Nova/Vimana
ノヴァ/ヴィマーナ
1976年リリース
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英国とイタリアのミュージシャンが織り成す
透明感あふれるジャズフュージョン
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元オザンナとチェルヴェッロ、ウーノのメンバーによって創設されたイタリアのプログレッシヴロックグループ、ノヴァのセカンドアルバム。名グループを渡り歩いた熟練のミュージシャンだけあって、技巧を凝らした演奏となっているものの、たおやかなフルートやサックスの音色にセンスあふれるギターワーク、そこに軽快なリズムセクションが同居して、イタリアンロックの奔放性とブリティッシュロック抒情性が同居したプログレッシヴジャズ&フュージョンとなっている。本アルバムはレコーディングの拠点を英国のロンドンに移した最初の作品であり、ゲストにジェネシスのフィル・コリンズ(ドラムス)、マハヴィシュヌ・オーケストラのナラダ・マイケル・ウォルデン(ドラムス)、ブランドⅩのパーシー・ジョーンズ(ベース)といった凄腕ミュージシャンが参加した話題作でもある。
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ノヴァはイタリアのナポリを拠点とする元オザンナのダニーロ・ルスティーチ(ギター)とエリオ・ダンナ(サックス、フルート)、そしてチェルヴェッロのメンバーでダニーロの兄でもあるコッラード・ルスティーチ(ギター、ヴォーカル)が中心となって結成されたグループである。ダニーロとエリオは1971年に結成されたオザンナの創設メンバーであり、1974年までの4枚のアルバムに参加している。しかし、1973年あたりからイタリアはオイルショックが訪れたことで、レコードが贅沢品と言われ、右翼であるキリスト教民主党に政権交代したことで、ロックコンサートの妨害や禁止が起こってしまう。こうしたことで活動が困難となり、また、メンバー間の不和が生じたことで、ダニーロとエリオはイギリスに渡ってUNOというユニットでレコーディングを行っている。さらにダニーロは1973年に一時的に弟のコッラードが在籍するチェルヴェッロのギター兼ヴォーカリストとして迎えられ、アルバム『メロス』のレコーディングにも参加。そのチェルヴェッロのアルバムはイタリアン・シンフォニックロックの傑作として多くの批評家が称賛したにも関わらず、グループは1974年に解散してしまう。その後、ダニーロとエリオは経済が落ち着きつつあるイタリアで再度オザンナのメンバーと合流し、4枚目のアルバム『ランドスケープ・オブ・ライフ~人生の風景~』を発表。そのアルバムはUNOのアイデアを基にインターナショナルな方向性で制作され、ダニーロの弟であるコッラードもギター&ヴォーカルとして参加していたが、商業的に失敗に終わっている。この状況にグループは耐えられなくなり、なし崩し的にオザンナは解散することになる。
ダニーロは途方に暮れる間もなく、すぐにエリオとコッラードを引き連れて、新たにノヴァというグループを翌年の1975年に結成する。そこに元サーカス2000のフランコ・ロー・プレヴィテ(ドラムス)、ジャズ出身のルチアーノ・ミラネーゼ(ベース)が参加し、5人編成となった時点でアルバムのレコーディングを行っている。アリスタレコードと契約した彼らは、プロデューサーはルパート・ハインを迎えて、同年の1975年にデビューアルバム『ブリンク』がリリースされる。そのアルバムはゲストにモーリス・パート(パーカッション)が参加しており、明確なジャズロックを標榜したサウンドとなっている。リリース後、ダニーロはグループから離れて、自身のグループであるルナを結成することになる。一方のエリオ、そしてコッラードの2人は、元ニュー・トロルス・アトミック・システムのキーボード奏者レナート・ロセットを迎えてイタリアから英国のロンドンに渡っている。新たなラインナップとなった彼らはロンドンのトライデントスタジオに入り、プロデューサーにジャズミュージシャンであるロビン・ラムリーを招いてレコーディングを開始。そのレコーディングにはジェネシスのフィル・コリンズ(ドラムス)、マハヴィシュヌ・オーケストラのナラダ・マイケル・ウォルデン(ドラムス)、ブランドⅩのパーシー・ジョーンズ(ベース)、ザキール・フセイン(コンガ)という凄腕のミュージシャンが参加したという。こうして強力なリズムセクションを得て作られたセカンドアルバム『ヴィマーナ』が、1976年にリリースされる。
★曲目★
01.Vimana(ヴィマーナ)
02.Night Games(ナイト・ゲームス)
03.Poesia~To A Brother Gone~(ポエシア~逝きし兄弟へ)
04.Thru The Silence(スルー・ザ・サイレンス)
05.Driftwood(ドリフトウッド)
06.Princess And The Frog(プリンセス・アンド・ザ・フロッグ)
アルバムの1曲目の『ヴィマーナ』は、コーラッドの瑞々しい12弦のアコースティックギターと、透明感のあるエリオのフルートとのユニゾンから始まり、1分半後にサックスを加えた強力なアンサンブルと牧歌的なセクションが入るという、劇的なテンポと雰囲気の変化が続く楽曲。パーシーの妙なベースラインやナラダの繊細で的確なドラミングは驚くばかりで、後半にはエレクトリックギターに持ち替えたコーラッドのギタープレイが炸裂している。その緩急をつけた演奏はメロディを握った3人のセンスが光った賜物である。2曲目の『ナイト・ゲームス』も、12弦のアコースティックギターの爪弾きから始まり、レナートのシンセサイザーやエレクトリックピアノ、そしてサックスが、まるで都会の夜を演出したような楽曲。後にコーラッドの涼し気なヴォーカルがフィーチャーされており、多彩なパーカッションやベースが心地よく、さらに後半には素晴らしいドラミングをバックにメロディアスに奏でるギターやサックスが大人っぽい雰囲気にしてくれる。3曲目の『ポエシア~逝きし兄弟へ』は、レナートの流麗なピアノプレイを中心に、アコースティックギターやフルートを絡めた静を演出した楽曲。アコースティックギターはイタリアらしく歌うような爪弾きとなっており、色気と詩情を伴った美しい内容になっている。4曲目の『スルー・ザ・サイレンス』は、力強いドラミングとベース、柔らかなギターをバックにしたヴォーカルナンバー。間奏には叫ぶようなサックスやラテン風のパーカッションワークがあり、ギターも合わせてノリの良いサンバ風のアップテンポになっているのが素晴らしい。5曲目の『ドリフトウッド』は、風のような切り裂き音からギター音、そして煌びやかなキーボード、そしてサックスやアコースティックギターなどの楽器が増えて行ってゆるやかなアンサンブルになっていく楽曲。3分半後にはヴォーカルが入り、サックスとアコースティックギター、キーボードが交互に行き交い、コーラッドの涼し気なヴォーカルを盛り上げている。中盤にはサックスソロをはじめ、メロウなエレクトリックギターの痛快なプレイがあり、ジャズとハードロックの両方が堪能できるプログレッシヴ志向の内容になっている。6曲目の『プリンセス・アンド・ザ・フロッグ』は、ギターやサックス、キーボードそれぞれの演奏が楽しめる変拍子のあるミドルテンポのジャズロック。童話『プリンセスと魔法のキス』を題材にしているらしく、まるでおしゃべりしているようなワウを利かしたフルートのアレンジがお伽噺の世界に誘うようである。最後は鳥のさえずりを響かせながら幻想的な雰囲気のままフェードアウトしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、手数の多いジャズ風のドラミングとエフェクトをかけた存在感のあるベース上で、ロマンティックな雰囲気を作るフルートとサックス、ハードロック風のエレクトリックギター、そして憂いのあるヴォーカルなど、テクニカルな中に確かなメロディとアレンジのセンスが光ったジャズフュージョンになっていると思える。その中でもギターとヴォーカルを担ったコーラッドとフルートやサックスを担ったエリオの2人の演奏は際立っており、曲の主導権を握って凄腕のプレイヤーと互角に渡り合っているのが聴きどころだろう。
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本アルバムは多くの著名なゲストミュージシャンが参加して作られた作品として話題となったという。その後、バリー・ジョンソン(ベース、ヴォーカル)と、元アトミック・ルースターやアイビスのリック・パーネル(ドラムス)が加わり、1977年にサードアルバム『ウイングス・オブ・ラヴ(愛の翼)』をリリースしている。そのアルバムはサックスとギターをフィーチャーしたロマンティックなジャズフュージョンとなっており、都会的なサックスに対して個性的なアドリブや呪術的なフルートなど、1970年代のイタリアンロックが垣間見える傑作となっている。その後は新天地アメリカに渡り、4枚目のアルバム『サン・シティ』をレコーディングした後にグループは解散している。フルート兼サックス奏者のエリオ・ダンナは母国のイタリアに戻り、音楽プロデューサーとして活躍。ギタリストのコーラッド・ルスティーチはアメリカに残り、イタリアの歌手であるズッケロやホイットニー・ヒューストン、アレサ・フランクリン、エリサといった著名なアーティストとコラボレーションするなど、ミュージシャン&プロデューサーとして活躍したという。コーラッドは1995年に最初のソロアルバム『ザ・ハーティスト』をリリース。2006年にもアルバム『デコンストラクション・オブ・ア・ポストモダン・ミュージシャン』を発表しており、そのアルバムにはエリサやアラン・ホールズワースがゲストとして参加している。その後に元ジェスロ・タルのキーボード奏者ピーター・ジョン・ヴェッテーゼとジャズフュージョンのドラマーであるスティーブ・スミスとと共にコッラード・ルスティチ・トリオを結成。グループは2014年にライヴアルバム『ブレイズ・アンド・ブルーム - ライヴ・イン・ジャパン-』をレコーディングし、さらに2017年にもチェルヴェッロのオリジナルメンバーと東京での再結成コンサートに出演。後に『Cervello - Live in Tokyo 2017』というタイトルのCDとDVDとしてリリースされている。一方、弟のダニーロはルナ、トンネルといったグループを渡り、オザンナの再結成に貢献するなど、2000年代までセッション・ミュージシャンとして活躍してきたが、2021年2月26日に新型コロナウイルス感染症の影響により71歳で死去している。2021年、コーラッドはシングル『The Singing Light』をリリースし、弟のダニーロを追悼したという。
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皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアの名プログレッシヴロックを渡り歩いてきたメンバーによって結成されたノヴァのセカンドアルバム『ヴィマーナ』を紹介しました。ノヴァの4枚のアルバムはどれもジャズフュージョンとして完成度が高く、どれも傑作なのですが、やはり多彩なミュージシャンがゲストとして参加した本アルバムがおススメです。以前にオザンナのサードアルバム『パレポリ』とウーノのアルバムを紹介していますが、そこでも触れたとおり、1973年といえばイタリアの経済悪化に伴い、多くのロックアーティストが解散や活動休止に追い込まれた年でもあります。オザンナのメンバーも分裂して活動することになり、エリオやダニーロは英国に渡ることになってウーノを結成し、チェルヴェッロに至っては解散しています。しかし、再度オザンナは結成してアルバムを出しますが、元のような音楽性や関係性は続かず、結局は新たなメンバーを迎えたノヴァを結成することになります。このノヴァというグループは3人が作曲やアレンジを行い、ジャズロックのスタイルを打ちだしたことがグループの存続に繋がったと言っても良いでしょう。メロディラインは3人で奏でて、レコーディング時にジャズに精通したリズムセクションをメンバーに加えるという手法を採っています。それが功を成して本アルバムのような3人の凄腕ミュージシャンがリズムセクションとして参加することになります。3枚目のアルバムからはベースとドラムスのメンバーを加入させていますが、過去のノウハウを活かした非常に優れたジャズフュージョンを残すことになります。
さて、本アルバムですが、これがイタリアのミュージシャンと英国のミュージシャンによる妙ともいうべきか~と思うほど演奏は見事なものです。エリオ・ダンナのたおやかなフルートやサックスの音色とコッラードのセンスあふれるギターワーク、そこにテクニカルにして軽快なリズムセクションが同居するという、抒情性のあるイタリアンロックとモダンなブリティッシュロックの不思議な融合がなされています。単に技巧を凝らした派手な演奏というわけではなく、繊細で落ち着きのある英国の音楽性に対して奔放な情感的なイタリアの音楽性が織り込まれていて、熟練のミュージシャンらしい透明性のあるジャズフュージョンとなっています。サンタナやマハヴィシュヌ・オーケストラの要素も過分にありますが、作曲がしっかりしているためか即興には傾かず、非常に聴きやすいものになっています。あまりにもまとまり過ぎているためか、往年のプログレッシヴロックファンにとっては物足りない感じがするかも知れませんが、上品でスタイリッシュさとモダンさを兼ねそろえた上質なアルバムだと思います。それでも息をつかせぬ展開と演奏は、聴いていてワクワクします。
本年はこれで最後となります。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
それではまたっ!