【今日の1枚】Fantasy/Paint A Picture(ファンタジー/心の絵) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Fantasy/Paint A Picture
ファンタジー/ペイント・ア・ピクチャー(心の絵)
1973年リリース

哀愁のギターとメロトロンを駆使した
サウンドが魅力のブリティッシュロック

 そのグループの名が示すとおり、英国の田園を想起させる牧歌的で美しいサウンドが魅力のファンタジーのデビュー作。フォークロックを基調としたメロディアスな楽曲にドラマティックなアレンジで展開するそのサウンドは、まさしく典型的な哀愁のシンフォニックロックである。ポリドールというメジャー・カンパニーからのリリースであったにも関わらず、コレクターの間では幻の名盤として有名であり、1990年代に入るまでレコードは数百ポンドにもなった正真正銘の激レアアイテムとして君臨していたアルバムでもある。

 ファンタジーは元々、キーボーディストのディヴ・メトカルフとギター兼ヴォーカルのポール・ローレンス、ベーシストのディヴ・リードからなるチャペル・ファームというグループが母体となっている。そこにドラマーのブライアン・チャッタムとギタリストのボブ・ヴァンが加わり、基本となるグループのラインナップがそろい、1970年頃から活動を開始している。彼らは英メロディメイカー誌主催のコンテストにエントリーするなどしてプロデビューのきっかけをつかもうとしていたが、ギタリストのボブが18歳の誕生日に酒を飲みすぎて急性アルコール中毒となり、病院に運ばれる救急車の中で死亡するという悲劇が起こってしまう。さらにドラマーのブライアンがグループを離れ、彼らの穴を埋めるべく、ジョイというローカルグループでドラムスを担当していたピーター・ジェイムスとギタリストのジョン・ウェブスターが加入する。2人が新たに加わったことで、再出発の意味も込めてグループ名をチャペル・ファームからファイアクイーンと改めている。彼らは地元でエドガー・ブロートン・バンドやピンク・フェアリーズというグループのサポートを務めつつ、録音したデモテープをレコード会社に送り、プロデビューのチャンスを狙い続けていたという。そこにポリドール・レコードが興味を示したことで、何度かコンタクトを取るようになる。レコード会社との話し合いの中で前向きにアルバム制作の話も挙がったが、当時人気急上昇中だったクイーンとグループ名が被りやすいということでファイアクイーンというグループ名の変更が条件となっていたという。そこで彼らは悩んだ挙句、最終的にファンタジーというグループ名に変更している。こうして結成から3年の月日が流れ、メンバーの死亡や脱退、そして幾度のグループ名の変更を乗り越え、ようやくオリジナルアルバムのレコーディングに入ることになる。当初は『ヴァージン・オン・ザ・レディキュラス』というタイトルでアルバムを出す予定だったが、レコード会社の意向や様々な事情により『ペイント・ア・ピクチャー』というタイトルで、1973年11月にリリースされる。本アルバムはグループ結成から幾度となくトラブルに見舞われた経緯をまったく感じさせない、英国然とした牧歌的な美しいサウンドになっている。

★曲目★
01.Paint A Picture(ペイント・ア・ピクチャー)
02.Circus(サーカス)
03.The Award(ジ・アワード)
04.Politely Insane(ポライトリー・インセイン)
05.Widow(ウィドウ)
06.Icy River(アイシー・リバー)
07.Thank Christ(サンク・クライスト)
08.Young Man's Fortune(ヤング・マンズ・フォーチュン)
09.Gnome Song(ノーム・ソング)
10.Silent Mime(サイレント・マイム)

 アルバムの1曲目の『ペイント・ア・ピクチャー』は、ゆるやかな演奏の中でアコースティックギターの響きと優しいヴォーカルが特徴のナンバー。バックのメロトロンが効果的で、哀愁に満ちたメロディアスな曲になっている。2曲目の『サーカス』は、エレクトリックギターが加わった叙情的な曲で、中間部からのギターとキーボードのアンサンブルが心地よいブリティッシュ然としたナンバーになっている。後半では曲調が変わるプログレッシヴな展開は聴き応えがある。3曲目の『ジ・アワード』は、18歳という若くして亡くなったボブ・ヴァンを偲ぶために作られた曲。ポール・ローレンスのギターが悲哀に近い情感をもって弾いているのが印象的である。4曲目の『ポライトリー・インセイン』は、アルバムリリース直前にシングルとしてリリースした曲。ホーンセクションを活用したダイナミックな曲になっており、力強いポールのヴォーカルが堪能できる内容になっている。5曲目の『ウィドウ』は、アコースティックギターのアルペジオ上にピアノとヴァイオリンをフューチャーした美しいナンバー。6曲目の『アイシー・リバー』は、序盤から美しいメロトロンから始まり、なだらかな曲調からなるヴォーカル曲。泣きのエレクトリックギターが随所にあり、叙情的なサウンドになっている。7曲目の『サンク・クライスト』は、ギターアンサンブルを中心とした優しいヴォーカルとコーラスが聴き所のナンバー。8曲目の『ヤング・マンズ・フォーチュン』は、今度はキーボードとツインギターを中心としたアンサンブルとなっており、リリカルな演奏の中で情感のあるヴォーカルが印象的な曲になっている。9曲目の『ノーム・ソング』は、ピアノとアコースティックギターをメインに悲哀に近い曲調になっているが、後半の力強いエレクトリックギターによって悲哀から明快なサウンドに転化しているのが心地よい。10曲目の『サイレント・マイム』は、メロトロンを駆使したシンフォニックな内容になっており、アルバムの中でも最もプログレッシヴな曲になっている。こうして聴いてみると、演奏自体は地味で薄味な印象だが、メロトロンとアコースティックギターが味わい深く響いており、キャッチーなメロディも手伝って非常に聴きやすいサウンドになっている。このブリティッシュ然とした湿ったメロウと寸止め感、そして丸みのある甘い音色は、フォークを基調としたサウンド好きのファンだけではなく、トム・ニューマンやキャラヴァン、アンソニー・フィリップス、ドゥルイドといった英国の田園を彷彿させるようなプログレッシヴロックにも通じるサウンドでもあると言っても過言では無いだろう。

 本アルバムはファンタジーというグループ名と美しいアルバムジャケットも手伝って、プログレッシヴファンから好意的に受け止められたという。しかし、アルバムのセールスはチャートから程遠く、彼らの期待を得るような結果にはならなかったという。翌年の1974年7月にはセカンドアルバムのレコーディングを開始し、前作のセールス的な失敗を払拭するような完成を目指したが、ポリドール・レコードはそのテープを聴いて拒否している。そのことがきっかけでグループのリーダー的存在だったディヴ・メトカルフが脱退することになる。グループの頭脳ともいうべきメンバーがいなくなってしまったことで、ファンタジーは当然のごとく自然消滅に近い状態で解散することになる。こうして2,000枚から3,000枚ほどのプレスだったと言われる本アルバムは、人知れず結成して人知れず解散してしまったグループであることと相まって、作品の価値はうなぎ上りとなり、プログレッシヴファンの間では幻の名盤として君臨することとなる。1990年にドイツのセコンド・バトル・レーベルによってCD化されるまでほとんどの人が未知のアルバムであったという。このCD化の評判を受けて、1992年にお蔵入りだったセカンドアルバムの音源を用いた『ビヨンド・ザ・ビヨンド』というタイトルでリリースされている。このお蔵入りだったセカンドアルバムは、ファーストアルバムの延長線上にありながらも、叙情的でより繊細なサウンドにあふれた素晴らしい作品になっているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアコースティックギターとメロトロンを中心とした英国然とした美しいサウンドが持ち味のファンタジーのデビューアルバム『ペイント・ア・ピクチャー』を紹介しました。決して派手な演奏ではありませんが、繊細ともいえるアコースティックギターのサウンドが心地よく、時折、バックにメロトロンやエレクトリックギターの響きがより曲に哀愁をもたらせてくれて、澱んだ気持ちを清々しくさせてくれるサウンドだと思います。その素直な曲調とメロディーも相まってか、とにかく耳触りがとても良いです。このアルバムは紙ジャケットとして再発したものを購入したのですが、ちょうどトム・ニューマンの『妖精』やマグナ・カルタの『四季』、ストローブスなど、英国の田園風景を思わせるようなブリティッシュロックを聴いていた時期だったので、当時はすんなりと彼らのサウンドを聴くことができました。たぶん、尖った曲調のプログレばかり聴いていて疲れていたんだろうと思います。ファンタジーのアルバムはコレクターアイテムだったことは何となく知っていましたが、ここまで激レアアイテムだったことは露知らず、こうして手元に置いて高音質で聴けるのはうれしい限りです。

 さて、私にとって音楽、とりわけプログレッシヴロックは出会いであると思っています。とくに1960年代から1970年代の音楽は時代背景もあって、人知れず結成して人知れず解散していったグループがたくさんあったと聞いています。今回紹介したファンタジーもその部類に入ると思いますが、ホントに良いサウンドに出会えた時は素直に喜びを感じています。ジャケットとライナーノーツをじっくり眺めながら思いを馳せて聴けるなんて幸せじゃないですか。なんて思いつつ、CDショップに足を運んで出会いを求める毎日です。懐が寒いのは常ですが…。 

それではまたっ!