【今日の1枚】Manfred Mann's Earth Band/Solar Fire | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Manfred Mann's Earth Band/Solar Fire
マンフレッド・マンズ・アース・バンド/太陽の化身
1973年リリース

ホルストの『惑星』をモチーフにした
重厚なキーボードによるシンフォニックロック

 南アフリカ生まれの英国ミュージシャン、マンフレッド・マン率いるマンフレッド・マンズ・アース・バンドの4枚目のアルバム。グスタフ・ホルストの管弦楽組曲『惑星』をモチーフにした楽曲をメインに、ボブ・ディランの曲をキーボードを加えてリメイクした楽曲があるなど、初期作の中でもシンフォニック色の強い内容になっている。アメリカのビルボード200で15週連続でランクインし、最高96位に達したグループのキャリアにおいて傑作となった1枚である。

 マンフレッド・マンズ・アース・バンドの中心人物であるマンフレッド・マンは、南アフリカ生まれのキーボーディストであり、シンガーソングライターである。彼の本名はマンフレッド・ゼプス・ルボウィッツであり、南アフリカのヨハネスブルグで1940年10月21日に生まれている。ルボウィッツは同国のウィットウォータースランド大学で音楽を学び、ヨハネスブルグにある多くのジャズクラブでピアニストとして演奏していたという。しかし、南アフリカで起こったアパルトヘイトの制度に反対した彼は、1961年に英国に移住し、ジャズドラマーのシェリー・マンにちなんでManfred Manneという名でジャズニュースを執筆していたが、Manfred Mannと名を変えて英国で活動する彼のミュージシャン名になっている。1962年に彼はクラクトン・バトリンズ・ホリデー・キャンプで、ドラマー兼キーボード奏者のマイク・ハグ(マイケル・ジョン・ハグ)と出会っている。2人は一緒にマン・ハグ・ブルース・ブラザーズというビッグバンドを結成し、1963年にEMIとレコード契約している。後にレーベルのプロデューサーの勧めでマンフレッド・マンというグループ名に変えて、ボブ・ディランの『マイティ・クイン』やザ・シュレルズの『シャ・ラ・ラ』などのアレンジ曲など、1969年に解散するまで数多くのヒット曲をリリースしている。同年にマンとハグはすぐに、より実験的なジャズロックを目指したマンフレッド・マンズ・チャプター・スリーを結成。この時のメンバーはバーニー・リヴィング(サックス)、スティーヴ・ヨーク(ベース)、クレイグ・コリンジ(ドラムス)であり、さらに5人のブラスセクションを擁していたという。グループは1970年までに2枚のアルバムをリリースするが、大人数でグループの維持が難しかったことと、外部からの楽曲を受け入れないスタイルにマン自身が嫌がったことから解散することになる。

 マンはハグと袂を分かち、今度は4人編成というコンパクトなスタイルで新たにマンフレッド・マンズ・アース・バンドを結成。メンバーも一新し、ミック・ロジャース(ギター、ヴォーカル)、コリン・パッテンデン(ベース)、クリス・スレイド(ドラムス、ヴォーカル)、マンフレッド・マン(キーボード、モーグ、ヴォーカル)の4人である。当初はグループ名が定まらず、周囲はマンフレッド・マンズ・チャプター・スリーの延長線にあるグループと考えていたようである。「アーム・バンド」や「ヘッド・バンド」という名も挙がっていたが、最終的に「アース・バンド」として落ち着いている。彼らは1972年にデビューアルバム『マンフレッド・マンズ・アース・バンド』をリリースし、同年にセカンドアルバム『グローリーファイド・マグニファイド』をリリース。彼らの楽曲はジャズやブルースの影響を受けたサウンドが中心だったが、マンのモーグシンセサイザーを組み合わせたメロディアスなサウンドに変わっていく。また、ボブ・ディランやランディ・ニューマンの曲などもカヴァーしており、ライヴパフォーマンスの定番にしたという。1973年に3枚目のアルバム『メッシン』がリリースされ、ポリドールと新たに契約してアメリカにも販路を拡大。クラシックにも興味を持っていたマンは、ホルストの『ジュピター』の要素を含んだ『ジョイブリンガー』というシングル曲をリリースしている。幸いホルストの娘から使用許可が下りてリリースされたシングルは英国のチャートで9位となる大ヒットとなる。その後、グループはレーベルをブロンズ・レコードに移籍して、ホルストの『惑星』の他のパートをカヴァーしようとしたが、今度は許可が下りず、録音した曲はお蔵入りすることになる。マンは代わりに自身の『惑星』を創造し、ボブ・ディランのカヴァー曲を含めた4枚目のアルバム『太陽の化身』がリリースされる。そのアルバムはプログレッシヴロックの様式的なアプローチと、マンのジャズの影響を受けたモーグシンセサイザーによるメロディが組み合わされた独自のシンフォニックロックを構築した傑作となっている。

★曲目★
01.Father Of Day,Father Of Night(万物の生誕)
02.In The Beginning,Darkness(太初に光ありき)
03.Pluto The Dog(犬のプルート -冥王星-)
04.Solar Fire(太陽の化身)
05.Saturn,Lord Of The Ring/Mercury,The Winged Messenger(土星環の神秘/神々の飛脚・水星)
06.Earth,The Circle Part2(大地、円球の歌 パート2)
07.Earth,The Circle Part1(大地、円球の歌 パート1)
★ボーナストラック★
08.Joybringer(ジョイブリンガー)
09.Father Of Day,Father Of Night -Edit Version-(万物の生誕-エディット・ヴァージョン-)

 アルバムの1曲目の『万物の生誕』は、ボブ・ディランの『ニュー・モーニング』の曲をカヴァーしたものだが、1分28秒のオリジナル曲を10分近い大作に仕上げている。宇宙の彼方から響くようなイントロから、ゆったりとしたメロトロンを中心としたキーボードをバックに歌うミック・ロジャースのヴォーカルが印象的な楽曲。間奏にはブルージーなギターソロが展開し、奥行きのあるキーボードが素晴らしく、マンのアレンジ力が光った内容になっている。2曲目の『太初に光ありき』は、ミック・ロジャースのギターをメインにしたソリッドなロックナンバー。ソウルフルなコーラスやタイトなドラミングが英国らしく、中盤でリズミカルなドラム上で演奏されるギターとシンセサイザーのインタープレイは聴きどころである。3曲目の『犬のプルート -冥王星-』は、ミディアムテンポのコミカルなインストゥメンタル曲であり、犬の声がユーモラスである。まるでディ〇ニーのキャラクターである犬のプルートをイメージしたような楽曲である。4曲目の『太陽の化身』は、高揚感のあるヴォーカルをメインにしたスペイシーなロック。中盤のインストパートになるとソリッドなギターワークとキーボードによるサイケデリックな展開になっている。5曲目の『土星環の神秘/神々の飛脚・水星』は、2部構成になっており、ロジャースの時にハードで時にメロディアスなギターワークを中心としたインストゥメンタル曲。後半にはマンのスペイシーなシンセサイザーがシンボリックに登場し、独特な宇宙観を表現している。さらに疾走感が増して、改めてギターとキーボードの競演となる。6曲目の『大地、円球の歌 パート2』は、マンの独特なキーボードプレイが魅力のクラシックなプログレッシヴスタイルの楽曲。7曲目の『大地、円球の歌 パート1』は、ドビュッシーのメロディを取り入れた煌びやかな楽曲になっており、マンのクラシカルなキーボードプレイに思わず息をのんでしまうほどである。ボーナストラックの『ジョイブリンガー』は、先にシングルでリリースされたもので、ポップなヴォーカル曲だが、大胆とも言えるシンセサイザーのパートの対比が素晴らしい逸品。『万物の生誕-エディット・ヴァージョン-』は、1曲目の内容を3分ほどにまとめた別テイクバージョンである。こうしてアルバムを聴いてみると、ソリッドなミック・ロジャースのギターとメロトロンやモーグシンセサイザーを効果的に使用したマンフレッド・マンによる独自性の強いスペイシーなシンフォニックロックになっている。曲自体はシンプルな構成になっているものの、インストパートにプログレッシヴなキーボードワークがあるなど、非常にアレンジがユーモラスである。

 アルバムは大ヒットシングル『ジョイブリンガー』を収録していないアルバムであったにも関わらず、アメリカのビルボード200に15週連続でランクインし、最高96位となる快挙を成し遂げている。グループはプログレッシヴ要素を強め、1974年に『ザ・グッド・アース』、1975年に『ナイチンゲールとボンバーズ』と続けてリリースするが、『太陽の化身』を越えるような作品は出なかったという。その後にミック・ロジャースが脱退し、代わりにクリス・トンプソン(ギター、ヴォーカル)、ディヴ・フレッド(ギター)が加入。1977年にブルース・スプリングスティーンの『ブラインデッド・バイ・ザ・ライト』のカヴァー曲がビルボードで1位に輝き、その曲を収録した1976年のアルバム『静かなる叫び』が全米アルバムチャートで10位となり、グループは一気にスターダムにのし上がることになる。その後はアルバムごとにメンバーチェンジがあり、1978年の『ウオッチ』にはベーシストがパット・キング、1979年の『エンジェル・ステーション』にはギターにティーヴ・ウォーラー、ドラムスにジェフ・ブリットン、1980年の『チャンス』にはドラムスにジョン・リングウッドに代わっている。1987年の13枚目のアルバム『マスク』でのメンバーはマンフレッド・マン、復帰したミック・ロジャース、クリス・トンプソン、ジョン・リングウッド、そして新たなベーシストのスティーヴ・キンチの5人となっている。その後4年のあいだ沈黙が続き、1991年にはノエル・マッカラ(ヴォーカル)とバーバラ・トンプソン(サックス)を加えたマンフレッド・マンズ・プレインズ・ミュージック名義で『プレインズ・ミュージック』をリリースしている。その後、再度アース・バンド名義となって、1996年に『ソフト・ベンジェンス』をリリース。1998年の『マンズ・アライヴ』以降、新譜は停止しているが、2019年までにブートレグ・アーカイブを含めたアルバムを発表している。2017年には『マンフレッド・マンズ・アース・バンド - バロワーズ・セッション』が開催され、マンフレッド・マンとミック・ロジャース、ジョン・リングウッド、スティーヴ・キンチ、ロバート・ハットの5人が登場し、その変わりないステージパフォーマンスにファンは感動したという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1960年代からブルース、ジャズロック、そしてプログレッシヴロックと時代に沿って音楽性を変えてきたマンフレッド・マンズ・アース・バンドの4枚目のアルバム『太陽の化身』を紹介しました。このグループとの出会いは、まさに本アルバムからです。曲の構成自体はシンプルですが、メロトロンやモーグシンセサイザーを効果的に使うマンフレッド・マンとヘヴィでソリッドなミック・ロジャースのギターワークによる独自性の強いスペイシーなロックになっています。また、ホルストの『惑星』という借り物から、オリジナリティのある宇宙観でアレンジした楽曲は、まさにプログレッシヴだと思います。1曲目のボブ・ディランの1分28秒の曲のアレンジである『万物の誕生』が、これが元ボブ・ディランの曲であることが信じられなく、ここまで壮大なシンフォニックロックになるのか~と感心する一方、3曲目の『犬のプルート -冥王星-』は、意味が分かると笑えます。個人的に好きなグループですが、ギタリストのミック・ロジャースが抜けてポップ&AORテイストが強くなったアルバム『静かなる叫び』から、皮肉にも一躍有名になるという、プログレファンからしたらちょっと複雑なグループでもあります。

 さて、マンフレッド・マンはデビュー以来、外部からの楽曲を受け入れて独自にアレンジするスタイルを好むミュージシャンとしても有名です。特にボブ・ディランが好きだったようで、本アルバムでもボブ・ディランの1970年10月にリリースした『ニュー・モーニング』を取り入れて10分近くの大作に仕上げています。彼らが一気に注目されるのが後のブルース・スプリングスティーンの『ブラインデッド・バイ・ザ・ライト』のカヴァー曲を収録した『静かなる叫び』となります。マンはチャプター・スリー時代にオリジナル曲で行きたいマイク・ハグと袂を分かちますが、結局はカヴァー曲で成功を収めてしまったマンのしたたか…もとい、音楽界を生き抜く術(すべ)は凄いな~と思います。また、ホルストの『惑星』をモチーフにしているだけではなく、ドビュッシーのピアノのための組曲『子供の領分』より『象の子守歌』やストラヴィンスキーの『火の鳥』のメロディなど、クラシック要素もしっかり本アルバムに取り入れているところもある意味凄いです。

 元々彼らはジャズロックを演奏していたこともあって、本アルバムはユニークなシンセサイザーとブルージーなギターのインタープレイは聴き応えがあります。思った以上にメロディアスなSF的シンフォニックロックをぜひ堪能してほしいです。
 
それではまたっ!