【今日の1枚】Eternidad/Apertura(エテルニダ/序章) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Eternidad/Apertura
エテルニダ/序章
1977年リリース

エキゾチック&リリシズムな夢幻世界を奏でた
アルゼンチンが誇るシンフォニックロック

 1970年代に南米に急拡大する英国やユーロロックの影響の中で誕生した、アルゼンチンのプログレッシヴロックグループ、エテルニダの唯一作。そのサウンドは抒情的なギターとシンフォニックなキーボードを中心とした変幻自在な楽曲が特徴であり、イエスやジェネシスの黄金期にも通じるテクニカルなエッセンス、アメリカのフォークロック、そして南米特有の柔らかなハーモニーや軽快さを併せ持った独特の世界を構築している。素朴で子供っぽい風景を描いたジャケットイラストと相まって、その童話のような幻想的ともいえるサウンドは、南米の数あるプログレッシヴロックの中でも最上位に位置する傑作として名高い。

 エテルニダは元々、1971年から活動していたダニエル・メンデス(ギター、ハーモニカ、ヴォーカル)、ロベルト・メンデス(ギター、リュート、ヴォーカル)の兄弟によって結成されたフォークロックデュオから始まっている。この時のアルゼンチンはアコースティックなロックが中心だったが、アルゼンチンプログレの重要人物であるチャーリー・ガルシアの最初のグループ、Sui GenerisやPastralが誕生し、エレクトリックなサウンドに移行していった時期だったという。そこに英国のプログレッシヴロックの影響と相まって、次々と独自のロックサウンドを標榜するグループが結成され、1975年9月にSui Generisが解散コンサートが行われたのを転機に、アルゼンチンのロックはより洗練されたコンセプチュアルな内容へと変貌していくことになる。しかし、1976年3月24日にアルゼンチンで勃発した軍事クーデターにより、アルゼンチン史上最悪の軍事独裁政権が誕生してしまう。当然、アルゼンチンのロックも厳しい弾圧と検閲の下に置かれる状況になり、コンサートやライヴといったイベントも制限されることになる。ロック音楽そのものはアンダーグラウンド化してしまうが、依然としてプログレッシヴロックは根強く興隆を極め、中でもCrucisやEspirituといったグループが人気となっている。しかし、1977年にはその人気だったCrucisが年末に解散し、1978年にはアルゼンチンのプログレッシヴロックを引っ張っていたInvisibleやPastral、Alasといったグループが次々と解散する事態に陥っている。そんな軍事政権下のアルゼンチンのロック界の存亡と興隆の中でデビューしたのがエテルニダである。エテルニダは1970年代中頃に結成しており、先に紹介したダニエル・メンデスとロベルト・メンデスの兄弟を中心に、クラウディオ・ペドラ(キーボード、ピアノ、オルガン)、ロビ・マサロット(ベース、ヴォーカル)、ルイス・ジャネス(ドラムス、パーカッション)を加えた5人編成で活動を開始している。当初は小規模なステージでライヴ活動をしていたが、イギリスやイタリアのプログレッシヴなサウンドに影響され、その音楽性はよりシンフォニックな方向へと発展していったという。そんな中、彼らの音楽性に興味を持ったのが、Pastralのアルバムを輩出していたカバル・レーベルである。カバル・レーベルは次なるグループを模索しており、初期のSui Generisを継承したようなサウンドを持つエテルニダに声をかけてきたのである。こうしてエテルニダはカバル・レーベルと契約し、ゲストミュージシャンを迎えてオーディオンスタジオで100時間以上をかけたレコーディングが行われ、1977年10月にデビューアルバムとなる『Apertura(序章)』をリリースすることなる。そのアルバムはギターとキーボードによる決まったパターンに縛られない変幻自在な楽曲の中で、南米らしい自由なハーモニーと優れたアレンジの効いた幻想的なフォーク&シンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Suite: Pensamiento Y Vida(組曲:思想と人生)
02.Javier Dejó De Ser Niño(ハビエルの成長)
03.Cuento De Una Niña(ある少女のお話)
04.Más Cerca Del Horizonte Eterno(永遠の水平線に向かって)
05.Empezando Por Uno Mismo(自分から動き出せ)
06.Ciudad, Mírame(街よ、僕を見よ)
07.Ahora Que Estamos Solos(今はもうふたりだけ)
08.Pausa Para Una Ciudad Que Espía(街を観察するひと時)

 アルバムの1曲目の『組曲:思想と人生』は、静かなピアノからシンセサイザーが加わり、次第に盛り上がるイントロからアコースティックギターとエレクトリックギターの2本のギターが絡み合う抒情的なヴォーカル&コーラスパートに移行する。3分40秒あたりからインストパートになり、ギターとキーボードによるテクニカルなアンサンブルになる。その後フォークロア的なギターとリュートのソロが加わり、様々な楽器による音の表情を変えながら展開していく。再度ヴォーカル&コーラスパートに戻り、後半は畳みかけるようにスピーディーなリズムの中でギターとキーボードによる抜けの良いアンサンブルを披露している。まさに組曲らしく、1曲の中に様々なアイデアがひしめき合った楽曲になっている。2曲目の『ハビエルの成長』は、南米のグループらしいアコースティックギターを中心とした哀愁のフォークロックになっており、リズムセクションが加わるとキーボードやピアノによる華やかなサウンドに変化する。3曲目の『ある少女のお話』は、ギターとケーナというリュートによるイントロから、スティーヴ・ハウのようなギターカッティング、手数の多いドラミング、軽快なキーボードワーク、ハイトーンのヴォーカルなど、イエス的な曲展開が垣間見える楽曲。ジャジーな一面もありながらもめくるめく曲調の変化がユーモラスであり、彼らのテクニカルで巧妙な演奏が楽しめる逸品になっている。4曲目の『永遠の水平線に向かって』は、幽玄なキーボードワークと繊細なアコースティックギターから始まり、生のストリングスの導入から一気に盛り上がっていく美しいサウンドになっている。味のあるヴォーカルとコーラスが曲を引っ張り、後に複数のキーボードを中心としたアンサンブルになっていく。5曲目の『自分から動き出せ』は、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングを彷彿とさせるストレートなアコースティックフォーク。中盤からハーモニカのソロやノリの良いピアノに合わせたロックになり、彼らが元々フォークロック出身だったことが良くわかる楽曲になっている。6曲目の『街よ、僕を見よ』は、抒情的なギターとキーボードワーク、シンセサイザーによるシンフォニックな内容になった楽曲。メロディアスなギターソロを中心にゆったりとした雰囲気の中で進み、後半は変拍子を交えたジャジーでテクニカルな曲展開のあるアンサンブルとなり、独創的なキーボードワークが堪能できる。7曲目の『今はもうふたりだけ』は、シンプルなフォークロックになっており、よりラテン的なヴォーカルとコーラスになっている。8曲目の『街を観察するひと時』は、ピアノとヴァイオリンを中心にタンゴの要素を含めた哀愁的な楽曲で静かに幕を下ろしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、キーボードとギターを主体にしたテクニカルなシンフォニックロックと、彼らの出自であるフォークロックを挟んだ非常にエモーショナルな曲構成になっていると思える。とくにギターワークとリッケンバッカーのベース、ハモンドオルガンを駆使している楽曲は、イエスを意識しているようであり、そこに南米らしいフォークのエッセンスを加味した独自性のある楽曲に仕立て上げている。スペイン語で歌われる甘美なヴォーカルとコーラスは素晴らしく、インストパートだけではなくヴォーカルパートも魅力的であり、このアルバムが欧米に引けを取らない優れた作品であることが分かる。

 本アルバムはアルゼンチン国内での評価は高く、エテルニダは一気に注目されるようになる。アルゼンチンの有力音楽雑誌であるRevista Peloでも、過去のグループの作品の影響が強く目新しさは少ないものの、決まったパターンに縛られずに優れた編曲と自由なハーモニーを奏でていると、グループの将来を大いに期待する記事を書いている。しかし、その影響からかドラムスを担当していたルイス・ジャネスが脱退してしまい、代わりにダニエル・トリギアーネがメンバーとなる。しばらく小さな劇場でライヴ活動を続けていたが、一部のメンバーがままならない活動とグループとしての先行きに不安と感じたため、1979年の夏にエテルニダは解散をしている。解散後のメンバーの動向は不明だが、ダニエル・メンデスはアルゼンチンでソロ活動を経て、1994年にワシントン州シアトルに移り、音楽のキャリアを追求し、後にカリフォルニア州ハリウッドのレコード会社のエンジニアとなっている。マイケル・ジャクソンやボーイズIIメン、ドン・ヘンリー、アイスキューブといった著名なアーティストと仕事をしており、2000年代までフリーランスのプロデューサー兼エンジニアとして活躍することになる。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は南米アルゼンチンのシンフォニックロックグループ、エテルニダの唯一のアルバムを紹介しました。私自身、アルゼンチンのプログレッシヴロックを聴いたのは、このエテルニダが初めてです。1990年後半にMardel-XからリリースしたCDを持っていましたが、中古だったのでインナーがボロボロでした。このエテルニダがきっかけでバナナやインビシブルといったアルゼンチンのグループを聴くようになったのですが、今回、紙ジャケットでリマスター化されたということで、嬉々としてこのあいだ購入した次第です。このエテルニダを最初に聴いた当時、そのサウンドに衝撃を受けた記憶があります。アルゼンチンの音楽背景が分からなかったこともあり、最初はラテン音楽をルーツにしたサウンドかなあと思っていましたが、これだけ欧米のプログレッシヴな音楽を吸収してシンフォニックにそしてテクニカルに演奏しているのに驚きました。イエスを彷彿とさせる楽曲が多く、ジョン・アンダーソンほどハイトーンではないにしろ、エモーショナルなヴォーカルとコーラスが心地よく、ギターカッティングはまさにスティーヴ・ハウから影響を受けたと思わせるところもあります。思いがけないブレイクやめくるめく転調の技巧さは手に汗握るようであり、ジャズ的なアプローチのあるリズムセクションも聴き逃せません。それでも、南米らしい陽気さとルーツとなっているフォークロックを織り交ぜていて、欧米とはまた違った独自のプログレッシヴロックを繰り広げていると思います。

 1970年代のアルゼンチンはフォークロック全盛から、いち早く欧米のロックサウンドを取り入れ、多くのプログレッシヴロックグループが次々と誕生したそうです。伝統を重んじるヨーロッパとは違い、自由自在に作られたアルゼンチンのプログレサウンドはハイレベルなものが多いです。たった1枚のアルバムを残したエテルニダですが、そこには軍事政権下の弾圧をものともしない、自由な発想とラテン気質が垣間見えるサウンドになっています。私としてはぜひとも聴いてほしいオススメの1枚です。

それではまたっ!