【今日の1枚】I Giganti/Terra In Bocca(イ・ジガンティ/犯罪の歌) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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I Giganti/Terra In Bocca
イ・ジガンティ/犯罪の歌
1971年リリース

直面するイタリアンマフィアの問題を綴った
美と悲哀の一大シンフォニック組曲

 1960年代にビートポップグループとして成功していたイ・ジガンティが、プログレッシヴスタイルで臨んだ1971年のサードアルバム。重厚なメロトロンや抒情的なギター、美しいピアノの旋律、憂いあふれるヴォーカルなどイタリアン・プログレのエッセンスをすべて網羅したかのような一大シンフォニック組曲となっている。1960年代から悲惨な事件が絶えないイタリアンマフィアの問題をテーマにしており、マフィアに1人で対抗する純朴な農民を主人公にし、その家族で息子である16歳の少年が殺されてしまう過程を描いた内容になっている。その少年が殺害されたと思わせるジャケットデザインから、グループが命がけで制作したであろう挑戦的なアルバムとなっている。

 イ・ジガンティは1964年にイタリアのミラノで結成されたグループである。メンバーはエンリコ・マリア・パぺス(ドラムス)、セルジオ・デ・マルティーノ(ベース)、フランチェスコ・マルセッラ(キーボード)、ジャコモ・デ・マルティーノ(ギター)の4人編成で、全員がヴォーカルを兼ねているのが特徴である。彼らは元々、1962年頃からイタリアのシンガーソングライター兼ミュージシャンであるギーゴ・アゴスティのバックバンドを務めている。彼らは1965年にリリースしたシングル『Morirai senza di lei』でデビューを果たし、ザ・ビートルズを意識したようなスーツスタイルの演奏に注目が集まったという。彼らを一気に人気に押し上げたのが、1966年に愛をテーマにしたディスク・フェスティバル参加曲『Tema』である。これまで生活の中での愛を歌う他のグループの流行歌とは違い、愛を非常に観念的で哲学的なものとして歌ったことで聴衆の度肝を抜いたと言われている。同年にリリースされたファーストアルバム『イ・ジガンディ』は、好セールスに恵まれ、グループは女性や若者を中心に人気を博すことになる。後に作詞家のアルベルト・カルシッチとアリゴ・アマデシと組んだ『La Bonba Atomica』や『Una Ragazza In Due』、『Lezione Di Ritmo』といった曲がヒットし、1969年のセカンドアルバム『Mille Idee Dei Giganti』をリリース時には、イタリアを代表するポップグループとなっている。そして1970年になった時、イタリアの問題として愛や原爆、不倫、常軌を逸した若者といったテーマでメッセージを綴ってきたイ・ジガンティが最後に行き着いたテーマが、深刻な問題となっていたイタリアンマフィアだったという。彼らがこのような誰も手を付けなかったテーマに踏み込んだ背景には、イタリアの社会情勢に対する憂いだけではなく、彼らが読んだとされるイタリアの詩人であり、作家、劇作家でもあるガブリエーレ・ダンヌンツィオの影響が大きい。アルバムのジャケットの内部に記載されているダンヌンツィオの詩の一文が、本アルバムに対する彼らの決意ともとれる内容になっている。レコーディングには、後にラッテ・エ・ミエーレを結成するギタリストのマルチェロ・デラカーザ、後のアレアのベーシストとなるアレス・ダヴォラッティが参加。そして作曲には後にイル・ヴォーロのメンバーとなる鬼才ヴィンチェ・テンペラを起用している。1971年にリリースされた本アルバム『犯罪の歌』は、重厚なメロトロンや美しいピアノ、抒情的なギター、情感を湛えたヴォーカルを駆使し、イタリアの美的センスを網羅した組曲風の一大シンフォニックサウンドになっている。

★曲目★
01.Terra In Bocca -Part One-(犯罪の歌 -パート1-)
 a.Largo Inziale(最初ゆっくりと)
 b.Molto Largo(非常にゆっくりと)
 c.Avanti(前進)
 d.Avanti Tutto(さらに前進)
 e.Brutto Momento(運の悪い時)
 f.Plim Plim(プリン・プリン)
 g.Plim Plim Al Parossismo(発作的プリン・プリン)
 h.Delicato Andante(優美に、歩く速さで)
 i.Rumori(騒音)
 j.Fine Incombente(突然の結末)
02.Terra In Bocca -Part Two-(犯罪の歌 -パート2-)
 a.Fine Lontana(結末は速い)
 b.Allegro Per Niente(虚無へのアレグロ)
 c.Tango Va La Gatta Al Lardo(ほら、脂肪のついた雌猫はいく)
 d.Su E Giu(躁鬱状態)
 e.Larghssimo(非常に鷹揚に)
 f.Dentro Tutto(すべては中に)
 g.Alba Di Note(夜明け)
 h.Rimbalzello Triste(淋しい水切り遊び)
 i.Rimbalzello Compiacente(楽しい水切り遊び)
 j.Ossessivo Ma Non Troppo(強迫的にしかしそれ程はなはだしくなく)
 k.Fine(結末)

 アルバムはレコードでいうA面、B面に『犯罪の歌パート1&2』に分かれており、それぞれ10節で構成されている。所々に語りを入れ、全体を一体化させて進行していく音楽劇のような手法をとっている。この辺りは作曲したヴィンチェ・テンペラに依るところが大きいのだろう。『最初ゆっくりと』は、ヘヴィなギターとなワイルドなピアノが、まるでサスペンス風のテーマのように奏でられるプロローグ曲。やがてシンフォニックサウンドに曲調が変化していくドラマティックな展開になっている。『非常にゆっくりと』は、アコースティックギターによるフォークタッチのサウンドと、シチリア風の情熱的なヴォーカルが印象的な曲。後半は地中海を思わせる波の音とメロトロン、キーボードをバックに、まさにこれから始まる悲しいストーリーの語りが入っている。『前進』は、美しいアコースティックギターの調べをバックに、明朗なヴォーカルによるハーモニーが息づいた楽曲。中盤からはリズム隊やピアノ、メロトロンによる暗雲にも似た曲調に変わり、緩急のあるミュージカルのような展開になっている。『さらに前進』、『運の悪い時』、『プリン・プリン』は、まさに音楽劇のようなコーラスから始まり、ハードなギターワークと情感的なヴォーカル、そしてメロトロンやストリングスが盛り上げている。やがてコミカルなコーラスとフルートを交えた楽曲からシンフォニック調に変化していく様は見事である。『発作的プリン・プリン』と『優美に、歩く速さで』は、リリカルなピアノをバックに抒情的に歌うヴォーカルから始まり、アコースティックギターが加わると途端にモダンなポップに変化する曲。後半は幻想的ともいえるメロトロンも活躍するメロディアスな楽曲だが、最後に突然、電子音と共に曲が途切れる。『騒音』と『突然の結末』は、オルガンとギターによる荒々しいハードロックになっており、クラシカルなオルガンが英国のプログレッシヴロックを思わせる楽曲。伸びやかなヴォーカルを中心とした多彩な楽器によるメロディライン、そして美しいハーモニーが胸打つ素晴らしいサウンドである。

 レコードでいうB面の最初の曲である『結末は速い』から『虚無へのアレグロ』へは、力強いドラミング上でワイルドなヴォーカルとオルガン、ギターを駆使したシンフォニックな楽曲。怒りに近い感情的なヴォイスに対して、バックのメロトロンやストリングスの響きは内なる悲哀なのか、後半のピアノは悲しみを誘い、何かが壊れていくような雰囲気を作り上げている。『ほら、脂肪のついた雌猫はいく』と『躁鬱状態』は、風すさぶ中から呼びかけるようなヴォーカルから、荘厳なメロトロンとピアノをベースに語るようなヴォーカルが悲哀を誘う楽曲。途中から流麗なピアノとドラミングで一気に荒々しいヴォーカルと共に力強いサウンドになっていく。牧歌的な楽曲とハードな楽曲が交互に行き来し、もはや転調が激しいオペラである。『非常に鷹揚に』と『すべては中に』は、複数の語りによるハーモニーから跳ねるようなピアノとオルガン、メロトロンによるインスト曲になる。後半は激しいドラミングと共にピアノも段々と荒々しくなっていく。『夜明け』と『淋しい水切り遊び』は、憂いを帯びたヴォーカルとオルガンによる楽曲。『楽しい水切り遊び』と『強迫的にしかしそれ程はなはだしくなく』、『結末』は、端正なアコースティックギターのアルペジオによる優しいヴォーカル、そしてハードロック調のサウンドによる荒々しいヴォーカルが交互に展開する。最後は荘厳なオルガンの響きによって曲を終えている。曲間があって突然に曲調が変わり、彼らの本質的な音楽形態であるピアノをフィーチャーしたビートポップを演奏している。こうしてアルバムを通して聴いてみると、重厚なメロトロンとリリカルなピアノを織り交ぜた重厚なシンフォニックロックになっているが、そこには彼らの出自であるビートポップ時代の巧妙ともいえるヴォーカルやコーラスが最大限に活かされたミュージカル、またはオペラと言っても良いだろう。物語を多彩な楽器で雰囲気を作りつつ、進行と共に抑揚のあるヴォーカルとコーラスで喜怒哀楽を演出する展開は、聴くほどにダイナミズムにあふれており、ドラマティックですらある。

 アルバムはイタリア以外の国にとってはフォローが非常に難しいテーマだったが、その高度なプログレッシヴサウンドにヨーロッパ中で高く評価される。しかし、歌詞がマフィアに触れる内容だったために、イタリアのラジオでは曲を流すことが禁止され、アルバム自体を置くこともできないレコードショップもあったという。イ・ジガンティはイタリアの現実問題として様々なテーマでメッセージを送り続けてきたが、誰も手を付けていない問題に行き着いてしまい、緊張を維持することができなくなったのだろう。グループはその年に解散をしている。キーボーディストのフランチェスコ・マルセッラは、ヌオーヴァ・イデアとジャンボのメンバーらで結成したトラックのアルバムに参加し、その後はセッションミュージシャンとなっている。ギタリストのジャコモ・デ・マルティーノは、フランコ・バッティアートによって結成したグループ、テライオ・マグネティコに参加した後、1983年にソロアルバムを発表している。ドラマーのエンリコ・マリア・パぺスは、1973年のサンレモ音楽祭でル・フィグリー・デル・ヴェントといったグループのバックを務め、1977年にマルセッラと他のメンバーと共にイ・ジガンティ名義で2年程ライヴを行っている。その後はサウンドエンジニアを経てレストランのオーナーとなっている。しばらくバラバラになっていたメンバーだが、1992年にパぺスは突然ベーシストのセルジオ・デ・マルティーノからイ・ジガンティの再結成の話を受けることになる。承諾したパぺスは他のマルセッラやジャコモにも声をかけ、1993年に20年ぶりにオリジナルメンバーによるコンサートがイタリアのミラノで開催される。そこで初めてライヴでアルバム『犯罪の歌』の曲を演奏することができたという。1996年にセルジオ・デ・マルティーノが死去し、再びイ・ジガンティが結成され、新たなベーシストにカンビズ・カボリ、ヴォーカリストにジオ・デ・ルイージが加入している。しばらくパぺスとマルセッラを中心に2005年までライヴを中心に活動していたが、2006年以降はマルセッラが抜けてオリジナルメンバーはエンリコ・マリア・パぺスのみとなる。彼はパーカッションを担当し、息子のアレッサンドロ・パぺス(ドラム)、フランチェスコ・ロマーニャ(キーボード、ギター)、エンリコ・サンタカテリーナ(ベース、ヴォーカル)と共にスタジオアルバム『Tema』を2008年にリリース。2011年にはイ・ジガンティが『犯罪の歌』のリリースから40周年を記念した式典に、1992年にマフィア撲滅のために働いて暗殺されたイアリアの裁判官、パオロ・ボルセリーノの名を冠した賞を受ける。そのステージでエンリコ・マリア・パぺス、フランチェスコ・マルセッラ、ジャコモ・デ・マルティーノの3人が『犯罪の歌』のいくつかの曲をアコースティック・ライヴで披露したという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は人気ビートポップグループから、イタリアンマフィアというテーマを軸にプログレッシヴなグループになった、イ・ジガンティのサードアルバム『犯罪の歌』を紹介しました。イ・ジガンティというと、どうしても本アルバムがあまりにも著名なため、彼らの本質的な音楽形態である過去のビートポップ時代が忘れられがちですが、当時から愛や原爆、不倫、逸脱した若者といったイタリアの現実問題をテーマにした歌詞と楽曲を作り続けていました。そしてついに誰も手を付けていなかったイタリアンマフィアをテーマにしたわけですが、アルバムリリース時の心中はいかばかりだったか、まさに命がけだったのかも知れません。アルバムのタイトルである『Terra In Bocca』は直訳すると、子供がどんなものでも口に運ぶことに呆れた「何でも口にする」という言葉になり、俗語として「土を口に詰める」という意味になります。この「土を口に詰める」という言葉は、イタリアンマフィアが相手を沈黙させるということになり殺害を連想する言葉になるそうです。ジャケットには本アルバムの内容に沿った仰向けに斃れた少年の姿が写っており、さらに裏面にはその家族の写真があるなど、非常にショッキングなデザインとなっていますが、彼らのマフィアに対する深い怒りと悲しみが伝わってくるようです。

 さて、アルバムは重厚なメロトロンや抒情的なギター、美しいピアノの旋律、憂いあふれるヴォーカルなどにあふれた、イタリアンプログレのエッセンスをすべて取り入れたかのようなシンフォニックロックになっています。随所に語りを入れながら全体を一体化させて進行していく構成になっており、組曲というより音楽劇といったほうが良いかもしれません。ストーリーに沿って複数のヴォーカルによる哀愁あるテーマを軸に展開しつつも、めぐるましく変化する曲調やメロトロンやフルートによる幻想的な響きが、聴き手の感情の琴線に触れるほど美的感覚に優れたサウンドになっています。このアルバムがイタリアン・プログレの初期の傑作となっているのは、こうしたテーマだけではないイタリアのクラシックやカンツォーネ、フォークロックのアレンジによる情感的な起伏を表した独特のダイナミズムにあるのだろうと思っています。

 イ・ジガンティの挑戦的ともいえる本アルバムは、ニュー・トロルスやエキペ84、ディク・ティク、レ・オルメといった多くのビートグループが、プログレッシヴロックに移行する橋渡しとして大きな役割を果たしています。また、後にラッテ・エ・ミエーレやアレア、イル・ヴォーロを結成するメンバーを加えた本アルバムは、イタリアンプログレを語る上では欠かせない存在です。イタリアンプログレ好きなら、ぜひ、この機会に聴いてほしい1枚です。

それではまたっ!