【今日の1枚】Bubu/Anabelas(ブブ/アナベラス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Bubu/Anabelas
ブブ/アナベラス
1978年リリース

シンフォニックとジャズの狭間を行き交う
圧巻の演奏が魅力的な南米プログレの名盤

 南米アルゼンチンが生んだプログレッシヴロックグループ、ブブが1978年にリリースした唯一作。そのサウンドはフルートやサックス、ヴァイオリンなどの生演奏と硬質なメロトロンの楽器による、クラシックとジャズの要素を巧みに取り入れた圧倒的な完成度を誇っている。混沌としたブラスセクションによる不協和音、重厚なリズムセクションに乗せたクラシカルな抒情美が入り混じっており、キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』のシンフォニック要素と『太陽と戦慄』あたりのジャズ要素と彷彿とさせた南米プログレの名盤である。

 ブブは1975年頃にアルゼンチンの首都であるブエノスアイレスで、作曲と編曲を担当するダニエル・アンドレオーリが中心となって結成されたグループである。当時のアルゼンチンは多くのロックグループが存在していたが、1976年3月に起きたホルヘ・ラファエル・ビデラ将軍による軍事クーデターによって、厳しい弾圧と検閲のもとに置かれてしまい、ロックそのものがアンダーグランド化していた時代である。それでもALASやINVISIBLE、CRUSISといったグループによるプログレッシヴロックの人気は依然として高く、軍事政権下でも小さなクラブやバーなどでライヴを続けていたという。そんな中、ダニエル・アンドレオーリは1958年に「アルゼンチンが位置する南米という視点の中から、科学・文化・芸術の発展に繋がる、より高度な研究を推し進める」事を旨として設立されたトルクァト・ディ・テラ研究所(現トルクァト・ディ・テラ大学)の学生であり、自由闊達な精神と芸術的な価値基準を持った同世代のメンバーを集めた音楽グループを結成しようと考えていたという。そんなアンドレオーリが20歳の頃、当時オリオンズ・ベートーヴェンというグループのメンバーだったドラマーのホルヘ・リヒテンシュタインと出会う。リヒテンシュタインを通じてリカルド・ラ・シビタ(フルート)、セルジオ・ブロステイン(ギター)、ノエル・レイエス(ヴァイオリン)、そしてミグエル・ザバレータ(ヴォーカル)が集まり、後にサックス奏者のウィム・フォルツマンが加わる。最初はSIONというグループ名でブエノスアイレス市内のベルグラーノで演奏を行っていたという。そのメンバーの中で一番音楽的に目利きのあったフォルツマンから、この音楽を楽譜にしてオーディションでメンバーを集めて、適切なプレイヤーに演奏させるべきという助言を得て、アンドレオーリは一度解散して改めてフォルツマンとメンバーを募って結成されたのがブブである。

 アンドレオーリは音楽院で勉強を続けるために奨学金を得ていたところであり、当初ベースを弾いていたが、勉学を続けるために何日間も練習する演奏自体を辞めて作曲や編曲に集中するようになる。この時にアルバムに1曲目に収録される『黄色い日の求愛』を作曲しており、個々のミュージシャン用の楽譜を用意している。ベースは彼の代わりにエドガルド・フォリーノが担当し、新たなギタリストとしてトエドゥアルド・ロガッティ、ドラマーにアンドレオーリの幼馴染であるエドゥアルド・カルペラが加入する。さらに女性のセシリア・テンコーニ(フルート)、セルジョ・ポリッツィ(ヴァイオリン)、ミグエル・ザバレータ(ヴォーカル)が集まり、1976年デル・グロボ劇場でデビューを飾っている。当時のダニエル・アンドレオーリはストラヴィンスキーやオリヴィエ・メシアンといった現代音楽やクラシックを聴いていたが、イギリスのプログレッシヴロックの大御所であるキング・クリムゾンをよく好んで聴いていたという。このメンバーでリハーサルやレコーディングを行い、最初にリズムセクション、次にリズムセクションとギター、そして別セッションでヴァイオリンやフルート、サックスという形で録音し、後に全体をミックスしている。こうしてレコーディングに時間をかけたデビューアルバム『アナベラス』が1978年にリリースされる。アルバムはダニエル・アンドレオーリが好んだとされるキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』のシンフォニック要素と『太陽と戦慄』あたりのジャズ要素を巧みに取り入れた、硬派なプログレッシヴロックに昇華した傑作となっている。

★曲目★
01.El Cortejo De Un Día Amarillo(黄色い日の求愛)
 a.Danza De Las Atlántides(アトランティスの踊り)
 b.Locomotora Blues(機関車のブルース)
02.El Viaje De Anabelas(アナベラスの旅)
03.Sueños De Maniquí(マネキン人形の夢)
04.El Viaje De Anabelas ~Live Version~(アナベラスの旅~ライヴバージョン~)
05.Sueños De Maniquí ~Live Version~(マネキン人形の夢~ライヴバージョン~)

 アルバムはレコードでいうA面をフルに収録した約20分に及ぶ組曲と、B面には10分前後の2曲が収録された構成になっている。1曲目の『黄色い日の求愛』は、前半に『アトランティスの踊り』と後半に『機関車のブルース』が含まれている。混沌としたイントロから不協和音に近いブラスセクションを中心に始まり、重厚なリズムセクションに乗ったアンサンブルが展開される。非常にダークな雰囲気に包まれたメロディが奏でられつつ、畳かけるようなギターと共にめぐるましくテンポが変化していく。緩急のあるリズム上でヴァイオリンがリードしているかと思いきやフルートやサックスが暴れるように弾いていたりと、フリー色の強いインプロゼーションが繰り広げられている。後半ではスローなテンポでありながら呻くようなブラスセクションと小刻みなリズムセクションが続き、ストラヴィンスキーの『春の祭典』を感じさせるようなコーラスが展開される。ジャズ色の強いサックスのソロを経て、ロングトーンのギターが縦横無尽に弾きまくられ、再度ダークなヴァイオリンとフルートによるオープニングテーマで幕を下ろしている。2曲目の『アナベラスの旅』は、不穏なコーラスからヴァイオリンによるクラシカルでありながらアヴァンギャルドな演奏が印象的な楽曲。後にアコースティックな楽器による演奏に変わり、ザバレータによる伸びやかなヴォーカルパートになる。フルートによるブレイクの後、ヴァイオリンとサックスによるスリリングなインタープレイとなり、コーラスと相まって非常に優雅な演奏になる。さらにブレイクしてフルートを中心にヴァイオリン、ギターによる混沌とした演奏となり、不協から次第にメロディが整っていって、陽気なロックンロールになっていく。最後はヴァイオリンによる抒情性たっぷりのソロがあり、このあたりの曲の流れはアンドレオーリの編曲の妙といったところだろう。3曲目の『マネキン人形の夢』は、朝焼けのようなピアノとヴォーカルから目覚めるようなロングトーンのギター、後にフルートやサックスを織り交ぜたハイスピードの演奏となる。ギターやブラスセクションがメインとなっているが、プログレッシヴでありながらヘヴィメタルに似たヘッドバンキングぶりのリズムと演奏になっている。ヴォーカルパートになると今度はラテン的な雰囲気に曲調が変わるが、途中のフリーキーで複雑なアンサンブルは健在である。4曲目と5曲目は2016年に再度顔をそろえた時に演奏した『アナベラスの旅』と『マネキン人形の夢』のライヴヴァージョンである。2022年にリイシューされたベル・アンティーク盤に収録されている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、アンドレオーリが楽譜に落としているとはいえ、非常に即興的な楽曲が多いことに気付く。重厚なリズムセクション上でヴァイオリンを中心とした硬派なフルートやサックスはスリリングであり、トエドゥアルド・ロガッティのギターはアンメロディックである。陰と陽を行き来するような音作りはまさしく、初期のキング・クリムゾンと『太陽と戦慄』あたりのキング・クリムゾンを彷彿としており、そこにラテンらしいヴォーカルパートが加わった南米らしいサウンドになっている。

 実はアルバムをリリースした時点でブブは解散している。理由は当時のメンバーは家庭を持っており、お金を生み出すライヴをほぼ毎日行わなくてはならないほど疲弊していたとされている。決定的だったのがヴォーカリストのミグエル・ザバレータとサックス奏者のウィム・フォルツマンとの関係の悪化で、レコーディング後にザバレータがグループを離れたことが大きい。そのためアルバムを発表する以前から解散状態だったという。たった1枚のアルバムを残してブブのメンバーはバラバラになってしまうが、ほとんどはジャズ界を中心としたセッションミュージシャンとなっている。その中でギタリストのトエドゥアルド・ロガッティは、ファン・カルロス・バリエットやレオン・グレコとの共演やアルバムに参加しており、2000年代まで活躍している。また中心人物であったダニエル・アンドレオーリはその後も作曲活動を続け、多くのミュージシャンに曲を提供している。2000年代に入ると中南米のプログレッシヴなアルバムが盛んに取り上げられたことによりCD化が進み、ブブの音楽性がキング・クリムゾンを継承したようなサウンドであることで話題となる。その流れに感応するかのように解散してから38年後の2016年に、アンドレオーリは新たなミュージシャンを集めてブブを再結成する。最初に3曲入りのミニEP『Resplandor』を発表し、そして2018年にセカンドアルバムとなる『El Eco Del Sol』をリリースしている。先立つこと2年前の2016年には、1977年時のレコーディングメンバーが顔を合わせて『アナベラスの旅』と『マネキン人形の夢』のライヴを行った音源を2022年のベル・アンティーク盤に収録している。あの複雑な曲を全く別のメンバーで演奏ができたのは、アンドレオーリが当時の楽譜を残していたことが大きい。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1970年代後半にキング・クリムゾンの音楽性を受け継いだとされるアルゼンチンのプログレッシヴロックグループ、ブブの唯一のアルバムを紹介しました。このアルバムはつい最近、ベル・アンティーク盤の紙ジャケで購入して初めて聴いた作品です。最初に聴いた感想は「ナニコレ?」というほど圧巻でした。確かに1970年代のキング・クリムゾンの音楽性から影響を受けたと思われる楽曲を聴くことができますが、もっと混沌としていてフリーキーでアヴァンギャルドな感じを受けます。不穏ともいえる生楽器とギターによる即興的な演奏がダークな雰囲気を作り上げていますが、一方でストラヴィンスキーを好んだアンドレオーリがアレンジしたコーラスやフルート、メロトロンによるスローな展開がクラシカルであり、一服の清涼剤のような感覚に陥ります。そのような陰と陽を行き来するような音作りは、確かにキング・クリムゾンを彷彿とさせます。先にエテルニダやバナナといったグループのアルバムレビューをはじめ、中南米のプログレッシヴロックのアルバムはいくつか手に入れていますが、私にとって本アルバムは最上位に位置しています。アルゼンチンを含む中南米のグループは、最初の頃はなかなか食指が動きませんでしたが、今では大変満足しています。

 さて、本アルバムは作曲と編曲を手掛けるダニエル・アンドレオーリを中心に作られたアルバムですが、あの複雑で緩急のあるアンサンブルを楽譜に残したというのはある意味凄いことです。改めて聴くとブラスセクションやギターがあまりにも即興的で、楽譜通りに演奏したのかどうかすら分からないフリーキーな演奏とめぐるましい変化はスリリングのひと言です。楽譜に落とした一番の理由は、お金があまり無く皆バイトをしていたので、全員が顔を合わせることなく、別セッションごとにレコーディングしていたためです。結果として楽譜を残したことで、2016年の再結成時には異なったメンバーによる違った解釈が生まれることになるのですが、その手法は極めてクラシック的だと思います。

 そんな本アルバムはラテン気質のあるヴォーカルを含む硬派なプログレッシヴロックです。キング・クリムゾン好きはもちろん、イタリアのイル・バレット・ディ・ブロンゾあたりのダークさが好みの方にはオススメの1枚です。

それではまたっ!