【今日の1枚】Minotaurus/Fly Away(ミノタウロス/フライ・アウェイ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Minotaurus/Fly Away
ミノタウロス/フライ・アウェイ
1978年プライベートリリース

ハモンドオルガンやストリングスを
活用した幻のヘヴィシンフォニックアルバム

 映画祭でスタンリー・キューブリック監督の短編映画『7117』の生演奏を務めたことで名を馳せ、1枚のアルバムを残して解散したミノタウロスのデビューアルバム。そのアルバムはメロトロンやハモンドオルガン、ストリングスシンセサイザーといったキーボードを活用したヘヴィなシンフォニックロックとなっており、リリカルでメロディアスなサウンドが特徴となっている。本アルバムはコンサートでわずか1,000枚のみ販売されたもので市場に出回ることなく廃盤となっていたが、レーベルのGarden of Delightsがマスターテープを発見して、24年ぶりにCDとなって陽の目を見た幻の作品でもある。

 ミノタウロスは1972年にドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州に属する都市オーバーハウゼンで結成されたグループである。メンバーはミッキー・ヘルスバーグ(ギター)、ルドガー・ホフシュテッター(ギター)、ウリ・ポエチュラート(ドラムス)、ベルント・マチェイ(ベース)、ディートマール・バルゼン(キーボード)、ピーター・シュー(ヴォーカル)の6人編成である。メンバーのうち音楽学校でクラシックギターやチェロを学んでいたマイケル・ヘルスバーグ以外は、すべて独学で地元を中心に活動していたアマチュアミュージシャンだったという。彼らは結成時にギリシア神話に登場し、ダンテの『神曲』にも登場する、クレタ島のミーノース王の妻パーシパエーの子、牛頭人身の怪物であるミノタウロスをグループ名にしている。彼らは1977年まで商業的なサウンドに飼い慣らされていた地元のクラウトロックシーンに飛びつく代わりに、英国やヨーロッパといった国外の音楽を追い求めており、そのサウンドは早くからシンフォニック性の高いものだったと言われている。彼らは地元を中心にライヴ活動を精力的に行っていたが、転機となったのが毎年開催されているドイツのオーバーハウゼン国際短編映画祭のステージである。1977年にオーバーハウゼンのリヒトブルク映画劇場を会場とする映画祭で、ミノタウロスがスタンリー・キューブリック監督の短編映画『7117』の生演奏を担当することになり、その名が一躍馳せることになる。彼らは徐々に地元での名声を獲得し、ますます自分たちの曲を書くようになったという。これを機にメンバーは6年越しのアルバムを制作することを決め、1978年1月13日から15日にかけて、プロジェクトロックグループであるエピダウロスのギュンター・ヘンネが所有するランゲンドレア・サウンド・スタジオで本アルバム『フライ・アウェイ』をレコーディングしている。そのスタジオにはメロトロンが置いてあり、本アルバムのレコーディングに使用されている。また、エンジニアにはエピダウロスのドラマーであったマンフレッド・ストラックが担当している。彼らはレコード会社にデモテープを送り付けることはせずに、すぐにディープホルツのパラスで製造された1,000枚のプライベートプレスをライヴ会場で販売することにしたという。彼らは表紙のアートワークに取り組み際に多くの友人たちにデモテープを渡し、デザインの考案を依頼している。こうしてジャケットアートにグループ名と同じミノタウロスをあしらい、1978年にライヴ会場限定のアルバムがリリースされる。そのアルバムはメロトロンやハモンドオルガン、ギターソロを活用したシンフォニック性の高いサウンドだけではなく、1970年代後半のニュー ウェーヴタイプのエッジを備えた軽量でメロディックなプログレッシヴロックとなっている。

★曲目★
01.7117 ~Musik Zum Gleichnamigen Film~(7117~スタンリー・キューブリック監督の短編映画より~)
02.Your Dream(ユア・ドリーム)
03.Lonely Seas(寂しい海)
04.Highway(ハイウェイ)
05.Fly Away(フライ・アウェイ)
06.The Day The Earth Will Die(地球が死ぬ日)
★ボーナストラック★
07.Sunflowers(サンフラワーズ)

 アルバム1曲目の『7117~スタンリー・キューブリック監督の短編映画より~』は、彼らが音楽祭で一躍注目されたスタンリー・キューブリック監督の短編映画『7117』をモチーフとした楽曲である。ホークウィンド風のSF的なイントロからオルガンとギターによるメロディアスな旋律をバックにしたヴォーカル曲に変化し、その後にメロトロンとリズムギターが渦巻く緩やかな展開になっていく。後半にはアグレッシヴなギターとオルガンをメインとしたハードロック調となり、素晴らしいドラムワークの後、美しいストリングスシンセサイザーとアコースティックギターを響かせつつ余韻を残しながら終えている。2曲目の『ユア・ドリーム』は、緩急をつけたシンセワークとギターを中心としたヴォーカル曲。ストリングシンセサイザーと控えめなヴォーカルによる静けさを演出し、後に力強いリズムセクションが加わってメロディアスなアンサンブルになっている。3曲目の『寂しい海』は、海のさざ波の音をバックにギターとシンセサイザーによるヴォーカル曲。中盤からエレクトリックギターのカッティングを皮切りに重厚なサウンドとなり、次第に素晴らしいギターソロが加わったアップテンポの内容に変化する。4曲目の『ハイウェイ』は、車の通過音からアップテンポのギターやタイトなドラミングをバックにしたロックンロール。熱いヴォーカルと豊かなギターの演奏が楽しめる逸品である。5曲目の『フライ・アウェイ』は、12分に及ぶ大曲となっており、アルバムのハイライト的な楽曲。ストリングスとギター、そして軽いドラミングによるイントロから、柔らかなギターワークによるシンフォニックな一面を覗かせた内容になっている。後にメロトロンとメロウなギターをバックにしたヴォーカル曲となり、後に素晴らしいシンセワークとリズムセクション、そしてロングトーンの泣きのギターといった心地よいサウンドを構築している。中盤にはキャメル風のアンサンブル、後半には美しいキーボードソロやギターソロがあり、荘厳な中にもメロディを重視したグループであることが分かる。6曲目の『地球が死ぬ日』は、ダイナミックでありながらキャッチーなメロディで構成された楽曲。バックのストリングスとギターが美しいヴォーカル曲だが、1970年代のプログレとハードロックのパッセージを色濃く残した内容になっている。ボーナストラックの『サンフラワーズ』は、レコーディング時のリハーサルで演奏した楽曲。リリカルなギターとキーボードによるインストゥメンタル曲となっており、即興的な演奏が施されている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、無名に近いグループだったのにも関わらず、ツインギターとキーボードワーク、そしてリズムセクションすべての楽器が非常にバランスが取れており、さらにサイケデリックなスペースロックとジャズフュージョン的な要素を含んだレベルの高いアルバムになっていると思える。特にギターワークが素晴らしく、キーボードワークと合わせて後のネオプログレに通じるサウンドになっているのが興味深い。

 アルバムはライヴ会場で販売したのみだったが、好評だったためほぼ売り切れてしまったという。しかし、グループの取り巻く状況は相変わらず厳しい状態が続き、翌年の1979年にギタリストの1人であるミッキー・ヘルスバーグが脱退してしまうことになる。グループはギタリスト1人欠いた状態で活動を続けたが、同年末に100回目となる最後のコンサートを行い、その後正式に解散している。解散前にはビジネスパートナーとしてユルゲン・ラインケを迎えており、再起を図ろうとした矢先だったという。解散後のメンバーのほとんどは不明だが、ミッキー・ヘルスバーグは1997年に自身のグループであるManner in Dosenを結成して、自主制作のアルバム『Kopfschmerzen』をリリースしている。また、ドラマーのウリ・ポエチュラートは、ドイツ東部に移住してコンサートの主催者として活躍したという。1980年代に入ると本アルバムの良さに人々が気付きだし、その需要の増加に伴ってアルバムのオリジナル盤は数十万円にまで跳ね上がることになる。マネジメントをしていたユルゲン・ラインケはCD化にあたり、Lost Pipedreamsに権利を売却するもののマスターテープを持っておらず、レコードからCD化した代物だったという。その後、Garden Of Delightsがマスターテープを持っているというドラマーのウリ・ポエチュラートの追跡に成功して、テープを自由に使える権利を取得。2002年にマスターテープからリイシューされたCD化を果たすことになる。ちなみにマスターテープを所有していたウリ・ポエチュラートの話では、2枚目のアルバム用のテープも持っていたという。もしかしたら近いうちにCDで発売されるかもしれない。


 

 新年明けましておめでとうございます。今回は自主制作で1,000枚のみライヴ会場で販売して解散したドイツのプログレッシヴロックグループ、ミノタウロスの唯一作を紹介しました。私は上で記しているGarden Of DelightsからリイシューされたCD盤を2000年代に入手しましたが、すでに1992年にドイツのプログレッシヴロックのリイシューレーベルであるLost Pipedreamsが、レコード盤からデジタル化したCD盤をリリースしています。しかし、そのレーベルは1994年に活動停止となってしまい、少ない枚数だったために多くの人に届けられることはかなわなかったそうです。その後、ボーフムを拠点とするドイツのレーベルであるGarden Of Delightsが、ミノタウロスが録音したマスターテープを発見して、2002年にCD化することになります。Garden Of Delightsも同じく、サイケデリックからフュージョン、ブルース ロックに至るまで、さまざまな色合いのプログレッシヴロックの分野から半ば忘れ去られていた録音データを回収して復元しているレーベルです。今回、2002年にリイシューしたGarden Of DelightsのCDにはボーナストラック1曲が収録されていて、こちらもマスターテープを回収した際に入手したデータだそうです。マスターテープからのCD化ということですが、マンフレッド・ストラックという腕利きのレコーディングエンジニアが就いていたため、自主制作盤とは思えないクオリティの高い録音になっています。また、ジャケットアートにミノタウロスの絵をあしらったものがメインとなっていますが、他にも飛んでいる飛行機(ボーイング)が中央に描かれているバージョンもあるそうです。それは元々真っ白だったジャケットにミノタウロスの絵を700~800枚にあしらった後、余った残りのジャケットに描いたものとされています。

 さて、本アルバムに収録されている『7117』ですが、6分50秒の楽曲になっています。この曲は映画祭に出展したスタンリー・キューブリック監督の短編映画『7117』を映した際、彼らが生演奏したというものを再度収録したものです。スタンリー・キューブリック監督と言えば『博士の異常な愛情』や『2001年宇宙の旅』、『時計じかけのオレンジ』といったSF三部作をはじめ、『シャイニング』、『フルメタル・ジャケット』など多くの名作を残してきた映画監督ですが、短編映画だったためか『7117』の作品は不明でした。実際に映画内容がどんな内容だったのか分からないので楽曲から想像するしかありませんが、生演奏をしたところから無声映画かドキュメンタリー映画かな~と個人的に思っています。楽曲の方ですが、全ての楽器のバランスが素晴らしく、また楽曲のアレンジセンスとメロディがなかなか秀逸なため、彼らのひとつひとつの演奏に耳を傾けられるほど良くできたアルバムだと思います。特にギターとストリングスの使い方が絶妙で、リズミカルなラインと良くマッチしています。タイトル曲である『フライ・アウェイ』や『地球が死ぬ日』のドラマティックなプログレッシヴ曲だけでも、このアルバムの価値は相当あります。初期のマリリオンやノヴァリス、キャメル、エニワンズ・ドーター、アトラスといった甘い芸術性を満喫できるメロディックなシンフォニックロックが好きな人にはハマるだろうと思います。

 無名グループでさらに自主制作盤のみだったにも関わらず、スペーシーな雰囲気と複雑なアンサンブルのある楽曲を備えたメロディアスなシンフォニックプログレです。1970年代のプログレと1980年代のネオプログレの間に立った味わい深いサウンドを、ぜひ聴いてほしいです。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

それではまたっ!