【今日の1枚】Sahara/Sanrise(サハラ/サンライズ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Sahara/Sanrise
サハラ/サンライズ
1974年リリース

管楽器とメロトロンのパートを織り交ぜた
ストーリー性豊かなジャーマンシンフォの傑作

 1966年から活動するThe Subjects(ザ・サブジェクツ)から発展したドイツのシンフォニックロックグループ、サハラのデビューアルバム。そのアルバムはフルートやサックス、ハモンドオルガンによるジャジーなパートと、メロトロンが美しいクラシカルなパートを織り交ぜ、スリリングな変拍子を多用したドラマティックな展開のある内容になっている。レコードの片面をフル活用したタイトル曲は組曲形式になっており、腕利きのミュージシャンならではの高い演奏力と構成力を遺憾なく発揮した傑作である。

 サハラは元々、1966年にドイツのミュンヘンで結成したThe Subjects(ザ・サブジェクツ)、1972年にグループ名を変更したSubject Esq(サブジェクト・エスク)から発展したグループである。ザ・サブジェクツのメンバーはアレックス・ピットウィン(サックス、ギター、ヴォーカル)、ハリー・ローゼンカインド(ドラムス)、マイケル・ホフマン(フルート、サックス)、ピーター・マルクル(ギター)、ピーター・スタドラー(キーボード)、ステファン・ウィスネット(ベース、ヴォーカル)の6人であり、1968年にレーベンブロイケラーで開催されたビートミュージックコンテストで優勝している。この優勝を機に彼らはテレビ番組をはじめ、多くのライヴで演奏することになる。やがてエピック/CBSのレコード会社が彼らに目を付け、アルバムリリースを勧められて契約。この時にメンバーチェンジがあり、ギタリストのピーター・マルクルからポール・ヴィンセントに変わり、新たにヴィオラ担当としてフランツ・ロフラーを加入させて、グループ名をSubject Esq(サブジェクト・エスク)に変えている。1972年ににリリースされたアルバム『サブジェクト・エスク』は、まるで初期のイエスやフルートとギターのインタープレイはジェスロ・タル、サックスのリフがヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターを彷彿とするサウンドを披露している。しかし、ドイツで高く評価されたもののアルバムの売上は芳しくなく、また、メンバーは契約に関する利益に対して不満を持つことになり、キーボーディストのピーター・スタドラーとギタリストのポール・ヴィンセントが脱退。グループは一時、空中分解してしまうが、アレックス・ピットウィンとマイケル・ホフマンを中心にグループを立て直し、新たなキーボーディストに元アウト・オブ・フォーカスのヘナー・ヘリング、ギタリストに元ギフトのニック・ウッドランドという強力なメンバーを加入させている。そしてこれまで契約していたエピック/CBSから離れ、ミュンヘンのレーベルであるアリオラの子会社PANと契約し、グループ名をサハラと改めている。メンバーやグループ名を変えて心機一転となった彼らは、その気持ちを音楽に表せないかと考えて太陽が昇るイメージを組曲にした「サンライズ」を次のアルバムに収録しようとしたという。彼らはミュンヘンにあるミュージックランド・スタジオに入り、後にクイーンやエレクトリック・ライト・オーケストラのアルバムを担当するラインホルト・マックをプロデューサーに迎え、1974にアルバム『サンライズ』をリリースすることになる。そのアルバムはフルートやサックス、ハモンドによるジャジーなパート、メロトロンによるクラシカルなパート、そして変拍子を多用したスリリングなパートを巧みに織り交ぜたテンションの高いシンフォニックロックの傑作となっている。

★曲目★ 
01.Marie Celeste(マリー・セレステ)
02.Circles(サークル)
03.Rainbow Rider(レインボー・ライダー)
04.Sunrise (サンライズ)
 Part1(パート1)
 a.Sunrise(サンライズ)
 b.The Divinity Of Being(存在の神性)
 c.Perception Including "Devils Tune"(「デビルス・チューン」を含む認識)
 d.Paramount Confluence(最高の合流)
 Part2(パート2)
 a.Aspiration(願望)
 b.Creativity(創造性)
 c.Realisation(実現)

 アルバムの1曲目の『マリー・セレステ』は、まるでラジオから流れるようなオーケストラから始まり、ギター主導の素晴らしいサウンドスケープに変化する楽曲。後に荘厳なチャーチオルガンをバックに憂いのあるヴォーカルが加わり、繊細なリズムセクションとギター、オルガンによるジャジーな展開になっていく。後半にはキーボードやサックス、ギター、そしてジェスロ・タル並みのフルートが飛び交うなど、クラシックとジャズが交互に行き交う展開が聴きどころである。2曲目の『サークル』は、アメリカの西海岸を中心としたカントリースタイルのフォークロック。土着的なハーモニカやアコースティックギターに美しいエレクトリックピアノやシンセサイザーを加味したハーモニーは、ドイツのグループが演奏しているとは思えないほど絶品である。3曲目の『レインボー・ライダー』は、可憐なエレクトリックピアノから一転してオルガンを加味したストレートなロックンロールとなる楽曲。中盤にはピアノのイントロと速いペースのヴァースが続き、ジャズを掘り下げたムーディーなサウンドに変化する。抒情的なギターソロはドラマティックであり、後半の複雑とも言える多彩なフレーズと緩急のあるテンポが繰り返される展開は見事である。4曲目の『サンライズ』は、2つのパートで構成される組曲となった壮大な楽曲。シンセサイザーを大々的に使用し、スペイシーな展開の中で軽く心地よいメロディが伴うフュージョン的な要素のある内容になっている。エレクトロニックからクラシック、ジャズ、サイケデリック、ハードロックまで至る変遷は、古典的な英国のプログレッシヴロックに分類しないクラウトロックならではの曲構成である。10分ほど経つと雷が鳴り響き、ベースやオルガンを中心とした「静」の演奏となり、後に雰囲気もテンポも変化し続けながら「動」のハードなアンサンブルへと変化していく。18分過ぎにはメロトロンを駆使した荘厳なシンフォニックとなり、変拍子を交えたジャズロックを経て、最後は頂点に向かって突き進んでいく素晴らしいトラックになっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、最初の3曲はサブジェクト・エイク時代の楽曲を発展させたものだが、組曲となった『サンライズ』は明らかに彼らがこれまで経験してきた多様なプログレッシヴ要素を詰め込んだ巧みな演奏となっていると思える。27分という長いトラックだが、ハープやグロッケンシュピール、エルカ・ストリングス、メロトロン、ミニモーグといった多彩な楽器を活用し、テンション緩むことなく聴かせる構成力はベテランミュージシャンならではの大きな強みとなっている。

 アルバムはドイツ国内でリリースされたが、小さいレーベルであったにも関わらず、アルバムの評価は高かったという。彼らはその年に多くのライヴを行い、PANの親会社であるアリオラと契約して次のアルバムを制作することになる。しかし、ここでもメンバーチェンジがあり、ギタリストのニック・ウッドランドからギュンター・モールに代わり、オリジナルのドラマーだったハリー・ローゼンカインドから元ミッシング・リンクのホルガー・ブラントに代わっている。また、サックス奏者のアレックス・ピットウィンはサハラのマネージャー兼プロデューサーに転身している。1975年にリリースしたセカンドアルバム『フォー・オール・ザ・クラウンズ(すべてのピエロのために)』は、前作を継承したギターやフルート、モーグシンセサイザーによるジャジーな要素とピアノのプレリュードやオルガンによるクラシカルな要素が混同した好アルバムとなっている。しかし、その後もしばらく活動をしていたが、ギュンター・モールとホルガー・ブラントが脱退を決めた時、さらなるラインナップの対応が難しくなり、1977年に解散することになる。解散後のメンバーのほとんどはセッションミュージシャンやスタジオミュージシャンとして活躍し、中でもマイケル・ホフマンはプロデューサー兼ソングライターとなり、ダリオ・ファリーナやクリスティアーノ・ミネッロノといったイタリアのアーティストと仕事をしている。解散してから40年後の2006年に、マイケル・ホフマン、ヘネス・へリング、ステファン・ウィスネット、ハリー・ローゼンカインド、ニック・ウッドランドといったオリジナルのメンバーが集い、ミュンヘンのシアトロン・フェスティバルで再結成コンサートが開催。 2007年7月のブルク・ヘルツベルク・フェスティバルでの野外コンサートや2009年2月のミュンヘン美術アカデミーでコンサートを行うなど、毎年のようにコンサートに参加している。最後は2016年にリリースした1971年から1975年までのスタジオトラックやライヴ録音を収録した『ロスト・テープス』、2019年には本アルバムにボーナストラックを収録してリマスター化されたCDに携わった後、活動の休止を宣言している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はサブジェクト・エイクから発展してジャジー兼シンフォニックなサウンドとなったサハラのデビューアルバム『サンライズ』を紹介しました。このアルバムはオーヴァシュルレコードからリイシューされたCD盤を聴いて、個人的に非常に不思議な感覚に陥ったことを覚えています。2曲目のフォークロックとなった『サークル』のみ浮いていますが、そのほかの楽曲は1曲内にクラシック、ジャズ、ハードロックのパートが混在したユニークな作風となっていて、雰囲気もテンポも変化し続ける先の読めない展開にワクワクしたものです。その中でも最も壮大となった27分に及ぶ組曲『サンライズ』は、フルートやサックス、ハモンドオルガンによるジャジーなパートやメロトロンを大々的に使用したクラシカルなパートを巧みに織り交ぜ、変拍子を多用したスリリングな展開が度肝を抜きます。最後にカンタベリー風のジャズロックに変貌していくところは個人的にかなり好きです。初期のイエスをベースにフルートはジェスロ・タル、サックスはヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター、他にもキャメルやコズミック・ジョーカーズ、またはピンク・フロイドやピュルサーの領域を行き来している感じがします。かつての英国の多様なプログレッシヴロックを組み込んだ楽曲になっていて、この掴みどころのなさがクラウトロックの醍醐味になっていると思います。

 

 さて、1曲目の『メアリー・セレステ』という曲ですが、オーケストラから荒々しいギターリフ、そして静かな動きで教会のようなオルガン、サックスで魂を吹き飛ばすなど、まるで天候のような音の強弱や緩急のある楽曲になっています。最初は消えゆくような音や切れた音に不安を覚えましたが、この『メアリー・セレステ』とは、1861年にノバスコシアのスペンサー島で建造され、後の航海で無人のまま漂流していたという謎の多い船のことです。1872年にアメリカのニューヨークからイタリアのジェノヴァへ向けて出航した後、アゾレス諸島付近で漂流しているのを発見。船内には誰もおらず、荷物はそのまま置いてあったそうですが、羅針盤は破壊されていて手すりにはひっかき傷があったと言われています。最初は海賊に襲われたとされていましたが、不可解なことが多く謎の船舶事件とされているようです。そのような曰く付きの船をイメージしているためか、あのような緩急が激しい楽曲になったのだろうと思います。まだ聴いていませんが、リマスター盤ではそのあたりのがもう少し是正されているのかも知れませんね。

 

 本アルバムはダブルキーボードやウッドウインド編成を生かしたジャズパートは躍動的であり、ジャーマンシンフォニックサウンドを聴かせる隠れた名盤の1枚となっています。ぜひ、この機会に聴いてみてほしい作品です。

それではまたっ!