【今日の1枚】Coda/Sounds Of Passion | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Coda/Sounds Of Passion
コーダ/サウンズ・オブ・パッション
1986年リリース

高度なシンフォニックロックの美を保った
オリジナリティあふれる幻の名盤

 プログレッシヴロック不毛の時代と言われた1980年代初期に、オランダで誕生したコーダのデビューアルバム。そのサウンドは、英国のポップ感覚とクラシックの伝統の中間にあるような個性的な楽曲となっており、美しいメロディラインが魅力の高度なシンフォニックロックになっている。1991年にCD化されて以来、なぜか本デビューアルバムだけ長いあいだ入手困難が続いており、2000年代の紙ジャケット&リマスターの再発がもっとも待望された傑作でもある。

 コーダというグループは、1980年にオランダのヘルダーラント州にある小さな町ヴィヘンに住むキーボード奏者のエリク・ド・ヴローメンと、トン・ストリックが偶然知り合ったところから始まる。すでにエリクが書いたとされる曲が膨大に存在しており、トンは何とかこれを世に出したいと考え、2人は協力関係を結んでアルバムを制作することになる。1983年にエリクとトンはSEQUOIAという名義でメンバーを募り、フォステックス250の4トラックで録音された最初の『サウンズ・オブ・パッション』のデモカセットを完成させる。デモテイクの完成度の高さから、2人はこれをきちんとしたスタジオで録音するべきと判断し、メンバーチェンジの末、エリク・ド・ヴローメン(キーボード)、ジャック・ヴィチェス(ギター、ヴォーカル)、マーク・エスハイス(ドラムス、パーカッション)、ジャッキー・ヴァン・トンゲレン(ベース)の4人編成でレコーディングを行うことになる。エリクがかつてピアノ教師を務めていた音楽学校でリハーサルを7回行い、オランダ南部の北ブラバント州の都市、ヴァールヴァイクにあるMMPスタジオに入る。この時にグループ名をCODA(コーダ)と変えている。グループのマネージャーとなっていたトン・ストリックが、1985年にRadio3の音楽番組でこのスタジオ録音した楽曲を紹介し、これがきっかけとなってオランダのBoni Recordとの契約に成功している。こうしてエリク・ド・ヴローメンのソロプロジェクトとして始まった本アルバム『サウンズ・オブ・パッション』が、1986年9月にリリースされることになる。アルバムはジャケットのイラストが象徴するように瞑想に近い白昼夢のようなメロディが紡がれた、高度な美を保った1980年代を代表するオリジナリティーあふれるシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Sounds Of Passion(サウンズ・オブ・パッション)
  a.Prologue(プロローグ)
  b.1st Movement(ファースト・ムーブメント)
  c.2nd Movement(セカンド・ムーブメント)
  d.3rd Movement(サード・ムーブメント)
  e.4th Movement(フォース・ムーブメント)
02.Crazy Fool And Dreamer(クレイジー・フール・アンド・ドリーマー)
03.Defended(ディフェンデッド)

 アルバムの1曲目の『サウンズ・オブ・パッション』は、5つの楽章からなる30分のに及ぶ組曲になっている。この組曲こそエリク・ド・ヴローメンの音楽の美学とシンフォニックロックの真髄がすべて詰まっている1曲といえる。『プロローグ』は風のSEをバックに、まるで語りのようなヴォーカルでこれから始まる『サウンズ・オブ・パッション』の壮大なストーリーを導いている。『ファースト・ムーブメント』では、嵐のSEをバックに荘厳なシンセサイザーが奏でられ、ドラミングのあとリリカルなアンサンブルが披露される。とにかく多彩なキーボードの中で弾きまくる泣きのギターが素晴らしい。最後はアコースティックギターと流麗なピアノで締めくくっている。『セカンド・ムーブメント』は、鐘の音とシンセサイザー、そして叙情的なギターが絡み合うオープニングから、幻影的ともいえるピアノとパーカッションが印象的な楽曲。静寂な雰囲気の中で美しく鳴り響くストリングスやギターのメロディは逸品である。『サード・ムーブメント』は、鳥の鳴き声から始まり、フルートとピアノの調べが優しい世界を作り上げている曲。やがて壮大なシンセサイザーをバックに、繊細なパーカッションと泣きのギター、そしてアダルティーなアルトサックスによるドラマティックなアンサンブルになっていく。『フォース・ムーブメント』は、教会の鐘と雨の音ともに聴こえてくる男性クワイアの聖なる歌声から始まり、教会の扉の音が閉まった瞬間から荘厳なパイプオルガンが鳴り響く。後にロングトーンのギターソロが展開され、リリカルなピアノを中心としたキーボードが絡んでいき、一種AORのような心地よいサウンドが紡ぎだされる。後半はモーグシンセサイザーとテクニカルなギターを駆使して大団円に向かってひた走る、シンフォニックロックを極めた緊張感のあるサウンドになっている。2曲目の『クレイジー・フール・アンド・ドリーマー』は、オランダのグループらしい美しいポップなバラード曲。憂いのあるジャック・ヴィチェスのヴォーカルとエリクのピアノが中心となったしっとりした内容だが、後半はテクニカルなアンサンブルになっている。3曲目の『ディフェンデッド』は、ムーディーなギターの入りがアクセントとなったヴォーカル曲。メロディーラインに『真夜中のカウボーイ』のテーマと同じフレーズが登場しているが、印象的なメロディーが散りばめられた素晴らしい楽曲になっている、こうしてアルバムを通して聴いてみると、やはり1曲目のハイライトである『サウンズ・オブ・パッション』のシンフォニックロックは、その完成度の高さと質の高いサウンドに驚かされる。ギターやベース、ドラム、そしてゲストミュージシャンによる管楽器によるアンサンブルが、高度なテクニックのもとに有機的に絡み合い、エリク・ド・ヴローメンの構想となった一大絵巻が繰り広げられている。30分という長い尺の曲であるが、聴きやすく分かりやすいメロディラインがあるからこそ、本アルバムが幻の名盤となった所以であると思える。

 アルバムのプレス枚数は少ないものの、ファーストプレスは僅か一週間で、セカンドプレスは二週間で完売したという。自信を持った彼らは2人目のキーボード奏者にフランク・ビーカーを迎えて、本アルバムとシングルの『セカンズ・オブ・パッション』のフォローアップのためにライヴを計画していたが、残念ながら実現していない。それから5年ほど経過してから、今は無きSI Music Recordsがトン・ストリックに接触し、本アルバムのCD化を申し入れてきたという。このCDは1991年に実現している。その1年後には2曲目に収録している『クレイジー・フール・アンド・ドリーマー』が、シングルCDとしてリリースされ、さらに韓国のSi-Wan Recordsとのライセンス契約によって、アジアでも流通するようになっている。コーダの新作への期待が高まり、その結果としてリリースされたのがオランダのトランスミッションレーベルから1996年にリリースされた『What a Symphony(ホワット・ア・シンフォニー)』である。この時点でドラマーは、マーク・エスハイスからヴォルフラン・デットキ・ブリュドーに交代している。この『ホワット・ア・シンフォニー』のリリース後、エリク・ド・ヴローメンとトン・ストリックの16年に及ぶ関係が終わり、グループを解散している。本アルバムはCD化されたものの、長いあいだ入手困難が続き、プログレッシヴロックファンから幻の名盤と噂されたが、2007年に待望のリマスター盤がリリースされる。そのアルバムにはSEQUOIA時代のデモヴァージョンを含めた豪華2枚組みとなっている。

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 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1980年代に超ド級の長大シンフォニックロックを披露したオランダのコーダのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムは10年ほど前に紙ジャケ2枚組でリリースされたものを初めて聴いたのですが、最初は1990年代のグループのアルバムかな~と思いましたが、実は1986年のアルバムでメインのエリクが1981年ごろに完成させていた曲だと知って驚いたものです。ニューウェーヴが席巻していた時代に、これだけ長大なインスト曲を作ろうとし、尚且つ残したことは凄いことです。アルバムは1曲目の5楽章からなる『サウンズ・オブ・パッション』に尽きるといっても過言ではなく、エリク・ド・ヴローメンの表現力の高さを示したものになっています。多彩なキーボードを中心にギターやドラム、そしてフルートやサックスといったゲストミュージシャンの一体感と緊張感がたまりません。曲の中で静寂と躍動がドラマティックに描かれており、大きなうねりがありつつもメロディラインがしっかりしているため、30分といえども最後まで飽きることなく聴くことが出来ます。なかなか入手困難な作品だったそうなので、こうして手元で聴くことができるということは幸せなことなのかも知れません。

 この『サウンズ・オブ・パッション』を作り上げたエリク・ド・ヴローメンは、著名なチェコ=オーストリア人作家であるギュンター・シュヴァブの2冊の著作が影響したと言っています。明確なタイトルは言っていませんでしたが、彼は激動の世界においてギュンターの本と出会い、自分の中にある秘めたイメージとフィットし、今回の楽曲の制作に当たったとされています。エリクの黙示録的な幻視ともいえる音の表現が、ジャケットのイラストに象徴されている感じがします。

 1980年代のプログレ不毛の時代に産み落とされた崇高ともいえるコーダのアルバムは、今だからこそ聴いて欲しい傑作です。ぜひ、機会がありましたら聴いてみてくださいな。

それではまたっ!