【今日の1枚】The Enid/Aerie Faerie Nonsense(エニド/秘密の花園) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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The Enid/Aerie Faerie Nonsense
エニド/エアリー・フェアリー・ナンセンス
1978年リリース

英国孤高のシンフォニック・レジェンド、
エニドの最高峰と呼ばれたセカンドアルバム

 貝のヘッドフォンを着けたウンディーネ(水の精)のジャケットが強烈な印象を残すエニドのセカンドアルバム。幻想美とオーケストレイションが究極ともいえるシンフォニックロックを奏でる彼らの最高傑作であり歴史的名盤である。ロックとクラシックの融合という単純な言葉で言い表せないほど、ロックのダイナミズムとクラシックの優雅さが絶妙のバランスで奏でられ、なおかつロックの手法にとらわれない表現力に多くのファンが感動したアルバムでもある。

 エニドの歴史はグループの中心的人物であるロバート・ジョン・ゴドフリーの歴史そのものだといっても良い。しかし、グループの成立において彼が果たした役割は、むしろ介添え役であったといえる。ゴドフリーの幼年期は粗暴だったらしく、12歳でフィンチデン・マナーという全寮制の施設に入れられる。この施設は精神医学者で教育者でもあるジョージ・オーブリー・ライワードが設立した私塾で、今で言うところの発達障害、行動障害、あるいはDV、育児放棄といった領域で保護していた施設だが、このフィンチデン・マナーという施設こそ、エニドの母体的存在となる。ゴドフリーは入所後に我流でピアノを弾き始め、15歳で正式に個人教授をつけてたった3年のレッスンで、王立音楽大学の入学オーディションを受けて合格している。ブラームスの難曲を演奏しきったと言われており、ゴドフリーの天才の片鱗はここから始まっている。しかし、動機がピアニストになりたかった程度しかなく、音楽的知識が乏しく深刻な神経衰弱に悩んだこともあって同大学を退学。実家の農場を手伝うかどうかの選択を迫られ、それよりは音楽の道が良いということで王立音楽アカデミーに入学して同校を卒業している。王立アカデミー卒業後は、かのキャロライン・クーンの元で24時間体制のドラッグ救護ボランティア組織“リリース”に関わったり、芸能プロで働いたりしながら、自身のグループであるザ・ドリームランド・エクスプレスで国内ツアーを経験する。また、オーケストラの音楽監督、BJHオーケストラのコンダクター兼編曲家として活動し、初期の傑作群の成立に貢献している。その中ではGUNのサポートでステージに立ったバークレイ・ジェームズ・ハーヴェストを見て共感し、彼らの共同生活する農場に移ったりしていたという。それらの職を引いた後は、シッダールタというグループを結成してデビューの機を窺っていた頃、カリスマレコードからソロアルバムのリリースを持ちかけられる。これが1974年にリリースされた『太陽神ヒュペリオンの墜落』である。しかし、このアルバムを制作していたとき、ゴドフリーにとって悲しい出来事が起こる。フィンチデン・マナーの設立者であるジョージ・オーブリー・ライワードが亡くなったのである。

 ライワードの死を聞いたゴドフリーは、フィンチデン・マナーの閉鎖を防ごうと金策に動いたものの、時すでに遅く、同校は1974年に廃校となってしまう。生徒たちは最後に『The Quest For The Holy Grail』と題した演劇イベントを行い、このイベントの音楽を担当していた生徒が、エニドの創設者となるフランシス・リカーリッシュとステファン・スチュワートの2人であり、ゴドフリーはもう1人のデヴィッド・ウィリアムスを連れて3人と共同生活をすることになる。共同生活の目的は才能あるフィンチデンの生徒の音楽を世に出そうというものだったらしく、当初は演劇のタイトルである“Holy Grail”というグループ名で活動を開始している。その共同生活の中では人の出入りが激しく、アルバムデビューまでのデモトラックの制作時、正規レコーディング時、アルバムリリース時、プロモーション時、すべてメンバーが異なっている。そして1976年にBUKレコードよりデビューアルバムとなる『夏星の国(旧邦題:夏天空の伝説)』をリリースする。そのアルバムは、英国ならではの気品と深遠な神秘性に満ちあふれた、シンフォニックロックの範疇を超越したサウンドが魅力のアルバムとして評価される。しかし、リリース後にシングル発売やライヴ活動を着実にこなしていたが、マネジメントとのトラブルで演奏機材をすべて持ち去られる事件が起こる。最終的にはグループ側が勝訴しているが、次のマネージャーにはキャラバンのマネージャーとして知られるテリー・キングが務め、1977年に2作目のデモ制作が開始される。そして1978年リリースされる本セカンドアルバムこそ、エニドの真髄とも言われる『Aerie Faerie Nonsense(邦題:秘密の花園)』である。

★曲目★
01.Prelude(前奏曲)
02.Mayday Gallard(婚礼の儀)
03.Ondine(オンディーヌ)
04.Childe Roland(チャイルド・ローランドは暗き城に)
05.Fand(女神ファンドの歌)
・1st Movement(第一楽章)
・2nd Movement(第二楽章)

 本アルバムの演奏メンバーは、ロバート・ジョン・ゴドフリー(キーボード)、ステファン・スチュワート(ギター)、フランシス・リカーリッシュ(ギター、ベース、リュート)、ディヴ・ストーレイ(ドラム)、チャーリー・エルストン(キーボード)、テリー・サンダーバッグス・パック(ベース)となっている。前述の通り、人の出入りが激しい共同生活の中で作られたアルバムであるため、上記メンバーはあくまでフィックスされたものではないと考えられる。逆にこの程度のメンバーで本アルバムが作られたというのが脅威である。アルバムは聴いてもらえば分かるとおり、1曲目から全編を通してクラシック調である。ゴドフリーとリカーリッシュの作曲によるドラマチックなシンフォニーは、シンフォニックロックという言葉では言いつくせないほどの旋律である。3曲目の『Ondine(オンディーヌ)』は端正なバロック調の曲だが、中盤と後半で切り込んでくるギターはロックであり、クラシックとロックの手法に向き合った曲になっている。注目すべき曲はやはり、レコードのB面を飾ったロック史上空前の名曲『Fand(女神ファンドの歌)』の第一楽章と第二楽章だろう。この名曲を演奏するためにライヴ時ではキーボーディストが4人に膨れ上がるほどだが、1977年のレコーディング時ではアナログ機材である。無論、MIDIもなければ各種トリガーでプリレコ音源を自由に取り込む発想などなく、単に人を増やして演奏するほか無かったのである。それだけ圧倒的な音圧の高い曲になっている。

 エニドは英国孤高のグループと言われている。その理由はパンク/ニューウェイヴが席巻している1970年代後半にレコーディングが行われ、全く時勢を鑑みずに自分たちの音楽を貫いたことにある。しかも痛烈ともいえるクラシックをベースにした高級志向の音楽である。ロックとクラシックの融合という音楽は、過去に様々なグループが幾度と無く演奏されてきたが、ロックをベースにしたオーケストレイションな曲はあってもここまで明確にクラシックをベースにしたロック音楽はほとんど無い。単純にクラシックをシンセサイザーで奏でるだけでは評価されることはなく、本アルバムの真骨頂はやはりロックがきちんと息づいていることにある。デビューアルバムである『夏星の国(旧邦題:夏天空の伝説)』とセカンドアルバムである『Aerie Faerie Nonsense』は、エニドのオールドファンにとって、まぎれもない名盤であることは間違いは無い。エニドのサードアルバムはEMIレコードからPyeレーベルに移るが、その後もコンスタントにアルバムをリリースしている。2019年現在のラインナップは、ゴドフリーとギタリストのジェイソン・ダッカーを中心に構成された最新アルバムである『U』まで、20枚近くのスタジオアルバムを残している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はシンフォニックロックの真骨頂ともいえるエニドのセカンドアルバム『エアリー・フェアリー・ナンセンス』を紹介しました。2010年9月にファーストアルバムと本アルバムの公式オリジナルヴァージョンの初CD化は、プログレファンにとってはちょっとしたニュースでしたよね。オリジナルヴァージョン盤は、オリジナルマスターを現メンバーのマックス・リード自ら、イギリスのアビー・ロード・スタジオでデジタルリマスタリングした正真正銘のオフィシャル盤ですが、それまでのCD盤は再録ヴァージョンであり、オリジナルヴァージョンのCD化は長らくリリースされてこなかった歴史があります。そもそも、なぜこんなことになったのかというと、1980年代に初期作の権利確認およびマスターテープの所在確認と返還を求めてEMIレコード側とエニド側が裁判係争していたことが由来です。当事はやむなく初期作の再レコーディング盤LPを発売したグループに対して、EMI側がオリジナルマスターからのLP再発盤をぶつける報復措置をとっており、エニドも報復を受けたグループのひとつです。その後、エニド側が裁判に勝利してマスター音源の提出を求めたのですが、EMIが拒否して一時は「廃棄、紛失のためマスター音源は非存在」とされたため、オリジナルヴァージョンのCD化は絶望的とされていました。私が今まで持っていた再録ヴァージョンのCDと比べて、今回入手したSHM-CDオリジナルヴァージョン盤は確かに音質は良くなっています。また、直接聴いてはいませんが、同時期にリリースしたオリジナルヴァージョンのリマスター盤と謳っている英国インナー・サンクタム社(現在係争中)のCDは、ノイズリダクションのLP盤起こしといわれているそうです。

 エニドはかつてEMI時代の2枚(再録ヴァージョン)のCD以外は、なかなか手が出せなかったアイテムです。理由は数十枚のマテリアルアルバムがあって、オリジナルアルバムに少しアレンジを施したり、曲順を変えたり、ジャケットを変えたりしたアルバムが複数見受けられて、よほど注意しないといつの間にか重複してしまう恐れがあったからです。ホントに好事家じゃないと、どのくらいのヴァージョンがあるのかすら分かりづらいのです。でも、今回のオリジナルヴァージョンがリリースされているのを機に、集めてみようかなと思っています。ライヴ盤を含めると果たして何枚になるのやら……。orz

それではまたっ!