【今日の1枚】Gòtic/Escènes(ゴティック/夢の光景) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gòtic/Escènes
ゴティック/夢の光景
1978年リリース

煌びやかなエレピと美しいフルートが織りなす
極上のシンフォニックロック

 1970年代後半に突如として現れたスペインの伝説的なプログレッシヴロックグループ、ゴティックの唯一のアルバム。そのサウンドはフォークやジャズにインスパイアされた美しいエレクトリックピアノやシンセサイザー、そしてフルートやピッコロをメインに奏でた全曲インストゥメンタルのシンフォニックロックになっており、英国のキャメルのような穏やかで温かみのあるアンサンブルが特徴となっている。そのプログレッシヴロックとジャズロックの一歩先を見据えた巧みな演奏と洗練された楽曲は、後のフュージョン/クロスオーヴァーのグループに多大なる影響を与えたスペイン屈指の名盤である。

 ゴティックは1975年にスペインのバルセロナで結成したグループである。1975年のスペインといえば、1936年に勃発したスペイン内戦から長らく独裁政権の地位にいたフランコが亡くなり、徐々に近代民主主義に移行していった時期である。そんな中、1970年初期から活動する学生デュオグループ、ジョルディスのジョルディ・ヴィラプリニョ(オルガン)とジョルディ・マルティ(ドラム、パーカッション)の2人は、英国でジェネシス、イエスといったプログレッシヴロックが盛況であることを知り、スペインの伝統的なエスニック音楽やカタルーニャで人気だったジャズを融合した多文化的なスタイルを模索したという。弾圧されてきたロックやポップなどが再度復興し、多くのロックグループやミュージシャンが表立って活動し始めた時期である。彼の新たな音楽性に興味を持ち、バルセロナ市立音楽学校を卒業して作曲やフルート奏者として著名なジェップ・ヌイクス(フルート、ピッコロ)や後にスペインの名ベーシストとなるラファエル・エスコーテ(ベース)、ヌイクスと同様にバルセロナ市立音楽学校を卒業してギター教師となっていたジョルディ・コディナ(クラシックギター)が加入し、ゴティックというグループを結成することになる。ジョルディ・ヴィラプリニョは結成前から英国の天才キーボーディストであるキース・エマーソンを標榜しており、エレクトリックピアノをはじめ、モーグシンセサイザー、クラヴィネット、ハモンドオルガンを手に入れて弾きこなしたという。彼らは地元のバルセロナのナイトクラブを中心にライヴを行いつつ、スタジオでリハーサルを繰り返している。録音したデモテープをいくつかのレコード会社に送りつけ、最終的に後にフォノミュージックと名に変わるスペインのムービープレイというレーベルと契約することになる。ムービープレイはカナリオスやグラナダといったプログレッシヴロックグループのアルバムを輩出している大手レーベルである。彼らはレコーディングスタジオGema-1に入り、ギタリストのジョセップ・アルバート・クベロを加えてライヴセッションで録音。1978年にデビューアルバム『夢の光景』をリリースすることになる。そのアルバムはジョルディ・ヴィラプリニョのシンフォニックなオルガンやシンセサイザー、そしてジェップ・ヌイクスの美しいフルートを中心に、フォークやジャズのエッセンスのある極上のシンフォニックロックとなっている。
 
★曲目★
01.Escenes De La Terra En Festa I De La Mar En Calma(祭りの大地と静かな海の情景)
02.Imprompt - I(即興曲Ⅰ)
03.Jocs D'Ocells(オセロ・ゲーム)
04.La Revolucio(革命)
05.Dança D'estiu(踊り)
06.I Tu Que Ho Veies Tot Tan Facil(安らぎの世界)
07.Historia D'una Gota D'aigua(アイヴァの涙の物語)

 アルバムの1曲目の『祭りの大地と静かな海の情景』は、煌びやかなエレクトリックピアノの旋律と美しいフルートの導きから、リズム隊が加わると躍動感のあるアンサンブルに思わず息をのむ楽曲。その後はモーグによる深淵な響きと幽玄なフルートの音色による緩やかなサウンドになり、雄大なる静かな海を表現している。最後は再びエレクトリックピアノとフルートのアンサンブルで幕を閉じるというゴティックの音楽性を良く表した曲である。2曲目の『即興曲Ⅰ』は、グループのジャジーな側面に焦点を当てたリズム感のある楽曲。多彩なドラミングとシンセサイザーを駆使したアンサンブルの中から、崇高なフルートとマハヴィシュヌ・オーケストラを思わせるギターフレーズが飛び交う。後半ではピアノも加わり、後のジャズフュージョン的なサウンドを作り出している。3曲目の『オセロ・ゲーム』は、ソフトなフルートとピアノ、そしてバックには荘厳なメロトロンが鳴り響くメロディアスな楽曲。平和で優雅なムードを保っており、最後は美しいフルートのソロで終えている。4曲目の『革命』は、眠りを誘うような繊細なエレクトリックピアノとフルートの優しい響きから始まり、リズム隊が加わるとスタッカートのジャジーな展開となる楽曲。フルートやピッコロが主役となり、手拍子やマーチングドラムがあったりと優雅な雰囲気になっている。5曲目の『踊り』は、キャメル的なメロディとカンタベリーミュージックらしいリズムを湛えた楽曲。エレクトリックピアノやクラヴィネット、ハモンドオルガンといった多彩なキーボードを駆使しており、フルートやギターの絡みがゴティックの音楽の方向性を指し示しているようである。6曲目の『安らぎの世界』は、優しいアコースティックギターとメロトロンの響きから始まり、キャメルのファーストアルバムに収録されている『ネヴァー・レット・ゴー』にも似た楽曲。リズム隊とフルートが加わると一層抒情的になり、中盤には泣きのギター、荘厳なハモンドオルガンのソロを経て、柔らかなフルートとオルガン共に変拍子のあるテクニカルなアンサンブルに変貌する。7曲目の『アイヴァの涙の物語』は、10分を越える楽曲となっており、アコースティックギターのストロークとフルートによるバラード調の楽曲。メロディーは牧歌的で内省的だが、ハモンドオルガンとエレクトリックピアノ、そしてエレクトリックギターが楽曲に彩りを与えている。最後は端正なピアノとフルート、そしてアコースティックギターの極上のアンサンブルとなり、メロトロンと共にフィナーレに向かっていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、フルートとキーボードを中心にすべてが優雅さと華麗さに満ちあふれたアンサンブルとなっており、至福とも言えるシンフォニックジャズとなっている。キャメルを筆頭とした1970年代のプログレッシヴロックとリターン・トゥ・フォーエヴァーやマハヴィシュヌ・オーケストラといったジャズロック、さらにはカンタベリーミュージックの利点を最大限に活かした次なる音楽を提示した素晴らしきアルバムである。この洗練された楽曲は、やがて後のフュージョン/クロスオーヴァー、またはムード音楽に影響を与えていくことになる。

 ゴティックはこれだけ素晴らしいアルバムを提示したものの、市場の反応は冷たく商業的には奮わなかったという。彼らは本アルバムのレコーディング中に次のセカンドアルバム用の曲も録音しており、そのデモテープをレーベルに提出したが拒否される。理由は十分に洗練されていないということだったが、単に売れないとレーベル側が判断したのだろう。メンバーは自分たちの音楽が否定されたことに嘆いて、1978年に解散することになる。解散後、キーボーディストのジョルディ・ヴィラプリニョはバルセロナ市立音楽院やセルベラ市立音楽院、カタルーニャ音楽院でピアノ教師となり、ドラマーのジョルディ・マルティは地元でセッションミュージシャンとして活躍。フルートのジェップ・ヌイクスはスペインのクラシック楽団などで著名なフルート奏者となるが、残念ながら1998年4月26日に53歳の若さでバルセロナで亡くなっている。ベーシストのラファエル・エスコーテは、フュージョングループであるカタロニアを経て、1982年にスペインで最も人気の高いジャズフュージョングループとなるペガサスを創始者の1人となっている。本アルバムは廃盤となったが、1980年代のフュージョン/クロスオーヴァーの盛況の高まりから本アルバムが俄然注目され、1988年のCD化を皮切りに人気となっている。また、1996年に日本ではプログレッシヴロックの再興の中でベルアンティークより初CD化が果たされ、多くの日本のプログレファンに知れ渡ることになる。その流れから2013年にジョルディ兄弟を含むメンバーが、レーベルから録音したテープを回収。当時のエンジニアであったエンリック・カタラとジョルディ・ヴィダルの助けを借りて、セカンドアルバム用の未発表曲をデジタルリマスター化に成功している。その高品質となった楽曲は『GÒTIC II - Gegants i serpentines』というタイトルで、約40年の時を越えて2016年にリリースされている。リマスター化する過程のほとんどはクラウドファンディングで賄われたという異例のアルバムであり、その活き活きとしたグルーヴ感は、本アルバムに劣らない完成度を誇っている。


 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスペイン屈指のシンフォニックロックグループであるゴティックのデビューアルバム『夢の光景』を紹介しました。私がこのアルバムを入手したのは、2005年にリリースされたワーナーのデジパック盤のCDですが、その美しいジャケットアートに惹かれた買ったことを覚えています。最近、ベルアンティーク盤のSHM-CDの紙ジャケが出ていたんですね。某中古CDショップで見かけて思わず小躍りしたものの、値段が倍近くになっていて途方に暮れました。その価値は理解できますが、貧乏人には辛い価格でしたわ~。

 さて、本アルバムですが、全体的に優雅なひと時を与えてくれる極上のシンフォニックロックになっています。キャメルの『スノー・グース~白雁~』や『ムーンマッドネス』あたりの楽曲と、キーボード主体のリターン・トゥ・フォーエヴァーの楽曲の両方を融合したような洗練したサウンドに思わず心が躍ります。とにかくエレクトリックピアノを中心とした多彩なキーボードと崇高なフルートの精密とも言える配置が素晴らしく、聴き手を意識したアンサンブルはメロディアスにとどまらず至福といっても良いです。この手のインストゥメンタル曲は単調になりがちですが、曲は決して派手ではないものの、退屈させない工夫と構成がしっかりしており、繊細な変化を取り入れたアレンジ力の高さは素晴らしいのひと言です。よくよく聴いてみると、ドラムとベースのリズム隊の安定感は恐ろしく、それぞれのミュージシャンが自分の仕事をきちんとこなしていることが分かります。シンフォニックジャズロックという言葉を使っていますが、牧歌的なフォークをベースにしているためか、曲自体に優しさと安らぎに満ちています。こういった秀逸ともいえる楽器と曲構成の完成度から、後のフュージョン/クロスオーヴァーに関わるミュージシャンたちのベンチマークになったのかも知れません。

 本アルバムはフォークやジャズにインスパイアされた美しいエレクトリックピアノやシンセサイザー、そしてフルートが織りなす極上のサウンドになっています。フルート好きにはたまらないアルバムです。ぜひ、聴いたことのない方は堪能してみてくださいな。

それではまたっ!