【今日の1枚】Kestrel/Kestrel(ケストレル) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Kestrel/Kestrel
ケストレル/ファースト
1975年リリース

効果的なメロトロンによる
メロディセンスが光るプログレッシヴポップ

 英国紳士風の男性の鼻にクチバシを着けた、ユーモラスなジャケットアートが目を引くケストレルの唯一作。そのサウンドはメロトロンを効果的に使用した極上のポップになっており、溜息が漏れるほどの抜群のメロディセンスが光ったブリティッシュプログレッシヴポップの最高傑作と言われている。ケストレルは中心メンバーだったデイヴ・ブラックが、デヴィッド・ボウイのバックバンドであるスパイダース・フロム・マーズに加入したため、1年余りの活動期間とたった1枚のアルバムしか残せなかった伝説のグループでもある。

 ケストレルはイギリスのニューカッスル・アポン・タインの東にある港町のウィットレイ・ベイで、ギタリストのデイヴ・ブラックとキーボーディストのジョン・クックの2人が中心となって1971年に結成されている。地元で活動していたケストレルはメンバーチェンジや楽器の変更を経て、最終的にデイヴ・ブラック(ギター、ヴォーカル)、ジョン・クック(メロトロン、シンセサイザー、ギター、ヴォーカル)、トム・ノウルズ(リードヴォーカル)、フェンウィック・モイア(ベース)、そして元ジン・ハウスというブルースロックトリオで演奏していたデヴィッド・ウィッテカー(ドラムス、パーカッション)の5人編成となる。中心人物は作曲を行うデイヴ・ブラックであり、本アルバムでは1曲を除いてすべて彼が作曲している。彼はザ・ビートルズやプロコル・ハルムの影響を受けて音楽の道に入ったが、1970年初期にイエスやエマーソン・レイク&パーマー、ジェネシスといった英国プログレッシヴロックグループやオランダのフォーカスといったグループのサウンドに興味を持っていたという。ケストレルの極上ともいえるポップセンスのルーツは、こういった有名どころのグループから影響したものだといえる。彼らはロンドンの大学サーキットで演奏していた時、本アルバムのプロデューサーとなるジョン・ワースの目に留まり、デッカ傘下のCube(キューブ)レーベルと契約することになる。この立方体のケージの中にハエというラベルを持つキューブレーベルとは、音楽出版社のデヴィッド・プラッツによって設立されたFly(フライ)レコーズから名を変えたレーベルであり、T・レックスをはじめ、エレクトリック・ライト・オーケストラ結成前のジェフ・リンが在籍していたザ・ムーヴ、ジョー・コッカーといったアーティストのアルバムを手がけたほか、かのプロコル・ハルムの『青い影』の再リリース盤も請け負っていたという。ちなみにジョン・ワースはデッカレコード傘下のキューブレーベルのプロデューサーの1人として活躍していた人物である。1974年にケストレルのメンバーは、ロンドンのウェセックス・ミュージック・スタジオに入り、エンジニアにジョン・ロロを迎えてレコーディングを開始する。こうして数ヶ月をかけて録音されたデビューアルバム『ケストレル』は、1975年にリリースされることになる。アルバムはスタジオにあったというメロトロンやシンセサイザーを駆使したジョン・クックのキーボードと、繊細なギター、そしてトム・ノウルズの甘美なヴォーカルが冴えた究極ともいえるメロディセンスを持った珠玉のサウンドとなっている。

★曲目★
01.The Acrobat(ジ・アクロバット)
02.Wind Cloud(ウィンド・クラウド)
03.I Believe In You(アイ・ビリーヴ・イン・ユー)
04.Last Request(ラスト・リクエスト)
05.In The War(イン・ザ・ウォー)
06.Take It Away(テイク・イット・アウェイ)
07.End Of The Affair(エンド・オブ・ザ・アフェア)
08.August Carol(オーガスト・キャロル)

 アルバムの1曲目の『ジ・アクロバット』は、冒頭からメロトロンとギターワークから入り、リズム隊が加わると一転して英国グループらしい高品質なポップなサウンドに変化する。トム・ノウルズの力強いヴォーカルやデイヴ・ブラックの変幻自在のギターコード、中間部ではジョン・クックのクラヴィネットやエレクトリックピアノを使用したジャジーな展開など、ケストレルのスタイルがこの1曲にすべて込められている。2曲目の『ウィンド・クラウド』は、効果的なハープシコードやオルガンを駆使した叙情的なナンバー。甘美なヴォーカルを経てデイヴ・ブラックのギターとハープシコードのインタープレイが美しく、思わず聴き惚れてしまうほどである。3曲目の『アイ・ビリーヴ・イン・ユー』は、力強いギターのイントロから始まる、軽快でスタイリッシュなメロディのポップナンバー。ここではディヴの巧みでセンスあふれるギターワークが聴くことができる。4曲目の『ラスト・リクエスト』は、ソフトタッチのピアノソロをバックに情感的なヴォーカルとコーラスが鮮やかなバラードナンバー。美しいメロディの洪水のようであり、後半のメロトロンは感動的ですらある。5曲目の『イン・ザ・ウォー』は、多重録音されたようなギターワークとエレクトリックピアノによる変拍子のあるイントロから、まるでフュージョン/クロスオーヴァー的なサウンドのような印象を受けるナンバー。ジョン・クックの多彩でカラフルなキーボードワークと粘りのあるギターが聴きどころである。6曲目の『テイク・イット・アウェイ』は、アルバムの中でも最も軽快なポップナンバー。この抜けの良さがアメリカンポップっぽいサウンドであるが、中間部には英国らしいシンセサイザーソロがある。7曲目の『エンド・オブ・ザ・アフェア』は、初期のイエスを思わせる緩急のあるナンバー。ピアノをバックに叙情的に歌うヴォーカルが印象的なナンバー。手数の多いドラミングを経て流麗なギターワーク、そして畳み掛けるよなメロトロンなど実にメロディアスである。8曲目の『オーガスト・キャロル』は、パワフルなアンサンブルから、ブリティッシュロックらしいポップなサウンドが満喫であるナンバー。3分30秒あたりからのドラムロールを経て曲調が一変し、素晴らしいメロトロンと泣きのギターによるインストパートが待っている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ギタリストを楽曲構築の要とするグループの割には、多彩なキーボードやリズム隊をうまく活用したアンサンブルを重要視したグループである。手堅いメンバーの演奏に支えられたデイヴのメロディセンスは素晴らしく、特にジョンのメロトロンの使い方は効果的である。1970年代初期のブリティッシュロックに影響を受けたことを鑑みても、これだけ様々なジャンルの音楽を鮮烈なポップテイストにアレンジしてしまった秀逸さは、数ある隠れ名盤の中でも飛び抜けていると思える。

 ケストレルのデビューアルバムがリリースされる前に、積極的にTVに出演してプロモーションにも力を入れたが、セールス的に奮わなかったそうである。そんな折にデイヴ・ブラックが、ミック・ロンソンに代わるギタリストとして、デヴィッド・ボウイのSPIDERS FROM MARSに引き抜かれてしまう。グループの中心人物だったデイヴが抜けたために、ケストレルは1枚のアルバムを残して解散することになる。デイヴはデヴィッド・ボウイのSPIDERS FROM MARSに加入したものの長続きをせず、その後トム・ノウルズとGOLDIEというグループを結成し、全英7位を記録したシングル『メイキング・アップ・アゲイン』をリリースしている。ドラマーのデヴィッド・ウィッテカーはセッションミュージシャンとなり、主に地元のニューカッスル・アポン・タインを中心に活動。キーボーディストのジョン・クックは、1980年にミッドナイト・フライヤーというグループを結成し、3枚のアルバムを残している。トム・ノウルズに関してはGOLDIE解散後、家族が営むベーカリー系のビジネスに乗り出して、会社を経営しているという。アルバムは廃盤となったために長年、高値で取引されるプレミア付きとして有名となり、e-Bayのインターネット・オークションでは最高値366ポンド(16万6千円)となったこともある。後にCD化によってメロトロンファンに限らず、プログレファンにも陽の目に当たることになるが、2000年代に入って自分達のアルバムが高値で取引されることを聞いたデイヴ・ブラックは、「レコーディングを行ってから30年後に、このアルバムがプログレッシヴロックの傑作と評されていると考えると驚きだ」と語っている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は長い間隠れ名盤として君臨し続け、今では英国プログレッシヴポップの至宝と呼ばれるようになったケストレルの唯一作を紹介しました。実はこのアルバムはブログの初期に紹介していましたが、あまりにも簡潔し過ぎていたために、もう一度今のフォーマットで作り直そうと常々考えていまして、今回リニューアルした次第です。前回のは闇のかなたへ・・・いえ、破棄させていただきました。というわけで、ケストレルのアルバムですが、1990年あたりでしょうか、テイチクからブリティッシュ・プログレッシヴロック・クラシックスというスリムタイプのCDが発売されていて、北アイルランド出身のFRUUPPと一緒に購入した記憶があります。当時は一風変わったジャケットが気になって買ったものですが、聴いてみてそのサウンドに鳥肌が立ったことを覚えています。メロトロンやエレクトリックピアノ、ギターが効果的で、これだけメロディが記憶に残るサウンドは数少ないと思います。実はこのアルバムはその後、知り合いに喜び勇んでこのCDを薦めて貸したものの、ついに返って来なくてCD屋に足を運んでも見つからず、私にとっても幻のアルバムでもあるんです。2000年代に入って紙ジャケ盤が再発して、不思議なものでジャケットを見ただけでかつてのメロディの記憶が蘇ってきて、買って帰るなりすぐにプレイヤーにかけたものです。

 リリース当時、見向きもされなかった本アルバムは、時代を越えてプログレッシヴポップの至宝と呼ばれるようになった作品です。このアルバムの凄いところは、デイヴ・ブラックのメロディセンスはもちろん、聴けば聴くほど新たな発見があるところです。私自身も聴き始めた頃はその抜群のメロディに惹かれたものですが、よくよく聴いてみると変幻自在のギターワークやメロトロン、ハープシコード、エレクトリックピアノといった多彩なキーボード、手数の多いドラミングなどが聴き取れて、こんなところにもメロトロンが使われているのかと感動してしまいます。ロックだけではなくジャズ風味のサウンドもあり、今を思えば1970年初期の様々なブリティッシュロックのジャンルを鮮やかにポップテイストに落とし込んだ感じがあります。新たなファンベースが広がっていることを考えると、メロディだけではないプログレッシヴな要素が見られるからなのではと思っています。そういう意味では「プログレッシヴポップ」というジャンルは、言い得て妙だなと感じています。

 ブリティッシュロックのポイントを抑え、プログレッシヴの要素を盛り込んだ極上のポップサウンドがここにあります。彼らのメロディとともに押し寄せるメロトロンの洪水を、ぜひ堪能してほしいです。

それではまたっ!