【今日の1枚】Van Der Graaf Generator/天地創造(核融合) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Van Der Graaf Generator/H To He Who Am The Only One
ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター/天地創造 ※旧邦題『核融合』
1970年リリース

詩人ピーター・ハミルの個性を色濃く反映させた
高度なテクニックと神秘さを誇ったサードアルバム

 ジャンルにとらわれない類まれなる先見性により、音楽的な先駆者として讃えられるヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター(VDGG)のサードアルバム。本アルバムは暗澹とした歌詞と複雑な楽曲であるにも関わらず、高度なテクニックによる神秘的なサウンドが人気を呼び、4枚目のアルバム『ポーン・ハーツ』と並んでVDGG初期の名盤とされている。太陽の進化における核融合を表した水素からヘリウムの化学変化を指す“H To He”に、“誰が唯一のひと”という言葉を続けたタイトルになっており、グループの主宰者で詩人であるピーター・ハミルの卓越したセンスが色濃く反映されたアルバムとなっている。

 ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター(以下、VDGG)は、1967年の秋頃にマンチェスター大学の化学コースで学んでいたピーター・ハミル(ヴォーカル、ギター、ピアノ)と、アメリカを放浪して大学に復帰したクリス・“ジャッジ”・スミス(ヴォーカル、ドラムス)との出会いから始まっている。2人は意気投合して音楽グループの結成に動き、同マンチェスター大学の教授で静電型発電機の発明者であるロバート・ジェミソン・ヴァン・デ・グラフから名前を取って、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターというグループ名にしている。興味を持ったロンドンのマーキュリー・レコードと2人は契約して活動を開始するが、結成時にメンバーにいたニック・パーン(オルガン)はすぐに辞めている。後に改めてヒュー・バントン(オルガン)を迎え、数ヵ月後にキース・エリス(ベース)、ガイ・エヴァンス(ドラムス)のメンバーがそろい、さらにエリスの縁で元スポーツ記者で後にカリスマ・レコーズを設立するトニー・ストラットン=スミスがマネージャーとして加入している。このメンバーでファーストシングル『People You Were Going To』をレコーディングしている。しかし、当のマーキュリー・レコーズがレコードリリースを模索したもののうまくいかず、結果、1968年にアメリカではテトラグラマトン・レコーズ、イギリスではポリドール・レコーズからリリースすることになる。だが、セールス的に振るわないどころか、マーキュリー・レコーズとの契約違反によって法的問題が生じて回収の憂き目に逢ってしまう。さらにクリス・“ジャッジ”・スミスがピーター・ハミルとの主導権争いの末に脱退し、また、ロンドンでワゴンごと機材を盗まれてしまうなどの悪条件が重なり、1969年7月にグループは一度解散することになる。

 しばらくしてマネージャーだったトニー・ストラットン=スミスが手を指しのべたことにより、マーキュリー・レコーズからピーター・ハミルのソロ作の打診が入り、彼の元にメンバーが集まったことで再度VDGGが再結成される。ピーター・ハミルは劣悪だったマーキュリーとの契約解除を条件にグループ名義でアルバム『Aerosol Grey Machine』をレコーディングしている。そして1969年9月に本国イギリスではリリースされず、ドイツとアメリカのみでリリースされる。事実上、VDGGのファーストアルバムとなったわけだが、一度のセッションのみだと考えていたベーシストのキース・エリスは、ジューシー・ルーシーというグループに加入したため、代わりにニック・ポッターが加入。また、もう1人、デヴィッド・ジャクソン(サックス)が加入して5人編成となる。ロンドンのライシアム劇場でコンサートを何度も行い、エールズバリーのフライアーズ・クラブに出演するなど、グループは着実に人気を集めていったという。特に2つのサックスを同時に吹くことができるデヴィッド・ジャクソンは大きく注目されたという。後にトニー・ストラットン=スミスが設立したカリスマ・レコーズと契約し、1970年にセカンドアルバムの『ザ・リースト・ウィ・キャン・ドゥ・イズ・ウェイヴ・トゥ・イーチ・アザー(旧邦題:精神交遊)』をリリースする。4日間という短いスケジュールのレコーディングだったが、グループのスタイルが確立したアルバムとなっており、イギリスでは熱狂的に受け入れられたアルバムとなっている。ことにメロディ・メイカー誌のリチャード・ウィリアムスが内容を褒めちぎっている。自信を持ったVDGGはライヴの機会が増えて、1970年4月にドイツのブレーメンに行ってテレビ番組「ビート・クラブ」用に2曲をレコーディングし放映。5月にはカナダのブランプトン・フェスティバル、6月にはロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールなどで注目されるコンサートを行い、7月には初のヨーロッパツアーを慣行している。トニー・ストラットン=スミスはVDGGを広く認知させるためにコンサートだけではなく、雑誌やテレビといったメディアを多く利用して紹介したという。ライヴの合間に次なるアルバムの制作に取り掛かり、トライデント・スタジオで再度ジョン・アンソニーをプロデューサーを迎えてレコーディングを開始するが、過密なスケジュールに嫌気を指したベーシストのニック・ポッターがレコーディング中に脱退。オーディションでベーシストを獲得しようとしたが適任がおらず、最終的にオルガニストのヒュー・バントンがベースを兼任することで落ち着いている。また、スピークイージーというクラブでキング・クリムゾンのロバート・フリップと共演したことがきっかけで、1曲のみロバートがレコーディングに参加している。こうして、多忙の中でアルバムのレコーディングが完了し、1970年12月にVDGGにとって3枚目となるアルバム『天地創造』がリリースされる。本アルバムはVDGGのライヴの定番となる『Killer』や『Lost』といった曲が収録されており、宇宙的なSFにとどまらない壮大さと神秘さを織り込んだ高い完成度を誇ったコンセプトアルバムとなっている。

★曲目★
01.Killer(キラー)
02.House With No Door(ハウス・ウィズ・ノー・ドア)
03.The Emperor In His War Room(ジ・エンペラー・イン・ヒズ・ウォー・ルーム)
04.Lost(ロスト)
05.Pionners Over C(パイオニアズ・オーヴァー・C)
★ボーナストラック★
06.Squid1/Squid2/Octopus(スクイッド1/スクイッド2/オクトパス)
07.The Emperor In His War Room~First Version~(ジ・エンペラー・イン・ヒズ・ウォー・ルーム~ファースト・ヴァージョン~)
 
 アルバムの1曲目の『キラー』は、深海に住む「殺し屋」の魚をイメージした曲。力強くそして情感的なピーター・ハミルのヴォーカルにギターのアルペジオとサックス、オルガンによるメロディアスな曲から、緊張感あふれる展開になり、サイケデリックワールドに突入する。狂気に近い金切り音のサックスのソロはインパクト大である。2曲目の『ハウス・ウィズ・ノー・ドア』は、ピアノの伴奏に合わせたピーター・ハミルの悲哀のこもった歌声がしみわたる曲。タイトルの通り、ドアも無く屋根も無くベルも無く、そして訪れる人もいない孤独を表現したバラードになっている。繊細なドラムに印象的なフルートのソロ、何よりもしっとりしたピアノの伴奏が、よりいっそう孤独感を演出している。3曲目の『ジ・エンペラー・イン・ヒズ・ウォー・ルーム』は、2部に分かれた楽曲になっており、最初はリリカルなフルートに導かれたバラードになっており、ピーター・ハミルが淡々と支配者の血塗られた宿命を物語っている。後半ではロバート・フリップがギターで加わっており、ドラムのフィルインによる激しい展開の中で、ロバートの特徴的なギターのトーンが鳴り響いている。ベースラインに沿ったギターとサックスのアンサンブルが奏でられ、最後は静かにピーター・ハミルの声で曲を終えている。4曲目の『ロスト』も2部構成になっており、最初はオルガンをバックにしためぐるましいフルートとサックスが特徴の曲である。変拍子のオルガンに導かれて激しいアンサンブルに突入し、後に今度はゆっくりとした曲調になるなど静と動の緩急が凄まじい。後半は同じフレーズ上で手数の多いドラミングとサックスが舞踏のように鳴り響き、ピーター・ハミルのヴォーカルがどこか切なく感じる。複雑な展開が多く、VDGGらしいテクニカルな演奏が目立つ逸品である。5曲目の『パイオニアズ・オーヴァー・C』は、12分を越える大曲となっており、宇宙的な壮大さと神秘さをイメージしたオルガンから始まる。遭難した宇宙飛行士の絶望的状況を歌っており、オルガンからベースのリフとサックスによるアンサンブルに変わる。ゆるやかな展開から今度はアコースティックギターに導かれてサックスソロになり、ハイトーンのコーラスが広がっていく。後半ではメロディアスなピアノ以外は、サックスの音色やフルートの不協和音が不安感をあおっており、めぐるましい展開はまるで先の読めない恐怖である。これを演出したかどうかは分からないが、ピーター・ハミルの歌声はかなりエモーショナルである。ボーナストラックの『スクイッド1/スクイッド2/オクトパス』は、次のアルバム『ボーン・ハーツ』用に作られたもので、アコースティックギターとキーボードによるエキセントリックな楽曲になっている。『ジ・エンペラー・イン・ヒズ・ウォー・ルーム~ファースト・ヴァージョン~』は、ロバート・フリップが参加する以前の初期テイクの曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、テーマこそ宇宙の広がりを描いているが、実のところ人間の内面(小宇宙)を描いた非常にセンシティヴにあふれた楽曲になっている。コンセプトは人間の生死の狭間で揺れ動く“孤独”だろう。その内容に呼応するかのようにめぐるましく展開する演奏は不安であり、ピーター・ハミルの歌声は悲哀である。そういう意味ではVDGGはピーター・ハミルの描き出すエモーショナルな歌のイメージから空間的な音を作り出しているグループだといえる。

 本アルバムはリリース後、その暗澹たる内容から反応は鈍かったが、メロディ・メイカー誌が絶賛。1970年の暮れには伝説となったジェネシスやリンディスファーンとのイギリスツアーを行い、ライヴで積極的に本アルバムの曲を披露したことで人気が高まり、VDGG屈指の名盤と言われるようになる。1971年には4枚目のアルバム『ポーン・ハーツ』をリリースし、その人気を決定付けている。しかし、彼らの人気に比例するようにライヴツアーやアルバムレコーディングが次々と組まれ、その過密なスケジュールに疲れ果てたVDGGは、1972年に2度目となる解散を決めている。ピーター・ハミルはソロに転向し、1971年に『フールズ・メイト』 、1973年に『カメレオン・イン・ザ・シャドウ・オブ・ザ・ナイト』といったソロアルバムをリリースするが、かつてのメンバーがバックアップに務めるなどして交流は続いていたという。機運が高まった1975年に再度VDGGを結成し、5枚目となるアルバム『ゴッドブラフ』をリリース。1976年には『スティル・ライフ』、そして『ワールド・レコード』と続けてリリースするが、オルガニストのヒュー・バントンの脱退に伴うメンバーチェンジを行ったことで、グループ名をヴァン・ダー・グラーフと変えている。1977年には『ザ・クワイエット・ゾーン/ザ・プレジャー・ドーム』を出した後、約10年に及ぶ活動に終止符を打っている。歴史の中に封印したかと思えたVDGGだったが、2005年にクラシック・ラインナップと呼ばれる4人編成で、アルバム『プレゼント』で奇跡の復活を遂げる。2008年と2012年に来日公演を果たし、現在でも精力的に活動を続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は詩人ピーター・ハミル率いるヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターのサードアルバム『天地創造』を紹介しました。ピーター・ハミルといえば、同じカリスマ・レコーズに所属するジェネシスの同じピーターの名がつくピーター・ガブリエルとよく比較されて、表のピーター・ガブリエル、裏のピーター・ハミルと呼ばれるほど、ブリティッシュ・プログレ界の2人の存在は大きいです。後のパンク/ニューウェイヴに与えた影響も大きく、かのパンク・ロックバンドであるセックス・ピストルズのリード・ボーカル、ジョン・ライドンもピーター・ハミルとVDGGから大きく影響を受けたと公言しています。彼らの音楽性はクラシックやジャズ、ブルースをルーツとする多くのプログレとは違い、VDGGはそういった素養が全く感じられない独自性があります。曲の展開はプログレ的な目まぐるしさや変拍子にあふれていますが、歌の比重が大きく、ピーター・ハミルあってのグループなんだなと改めて痛感します。そういった意味では、一般的なプログレの様式美や方向性とかけ離れたところにあるのが、VDGGの魅力であり、個性につながっていると思います。

 アルバムのジャケットイラストは、ジェネシスの初期のアルバムも手がけたポール・ホワイトヘッドの宇宙的なイラストが描かれています。原画はてんびん座をモチーフとした「バースディ」という作品だそうで、VDGGにとってコンセプト的なアルバムを作ろうとした意思が伝わってきます。本アルバムのピーター・ハミルの詩は、確かに生と死の狭間で揺れ動く人間の孤独を描いています。まるで真っ暗闇の宇宙の中でたった1人漂っているような感じすらします。しかし、彼の歌詞にはその宇宙でいくつもの恒星が瞬くように、絶望の中でも必ず一筋の光があると言っているように思えます。そんな人間の生き様を歌にしているところが、彼が孤高のカリスマと言われる所以なのかも知れません。

 VDGGはその類まれなる楽曲だけではなく、ピーター・ハミルの哲学的な歌詞と合わせて聴くことで、数多いプログレッシヴロックの中でも傑出した存在であると認識するはずです。

それではまたっ!