哀愁のあるクラシカルなアンサンブルは北欧ならではの妙になっています。本国ノルウェーでは「まるっきりイエスじゃね~か」と酷評もあって評判を落としたため、サードアルバムからは本来彼らが演奏してきたジャズフュージョン路線に戻り大成功を収めることになります。安易な路線変更は失敗するというお手本みたいな感じですが、本アルバムは意外なことに西ドイツやプログレファンに高く評価されていたそうです。

 さて、本アルバムですが、ジャケットデザインまでイエスに寄せるくらい、イエスのスタイルを追求したサウンドになっています。とにかく1曲目の冒頭からスリリングなギターカッティングやリフが、スティーヴ・ハウが加入したイエスの『サードアルバム』っぽく、ゴリゴリとしたリッケンバッカーの疾走感あふれるベースやコーラスワークが、さらにイエスらしさを押し上げています。また、しっかりと変拍子を多用したアグレッシヴに畳み掛けるパートもあり、それなりに演奏テクニックが無いと出来ない芸当もあります。4曲目ではシンセサイザーやメロトロン、そしてフルートを交えた充実のシンフォニックロックとなっており、北欧らしい哀愁のメロディが加味された優れた楽曲となっています。イエスに寄せたサウンドと言ってしまえばそれまでですが、テクニカルなシンフォニックロックとして捉えれば非常にアルバムの価値は高いと思います。他にもイエスに影響されたグループはたくさんありますが、本アルバムはイエスのスリリングな演奏をもっとまろやかに提示した作品と言ったほうが分かりやすいかも知れません。

 本アルバムは後にジャズロックやフュージョングループとして活躍するルーファスが、新たなヴォーカルを基点にイエス寄りにしたという彼らのキャリアの中でも異質の作品です。確かな演奏と歌心があったからこそ生み出されたサウンドをぜひ、聴いてほしいです。

それではまたっ!