【今日の1枚】Dave Greenslade/Cactus Choir | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Dave Greenslade/Cactus Choir
ディヴ・グリーンスレイド/カクタス・クワイア
1976年リリース

卓越したメロディとキーボードセンスを誇る
ディヴ・グリーンスレイドの初ソロ作

 自身のグループであるグリーンスレイドが解散した翌年にリリースされた、キーボード奏者ディヴ・グリーンスレイドの初ソロアルバム。そのサウンドはサイモン・フィリップス(ドラムス)、トニー・リーヴス(ベース)を中心に多くのゲストミュージシャンを迎え、ピアノやオルガン、メロトロン、クラヴィネットといった多彩なキーボードを駆使した抒情性豊かなシンフォニックロックとなっている。ツインキーボードだった過去のグリーンスレイド時代を踏襲した楽曲となっており、その卓越したメロディセンスは数あるキーボードプレイヤーの中でもトップクラスに位置している。

 ディヴ・グリーンスレイドは、1943年1月18日にイギリスのサリー州のウォーキングで生まれている。両親の影響でクラシックやジャズを聴いて育ち、幼少のころからピアノを学んでいたという。15歳となった高校生の時に同僚だったドラマーのジョン・ハインズマンやベーシストのトニー・リーヴスらと共に、ブルースやジャズを演奏するアマチュアグループを結成している。ディヴはオルガニストとして、彼らと地元でライヴを行う傍ら、ウェス・ミンスター・ファイヴやクリス・ファーロウ&ザ・サンダーバーズ、ジーノ・ワシントン&ザ・ラム・ジャム・バンドといったグループのレコーディングやセッションに参加している。この経験をもとにジョン・ハインズマンはプロのミュージシャンになることを誓い、1968年になると、同僚のトニー・リーヴス、ディヴ・グリーンスレイドの他に、サックス奏者のディック・ヘクトール=スミス、ヴォーカル兼ギタリストのジェイムス・リザーランド、ギタリストのジム・ローチェというラインナップで、ジョン・ハインズマンズ・コロシアムを結成。グループはツインギターをウリにした演奏を考えていたが、ジム・ローチェが短期間で脱退してしまい、リザーランドが単独でギターを弾くことになったため、半年後にはコロシアムというグループ名に変えて陣容を固めている。彼らはフォンタナ・レコードと契約を結び、1969年にデビューアルバム『コロシアム・ファースト』がリリースされ、全英のアルバムチャートで15位を記録。後にヴァーティゴレーベルに移籍し、同年にセカンドアルバム『ヴァレンタイン組曲』を発表し、こちらもアルバムチャート15位を記録する快挙を成し遂げている。その後、アメリカにも進出して1970年にサードアルバム『ドーター・オブ・タイム』、1971年にライヴアルバムの名盤として名高い『コロシアム・ライヴ』を発表して、人気絶頂のままグループは解散している。中心メンバーだったジョン・ハインズマンはその後、天才ギタリストのアラン・ホールズワースを擁したテンペスト、同じくギタリストのゲイリー・ムーアを擁したコロシアムⅡといったハードロック寄りの超絶技巧のグループを結成して活躍していくことになる。

 一方のディヴ・グリーンスレイドは、解散後にサックス奏者のディック・モリシーやディヴ・クインシー、ジャズギタリストのテリー・スミスらが結成したモダンジャズグループ、イフに参加。申し分程度しかキーボードの演奏が無かったことに愛想が尽きて、もっとキーボードを主体としたグループを作りたいと考えてすぐに脱退。元同僚のコロシアムのメンバーだったトニー・リーヴスと相談したところ、グループ結成に賛成してすぐにメンバー集めを開始している。メンバーには元キング・クリムゾン、フィールズのドラマーだったアンドリュー・マカロック、元ウェヴ、サムライで活躍してきたキーボード奏者のディヴ・ローソンを迎えて、ディヴ・グリーンスレイドの名を冠にしたグリーンスレイドというグループを結成する。ディヴは当初ギタリストを含んだ4人編成を考えていたが、良いギタリストを見つけることができず、ツインキーボードを擁したグループ、レア・バードの流れを汲んだ形でディヴ・ローソンをメンバーに加え、プレイを重ねていくうちにギターの必要性が無くなったと後に語っている。こうしてワーナーと契約した彼らは、1973年にデビューアルバム『グリーンスレイド』を発表。煌びやかなツインキーボードを中心とした本格的なシンフォニックロックとなっており、何よりもイエスのカヴァーデザインで著名なアーティストとなっていたロジャー・ディーンのジャケットアートが注目されたという。同年には早くもセカンドアルバム『ベッドサイド・マナーズ・アー・エクストラ』を発表し、グループの最高傑作となっている。1974年にサードアルバム『スパイグラス・ゲスト』では、元コロシアムの盟友だったギタリストのクレム・クレムソンがゲストとして参加し、これまでロジャー・ディーンが関わったカヴァーデザインからキーフに代わることになる。しかし、セールス的に芳しくなく、翌年の1975年にベーシストのトニー・リーヴスが脱退。グループはトニーの代わりに元マンドレイクのマルチプレイヤー、マーティン・ブライリーをメンバーに加えた4枚目のアルバム『タイム&タイド』を発表する。カヴァーデザインにSFファンタジー系の芸術家であるパトリック・ウッドロフを起用するなど、テコ入れを図ったもののセールスの浮上にはならず、マネジメントの問題によってグループは1976年に解散することになる。その後、ディヴ・グリーンスレイドは、ソロキャリアを追求してアルバムの制作に着手。脱退した元メンバーのトニー・リーヴスに声をかけ、若きセッションミュージシャンのサイモン・フィリップス(ドラム)が参加。そしてレコーディング時にはプロコル・ハルムのミック・グラバム(ギター)、後にエリック・クラプトンの専属ベーシストとなるセッションミュージシャンのディヴ・マーキー、レア・バード、ランナーでヴォーカル兼ギタリストを務めたスティーヴ・グールドなど、多数のゲストを迎えた初ソロアルバム『カクタス・クワイア』を1976年にリリースする。そのアルバムはかつてのグリーンスレイド時代の楽曲を踏襲した内容になっており、ピアノやオルガン、モーグ、クラヴィネットなど10台以上のキーボードを駆使したディヴ・グリーンスレイドらしいメロディが散りばめられた逸品になっている。

★曲目★ 
01.Pedro's Party(ペドロズ・パーティー)
02.Gettysburg(ゲティスバーグ)
03.Swings And Roundabouts(スウィングス・アンド・ラウンドアバウツ)
04.Time Takes My Time(タイムス・テイクス・マイ・タイム)
05.Forever And Ever(フォーエヴァー・アンド・エヴァー)
06.Cactus Choir(カクタス・クワイア)
 a.The Rider(ザ・ライダー)
 b.Greeley And The Rest(グリーリー・アンド・ザ・レスト)
 c.March At Sunset(マーチ・アット・サンセット)
07.Country Dance(カントリー・ダンス)
08.Finale(フィナーレ)
★ボーナストラック★
09.Gangsters(ギャングスターズ)

 アルバムの1曲目の『ペドロズ・パーティー』は、ディヴやトニー、サイモンのトリオで演奏された楽曲。ファンキーなクラヴィネットにヴォイスボックスをつないだリードやARPのシンセサイザーを駆使している。キャッチーなメロディを湛えつつ、以前のグループよりも穏やかでシュールな領域に移行していることが分かる。2曲目の『ゲティスバーグ』は、ゲストで参加したレア・バードのスティーヴ・グールドのヴォーカルをフィーチャーした楽曲。シングルカットできそうなポップな曲でありながらトニー・リーヴスとサイモン・フィリップスの切れ味鋭いリズムが素晴らしく、インストパートではクラシカルなARPとストリングスアンサンブルによるコンビネーションになっている。3曲目の『スウィングス・アンド・ラウンドアバウツ』は、ゲストで参加したベーシストのディヴ・マーキーが担当しており、こちらもクラヴィネットにヴォイスボックスをつないだリードを使用したメロディアスな楽曲。途中からはハモンドオルガンを活かしたスリリングな展開があり、煌びやかなキーボードによるプログレッシヴな雰囲気に包まれた内容になっている。4曲目の『タイムス・テイクス・マイ・タイム』は、鐘の音からゲストで参加したリサ・グレイとディヴによるデュエットによるモダンな楽曲。哀愁漂う中でゲスト参加したプロコル・ハルムのミック・グラバムのブルージーなギターがよりロマンティックな雰囲気にさせてくれる。5曲目の『フォーエヴァー・アンド・エヴァー』は、ディヴとサイモンが作成した楽曲で、ギター風にアレンジしたクラヴィネットのアルペジオによる哀愁たっぷりのシンフォニックな内容になっている。後半にはシンセサイザーが加わり美しメロディラインに移行する流れが素晴らしい。6曲目の『カクタス・クワイア』は、3パートからなる楽曲になっており、アメリカの西部の開拓をテーマにしている。『ザ・ライダー』はディヴらしいピアノとオルガンソロを中心とした内容になっており、『グリーリー・アンド・ザ・レスト』は、効果的なヴァイヴを使用し、スティーヴ・グールドの柔らかなヴォーカルを湛えたバラード曲になっている。『マーチ・アット・サンセット』は、複数のキーボードを使用したアンサンブルとなっており、夢心地な雰囲気にさせてくれたままクロージングしている。7曲目の『カントリー・ダンス』は、ジョン・ペリーのベースとエレクトリックピアノ、クラヴィネットによる疾走感あふれる楽曲。ドライヴ感のあるベースとタイトなリズムが心地よい、まさにダンサブルな内容になっている。8曲目の『フィナーレ』は、8分を越える大曲になっており、ゲスト参加したビル・ジャックマンのベースフルートとベースクラリネット、さらにサイモン・ジェフスがアレンジしたオーケストラを加えた一大シンフォニックサウンドになった楽曲。かつてのグリーンスレイド時代の楽曲に近く、ディヴのスリリングなオルガンワークが冴えまくった逸品となっている。ボーナストラックの『ギャングスターズ』は、グリーンスレイド時代の4枚目のアルバム『タイム&タイド』にも収録された別テイク曲。ヴォーカルを担当しているのはクリス・ファーロウである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、煌びやかなキーボードを駆使するディヴの楽曲に多くのミュージシャンが彩りを与えたシンフォニックアルバムになっている。明朗なヴォーカルや洗練されたアンサンブルは、幻想性を加味したプログレッシヴロックというよりも1980年代のAORを感じさせる楽曲になっており、そんな彼の時代を見据えた上質な音楽になっていると思える。

 アルバムは英国のパンク/ニューウェーヴの台頭により、商業的には芳しくなかったが、ディヴにとって得るものが大きい作品となった。彼は様々なミュージシャンと交流を深め、1979年にジェネシスのフィル・コリンズを迎えて、音楽やダンス、ファッション、アート、建築の世界で活躍する照明デザイナー兼ディレクターのパトリック・ウッドロフの本とレコードを組み合わせたマルチメディア作『The Pentateuch Of The Cosmogony』をリリースする。彼は以前からサントラ関連の仕事に就いていた関係で、1980年以降は表舞台の活動から引き、主にテレビメディアや映画音楽の作曲に専念するようになる。やがて15年ほど過ぎた1994年には、SFファンタジー作家のテリー・プラチェットとコラボしたアルバムを作らないかと打診があり、15年ぶりのサードソロアルバム『From The Discworld』をリリースしている。同年にはジョン・ハインズマンやディック・ヘクトール=スミス、マーク・クラーク、クリス・ファーロウと共にコロシアムが復活し、ディヴ・グリーンスレイドも声を掛けられ復帰。27年ぶりのスタジオアルバム『Bread & Circuses』を1997年にリリースしている。ディヴはコロシアムの活動と並行して、1999年に4枚目のソロアルバム『ゴーイング・サウス』をリリース。この流れに乗じて彼は自身のグループ、グリーンスレイドの復活を企画しており、2000年にオリジナル・メンバーのトニー・リーヴスも参加した25年ぶりの5枚目のアルバム『ラージ・アフタヌーン』を発表。その後はライヴアルバムを含むライヴ活動を中心に2003年まで続いたという。一方、コロシアムとしてのディヴは、2007年に初来日を果たし、2015年のロンドンのライヴを最後に解散することになる。現在、80歳となったディヴ・グリーンスレイドは、今でも音楽制作の場で働いているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は私の好きなキーボーディストの1人、ディヴ・グリーンスレイドの初ソロアルバム『カクタス・クワイア』を紹介しました。過去にグリーンスレイドの『ベッドサイド・マナーズ・アー・エクストラ』を紹介しましたが、その明朗なメロディと卓越したキーボードプレイに魅了してしまい、コロシアム、グリーンスレイドと共に一気に好きになったアーティストです。本アルバムもグリーンスレイド時代に近いファンタジックなシンフォニックロックになっていますが、多彩なミュージシャンをゲストに迎えてフュージョンやAORといった大人のサウンドを聴かせてくれます。それでもディヴはシンセサイザー(ARP、ソリーナ、ストリングアンサンブル、ストリングマン、ムーグ)、ピアノ、クラヴィネット、エレクトリックピアノ、ヴォイスエフェクト、ハモンドオルガン、メロトロン、ビブラフォンといった10台以上のキーボードを使用しており、時にスリリングに時にムーディーにといった曲調に合わせた演奏をしてくれています。個人的には当時セッションミュージシャンとして働き始めたサイモン・フィリップスを起用したことに驚いています。当時19歳とはとても思えない精緻で切れの良い彼のドラミングは楽曲に華を添えている感じがします。

 さて、グリーンスレイド時代のアルバム『グリーンスレイド』と『ベッドサイド・マナーズ・アー・エクストラ』のジャケットデザインを担当したのは、イエスのアルバムジャケットで著名なロジャー・ディーンです。彼がデザインした6本腕の魔人は、彼らのライヴステージのバックにも大きく使用されたほど長らくグループのシンボルとなったキャラ?です。サードアルバムの『スパイグラス・ゲスト』では、ジャケットがフォトグラファーのキーフが担当することになりましたが、ディヴはロジャーが担当しなかったことに残念がったそうです。この頃のロジャー・ディーンは売れっ子のイラストレーターとなっていて、多忙を理由に断られたそうです。その後、自身のソロアルバムをリリースする際、せひともジャケットデザインをロジャー・ディーンに描いてもらいたいと頼み込み、実現したのが本アルバムということになります。そのデザインは海の上に建つファンタジックな城をバックに岩の上にたたずむあの6本腕の魔人です。私はジャケットを見て思わずうれしくなってしまいました。ため息が出るような美しいデザインですよね。

 本アルバムはグリーンスレイド時代を踏襲しつつも、多くのミュージシャンが彩りを与えたシンフォニックロックになっています。彼の華麗なキーボードプレイだけではなく、卓越した作曲センスのあるディヴの才能が垣間見える逸品です。ぜひ、聴いたことの無い方は堪能してほしいです。

それではまたっ!