【今日の1枚】Emerson Lake&Palmer/展覧会の絵 | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Emerson Lake&Palmer/Picture At An Exhibition
エマーソン・レイク&パーマー/展覧会の絵
1971年リリース

EL&Pの驚異のパフォーマンスが披露された
ロックライヴアルバムの最高峰となった名盤

 18世紀のロシアの作曲者であるモデルト・ムソルグスキーが作曲した、ピアノ組曲『展覧会の絵』をモチーフにしたエマーソン・レイク&パーマーが1971年にリリースしたライヴアルバム。本アルバムはキース・エマーソンのハモンドオルガンやムーヴシンセサイザーを駆使した壮絶なプレイを中心に、3人の圧倒的なパフォーマンスによる、ロックとクラシックを見事に融合させた歴史的な名盤である。ライヴの音源が海賊盤として出回ってしまったため、対策として本アルバムが急遽リリースするという作り手にとって不本意な経緯だったが、本国イギリスではアルバムチャート3位、日本では2位という異例のセールスを記録し、エマーソン・レイク&パーマーの不動の人気を決定付けた作品となっている。

 エマーソン・レイク&パーマーは、元ザ・ナイスの天才キーボーディストのキース・エマーソン、元キング・クリムゾンのヴォーカル&ベーシストのグレッグ・レイク、元アトミック・ルースターのドラマーのカール・パーマーによるトリオグループである。1970年にデビューを果たしたエマーソン・レイク&パーマーは、3人がそれ以前のグループで名声を得ていたことから本国イギリスではスーパーグループと呼ばれ、常に彼らの作品や動向が注目されていたという。彼らの人気を押し上げたのは、ファーストアルバムから僅か半年の1971年5月にリリースされた、セカンドアルバム『タルカス』だろう。トリオグループとは思えない圧倒的なパフォーマンスによって、プログレッシヴロックの革新性と可能性を提示した歴史的なアルバムである。実は1971年の1月からこのセカンドアルバム『タルカス』のリハーサルをしていた頃、昨年の11月から5ヶ月間のイギリス公演のツアーが組まれており、3月26日にイギリスのニューキャッスル・シティー・ホールで『展覧会の絵』を含むライヴ録音が行われたという。本アルバムはそのホールでのライヴを録音したものだが、元々『展覧会の絵』の曲は、彼らがグループの結成以前からジャムセッションやサウンドチェック用としてプレイしていた曲である。かつてクラシックのコンサートにも足を運んでいたキース・エマーソンが偶然、とある会場のムソルグスキーの『展覧会の絵』の演奏を聴き、その日のグループのリハーサルで弾き始めたのがきっかけだったという。様々にアレンジして演奏するキース・エマーソンの横で聴いていたグレッグとカールも曲を覚えるようになり、ジャムセッションの中で独自の『展覧会の絵』を完成させたという。グレッグ・レイクの薦めで、この曲をライヴで披露しようということになり、リハーサルで腕ならしとして演奏していた『展覧会の絵』を完璧な作品として仕上げ、イギリス公演のツアーの曲として組まれることになる。1970年11月から行われたイギリス公演のツアーは大成功に終わり、1971年4月には初のアメリカ公演が実施されている。しかし、5月にセカンドアルバム『タルカス』がリリースされ、エマーソン・レイク&パーマーの人気が絶頂にあった時、『展覧会の絵』のライヴ音を含む2枚組みの海賊盤が出回る事態が起こってしまう。事態を憂慮した彼らとレコード会社は出回っていた海賊盤を回収し、リリースする予定には無かった本アルバムを1971年11月に発売することを決定する。アルバムにはライヴで使われた『展覧会の絵』とアンコール曲として使われたチャイコフスキーの『ナットロッカー(くるみ割り人形)』を収録している。エマーソン・レイク&パーマーの初のライヴアルバムとなった本作だが、クラシックとロックの融合を目指す彼らによる、凄まじいほどのエネルギーと圧倒的なパフォーマンスが音源から伝わる画期的な作品となっている。

★曲目★
01.Promenade(プロムナード)
02.The Gnome(小人)
03.Promenade(プロムナード)
04.The Sage(賢人)
05.The Old Castle(古い城)
06.Blues Variation(ブルーズ・ヴァリエーション)
07.Promenade(プロムナード)
08.The Hut Of Baba Yaga(バーバ・ヤーガの小屋)
09.The Curse Of Baba Yaga(バーバ・ヤーガの呪い)
10.The Hut Of Baba Yaga(バーバ・ヤーガの小屋)
11.The Great Gates Of Kiev(キエフの大門)
12.Nutrocker(ナットロッカー)

 本アルバムで演奏する彼らの『展覧会の絵』は、ムソルグスキーの『展覧会の絵』の一部を抜粋し、ラヴェルが編曲した内容を元にオリジナル曲を加えた独自の構成で作られている。1曲目の『プロムナード』は、まさに聴きなじむムソルグスキーの『展覧会の絵』のオープニングである。高らかに弾く型式的なパイプオルガンから、これから始まる型破りな演奏に聴く者が圧倒することになる。2曲目の『小人』は、カール・パーマーのドラムを皮切りに、グレッグのベース、キースのキーボードによる掛け合いが始まる。ライヴ映像ではドラムの問いかけにベースやキーボードが応えるといった流れになっており、お互い目を配りつつ楽しみながらも緊迫した演奏になっている。再度『プロムナード』の曲を経て、4曲目の『賢人』は、グレッグ・レイクのオリジナル曲で原曲の『Bydlo(ビドロ)』のコード進行を取り入れている。グレッグのクラシカルなアコースティックギターの弾き歌となっており、完璧ともいえる美しいギターの爪弾きと情感的なグレッグのヴォーカルが素晴らしく、中間部のギターソロは聴く者を惹きこむ幽玄さすらある。5曲目の『古い城』は、一転してムーヴシンセサイザーを派手に使用した楽曲から、6曲目の『ブルーズ・ヴァリエーション』のオルガンを中心としたアンサンブルになる。オルガンの演奏に合わせて、次第に手数が多くなるドラミングや巧みに弾きまくるベースは圧巻である。再びムーヴシンセサイザーで掻き回すように鳴らしながらフェードアウトしていくところまでが、レコードでいうA面である。7曲目は1曲目と同じようにオルガンで『プロムナード』が弾かれ、今度はドラムとベースがオルガンフレーズと合わせて演奏しているのが印象的である。8曲目の『バーバ・ヤーガの小屋』は、一気に緊迫感あふれるオルガンを中心としたアンサンブルとなる。9曲目の『バーバ・ヤーガの呪い』は、ムーヴシンセサイザーの独特な音から始まる。グレッグの短いベースフレーズから各人の楽器による三位一体の即興的な演奏になり、9曲目の『バーバ・ヤーガの小屋』までハイテンションで続いていく。ムーヴシンセサイザーの奇妙ともいえる音に引っ張られてしまうが、グレッグの力強いベースやヴォーカル、カールの凄まじいほどの手数のドラミングなど、神がかっているとしか思えないほどの演奏が繰り広げられている。10曲目の『キエフの大門』は、スケール感あふれる大曲となり、心が洗われるようなグレッグのヴォーカルと美しいキースのオルガンによって、優雅でユーモラスなロック版『展覧会の絵』を締めくくっている。最後の『ナットロッカー』は、ライヴのアンコール曲となっており、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』のロックヴァージョン。ノリの良いオルガンアレンジで観客を巻き込みながら演奏しているのが印象的である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、確かにムソルグスキーの『展覧会の絵』のロックヴァージョンであることは間違いないが、クラシックとロックの融合を遥かに超えた表現力と演奏力、ひいては曲調に合わせた緊張感と疾走感が聴く者を圧倒させる。原曲がすでに緩急のあるピアノ組曲であることを考えても、本アルバムではさらに輪をかけたアレンジをしており、彼らの高い演奏力に支えられたパフォーマンスは見事としか言いようが無い。

 本アルバムは海賊盤対策で急遽リリースしたものの、売れ行きは凄まじく、新作ではないライヴアルバムであるにも関わらず、本国イギリスではアルバムチャートで3位にランクインし、アメリカのビルボードでは10位にランクインする快挙を成し遂げている。また、日本でもリリースしたとたん飛ぶように売れてオリコンチャートで2位にランクインしている。親しみ易いクラシック曲であるムソルグスキーの『展覧会の絵』が入り口となったとはいえ、圧巻ともいえるエマーソン・レイク&パーマーのライヴパフォーマンスの素晴らしさが、多くの人々に浸透した結果となったのは間違いないだろう。1971年は5月にリリースした名盤『タルカス』と11月にリリースした本アルバムの『展覧会の絵』によって、エマーソン・レイク&パーマーの人気は頂点を極めることになる。かつてリハーサルのジャムセッション用として遊び半分でプレイしていた曲が、新たな解釈と表現を加えてひとつの作品に仕上げてしまった本アルバムの楽曲を聴くと、ライヴを通して3人の揺ぎ無い結束が垣間見えるようである。なお、ライヴ映像では、2005年に35th Anniversary Collector's Editionとして発売された『展覧会の絵』のDVD版が最新となっており、DTSトラックを追加したものとなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はエマーソン・レイク&パーマーのライヴアルバムの傑作にとどまらず、ロック史に残る名盤の1枚である『展覧会の絵』を紹介したわけですが、このアルバムはあちこちで語りつくされていますので、私なりに解釈してみようと思います。本アルバムの『展覧会の絵』は、エマーソン・レイク&パーマーの『タルカス』に次いで購入して聴いたものです。当時はレコードでした。『タルカス』は彼らの非常に硬質な演奏テクニックに惚れ惚れして一気に虜になったのですが、本アルバムを聴いたとき、あまりの凄まじいエネルギーとクラシカルな内容からかけ離れていたためか「何か違う」と思ったものでした。ムソルグスキーの『展覧会の絵』の曲は少しは知っていたので、どこか優雅さを求めていたのかも知れません。ロックとクラシックの融合は他のグループでも演奏していましたが、大きく違うところはエマーソン・レイク&パーマーの場合はアグレッシヴな演奏の中でクラシックの整合性をとっているところです。少なくとも他のグループには“型”があったように思えます。『タルカス』に続いてキース・エマーソンの天才的なパフォーマンスは本アルバムでも発揮されており、最新鋭のムーヴシンセサイザーですら使いこなしています。きっとあのムーヴシンセサイザーの独特な音と3人だからこそできる即興的な演奏があまりにも斬新過ぎたんでしょうね。最初に聴いた時はその形式的な“型”があまり感じられず、キース・エマーソンがどこまで破壊…もとい、新たなロックとクラシックの融合を試みるのかちょっと怖さを感じたものでした。それでも3人の卓越した才能とテクニックによって生まれた楽曲であることは間違いなく、今では聴けば聴くほどこれがライヴ演奏なんだと忘れるくらい素晴らしいアルバムだと思うようになりました。名盤には名盤たる理由があるということですね。ライヴ映像では時々3人が演奏中にニコッとする場面があり、まるでお互いの演奏を尊重しつつ、楽しんでるんだな~とつくづく思います。

 エマーソン・レイク&パーマーの『展覧会の絵』は、もう何度も聴いている人も多いでしょうが、年を重ねてから改めて聴くと、また違った良さや発見がありますよ。

それではまたっ!