【今日の1枚】Kyrie Eleison/Fountain Beyond The Sunrise | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Kyrie Eleison/The Fountain Beyond The Sunrise
キリエ・エレイソン/ザ・ファウンテン・ビヨンド・ザ・サンライズ
1976年リリース

寓話的な幻想性とメランコリックさが漂う
幻とされたシンフォニックロックの傑作

 「オーストリアのジェネシス」とも称されるプログレッシヴロックグループ、キリエ・エレイソンのセカンドアルバム。そのサウンドはオルガンやメロトロン、シンセセイザーが渦巻くキーボードを中心に、繊細なトーンのギター、多彩な表情を魅せるリズムセクション、そして何よりも英語で歌うシアトリカルなヴォーカルのスタイルから、『ナーサリー・クライム』や『フォックストロット』辺りのジェネシスに強い影響を受けたシンフォニックロックとなっている。グループ解散後は元メンバーによるインディゴというプログレッシヴロックグループを1984年に結成し、2000年代まで活躍することになる。

 キリエ・エレイソン(またはカイリー・エレイソン)は、ジェラルド・クランプル(キーボード)を中心に、学生時代の友人であるカール・ノボトニー(ドラムス)とフェリックス・ラウシュ(ギター)によって、1974年にオーストリアのウィーンで結成されたグループである。グループ名はギリシア語でミサ典礼における聖歌のひとつとされる「主よ憐れみたまえ」を意味を持つKyrie Eleisonから採っている。ジェラルドはピーター・ガブリエル在籍時のジェネシスやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターといった英国のプログレッシヴロックに強く影響を受けた音楽を目指しており、いち早くメロトロンやハモンドオルガンといった鍵盤楽器をマスターしている。後にノーベルト・モーリン(ベース)とミヒャエル・シューベルト(ヴォーカル)をメンバーに加えて、首都ウィーンを中心にジェネシスを中心とした楽曲のコピーやオリジナル曲を演奏していたという。当時のオーストリアは英国をはじめとする多くのプログレッシヴロックグループが訪れており、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターやコロシアム、さらにはアモン・デュール、イーラ・クレイヴが出演したロックフェスティバルに、キリエ・エレイソンも参加している。彼らは「シンフォニック・ロック・シアター」というコンセプトを持つライヴツアーを積極的に行ったことでグループの知名度は急上昇し、イーラ・クレイヴと共に国内最高のプログレッシヴロックグループとして人気を博すことになる。彼らはアルバムを制作する際にデモテープを多くのレコード会社に送りつけたが、色よい返事がもらえなかったために自主制作でのリリースを決めている。彼らにとっては大手ヴァージンレコード傘下のヴァーティゴと契約をした同国のイーラ・クレイヴをイメージしたのだろう。そして1975年にこれまでのマテリアルの曲を集めたアルバムのレコーディングを行い、『ブラインド・ウィンドウ・スイート』というタイトルでセルフリリースしている。彼らにとってはデビューアルバムだったが、セルフリリースだったため、あまり浸透はしなかったという。この時にギタリストのフェリックス・ラウシュが脱退し、代わりにマンフレッド・ドラペラが加入している。彼らはライヴパフォーマンスに力を入れ、照明効果のエンジニアにヘルムート・リッツやフリードリッヒ・コイの2人を加えてツアーを行っている。彼らのシアトリカルなステージは多くの人に注目されたという。そんな彼らに声をかけたのが、オーストリアの歌手兼キーボード奏者であり作曲家でもあるピーター・シュライヒャーである。ピーターは国内初のレーベルであるマーリンレコードに彼らを紹介し、自身がエンジニアを申し出たという。こうして正式にセカンドアルバムのレコーディングが行われ、1976年に本アルバム『ザ・ファウンテン・ビヨンド・ザ・サンライズ』がリリースされることになる。そのアルバムはメロトロンをはじめとするキーボードを中心としたパフォーマンスの高い演奏をベースに、ジェラルドが敬愛していたジェネシスを彷彿とさせる幻想的なシンフォニックロックとなっている。

★曲目★ 
01.Out Of Dimension(アウト・オブ・ディメンション)
02.The Fountain Beyond The Sunrise(ザ・ファウンテン・ビヨンド・ザ・サンライズ)
 a.Reign(レイン)
 b.Voices(ヴォイシズ)
 c.The Last Reign(ザ・ラスト・レイン)
 d.Autumn Song(オータム・ソング)
03.Forgotten Words(フォゴトン・ワーズ)
04.Lenny(レニー)
★ボーナストラック★
05.Mounting The Eternal Spiral(マウンティング・ザ・エターナル・スパイラル)

 改めてメンバーを紹介しておこう。ジェラルド・クランプル(オルガン、ピアノ、シンセサイザー、メロトロン、バッキングヴォーカル)、マンフレッド・ドラペラ(エレキギター、アコースティックギター、12弦ギター、バッキングヴォーカル)、ノーベルト・モーリン(ベース、アコースティックギター)、カール・ノボトニー(ドラム、パーカッション、バッキングヴォーカル)、ミヒャエル・シューベルト(ヴォーカル、パーカッション)である。作曲はジェラルド・クランプル、作詞はカール・ノボトニーが作成しており、4章からなる1つの組曲を擁した4曲の構成となっている。1曲目の『アウト・オブ・ディメンション』は、壮大ともいえるシンフォニックなイントロから始まり、次第に流麗なピアノをバックにしたヴォーカル曲となる。ヴォーカルは表現力豊かなギターの音色とメロトロンの響きと共にシアトリカルさが増していく。緩急の効いたリズムセクションと多彩なキーボードワークによる非常にトリッキーな内容になっており、やや忙しい雰囲気がかえってジェネシスっぽく感じられる。2曲目の『ザ・ファウンテン・ビヨンド・ザ・サンライズ』は4章からなる組曲形式になっており、12弦ギターとヴィオラのような弦楽器によるクラシカルな雰囲気からオルガンやシンセサイザーを交えた牧歌的なアンサンブルとなり、ピーター・ガブリエルのようなエキセントリックなヴォーカルが印象的な楽曲。ここでも重厚なキーボードによる幻想的な世界観と変拍子のあるリズムセクションが素晴らしく、複雑な展開をものともしないテクニカルな演奏が堪能できる。14分を越える組曲ながら、最後まで一気に聴ける構成力とアレンジ力が冴えた1曲となっている。3曲目の『フォゴトン・ワーズ』は、9分に及ぶピアノ主導のヴォーカル曲。リリカルなピアノに繊細なリズムセクションと抒情的なギター、バックヴォーカルが加わり、少し怪し気な世界を作り上げるが、後半にはオルガンとギター、リズムセクションによるエキサイティングなアンサンブルがある。この曲のヴォーカルスタイルはピーター・ハミルのようである。4曲目の『レニー』は、17分に及ぶ大曲。シンフォニックなオルガンのイントロからリズムセクションが加わり、ヘヴィなギターリフをバックに疾走する楽曲。ハードなオルガンロックといった流れで進み、3分半辺りから曲調が変わり、メロトロンとコーラスをバックにした牧歌的で雄大なシンフォニックロックとなる。その後は再度ギターリフを交えた激しい展開によるアンサンブルとなり、シアトリカルなヴォーカルと共に突き進んでいく。後半はジェラルドによる素晴らしいキーボードソロがあり、彼のオルガンやハープシコード、メロトロン、シンセサイザーの巧みなプレイが堪能できる。ボーナストラックの『マウンティング・ザ・エターナル・スパイラル』は、1975年に収録したと思われる11分に及ぶ未発表のデモ曲。美しいハープシコードの音色と繊細なドラミングによるしっとりとしたイントロから、メロトロンをバックにしたシンフォニック調の楽曲に変化する。めぐるめく展開のある流れの中で演劇風のヴォーカルはもちろん、ギターを大きくフィーチャーした内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、明らかに初期のピーター・ガブリエル時代のジェネシスに影響されたスタイルとサウンドとなっており、また、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターの要素も加味されている。オルガンやメロトロンをはじめとするキーボード主導の複雑な展開とやや前のめりなリズムセクションが魅力的であり、その丹念に練り上げられた気品のある旋律に驚いてしまう。

 アルバムリリース後も彼らはライヴを中心に続けていたが、国内の音楽シーンはすでにニューウェイヴやディスコの台頭でプログレッシヴロックはあまり見向きもされなくなってしまったという。メンバーチェンジを繰り返してグループの維持に努めたが、1979年に解散を余儀なくされる。その後のメンバーはセッションミュージシャンとして活動を行うが、1984年にジェラルド・クランプルとノーベルト・モーリンを中心としたネオ・プログレッシヴロックグループ、インディゴを結成する。結成に合わせて自身のレーベルであるインディゴ・ミュージックを設立し、1984年から2011年まで5枚のアルバムをリリースしている。ジェラルドはその一方、AGNUS DEIプロジェクトでもニューエイジとヒーリングミュージックの分野を探求する活動をしていたが、2006年以降は自身のルーツに戻り、グループの活動をしつつソロアーティストとして独自のネオクラシック室内音楽やピアノ曲を創作する活躍をしている。本アルバムは廃盤後、ジェネシスフォロワーから高い支持を得ていたにも関わらず、長らく入手困難が続き、幻の作品とされてきたという。しかし、2002年にプログレッシヴ音楽に特化したイスラエルのMIOレコードから『コンプリート・レコーディングス 1974-1978』というタイトルで、自主制作盤だったデビューアルバムと本セカンドアルバム、さらに1975年のライヴを収録した3枚組のCDがリリースしている。また、2021年に本アルバムリリース45周年を記念して、メンバー自身によるリマスター化が実現。初期の未発表デモ音源1曲を追加しており、メロトロンの響きもさらに際立っているなど大幅に音質が向上しているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はオーストリアのジェネシスと称されるキリエ・エレイソンのセカンドアルバム『ザ・ファウンテン・ビヨンド・ザ・サンライズ』を紹介しました。このアルバムは2021年にリリースした45周年記念盤を手に入れたのですが、はっきり言ってジャケ買いです。ジャケットをよくよく見ると仮面とマントをつけた男がたたずんでおり、周囲に幻想的なオブジェがあります。向こうにはチェス盤のような地表と建物が見えており、この奥行き感と創造力を掻き立てる雰囲気はジェネシスの『ナーサリークライム』のジャケットをイメージしてしまいます。ちなみにこのジャケットを描いたのはオーストリアのアコーディオン奏者で歌手、画家でもあるカール・ホディナというミュージシャンです。自主制作盤のデビューアルバムはクラウト系のプログレとシンフォニックロックの融合といった内容で、ハードロック調のギターがフィーチャーされたインスト中心の楽曲だったそうです。本アルバムからはカール・ノボトニーが作詞として入り、エキセントリックなヴォーカルを強調したキーボード主導のシンフォニックロックに移行したようで、実際に音楽を聴いてみると、なるほど~と思うくらい初期のジェネシスに酷似した非常にユニークなサウンドになっています。どうせなら思い切ってジェラルド・クランプルが敬愛するジェネシススタイルに寄せちゃおう!と考えたのかも知れません。

 さて、本アルバムは10分以上の曲が3曲もある大曲志向の強い内容になっていて、メロトロンやハープシコード、ピアノ、オルガン、シンセサイザーといった多種多様のキーボードを駆使したジェラルドのアレンジが冴えた内容になっています。『ナーサリー・クライム』や『フォックストロット』あたりの洗練された華やかなジェネシスのアルバムのイメージに似ており、1曲の中に複数のキーボードを巧みに使い分けているのが好印象です。そこに表現力豊かなギターワークや畳みかけるようなリズムセクションがしっかり着いてきていて、アンサンブルとしてのレベルは非常に高いです。ピーター・ガブリエルとピーター・ハミルを2で割ったようなヴォーカルも顕著ですが、どちらかというと複雑な展開が多い中で前のめりなリズムセクションが、かえってジェネシスっぽく感じられます。とはいっても、プログレッシヴロックならではの構成やアレンジ、演奏力の高さは素晴らしく、アルバム全体としての価値は相当高いです。数多くいるジェネシスタイプのプログレグループの中でも最高レベルと言っても過言ではないです。

 ジェネシスタイプのロックグループが数多くありますが、ここまでスタイルとサウンドを寄せたグループは少ないと思います。多彩なキーボードによる優雅で華やかなシアトリカル系のシンフォニックは、ジェネシス好きにはたまらない作品です。

それではまたっ!