【今日の1枚】Univers Zero/Hérésie(異端) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Univers Zero/Hérésie
ユニヴェル・ゼロ/異端
1979年リリース

20世紀の室内楽から影響を受けた
暗黒系ゴシック・チェンバーロックの傑作

 ベルギー出身のダーク系チェンバーロックの代表格であるユニヴェル・ゼロのセカンドアルバム。20世紀の室内楽から影響されたと思われるオーボエ、バスーン、ヴァイオリン等の生楽器を用いた不協和音と複雑なメロディによる、ユニヴェル・ゼロの作品の中でも最も暗黒な世界を描いた作品となっている。1970年代後半に席巻していたディスコやパンクといった音楽とは対照的に、ロック・イン・オポジション(RIO)と呼ばれる音楽運動の一環として、常に濃密で挑戦的な音楽を生み出すユニヴェル・ゼロの最高傑作として現在でも高く評価されている。

 ユニヴェル・ゼロは、元々1970年にダニエル・ドゥニ(ドラムス)とジャン=リュック・マンドゥリエ(キーボード)の出会いで結成されたベルギー出身のアーカムというグループに遡る。ベーシストを加えた彼らはトリオグループとして、英国のサイケデリック、およびジャズロックグループであるソフト・マシーンに強く影響された独自のサウンドを演奏していたという。しかし、1972年にフランスのカルト的ロックグループ、マグマのオープニングアクトを務めたのを契機に、ジャン=リュック・マンドゥリエ(キーボード)をはじめとするメンバーが次々とマグマに参加してしまい、1972年に解散をしてしまう。解散後、1973年にダニエル・ドゥニはアーカムのメンバーだったクロード・ドゥロン(エレクトリック・フリューゲルホルン、トランペット)と共に、H.P.ラヴクラフトのクトゥルフ神話から命名したネクロノミコンというグループを結成。多くのメンバーを入れ替えつつ、地元でライヴとセッションを中心とした活動をしていたネクロノミコンは、最終的にロジェ・トリゴー(ギター)、ギ・セジュール(ベース)、パトリック・アナピエ(ヴァイオリン)、ジョン・ヴァン・リーメナン(サックス)、ヴァンサン・モトゥーユ(キーボード)が加わった際、1974年にユニヴェル・ゼロに改名している。このユニヴェル・ゼロというグループ名は、ベルギー出身の作家であるジャック・ステルンベールの小説『零の世界』から来ていると言われている。

 ユニヴェル・ゼロとして活動開始した彼らは、ひたすらスタジオでのリハーサルとライヴを中心に行っている。クロード・ドゥロンの脱退をはじめとする多くのメンバーチェンジがあったが、ソフト・マシーンの影響からなるダニエル・ドゥニの独特のドラムを中心とするリズム隊とクラシカルでヨーロッパ的なサウンドを加味させ、4年後の1977年にデビューアルバム『ユニヴェル・ゼロ(1313)』をリリースする。そのアルバムはクラシックとジャズをベースとしたヴァイオリンとバスーンが狂気を演出する戦慄のサウンドとなっており、チェンバーロックというスタイルを確立した傑作となっている。後に彼らはロック・イン・オポジション(異端のロック)と呼ばれるプログレッシブグループの集団を代表する運動が起こり、イギリスの前衛的なロックグループであるヘンリー・カウが、1978年にヨーロッパ本土から4グループをロンドンに招待して「ロック・イン・オポジション」というフェスティバルを開催している。その4グループの1つがベルギーから招待されたユニヴェル・ゼロである。他にイタリアからはストーミー・シックス、スウェーデンからはサムラ・ママス・マンナ、フランスからはエトロン・フー・ルルーブランが参加している。そんなフェスティバルに参加した後に再びメンバーチェンジがあり、ダニエル・ドゥニ(ドラムス、パーカッション)、ロジェ・トリゴー(ギター、ハーモニウム、オルガン、ピアノ)、パトリック・アナピエ(ヴァイオリン)、ミシェル・バークマンズ(オーボエ、ファゴット、バスーン)、ギ・セジュール(ベース)の5人となる。そしてスイスにあるサンライズスタジオで、1979年3月から5月にかけてレコーディングされたセカンドアルバム『異端』がその年にリリースされる。そのアルバムはレコードのA面すべてを用いた冒頭の『La Faulx(大鎌)』を筆頭に、オーボエ、バスーン(ファゴット)、ヴァイオリンの生楽器による暗黒ゴシック・チェンバーロックの代表格となったユニヴェル・ゼロの美学が垣間見える名盤となっている。

★曲目★
01.La Faulx(大鎌)
02.Jack the Ripper(切り裂きジャック)
03.Vous le saurez en temps voulu(汝、望む程に知り給う)
★ボーナストラック★
04.Chaos hermétique(錬金術的混沌)

 アルバムの1曲目の『大鎌』は、ホラー映画さながらの中世的で異教的な雰囲気を壮大に展開させた曲。1年以上リハーサルを費やして完成させた曲であり、重々しいバスーン(ファゴット)と金切り音に近いヴァイオリン、うめくようなギ・セジュールによる架空言語のヴォーカルなど、まさに不気味な暗黒世界を描き切っている。軋んだ不協和音に近いバスーンとヴァイオリンといった金管楽器と、前面に出したドラムスを含めた打楽器群が対比しているようで、意外と即興性の高い演奏を繰り広げているのがポイントである。後半のバスーンのフレーズとともに迫りくる怒涛のヘヴィな楽曲は、この曲の最大の聴きどころである。2曲目の『切り裂きジャック』は、ダニエル・ドゥニとロジェ・トリゴーの共作であり、陰鬱なイントロから少しずつピッチが上がっていき、ヴァイオリンによる狂おしいほどの軋み音を重ねた楽曲。弦楽器がリードを取っているためか、比較的バロック風のクラシカルなロックスタイルになっているのが特徴である。その後のリヴァース・エフェクトを用いたバスーンのソロがあり、1888年に英国ロンドンのホワイトチャペルとその周辺で犯行を繰り返した正体不明の連続殺人犯という狂気の世界を描いている。3曲目の『汝、望む程に知り給う』は、他の曲と同様に重々しい雰囲気を漂わせたイントロから、独特のリズムによる変拍子を交えた疾走感のあるフレーズが随所に散りばめられた楽曲。後半のバスーンとヴァイオリン、リズム隊による即興的な掛け合いは、まるで室内楽にも似た展開になっている。ボーナストラックの『錬金術的混沌』は、ロジェ・トリゴーによる曲であり、クロード・ドゥロンが脱退する前の1975年の音源。キーボードを駆使した非常に実験的なサウンドであり、中世を思わせる即興的な演奏が繰り広げられている。後半のヴァイオリンの軋み音が悲鳴のようであり、この時から暗黒チェンバーロックの代表格たるユニヴェル・ゼロの片鱗を魅せている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、明朗なメロディなど皆無の妥協なき重々しさを演出したアルバムである。軋み抜くヴァイオリンやバスーンといった楽器が狂気じみており、それを輪をかけているのがロジェ・トリゴーによる打楽器群である。本アルバムは音楽が持つ重々しさを堅持しつつ、フレーズに軋み音や不協和音すら大胆に取り込んでいるところが、ユニヴェル・ゼロの作品の中で最も暗黒で“異端”と呼ばれる所以だと思われる。

 本アルバムは1978年にロック・イン・オポジションの参加を経て作られたアルバムということと、ユニヴェル・ゼロが根差した生楽器による暗黒世界を描いた作品ということで、ベルギー国内だけではなくヨーロッパ全土で高く評価される。特にロック以外のジャンルと結びつきが強いプログレッシヴロックの中でも、とりわけ室内楽的なアプローチを大きく打ち出したユニヴェル・ゼロはチェンバーロックという音楽ジャンルの代表格となる。しかも暗黒系である。ユニヴェル・ゼロはその後も1981年に『祝祭の時』、1984年に『ユーズド』と時間をかけたリハーサルとレコーディングを行ったクオリティの高いアルバムをリリースしている。リリースするごとに楽曲が明朗になり、かつ電子的な音になっていったが、1986年のアルバム『ヒートウェーヴ』を最後に解散している。中心メンバーだったダニエル・ドゥニは2枚のソロ・アルバムをリリースし、その後はフランスの同じ傾向にある前衛音楽グループ、アール・ゾイに加入している。一度はバラバラになったメンバーだったが、解散から13年後の1999年に再結成し、アルバム『ハード・クエスト』をリリース。2011年にはベルギーのプレザンとアラニスという2グループと力を合わせて、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベルギー」と呼ばれる17人のメンバーからなるアンサンブルを結成している。彼らは2011年9月にフランスのカルモーで開催された第4回ロック・イン・オポジション・フェスティバルに出演し、その後、『アバウト・ロック・イン・オポジション』というドキュメンタリー映画に登場している。再結成後のユニヴェル・ゼロは2014年の最新アルバム『燐光』までに5枚のスタジオアルバムをリリースしており、現在でも濃密で挑戦的な音楽を作り続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は暗黒系ゴシック・チェンバーロックの代表格、ユニヴェル・ゼロの中でもとりわけダークな世界を描いたとされるセカンドアルバム『異端』を紹介しました。このユニヴェル・ゼロというグループ名とチェンバーロックというジャンルを始めて聴いたのは、比較的に早い段階でCDで聴いていたスイスのプログレッシヴロックグループ、アイランドの『ピクチャーズ』の解説文です。そこにはユニヴェル・ゼロとチェンバーロックに寄せた内容が書かれていまして、確かに暗く呪術的で、恐怖心を引き起こさせるアイランドのサウンドは、ユニヴェル・ゼロと似ているところがあります。とはいえ、アイランドはジャズロックを基調としたほの暗さを演出していますが、ユニヴェル・ゼロは生楽器が持つ重々しさを最大限に利用したサウンドだと言えます。まるでホラー映画のBGMさながらに、最初から最後までダークな世界を貫いているのはある意味凄いと思っています。ずいぶん後になってこのユニヴェル・ゼロを入手しましたが、ここまで聴き手の集中力が試されるヘヴィなサウンドが何とか聴けたのは、もしかしたら1990年代に好んで聴いていたハードロックやヘヴィメタルによる耐性があったからかも知れません。

 さて、ユニヴェル・ゼロといえば、イギリスの前衛的なロック・グループであるヘンリー・カウがヨーロッパの革新的なグループによって開催された「ロック・イン・オポジション」というフェスティバルに招待されたことでも有名です。1970年代後半のプログレッシヴなグループの集団を代表する運動であり、彼らの音楽を認めなかった音楽業界への反発から生まれたものです。ヘンリー・カウも本国イギリスではほとんど無視されたグループで、本国よりもヨーロッパ本土でのツアーを費やしていたそうです。そこで出会ったのがベルギーのユニヴェル・ゼロやイタリアのストーミー・シックス、スウェーデンのサムラ・ママス・マンナ、フランスのエトロン・フー・ルルーブランというグループです。彼ら4グループを1978年3月12日にニュー・ロンドン・シアターに招待したことは先に触れました。後に集合体となった「ロック・イン・オポジション」は、さらにフランスのアール・ゾイ、イギリスのアート・ベアーズ、ベルギーのアクサク・マブールが参加することになります。これらのグループに共通することは難解なサウンドを提示する「異端のロック」であり、チェンバーロックを標榜するグループが多いということです。ちなみに2017年9月15日、16日、17日にフランスのカルモーで開催された第10回ロック・イン・オポジション・フェスティバルでは12組が参加しています。その中には日本から、る・しろう、アシッド・マザーズ・テンプルが出演したそうです。

それではまたっ!