【今日の1枚】IQ/Tales From The Lush Attic | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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IQ/Tales From The Lush Attice
アイキュー/テイルズ・フロム・ザ・ラッシュ・アティック
1983年リリース

卓越した演奏力で独自の世界観を築き上げた
英国が誇るネオプログレッシヴロック

 1980年代の始まりと共に誕生し、現在でも活動を続けるネオプログレッシヴロックグループ、IQのデビューアルバム。そのサウンドは1970年代のプログレッシヴロックを継承し、ジェネシスをベースにしたギターとキーボードによる卓越したシンフォニックアルバムとなっている。デビュー当時はパンク/ニューウェーヴの台頭で商業的な成功を収めることはできかったが、長年にわたって忠実な支持者を築き、ペンドラゴンやマリリオンと共に1980年代を駆け抜けた英国ネオプログレッシヴロックの1グループとしての地位を確立した偉大なるバンドである。

 IQは英国のプログレッシヴロックが低迷期を迎えた1981年に、元The Lensのギタリストだったマイク・ホルムズとキーボーディストのマーティン・オーフォードによって、英国のハンプシャー州サウサンプトンで結成されたグループである。母体となったThe Lensは、ジェネシスのコンサートのチケットを探していたマイク・ホルムズとヴォーカリストとなるピーター・ニコルズ、ドラマーのナイル・ヘイデンが偶然出会い、1977年にThe Gilnというグループが結成したのが始まりである。彼らはすぐにベーシストのロブ・トンプソンとキーボーディストのピーター・ブラックラーを採用して、グループ名をThe Lensと名を変えて活動を開始している。彼らは小さなホールでライヴを行い、ジェネシスのコピーバンドとして人気を集めていたが、1978年にトンプソンとブラックラーが脱退。新たなキーボーディストにマーティン・オーフォードが加入したことで、グループはオリジナル曲を演奏するようになる。彼らは古城跡で有名なネットリー・アビーでショーを行うなど数々のコンサートを行い、多くのメンバーチェンジを繰り返しながら成長を続けていたが、音楽の方向性やグループの将来の不安もあって1981年に解散することになる。メンバーだったギタリストだったマイク・ホルムズとキーボーディストのマーティン・オーフォードは、1970年代のプログレッシヴロックを継承するグループを立ち上げようと考え、ベーシストのティム・イーサウとドラマーのマーク・リダウトを迎え、同年の1981年にIQを結成。彼らはオリジナル曲を元にリハーサルを行い、デビュー用のアルバムを録音をするために、1982年にヴォーカリストとして元The Lensのピーター・ニコルズに声をかけている。レコーディングの途中でドラマーのマーク・リダウトがJadisというグループに加入するため脱退してしまうが、代わりにポール・クックが加入し、彼らのデビューアルバムとなる『Seven Stories Into Eight』を1982年にリリースすることになる。そのアルバムはカセットテープで販売され、プログレッシヴロックのマニアの間で話題となった作品となっている。なお、デビューアルバムは1998年にGEPから『Seven Stories Into 98』というタイトルでCD化されている。手ごたえを感じた彼らはその後、英国全土でギグを重ね、やがてロンドンのマーキー・クラブのレギュラーグループの一員として演奏するようになる。そして1983年になると、IQと同じくプログレッシヴグループとして話題となっていたマリリオンがアルバム『Script For A Jester's Tear(独り芝居の道化師)』でデビューしたのを機に、多くのプログレファンから後押しされる形で自主レーベルでリリースしたのが、本アルバム『テイルズ・フロム・ザ・ラッシュ・アティック』である。そのアルバムは20分近くの大曲を含むジェネシススタイルに乗っ取ったギターワークとキーボードによる、静と動のインタープレイの魅力が詰まった逸品になっている。

★曲目★
01.The Last Human Gateway(ザ・ラスト・ヒューマン・ゲイトウェイ)
02.Through The Corridors ~Oh! Shit Me~(廊下を抜けて~ああ、しまった!~)
03.Awake And Nervous(アウェイク・アンド・ナーバス)
04.My Baby Treats Me Right 'Cos I'm A Hard Lovin' Man All Night Long(マイ・ベイビー・トリーツ・ミー・ライト・コーズ・アイム・ア・ハード・ラヴィン・マン・オール・ナイト・ロング)
05.The Enemy Smacks(敵の舌打ち)
★ボーナストラック★
06.Wintertell(ウィンターテル)
07.The Last Human Gateway ~End Section, Alternative Vocals~(ザ・ラスト・ヒューマン・ゲイトウェイ~エンド・セクション 別ヴァージョン~)
08.Just Changing Hands ~Demo~(ジャスト・チェンジング・ハンズ~デモ~)
09.Dans Le Parc Du Château Noir ~Unfinished Demo~(シャトー・ノワールの公園で~デモ~)

 アルバムの1曲目の『ザ・ラスト・ヒューマン・ゲイトウェイ』は、IQの意気込みが感じられる20分近くの大曲。静寂の中から響き渡るフルートの音色から、情熱的なヴォーカル、そしてなだらかに響き渡るシンセサイザーと共に盛り上がっていく楽曲は、ピンク・フロイドの『アニマルズ』や初期のジェネシスを思わせる非常にプログレッシヴなナンバー。軽快ながらも手数の多いドラミング、トニー・バンクスのようなオルガンワークなど、次々と転調を重ねながらIQ特有の抒情的なサウンドが紡ぎだされている。ピーター・ガブリエルのようなヴォーカルを際立たせつつ、シンセサイザーとメロトロンによる静の部分の魅力が示された聴き応えのある逸品になっている。2曲目の『廊下を抜けて~ああ、しまった!~』は、軽快なリズム上で歌うストレートなヴォーカルと忙しないギターリフが特徴の短い楽曲。歌詞は小児性愛者を揶揄するような内容になっている。3曲目の『アウェイク・アンド・ナーバス』は、優れたリズムセクションとキーボードをメインにしたシンフォニックロックになっており、最もジェネシスらしさが際立った楽曲。クールなグルーヴに落ち着いてから、聖歌隊のようなコーラスと共に斬り込むギターリフが素晴らしい。ヴォーカルパートはジェネシスの『ナーサリー・クライム』のようである。4曲目の『マイ・ベイビー・トリーツ・ミー ~』は、キーボーディストのマーティン・オーフォードによるピアノソロ。右手で素早いオスティナートを演奏し、左手で流麗な旋律を伴ったドラマティックな曲になっている。5曲目の『敵の舌打ち』は、イントロから激しいギターとオルガンから始まり、キーとハーモニーが非常にスムーズに変化していく彼らの技巧的な演奏が際立った楽曲。メロトロンやフルートをバックにしたヴォーカルやブルース調のパッセージ、メロディアスなギターソロなど、いくつものフレーズと曲調を変えながら、IQ独自のスタイルを確立したともいえる内容になっている。ボーナストラックの『ウィンターテル』は、2012年の録音の楽曲で、ギターをメインにしたハーモニー豊かなヴォーカル曲。『ザ・ラスト・ヒューマン・ゲイトウェイ』は、1曲目のエンディングでのヴォーカル違いの別ヴァージョン。残りの2曲は収録前のデモヴァージョンである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、最初はピーター・ガブリエル時代の初期のジェネシスを彷彿とさせる軽快な演奏が続き、曲が進むにつれてIQらしい独特の世界観を示していっているように感じる。メロトロンをはじめとするキーボードに頼ることなく、ギターのインタープレイや的確なドラミングなど、バランス感のある卓越した演奏が非常に心地よい。また、1980年代らしいニューウェーヴ的なアイデアも隠し味として使われているところも魅力的である。

 初のレコードリリースとなった本アルバムは好評を博し、多くのプログレッシヴファンから注目を集めたという。時に別のネオプログレッシヴロックグループであるマリリオンも高く評価され、1984年にはペンドラゴンがデビューアルバムで表舞台に出たことでプログレッシヴロックのリバイバルの機運が上昇。その中でリリースしたサードアルバム『ザ・ウェイク』で、一気にIQの名声が確立したといえる。彼らはロンドンのマーキー・クラブを中心に英国で毎年200回以上のギグを行い、熱狂的なファンを獲得している。しかし、同じ年にヴォーカリストのピーター・ニコルズが、Niadem's Ghostというグループを結成するためにIQを脱退。代わりにポール・メネルが加入。1986年には初のライヴアルバム『リヴィング・プルーフ』がリリースされ、1987年にリリースした『ノムザモ』は、英国だけではなくオランダでも人気を博したという。1989年に『Are You Sitting Comfortably?』をリリース後に、レーベルのサポートが無いことに不満を抱いたポール・メネルとベーシストのティム・イーサウ(2011年に復帰)が脱退。代わりにレス・マーシャルがベーシストとして加入し、1990年にはピーター・ニコルズがグループに復帰し、ロンドンとパリでのコンサートで熱狂的に迎えられる。このコンサートにはマグナムやマイク+ザ・メカニックスが同行している。ようやくメンバーが出揃って次のアルバム制作を進めていた矢先に、レス・マーシャルが急死してしまい、グループはしばらく停滞することになる。彼らは新たに自らのレーベル“Giant Electric Pea”を設立し、1991年にライヴと未発表曲を収めた『J'ai Pollette D'arnu』をリリース。この時に新たなベーシストにジョン・ジョーウィットが加入している。以後、1990年代から毎年のようにアルバムをリリースし、2004年にリリースした『Dark Matter』は、2000年代の最高傑作と言われ、多くの音楽誌でアルバム・オブ・ザ・イヤーに輝いている。2005年にはドラマーのポール・クックが脱退(2009年に復帰)し、代わりに元ロバート・プラント・バンドのアンディ・エドワーズと交代。2007年にはキーボーディストのマーティン・オーフォードが脱退して、元ダーウィンズ・レディオのマーク・ウェストワースと交代。さらに2011年にはベーシストのジョン・ジョーウィットが脱退するなど、メンバーチェンジがあったものの、30周年記念の英国と欧州のツアーを成功させている。2019年には5年ぶりとなるスタジオアルバム『Resistance』をリリースし、その後もオリジナルメンバーのマイク・ホルムズ、ピーター・ニコルズ、ティム・イーサウ、ポール・クックの4人と、新たに加入したキーボーディストのニール・デュラントと共に、現在でも精力的に活動を続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はマリリオンやペンドラゴンといった1980年代の始まりと共に産声を上げたネオプログレッシヴロックグループ、IQの『テイルズ・フロム・ザ・ラッシュ・アティック』を紹介しました。このアルバムを入手する前に『Dark Matter』を先に聴いていまして、そのクオリティの高さに圧倒して紙ジャケ化した際に一気に聴いたものです。商業的にはマリリオンと比べて決して成功したグループとは言えませんが、ジェネシスの幻影を追いつつも独自のスタイルを確立したともいえるアルバムが本作といえます。初のレコード化となった本作ですが、20分近くの大曲を含む意欲的な内容になっていて、その完成度の高さは驚いてしまいます。個人的にはピーター・ガブリエルばりのヴォーカルを際立たせた軽快なギターとオルガンワークが素晴らしい1曲目と、転調を重ねたテクニカルなフレーズが散りばめられた5曲目が好きです。静と動といったジェネシスらしさとIQの個性の間を行き来する音楽性の中で、少しだけダークな雰囲気を漂わせているのが魅力的です。決してジェネシスのクローンとはいえない世界観を持っていることが分かります。

 さて、1980年代初頭にIQをはじめ、マリリオンやペンドラゴンといったグループの音楽は、ネオプログレッシヴロックと名付けられていますが、そもそもこのジャンルは当時の音楽プレスが、これらのグループを説明するために作られた言葉です。今では定着しているジャンルですが、実はIQのキーボーディストであるマーティン・オーフォードがその用語の使用に激しく反対していたそうです。理由はジェネシスやイエスなどの1970年代のグループによって見捨てられたプログレッシヴロックスタイルを続けていると単に思われてしまうことに危惧したのです。彼は自分たちのグループには音楽的影響の幅広い折衷的な選択を持っていると主張しています。確かに彼らの音楽は派生的でありつつも、ジャンルにとらわれず常に個性を確立するための工夫に余念が無いといっても良いと思います。そうした進化するグループだからこそ、後に『Dark Matter』という傑作に繋がったのかも知れませんね。

 本アルバムはジェネシス的な感性の中で独自のスタイルを確立した記念すべき作品です。ぜひ、聴いたことが無い方は一度聴いてみてくださいませ。

それではまたっ!