【今日の1枚】Still Life/Still Life(スティル・ライフ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Still Life/Still Life
スティル・ライフ/スティル・ライフ
1971年リリース

謎に包まれた英ヴァーティゴレーベル屈指の
英国然とした完成度の高いアルバム

 静物画(Still Life)をグループ名にし、ハモンドオルガンを駆使したスティル・ライフの唯一作。その頭部の骸骨を覆った美しい花びらという意味あり気なジャケットと、英国然とした完成度の高いアルバムであるにも関わらず、長らく謎に包まれたグループであり、コレクターの間では1枚のレコードが数万円にも及ぶ激レアアイテムとなった作品である。2001年にリマスター盤が再発されたものの、この時点でもメンバーや楽器編成が未確認であったが、2002年にドラマーであった1人のメンバーから得た情報でようやく当時の状況が明らかにされた。

 1971年にリリースしたスティル・ライフのアルバムには、英ヴァーティゴレーベルのカタログ番号(Vertigo6360 026)と曲目、そしてぼやけた4人のメンバーらしい写真だけである。さらにプロデュースのステファン・ショーン以外のメンバーのクレジットは無く、当然楽器編成の記載も無いという謎に包まれたアルバムだったという。当初は演奏内容からヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターのメンバーが名前を伏せてアルバムを出したものというデマまで飛んでいたこともあり、それがリリースから30年近くも続いていたというから驚きである。2001年に紙ジャケットの再発に伴い、2002年にグループの謎に迫ろうとサイトを運営していたイタリア人音楽ファンの元に、ドラマーだったAlan Savageからメールが届いたことがきっかけで、当時のグループの状況が明らかになったそうである。簡単にグループの情報をまとめると、イギリスのバーミンガムにほど近いコヴェントリーで、1963年にMartin Cure(ヴォーカル)とGraham Amos(ベース)を中心としたTHE SABRESの結成から始まっている。1965年になるとThe Peepsというグループ名に変更し、Roy Albrighton(ギター)とPaul Wilkinson(ドラムス)が加入している。この時に英フィリップスから5枚のシングルを出していたという。1968年にはドラマーのPaul Wilkinsonが脱退し、元レイキング・ソウル・バンドにいたTerry Howells(キーボード)と元ヴァンパイアにいたGordon  Reed(ドラムス)が加入したことにより、Rainbowsというグループ名に変更し、2枚のシングルを残している。また、ドイツのハンブルグでもライヴを積極的に行っており、それなりに知名度は高かった可能性がある。ギタリストだったRoy Albrightonはライヴ後にハンブルグに留まることを決意して脱退し、後にネクターというグループを結成している。イギリスに戻ってきたRainbowsだったが、ドラマーのGordon Reedが脱退することになり、メンバーは3人となってしまった時にグループ名をスティル・ライフと変更したそうである。アルバム用の曲を作り始めるが、ドラマーが欠けていたため、レコーディングにはセッションマンだったAlan Savageが呼ばれ、そのままメンバーとなっている。こうしてメンバーはMartin Cure(ヴォーカル)、Terry Howells(キーボード)、Graham Amos(ベース)、Alan Savage(ドラムス)の4人となり、アルバムの録音はマーブルアーチ近くのレコーディングスタジオで行われたという。そして当時、新進気鋭のロックグループやジャズグループを輩出していた英ヴァーティゴレーベルと契約することに成功し、1971年にデビューアルバムがリリースされることになる。

★曲目★
01.People In Black(ピープル・イン・ブラック)
02.Don't Go(ドント・ゴー)
03.October Witches(オクトーバー・ウィッチズ)
04.Love Song~I'll Never Love You Girl~(ラヴ・ソング~アイル・ネバー・ラヴ・ユー・ガール~)
05.Dreams(ドリームズ)
06.Time(タイム)

 アルバムは全6曲であり、それぞれ英国らしいオルガン主体の叙情的なサウンドに満ち溢れた曲になっている。ギターとフルートの楽器が聴き取れるが、多分、ヴォーカリストのMartin CureとキーボーディストのTerry Howellsのどちらかが担当していると考えられる。1曲目の『ピープル・イン・ブラック』は、アコースティックギターとフルートをメインに力強いヴォーカルが印象的な8分を越えるナンバー。途中からうねりのあるハモンドオルガンと繊細なドラム、ベースラインが素晴らしく、彼らの持つ音楽性がこの1曲に注ぎ込められていると感じられる。2曲目の『ドント・ゴー』は、イントロからハモンドオルガンが鳴り響き、TRAFFICのスティーヴ・ウィンウッドばりのソウルフルなヴォーカルが堪能できるナンバー。3曲目の『オクトーバー・ウィッチズ』は、ハモンドオルガン全開のハードロック調の曲となったユニークなメロディラインが特徴になっている。曲調に明暗が混在しており、プログレッシヴな要素が随所に表れた多彩なオルガンのフレーズは必聴である。4曲目の『ラヴ・ソング~アイル・ネバー・ラヴ・ユー・ガール~』は、アコースティックギターとオルガンによるコーラスを中心としたナンバー。ブリティッシュ然としたヘヴィネスとアングラ感があり、中盤の手数の多いドラム上でオルガンとギターの高速アンサンブルは迫力満点である。5曲目の『ドリームス』は、独特のリズム上で呪文のように歌うヴォーカルと妖しいオルガンから始まり、中盤からヘヴィーなオルガンハードロックに切り替わる。Terry Howellsによる、うねりのあるオルガンのソロが全編にあふれた快作である。6曲目の『タイム』は、パワフルなハモンドオルガンとヴォーカルによるメロディアスな展開が聴き応えのあるナンバー。時折、ピアノの響きがあり、曲全体がクラシカルな内容になっている。こうしてアルバムを聴いて見ると、英国然としたストレートでナチュラルなヴォーカルとオルガンから始まり、後半になるにつれてハードなオルガンロックへと変貌して行くさまは圧巻である。そのサウンドから香る芳醇さは、R&Bやサイケデリックロックに湧いた1960年代の下積みと経験、そしてライヴによる実力を兼ねそろえた彼らならではの才能である。1枚のアルバムから当時の愛すべきブリティッシュロックの利点を最大限に活かした名盤であることは間違いではない。

 スティル・ライフは本アルバムをリリース後の動向は確認されていない。ただし、グループは英ヴァーティゴレーベルと6枚のアルバムをリリースすることを条件に契約していたらしいが、果たすことなく解散している。アルバムは一時的に埋もれてしまうが、何よりキーフのデザインによるインパクトの強いスリーヴとヴァーティゴからのリリースということで、ブリティッシュロック愛好家やコレクターから注目を集めることになる。結果的にヴァーティゴレーベルの中でもトップクラスのウルトラレアアイテムになったことは言うまでも無い。リリースした1971年の音楽シーンは激動の時代である。革新を続けるロックムーヴメントの空気の中で吐き出すような彼らの演奏は、まるでブリティッシュロック悲哀そのもののように感じてしまう。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はハモンドオルガンを基調とした古き良きブリティッシュロックを披露したスティル・ライフのデビューアルバムを紹介しました。紙ジャケット化した再発盤を手に入れたのですが、このアルバムは謎が多いため、ライナーノーツを読んでみてもライターが苦心しているのが良く分かります。ネットで検索してみたらメンバーの情報が明らかになっており、彼らの経歴は英語版のサイトから集めました。情報を集めると繋がりが少しずつ見えてきて、ギタリストのRoy Albrightonは確かにドイツのプログレッシヴグループであるネクターの創設メンバーとなっています。彼がスティル・ライフの前身グループであるRainbowsのメンバーであり、ドイツのハンブルグにライヴ遠征した際に留まっていたというのは良い情報です。ネクターは確かに1969年にドイツのハンブルグで結成されたグループです。ちなみにRoy Albrightonは2000年代もネクターのメンバーとして活動していましたが、2016年7月26日に病気により67歳で亡くなっています。

 さて、スティル・ライフのジャケットデザインは、髑髏の上に覆われた花(アジサイ?)をあしらったキーフのデザインによるものです。ダブルジャケットになっていて、要は表面はきれいな花をあしらっていますが、裏を返すと髑髏が全面に来るというかなりインパクトの強いデザインになっています。サウンドは流暢なハモンドオルガンがなかなかカッコよく、ブリティッシュ然としたヘヴィネスとアングラ感が漂う、ある意味ヴァーティゴのレーベルカラーを代表するようなサウンドになっています。初期のヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター辺りに通じるサイケデリックなダーク感もあって、力強いけどどこか哀愁のあるオルガンがたまりません。後半の曲に進むにつれてハードな展開になっていくところなんか、まさに彼らの溜め込んだものを吐き出すような迫力があります。安定したリズム隊をはじめ、ピーター・ハミルやデヴィッド・バイロンにも比肩するハイトーンのヴォーカル、そして何よりもアグレッシヴに弾き倒すハモンドオルガンは、ブリティッシュロックファンならずともオルガンロックファンはぜひ聴いてもらいたいものです。

それではまたっ!