【今日の1枚】Murple/Io Sono Murple(ペンギン、ムルプレの物語) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Murple/Io Sono Murple
ムルプレ/ペンギン、ムルプレの物語
1974年リリース

クラシカルな演奏の中に軽妙なアレンジが
冴え渡ったトータルコンセプトアルバム

 ジャズやクラシック部門レーベルのBASFからリリースされた、イタリアのプログレッシヴロックグループ、ムルプレの唯一作。そのアルバムはキーボードを中心にギター、ベース、ドラムという4人編成が織り成す正統派のシンフォニックロックになっており、軽快なギターと重厚なコーラスがサウンドに彩りを与えたトータルコンセプトアルバムとなっている。南極から自由を求めて群れから離れたペンギンが、人間に捕らわれ、サーカスで演じられ、最後は動物園で生涯を終えるというストーリーを豊かな表現で描いている。

 ムルプレは1971年、親友であるドラマーのドウィリオ・ソレンティとベーシストのマリオ・ガルバリーノを中心に、そこにサンタ・チェチリア音楽学校でピアノやコントラバス、そして作曲を学んでいたピエール・カルロ・ザンコ、ギタリスト兼ヴォーカルのピノ・サンタマリアが加わって結成されている。彼らはまだ10代の学生であり、音楽の道に進むきっかけとなったのが、アメリカから来た新聞社の通信員だったジョン・モースという人物である。彼は様々なインターナショナル・スクールの子供たちに、知り合いのアーティストを呼んでは流行の音楽を演奏していたという。海外の音楽経験を得たソレンティとガルバリーノは、いつしか自分たちの音楽グループを作りたいと考えていたという。また、ジョンはユニークな人物で、常に音楽を演奏するときに1つの椅子を空けており、「ここに目には見えないが2mを越す全裸のペンギン・ムルプレという僕の友人がいる」とよく子供たちに語っていたという。そのような話を思い出して、2人はグループ名をムルプレとし、ペンギン・ムルプレのストーリーを軸とした楽曲を作り始めたといわれている。ムルプレという変わった名前とストーリー性のある楽曲のデモを聴いた複数のプロデューサーが注目し、そのうちの1人であるロベルト・マルサーラが彼らをナポリのカマルドーリで開催されたBe-inフェスティバルに招待している。このフェスティバルでムルプレは、RDM、クラウディオ・ロッキ、フランコ・バッティアート、アトミック・ルースターなどとステージを共にしている。この時、彼らはアルバムのレコーディングを考えており、ザ・トリップやイル・バレット・ディ・ブロンゾなどと契約をしていたRCAレコードからオファーを受けていたが、ロベルト・マルサーラの紹介でドイツのBASFと契約を結んでいる。BASFは元々、クラシックやジャズを中心に取り扱うレーベルだったが、ちょうどポップやロックミュージックも扱いはじめ、欧州各国にサブレーベルとして設立していたところだったという。イタリア系ではムルプレが初めて対象となったアーティストである。ムルプレはファーストアルバムのレコーディングのために、ボビー・ソロが新たに設立したアウレリアにあるChantalainスタジオに入ることになる。エンジニアにはジョルジョ・ロヴィシェクが務め、ドルビーA対応の16トラックを中心とした最新機材で録音されたという。こうして、デビューアルバムとなる『ペンギン、ムルプレの物語』が完成し、1974年にリリースされる。

★曲目★
Io Sono Murple PartⅠ(ペンギン、ムルプレの冒険 パートⅠ)
01.Antartide(南極大陸)
02.Metamorfosi(変容)
03.Pathos(情熱)
04.Senza Un Parche(理由なき旅)
05.Nessuna Scelta(唯一の選択)
06.Murple Rock(ムルプレ・ロック)
Io Sono Murple PartⅡ(ペンギン、ムルプレの冒険 パートⅡ)
07.Preludio E Scherzo(前奏曲とスケルツォ)
08.Tra I Fill(鋼と鋼の間)
09.Variazioni In 6/8(6/8拍子の変奏曲)
10.Fratello(兄弟)
11.Un Mondo Cosi'(波)
12.Antarplastic(アンタープラスティック)
★ボーナストラック★
13.Il Veccio Castrllo(古城)
14.Il Ballo Dei Pulchni(ひよこのボール)
15.Limoges(リモージュ)
16.Nani E Clown~Live1973~(小人と道化師~Live1973~)

 アルバムはレコードでいうA面、B面にそれぞれ6つの曲がつながった『ペンギン、ムルプレの冒険』のパートⅠとⅡのコンセプトアルバムになっている。1曲目から6曲目の『ペンギン、ムルプレの冒険パートⅠ』は、繊細なドラムスの響きからクラシカルなオルガンから軽快な演奏を経て、なだらかなオルガンソロが続き、3分過ぎから美しいギターソロを中心とした疾走感あふれるアンサンブルとなる。7分過ぎからピアノのアルペジオをバックにイタリアらしい情感あふれるヴォーカルが始まり、再び明るいギターとクラシカルなオルガンに包まれる。この辺りは初期のジェネシスを彷彿とさせる。9分過ぎには端正なピアノソロを経て、荘厳な無伴奏のコーラスが響き渡る。後に複雑なリズムセクションを加わったロック調のアンサンブルとなり、アナログ単音のシンセサイザーが活かされている。14分過ぎには再びコーラスになり、ギターソロとシンセサイザーのSEを加えた変拍子風の『ムルプレ・ロック』が披露される。7曲目から12曲目までの『ペンギン、ムルプレの冒険パートⅡ』は、ピエール・カルロ・ザンコの流麗なクラシックピアノソロから始まり、3分過ぎにストリングスとギターをバックにした美しいヴォーカルパートに移行する。5分過ぎには転調のあるテクニカルな演奏に切り替わり、まるでオルガンとドラムスのフレーズが不安感を醸成している。その後にはオルガンとギターをバックにカンタトゥーレに近いヴォーカルを聴かせてくれる。9分過ぎにはクラシカルでありながら軽快なオルガンソロになり、手数の多いドラミングやギターが加わったアップテンポに切り替わる。この辺りはアルバムのハイライトともいえるプログレッシヴなサウンドになっており、聴き応え十分の内容になっている。最後はオルガンのアルペジオに乗せて歌うヴォーカルから、一転して哀愁のあるギターを中心とした力強いアンサンブルになり、チェロの響きとともに静かに終了している。ボーナストラックの『古城』は、クラシカルなピアノをバックにハイトーンのヴォーカルが美しい曲。途中で一転して攻撃的ともいえるアンサンブルに切り替わり、静と動を活かした内容になっている。『ひよこのボール』は、リズムセクションとロック調のギターを中心とした楽曲。途中から軽快なシンフォニックな演奏があるなど、彼らの高いセンスが感じられる。『リモージュ』は、シンセサイザーの響きを中心としたメロディアスなポップサウンドとなっている。最後の『小人と道化師~Live1973~』は、1973年当時のライヴを録音したものだが、決して録音自体は良いものではないが、『ウイリアム・テル序曲』のフレーズを引用しているなど面白い。こうしてアルバムを通して聴いてみると、クラシックやロック、ジャズ風の「静」と「動」のある演奏を絡めて、彼らの標榜とするペンギン、ムルプレのストーリーを表現豊かに描いているように感じる。8曲目にある『鋼と鋼の間』はサーカスの檻のことあり、12曲目の『アンタープラスティック』は、プラスティックの氷山のある動物園をイメージしているのだろう。決してテクニカルとは言えないが、イタリアらしい哀愁のあるギターやヴォーカル、雰囲気を和らげるピアノやオルガンソロ、そして軽快なアンサンブルなど、カラフルでファンタジックな演出が随所にあり、デビューアルバムとは思えない高い完成度を誇っている。

 アルバムリリース後、1974年頃から始まったイタリアの社会情勢の悪化によって、残念なことにレーベルのBASFがその後、すぐに閉鎖してしまっている。彼らはセカンドアルバムの準備をしていたものの、そのあおりを受けて数回のギグを行ったのちに解散している。ムルプレのメンバーはその後、セルヴァッギア・ディヴァスコやジュゼッペ・マリア・マラット、チャーリー・W・カノンといったBASF所属のアーティストのセッションミュージシャンとなり、サンタマリア以外のメンバーはリヴィング・ミュージックのシンガーだったジャンフランカ・モンテドロのアルバム『Donna Circo』のバックを務めている。彼らは1980年代から1990年代にかけてセッションミュージシャンとして活躍し、ドラマーのドウィリオ・ソレンティは、イル・バレット・ディ・ブロンゾのジャンニ・レオーネと共にキーボードトリオを結成している。また、2002年に本アルバムのLP&CDがAkarmaから再発されたことをきっかけに、2008年にドラマーのドウィリオ・ソレンティとベーシストのマリオ・ガルバリーノ、そしてキーボーディストのピエール・カルロ・ザンコのオリジナルメンバーに、ヴォーカルにクラウディア・ドッタヴィー、ギタリストにマウロ・アルノを加えた新生ムルプレを再結成し、ヴィクター・ハートマンの絵画に触発されたアルバム『Quadri Di Esposizioni(展覧会の絵)』をリリースしている。このアルバムはファンタジックなコンセプトアルバムとなっており、彼らの卓越したセンスが光った1枚となっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はペンギンのストーリーを題材にしたイタリアン・プログレッシヴロックグループ、ムルプレの唯一作を紹介しました。このアルバムは1990年代に再発されたCDを持っていたのですが、ユニークなサウンドだったのにも関わらず、レコード盤から落としたものなのかノイズ音がかなり多かった記憶があります。今回、SHM-CD盤を入手して聴いたときに音源がクリアになっており、聴くならデジタルリマスター盤となったこちらのほうが絶対に良いと思います。収録されているボーナストラックも、彼らの高いセンスを感じられる逸品になっています。

 さて、ムルプレというユニークなグループ名に惹かれて聴いたのですが、情報によると幼少の頃に一風変わったジョン・モールのペンギン、ムルプレという架空の友人(動物?)の話を聞いて、グループ名とその物語を楽曲にしたというのは非常に面白い話です。サウンドの方はキーボーディストのピエール・カルロ・ザンコの流麗でクラシカルなピアノとオルガンがエレガントであり、彼のクラシックに精通したキーボードに支えられた楽曲がメインとなっています。一方でピノ・サンタマリアのヴォーカルとギターが哀愁を帯びていて、これがまた良いんですよ。それぞれレコードでいうA面とB面の最後にはアップテンポのプログレッシヴな展開になるところは、かなり聴き応えがあります。暗くなりがちなプログレッシヴロックにおいて、ムルプレは全体的にイタリアらしい軽快で明るいサウンドに徹していて、聴いた後の余韻が良い意味で残ります。埋もれてしまうにはもったいないアルバムです。

 本アルバムはファンタジックでありながら、静と動が明確になっている独特のサウンドがユニークです。興味深いアイデアを組み合わせた楽曲は、かの初期のジェネシスやレ・オルメといったグループに近いものになっています。気になった人は、ぜひ聴いてみてください。

それではまたっ!