【今日の1枚】Aqsak Maboul/Un Peu De L'Âme Des Bandits | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Aqsak Maboul/Un Peu De L'Âme Des Bandits
アクサク・マブール/ならず者のように
1980年リリース

フリーキーなエナジーが発散された
ベルギー産アヴァン&チェンバーロック

 クラムド・ディスクの総帥であり後期COSのメンバーでもあった、マーク・オランデル率いるベルギーのチェンバーロックグループ、アクサク・マブールのセカンドアルバム。前作ではマーク・オランデルとヴィンセント・ケニスの2人体制だったが、本アルバムからはヘンリー・カウの元メンバーであったクリス・カトラーやフレッド・フリス、元ユニヴェル・ゼロのミシェル・ベルクマンなどが参加した初のグループ体制で臨んでいる。室内楽をはじめ、タンゴやアラビックな民族音楽、パンク、現代音楽などをストレンジで括ったサウンドを展開しており、バリエーション豊かな楽器による濃密で攻撃的な演奏が絶妙のセンスで散りばめられた彼らの最高傑作となっている。

 アクサク・マブールは1977年にマーク・オランデル(キーボード、パーカッション、ドラムマシーン)とヴィンセント・ケニス(ギター、ベース、キーボード、パーカッション)が、ベルギーのブリュッセルで結成されたグループである。マーク・オランデルが表舞台に登場するのは、ダニエル・シェル率いるベルギーのグループであるCOSの1976年のセカンドアルバム『Viva Boma』からだろう。COSはカンタベリー系ジャズロックからの影響からなる実験的なジャズロックを披露した前衛的な音楽グループとして知られており、このアルバムではグループと共同でDJや後のテレックスでも知られるマルク・ムーランをプロデューサーとして迎え、オランデル自身もキーボードやサックスの演奏だけではなく作曲としても参加している。また、そのアルバムにはもう1人、後にクラムド・ディスクの運営をはじめ、オランデルの重要なパートナーとなるヴィンセント・ケニスが加入している。マルチミュージシャンであるオランデルとケニスは、より実験的でワールドワイドな音楽を追求するため、翌年の1977年にアクサク・マブールを結成することになる。彼らはCOS在籍中に作曲を行い、マルク・ムーランと共同プロデュースでレコーディングを開始。ゲストにカトリーヌ・ジョニオーなどを迎えて、ムーランのKamikazeレーベルからデビューアルバム『偏頭痛のための11のダンス療法』を同年にリリースする。そのアルバムはエリック・サティやZNRに通じるアコースティック楽器とエレクトロニクスが融合した摩訶不思議な空間を創生した初期チェンバーロックの傑作となっている。その後、2人は演奏メンバーを加えてライヴ活動を行った際、ヘンリー・カウ脱退後にオランダに渡って活動をしていたジェフ・リーや元ユニヴェル・ゼロのミシェル・ベルクマン、エトロン・フー・ルルーブランのギグー・シュヌヴィエ、そしてレコメンデッド・レコーズでアクサク・マブールを配給した元ヘンリー・カウのクリス・カトラーやフレッド・フリスなど、豪華で多彩なミュージシャンをゲストに招いてライヴを続けたという。こうした流れから上記のメンバーを加えたグループ形式でアルバム制作に向かうことになる。

 オランデルはセカンドアルバム制作中にクリス・カトラーとフレッド・フリスを率いて、アート・ベアーズのツアーにピーター・ブレグヴァドと共に参加。さらにロック・イン・オポジッションつながりのグループを招いて作られたフレッド・フリスのソロアルバム『グラビティ』に、アクサク・マブールとして参加している。また、Kamikazeレーベルメイトだったイヴォン・ヴローマン率いるハネムーン・キラーズにオランデルとケニスが参加し、さらにCOSの1979年のアルバム『Babel』にもオランデルが参加しているなど、多岐に渡って様々なグループに協力している。そんな中、セカンドアルバムは1979年2月から8月にかけてスイスのキルヒベルクにあるサンライズスタジオでレコーディングをしている。レコーディングメンバーにはオランデルとケニス以外に、クリス・カトラー(ドラムス)、フレッド・フリス(ギター、ヴァイオリン、ヴィオラ、ベース)、ミシェル・ベルクマン(バスーン、オーボエ、バックヴォーカル)、フランク・ワイツ(ピアノ、ドラムス、フリッパー、リコーダー)、カトリーヌ・ジョニオー(ヴォーカル、フリッパー)、デニス・ヴァン・ヘッケ(チェロ)といった豪華なメンバーによって制作され、1980年にセカンドアルバム『ならず者のように』が発表される。そのアルバムは1980年1月にマーク・オランデルが創設したクラムド・ディスクからリリースされたもので、複雑なセクションと即興のアンビエントで構成された前作を上回る実験的な作品となっており、タンゴやトルコ音楽、パンクなどを融合したアヴァン&チェンバーロックの最高傑作となっている。

★曲目★ 
01.Modern Lesson(モダン・レッスン)
02.Palmiers En Pots(鉢植えの椰子)
03.Geistige Nacht(霊的な夜)
04.I Viaggi Formano La Gioventù~Truc Turc~(かわいい子には旅をさせよ~トルク・ターク~)
05.Inoculating Rabies~Pogo~(狂犬病予防接種~ポゴ~)
06.Cinema~Knokke~(シネマ組曲~クノッケ~)
 a.Ce Qu' On Peut Voir Avec Un Bon Microscope(良い顕微鏡で見ることができるもの)
 b.Alluvions(沖積層)
 c.Azinou Crapules(アジノゥ・クラピュール)
 d.Age Route Brra! ~Radio Sofia~(アジュ・ルート・ブラ~ラジオ・ソフィア~)
★ボーナストラック★
07.Bosses De Crosses(銃把の気配~あるいは隠し持ったリボルバー~)

 アルバムの1曲目の『モダン・レッスン』は、クリスのギター&ベースにヴァイオリンやヴィオラといった室内楽をベースにしたどこか調子のずれたノリの良いビート音楽。そこにカトリーヌ・ジョニオーのエキセントリックなヴォーカルが炸裂するという、キッチュな親しみやすさとシリアスさが同居したコラージュ系フレーズの逸品となっている。2曲目の『鉢植えの椰子』は、ワイツのピアノやヴァン・ヘッケのチェロ、そしてフランスのアコーディオン奏者のアンドレ・ヴェルシュランを中心とした懐古主義的な室内楽。前半のスローな演奏はヴェルシュランが作曲をしており、後半のタンゴはオランデルが作成している。3曲目の『霊的な夜』は、フレッド・フリスが提供したロンド形式の楽曲。オランデルはサックス、フリスがベース、カトラーがドラムスという緊迫感溢れるジャジーな展開となっており、ヘンリー・カウを彷彿とさせるテクニカルな要素が満載である。4曲目の『かわいい子には旅をさせよ~トルク・ターク~』は、トルコのトラディショナル由来の曲であり、ヴァン・ヘッケのエレクトリック&アコースティックチェロとのユニゾンとヴォイスによるアラビックな雰囲気が漂う楽曲。中間部にはブルガリアンコーラスを挿入しており、後半にはフリスのギターが絡んだ摩訶不思議な世界を構築している。5曲目の『狂犬病予防接種~ポゴ~』は、激しいパンクロック上で木管が鳴り響くという奇妙な楽曲。ポゴとはジャンプするダンスを意味しており、まさにフリーキーなエナジーが発散された内容になっている。6曲目の『シネマ組曲~クノッケ~』は4つの楽曲からなる組曲。オランデルとワイツ、そしてケニスによる大曲にになっており、クノッケはベルギーの海岸沿いになるリゾート地の名前。最初の『良い顕微鏡で見ることができるもの』は、オーボエやピアノ、チェロによる室内楽から始まり、歪んだヴァイオリンの音をはじめ、電子音や打楽器を交えたインプロゼーションが続き、後期アヴァンロックに通じる楽曲になっている。『沖積層』も木管楽器を中心としたチェンバーロックとなっており、途中からパーカッションが加わりヘヴィなギターでかき回すものの、耳触りの良いバリエーションのある楽器が心地よい。『アジノゥ・クラピュール』は、ピアノとオルガンの響きにうめきに近いヴォーカルや軋み音、歪んだヴァイオリンの音色といった不穏な雰囲気が漂う楽曲。その中でもカトラーの繊細で的確なドラミングが、場の空気をしっかり整えているのが印象的である。『アジュ・ルート・ブラ~ラジオ・ソフィア~』は、男女の掛け声と様々な楽器が飛び交うコラージュとなっており、後半は室内楽で整えるものの次第に崩れていく様がユーモラスである。ボーナストラックの『銃把の気配~あるいは隠し持ったリボルバー~』は、アクサク・マブールとハネムーン・キラーズの連名で収録したポストパンク的なサウンドとアヴァン志向が融合した楽曲となっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、最初の5曲は異なる表現形式を持った舞曲となっており、6曲目の組曲は構築パートと即興パートが組み合わされた見事なアヴァン&チェンバーロックとなっている。変拍子を伴う凝った構成の楽曲をフリスとカトラーのリズム隊によって後期ヘンリー・カウとの共通点もある緊迫感のあるサウンドに昇華させている一方、ロマンティックなチェンバー系パートがあるなど、シリアスな中でもしっかりとユーモアが感じ取れる作品になっている。

 本アルバムはアクサク・マブールのラインナップに加えて、元ヘンリー・カウのメンバーやユニヴェル・ゼロのメンバーが参加した作品として高く注目されたという。オールミュージックでは本作を『ロック・イン・オポジッション・ムーヴメントの頂点』と評して、優れた作品として紹介している。その後、2人はイヴォン・ヴローマン率いるハネムーン・キラーズの活動を継続しながら、オランデルとハネムーン・キラーズのヴォーカルであるヴェロニク・ヴィンセントが中心となって曲作りを行い、アクサク・マブールと並行してライヴを中心に活動。次のアルバムに向けてレコーディングを開始したが、音楽的な方向性を巡ってグループのメンバー同士で意見の衝突が起こり、アルバム制作は棚上げとなる。1984年には初来日を果たし、ライヴでそのレコーディングされた一部の楽曲は披露されたものの、1985年にアクサク・マブールは解散することになる。その1981年から1983年にかけて録音しつつも未完成となっていた楽曲は、ヴェロニク・ヴィンセント&アクサク・マブール・ウィズ・ハネムーン・キラーズ名義で『EX-FUTUR ALBUM』として2014年にリリースされることになる。1980年以降のオランデルとケニスは、立ち上げたクラムド・ディスクの運営に力を注ぎ、2000年までに約400枚のアルバムと300枚のシングルをリリースし、世界中のアーティストと協力していくことになる。マーク・オランデルとクラムド・ディスクは2004年に国際音楽見本市ワールドミュージックエキスポで、「世界の音楽分野で独創的なプレイヤーの1人」としてWOMEX賞を受賞している。2015年からヴェロニク・ヴィンセント&アクサク・マブールとしてライヴを中心に活動を再開。ライヴツアーを進める一方で、オランデルとケニスはオムニバスにヨージ・ヤマモトのファッションショーのためにアクサク・マブール名義で室内楽を制作したり、2016年にはタキシード・ムーンのカヴァー曲をアクサク・マブール名義で発表するなど、現在でも幅広い分野で活躍している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアヴァン&チェンバーロックの傑作を産み出したベルギーのプログレッシヴロックグループ、アクサク・マブールのセカンドアルバム『ならず者のように』を紹介しました。アクサク・マブールといえばマルチミュージシャンであるマーク・オランデルとヴィンセント・ケニスの2人が様々なグループに参加していたり、作曲面で貢献していたり、独立レコードレーベルであるクラムド・ディスクを運営していたりと多くの顔を持っています。そんな2人がCOSを通じてより実験的な音楽を目指したのがアクサク・マブール名義の2枚のアルバムということになります。デビューアルバムの『偏頭痛のための11のダンス療法』は、女性ヴォーカリストであるカトリーヌ・ジョニオーを迎えて、アコースティック楽器とエレクトロニクスによる不思議な世界観を創生した実験的なサウンドとなっており、古典的なチェンバーロックの傑作とされています。そしてセカンドアルバムである本作品は、ライヴ活動を経て知り合った多くのミュージシャンが参加したアルバムとなっていて、その中には前衛ロック連帯運動(ロック・イン・オポジッション)勢が大活躍しています。前作でも発揮されたアヴァン・ポップ&ニューウェーヴ色を残しつつ、本作ではヘンリー・カウやアート・ベアーズに連なる前衛的なレコメンデッド系のサウンド志向にシフトしていて、悪趣味で俗悪でありながら親しみやすさがある一方、シリアスで複雑なセクションと即興のアンビエントで構成された楽曲になっています。室内楽をはじめ、タンゴやアラビックな民族音楽、パンク、現代音楽を融合し、フリーキーなエナジーが充満しており、聴けば聴くほど狂気…もとい、ユニークさを通り越して痛快です。私は好きなドラマーの1人である元ヘンリー・カウのクリス・カトラーや後にワークやデ・ゼールのヴォーカルとして活躍するカトリーヌ・ジョニオーが参加しているというだけで大満足です。

 さて、2019年にリマスターされたベル・アンティーク盤には、ボーナストラックに『Bosses De Crosses(銃把の気配~あるいは隠し持ったリボルバー~)』以外に4曲が収録されています。1つ目の『Vapona Au Tour de France~Demo~(フランスを旅するヴァポナ~デモ~)であり、オランデルとケニスによるファーストアルバムの収録曲『接着剤ではなくヴァポナ』のデモ盤です。タイトルにあるヴァポナは、殺虫剤のブランド名だそうです。2つ目の『Three Epileptic Folk Dances(3つの癇癪的フォーク・ダンス)』は、1978年のライヴ録音されたファーストアルバムの曲であり、さらにアヴァンロック化したエキセントリックな内容になっています。3つ目の『Mastoul Alakefak~Milano Improv~(キメて最高!~ミラノ・インプロヴィゼーション~)』は、ミラノで行われたRIO(ロック・イン・オポジッション)フェスティヴァルでの演奏です。そこにはオランデルやワイツ、フリス、カトラー、ベルクマンスによる迫力の即興が堪能できます。4つ目の『Before J(ビフォア J)』は、1980年のハネムーン・キラーズと共同でライヴを行ったオランデル作の曲で、シンセベースの反復に対してフリーキーな応酬が重なったユニークな楽曲になっています。この追加されたボーナストラックの楽曲もかなりユニークなものになっているので、ベル・アンティーク盤のリマスター盤の方が良いかもしれません。

 本アルバムは単なるプログレッシヴなものではなく、様々なジャンルのサウンドがプラスされたことによる遊び心もあって音楽的にも素晴らしい作品です。ジャケットがあまりにも低俗なため、少し引き気味ですが、濃密で攻撃的な演奏を絶妙なセンスでカヴァーしたアヴァンポップ&チェンバーロックの最高傑作をその耳でじっくり堪能してくださいな。そのユニークなアヴァンポップサウンドで構成された楽曲は、間違いなく今後も語り継がれていくと思います。

それではまたっ!