【今日の1枚】Opus 5/Contre-Courant(オピュス・サンク/流れに逆らって) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Opus 5/Contre-Courant
オピュス・サンク/流れに逆らって
1976年リリース

抒情的なフルートと繊細なピアノが織りなす
幻想的とも言える異郷のシンフォニックロック

 多くのプログレッシヴロックを生み出しているカナダのケベック州出身のグループの中で、ポーレンやハルモニウム、マネイジュと並んで人気の高いオピュス・サンクの唯一のアルバム。そのサウンドはジャズロックのアプローチのあるリズム隊をベースに、繊細なピアノと抒情的なフルート、そしてロマンティックな響きのあるフランス語のヴォーカルがノスタルジックな雰囲気を醸し出した幻想的なシンフォニックロックとなっている。後にレーベルが倒産してしまったため、セカンドアルバム用に録音していた楽曲が世に出ることなくグループは解散してしまうが、マーキーの努力もあって本アルバムをVol.1、セカンドアルバムをVol.2として1989年に同時にCD化したことで、早くから日本でも知られるようになった愛すべき名盤である。

 オピュス・サンクはカナダのモントリオールで1976年に結成されたグループである。メンバーはリュック・ゴーティエ(ギター)、オリヴィエ・ディプレシ(キーボード)、クリスチャン・レオン・ラシーヌ(ベース)、セルジュ・ノレ(フルート)、ジャン・ピエール・ラシコ(パーカッション、ドラムス)の5人編成で、全員がヴォーカルを務めている。彼らがグループ結成に至るまでの経緯は不明だが、それぞれモントリオールを拠点として活動していたミュージシャンであり、作曲を兼ねていたフルート奏者のセルジュとキーボーディストのオリヴィエを中心に結成したグループであると思われる。彼らは結成早々にカナダのセレブレーションというレーベルと契約をしている。このレーベルはカナダで初めてカセットと8トラックテープを製造した会社として有名なクオリティ・レコーズ・リミテッドの雑誌部門から始まり、パトリック・ノーマンの『ラヴ・イズ・オール』のシングルを出すために独立して1970年に設立されたレーベルである。このレーベルには過去にハルモニウムという上質なプログレッシヴグループを輩出し、2枚のアルバムをリリースしている。しかし、ハルモニウムがアメリカツアーで成功すると、1976年にレーベルから離れて大手CBSと契約してしまう。そんな流れからハルモニウムの次を担うプログレッシヴグループとしてオピュス・サンクに対するレーベルの期待は高かったに違いない。彼らはメンバーが制作した曲以外に、モントリオールを拠点とするバーナード・ホーグやミシェル・ドーランが制作した曲を取り入れ、さらに同レーベルで活躍していたモントリオールを拠点とするカナダ人アーティストのアラン・ラランセットをエンジニア兼アレンジャーとして迎えてレコーディングを開始している。こうして完成したアルバムは、1976年にデビューアルバムとして『Contre-Courant(流れに逆らって)』というタイトルでリリースされることになる。アルバムは鋭いリズムの中で繊細なピアノとフルート、ギターを奏でており、さらに哀愁のあるヴォーカルがヨーロピアン的な雰囲気を漂わせた幻想的なシンフォニックロックとなっている。

★曲目★ 
01.Le Temps Des Pissenlits(タンポポの時代)
02.Il Était Magicien(彼は手品師)
03.Les Saigneurs(サイナール)
04.Le Bal(球)
05.Contre-Courant(流れに逆らって)

 アルバムの1曲目の『タンポポの時代』は、流麗なピアノの調べから牧歌的で美しいフルートとのアンサンブルデュオから始まり、細かいロールを繰り返すドラミングを皮切りにファンタジックなフルートを中心とした楽曲になっていく。後にパーカッションとジャジーなピアノをバックに淡いヴォーカルとメロウなコーラスになり、リズミカルでありながら緊張感のあるサウンドを作り上げた名曲である。2曲目の『彼は手品師』は、アコースティックギターのアルペジオから変拍子、および緩急のあるリズム上でピアノやフルートが奏でられるファンタジックな楽曲。ジャズ的なアプローチが強く、めぐるましく展開する中で繊細でたおやかなメロディが紡がれている。中盤で複数のギターを中心としたアンサンブルを挟み、後半にはフルートやピアノ、ディストーションの利いたギターなどが飛び交うアイデア満載の内容になっている。3曲目の『サイナール』は、幽玄なフルートと遠くから聴こえるピアノやキーボード、ギターの爪弾きといった静寂な雰囲気から音が止まり、酒場で弾いているようなクラシックギターの独奏が始まる。後にパーカッションのリズムとピアノに合わせたコーラスやフルート、そして突然の不協和音、そして変拍子を伴うテクニカルな曲調に思わず息をのむ。全く先の読めない展開の中で、トラッド風のヴォーカルを間に挟みながら、美しいギターとピアノによるロマンティックなヴォーカル曲に変貌していくという、まさに奇想天外な曲である。4曲目の『球』は、ギターとピアノのアンサンブルにチェンバロをフィーチャーした抒情的なヴォーカル&コーラスが美しい楽曲。フルートとピアノのアンサンブルデュオを挟んで、エレクトリックピアノ、シンセサイザーをバックにしたヴォーカルになり、最後はテクニカルなジャズ風のアンサンブルで終わっている。5曲目の『流れに逆らって』は、ギターやフルートとの掛け合いのあるエレガントなピアノを中心とした少し歪んだクラシカルな楽曲。最後は大胆にハモンドオルガンが奏でられるなど、相変わらず忙しい展開になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ギターやヴォーカル、コーラスはトラディショナルフォーク、リズムはジャズテイスト、ピアノやフルートはクラシックといった三拍子が互いに緻密に組み込まれており、それを緩急合わせて目ぐるましく展開するプログレッシヴロックらしいサウンドに昇華させている。先の読めないスリリングな演奏の中で、ひと際光るメロディアスなヴォーカルとエレガントなフルートはアルバム全体をより幻想性を高めているように思える。

 アルバムは評価が高かったものの、レーベルがほとんどプロモーションを行わなかったため、商業的には芳しくなかったと言われている。それでも、彼らはケベック州を中心に規模の小さなコンサートを行い、地道に活動を続けたという。彼らはセカンドアルバム用のレコーディングを開始するが、グループに不幸が襲い掛かることになる。それはレーベルの経営の悪化である。以前から経営状態があまり良くなかったらしく、その後数年で倒産している。彼らはスタジオを追われて録音したテープは世に出ることなく、1977年にグループは解散している。しかし、そのセカンドアルバム用に完了した録音テープは、マーキーの努力によって1989年に『Sérieux Ou Pas』というタイトル名でファーストと同時に初CD化を果たしている。内容はインストゥメンタル中心で、本アルバムを凌ぐ完成度を誇ったアルバムとなっているという。解散後のメンバーの足取りは掴んでいないが、ギタリストのリュック・ゴーティエとベーシストのクリスチャン・レオン・ラシーヌが新たなドラマーを加えたトリオグループ、コンサートというバンドを結成し、1980年に1枚のアルバムをリリースしている。グループを結成してたった1年あまりで解散してしまったオピュス・サンクだが、そのヨーロピアン的な気品と神秘性、そしてケベック出身のグループにある透明感を兼ね揃えたクオリティの高いサウンドは、40年以上経った現在でもまったく色褪せていない。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はヨーロッパの気品漂うケベック州のテクニカル・シンフォニックロックグループ、オピュス・サンクのデビューアルバム『流れに逆らって』を紹介しました。このアルバムを手に入れたのはプラケースの2004年のベル・アンティーク盤が最初です。カナダ産のプログレッシヴロックは遅咲きでして、ポーレンやエト・セトラも未だ知らなかった2000年代に1つだけ知っていたマネイジュのアルバムを皮切りに聴き始めたのが本アルバムです。今ではCD化されているカナダ産プログレッシヴロックを相応に聴くことができましたが、共通しているのはフォークロックとクラシックを融合した透明感あふれる楽曲が多いことに気付かされます。本アルバムのメロディアスなヴォーカルやハーモニーは、同じレーベルのハルモニウムを思わせますが、そこに複雑な変拍子をはじめとする目ぐるましい展開はテクニカルというより奇想天外です。それでも、実験的で即興的かと思いきや緻密に計算されたアンサンブルになっていて、キーボードは抑え気味ですが他の楽器がそれを補って余りあります。特にエレガントなフルートと緩急のあるピアノが素晴らしく、クラシックとジャズが行き交う演奏はため息ものです。彼らの演奏にはまだ“遊び”があり、これからフォークとジャズ、クラシックを融合した新たな音楽を作り出すかもしれないといった予感を抱き始めたところで、たった1枚のアルバムで解散とは残念で仕方がないです。実はその後にセカンドアルバムもCD化されていると知って買いに行ったものの、これがなかなか出会うことが叶わずにいます。

 さて、オピュス・サンクは先にも述べた通り、マーキーの努力もあって1989年にセカンドと共にCD化を果たしています。これまでカナダ産シンフォニックロックといえばサーガやFM、ヘッズ・イン・ザ・スカイといった数えるほどしかリリースされてこなかったそうです。でも、当時の1984年のマーキー誌15号~32号には多くのカナディアン・プログレッシヴロックを紹介されていたらしく、オピュス・サンクの評価が非常に高かったと言われています。つまり、CD化は日本のプログレファンの要望に応えたということですが、世界中どこ探しても日本ほどプログレ愛の強い国は無いな~と、今さらながら感心しています。

 本アルバムのタイトルを直訳すると『逆流』です。ニューウェーヴやディスコの音楽が流行しつつあったカナダで、その流れに逆らってまで追求したクラシカルでテクニカルなプログレッシヴロック作品です。北米でありながらヨーロピアンな気品が漂うケベック州ならではの幻想的なサウンドをぜひ聴いてみてほしいです。

それではまたっ!