【今日の1枚】Aquarelle/Sous Un Arbre(アクアレル/木陰にて) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Aquarelle/Sous Un Arbre
アクアレル/木陰にて
1978年リリース

甘美なヴァイオリンとキーボードで彩る
煌びやかなシンフォニックジャズ

 2010年にベル・アンティークから世界初CD化を果たしたカナダのシンフォニックジャズグループ、アクアレルのデビューアルバム。アクアレル=水彩画の名の通り、クラシカルなヴァイオリンをメインに、ギターやサックス、フルート、キーボードによる、まさに木漏れ日の光のような透明感あふれるシンフォニックジャズとなっている。後のフュージョンやニューエイジにも通じるそのメロディアスで端正な演奏はカナダ国内やフランスで好評を得たが、再発することなく30年近く眠り続けた隠れた名盤でもある。

 アクアレルはカナダのケベック州モントリオールで、中心メンバーであるピエール・レスコー(キーボード)によって、1976年に結成された音楽プロジェクトである。レスコーは幼少のころからピアノを習い始め、後に音楽学校を経て約13年ものあいだクラシックピアノと作曲法を学んでおり、いずれは自身が作成した楽曲を世に出したい願っていたという。レスコーが20歳となった1976年頃には、ケベック州でジャズロックがブームとなっている。この背景にはエトセ・トラやハルモニウム、ポーレンといった多くのプログレッシヴロックが盛んだったことと、ケベック州出身の偉大なジャズピアニストであるオスカー・ピーターソンが世界的に有名になっていたことが大きく影響している。そのため腕利きのミュージシャンが台頭し、テクニカルでメロディアスな演奏を標榜とするグループが次から次へと結成されていた時期でもあったという。そんなジャズロックを後押ししていたのが、ワーナー・ブラザーズのアトランティック・レコードである。アトランティック・レコードのプロデューサーは、急速に進化する音楽業界で若い才能あるミュージシャンを発掘しており、レスコーのグループもその1つとされている。当初のメンバーはレスコーの他に、ピエール・ブルナギ(ヴァイオリン)とジャン=フィリップ・ジェリナス(サックス、フルート)、ステファン・モレンシー(ギター)、ミシェル・デ・リル(ベース)、アンドレ・ルクレルク(ドラムス)、そして女性ヴォーカリストであるアンヌ=マリー・クルトマンシュである。彼らはレスコーを中心にジャズロックを標榜したケベック州出身のミュージシャンの集まりであり、プロジェクト名をアクアレルとしている。1977年にリハーサルを経て、プロデューサーにチャック・グレイ、エンジニアにガブリエル・ブーシェを迎えてレコーディングを行っている。関係者に配られたテストプレスが好評だったため、1978年に収録されている曲『Sous Un Arbre(木陰にて)』をタイトルにしたデビューアルバムが正式にリリースされることになる。そのアルバムはヴァイオリンとピアノを中心としたキーボードをメインとしたスリリング&甘美な演奏となっており、後のフュージョンやニューエイジにも通じる端正な世界を描いたクオリティの高いシンフォニックジャズとなっている。

★曲目★
01.La Magie Des Sons(音の魔法)
02.Francoise(フランソワーズ)
03.Bridge(橋)
04.Sous Un Arbre(木陰にて)
05.Aquarelle(アクアレル)
 a.Partie 1(パート1)
 b.Partie 2(パート2)
 c.Partie 3(パート3)
06.Volupté(悦楽)
07.Espéranto(エスペラント)
※曲順は2010年リイシューのベル・アンティークより。

 1曲目の『音の魔法』は、美しいブルナギのヴァイオリンの調べから、ヘヴィなギターが加わって曲調が一気にグルーヴィーなアンサンブルとなる楽曲。ヴァイオリンがメインを刻んでいるが、レスコーのピアノが非常にクラシカルであり、軽快さのあるフュージョンとは違った内容になっている。中盤のヴァイオリンとピアノソロから後半に向けてロック色の強い曲調に変わっていく様が痛快である。2曲目の『フランソワーズ』は、軽快なフルートをメインに配し、シンセサイザーを加味したフュージョンナンバー。後半はラテン的なノリのあるパーカッションとリズムとなり、サックスやピアノがリードを取っている。3曲目の『橋』は、ローズピアノの響きとエレクトリックギターのカッティング、そしてサックスによるメロウなジャズロック。途中からアンヌ=マリー・クルトマンシュの美しいスキャットが加わり、ファンキーな中で美しいメロディを奏でるローズピアノとスタイリッシュなサックスによるアンサンブルに昇華している。4曲目の『木陰にて』はクラシックピアノから始まり、そしてバロック調となったヴァイオリンと柔らかなフルートの音色に誘われるようにアンヌ=マリーの天上の声がこだまする楽曲。途中からヘヴィなギターが登場するが、後にレスコーがニューエイジの音楽に向かう一端が垣間見える内容になっている。5曲目の『アクアレル』は3つの構成からなる楽曲になっており、パート1はクラシカルなピアノとヴァイオリンの共演から始まる。軽やかなリズムセクションとアンヌ=マリーのヴォーカルを経て、パート2ではステファン・グラッペリを思わせるヴァイオリンとサックスによるジャズスタイルとなる。パート3ではヴァイオリンとピアノを中心としたテクニカルなジャズロックに移行する。クラシックからモダンなジャズ、そして技巧的なジャズロックへとプレイへと変化する流れが、この曲の聴きどころだろう。6曲目の『悦楽』は、ギターとフルート、そしてヴァイオリンのやりとりが美しいアコースティック楽器を中心としたナンバー。途中からピアノも加わり、いかにもカナダのグループらしい透明感のあるサウンドになっている。7曲目の『エスペラント』は、軽快なギターと端正なピアノとサックスによるフュージョンナンバー。途中からクラシカルなヴァイオリンとシンセサイザーが加わり、メロディを主体としたアンサンブルに終始している。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ブルナギのヴァイオリンとレスコーのピアノをはじめとするキーボードが対話するように絡み合い、または交互で演奏しているのが印象的である。クラシカルなピアノもあって全体的にフュージョン色の薄い甘美なジャズロックとなっているが、ヘヴィなギターやラテン的なノリがあって意外とスリリングな演奏があることに驚かされる。

 アルバムは当時のジャズロックブームもあって高く評価されたという。その成功もあって彼らはスイスにある世界最大のジャズイベントであるモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに招待されることになる。この時にセカンドアルバムは録音され、新しい曲と前のアルバムからの曲が1曲含まれた『ライヴ・ア・モントルー』を1979年にリリースしている。この時にはヴォーカリストのアンヌ=マリー・クルトマンシュはグループから離れてソロに転向しており、代わりにシャロン・ライアンがレコーディングに参加している。そのアルバムはエネルギッシュなジャズロックからフュージョン、さらに純粋なロックといった多彩な楽曲となっており、彼らの演奏のレベルの高さを見せつけた内容となっている。しかし、その後のカナダではニューウェーヴやディスコブームとなり、急速にプログレッシヴロックやジャズロックが下火になったことで、アクアレルは解散することになる。中心メンバーだったピエール・レスコーはその後も音楽活動を続けており、トリオやカルテットといった形式でジャズ分野で活躍。1986年には都会から田園のある田舎に移り住み、自然をテーマにした音楽を作るようになり、ニューエイジ&ネオクラシカルといった音楽の方向性に変えている。レスコーの最新アルバムは2018年リリースの『L'Aube Des Jours 2』であり、現在でもアルバム制作に力を注いでいるという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は初CD化で30年の時を越えて注目されたカナダのジャズロックグループ、アクアレルのデビューアルバム『木陰にて』を紹介しました。このアルバムはカンタベリーミュージックを聴いていた中、少しだけ他国のジャズロック集めをしていた時期に出会ったものです。本アルバムがベル・アンティークから初CD化したのが2010年なので、たぶんその頃だったかなと思います。最初は直訳したアルバムタイトル「Under a Tree」の名の通り、日陰に寝転がりながらリラックスして演奏を聴くものとして作られたジャズロック&フュージョンとして捉えていたのですが、クラシックをベースにしたヴァイオリンとピアノの音色にジャズ色の強いリズムセクション、そこにファンキーなインタープレイやラテンテイストのメロディがあるなどオリジナリティに溢れています。2曲目の『フランソワーズ』は1970年代半ばのロバート・シャルルボワのアウトテイクのインストゥルメンタルのようであり、ピエール・ブルナギのヴァイオリンはディディエ・ロックウッドやステファン・グラッペリのスタイルに似ています。個人的には3曲目の『橋』がジャズコードをベースにしたファンキーなプレイとメロウなエレクトリックピアノが混じり合った緩急のある美しいフュージョンが素敵すぎます。これだけクオリティの高いアルバムであるにも関わらず市場で実績を残せなかったのは、当時の多くのジャズロックが生まれては消え、ニューウェーヴやディスコといった激しい音楽業界の変化によるものです。アクアレルも他のグループと同じように陽の目を見ずに消えゆく存在でしたが、彼らが唯一評価されたのはジャズロックに予想外の風味を加えた美しいアンヌ=マリー・クルトマンシュのヴォーカルにあるのではないかと思っています。

 また、2枚目のアルバム『ライヴ・ア・モントルー』は、スイスのモントルーで開催される世界最大のジャズフェスティバルに招待され、その地でレコーディングされたものです。ヴォーカリストがシャロン・ライアンに代わった以外は同じメンバーで録音されたものですが、よりメンバーのポテンシャルを高めたグルーヴ感のある演奏となっています。少しのエスニックなタッチとロック的な瞬間があり、なかなかクールなセクションが交互に繰り返される素晴らしいジャズロックになっています。少なくとも彼らはレコーディング前に十分なリハーサルが行われていたようで、全ての楽曲が驚くほど高品質です。こちらのアルバムも、ぜひ機会がありましたら聴いてみてくださいな。

それではまたっ!

※音源はレコード盤です。