【今日の1枚】Welcome/Welcome(ウェルカム) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Welcome/Welcome
ウェルカム/ファースト
1976年リリース

全盛期のイエスを彷彿とさせる
軽快なシンフォニックアルバム

 ギター兼ベース、キーボード、ドラムスという変則的トリオ編成で技巧的なサウンドを展開するスイス出身のグループ、ウェルカムのデビューアルバム。全盛期のイエスを彷彿とさせる軽快なシンフォニックサウンドと、トレースのリック・ヴァンダー・リンデン的なキーボードサウンドを加味させたシンフォニックな味わいのある楽曲となっている。2枚のアルバムを残して解散してしまうが、極めて少ないスイス出身のグループの中でも高い評価を受けていた隠れた名盤でもある。

 ポップ&ロック大国だったフランスやドイツ、イタリアといった近隣諸国に囲まれつつも保守的でシーン自体が小さかったスイスで、エキゾチックなサウンドで定評のあるクロコダイルが結成されたのが1969年である。このクロコダイルが最初のプログレッシヴロックグループと言われ、1970年代に入るとブレインチケットやザ・シヴァー、サーカスが登場し、そこからブルー・モーション、アイランド、エルトリフ、フレイム・ドリームといったグループが輩出されることになる。そういったスイスでプログレッシヴロックが根付いた土壌から生まれたのが、今回紹介するウェルカムということになる。ウェルカムは元々、ランドスケープという名で活動する学生グループである。1975年にグループは解散し、メンバーだったバーニー・クラウアー(ヴォーカル、キーボード、ピアノ、メロトロン)、トミー・シュテベル(ヴォーカル、ドラムス、パーカッション、アコースティックギター)の2人でデュオとして活動を続けていたという。しかし、2人だけで多彩な楽器を演奏していたものの限界を感じ、演奏を支えるバッキングプレイヤーを探すことになり、そこで見出されたのがベーシストのフランシス・ジョストである。フランシスが加入したことでトリオ編成となり、これを契機にグループ名をウエルカムと名乗るようになる。トリオ編成となってからは、主にインストゥメンタル曲を中心に演奏し、英国のイエスやオランダのキーボーディスト、リック・ヴァンダー・リンデン率いるトレース的な演奏をしていたという。彼らはオリジナル曲を制作し、ジュネーヴにあるAquarius Studiosで録音を行うことになる。こうしてスイスのEMIを通じて1976年にデビューアルバムとなる『ウェルカム』がリリースされる。

★曲目★
01.The Rag-Fair(古着市)
02.Dizzy Tune(ディジー・チューン)
03.Glory(栄光)
04.Chain Of Days(チェイン・オブ・デイズ)
05.Dirge(葬送歌)

 本アルバムは歌詞でヴェレナ・ダウアーが協力している以外は、グループ全員が作曲を行いプロデュースを行っている。1曲目の『古着市』は、軽快なドラムロールから始まり、へヴィーなギターと複雑なキーボードとのアンサンブルが個性的なナンバーである。イエスの『こわれもの』を意識したようなリズムセクションと、キーボード演奏、そしてコーラスが特徴と思いきやモーグ・シンセサイザーの使い方が独特である。2曲目の『ディジー・チューン』は、ノリの良いオルガン・ハードロックのイントロから、テクニカルなベースと独特なパーカッション、アコースティックギターをバックに語るようなヴォーカルが特徴のナンバー。後半のキーボードソロはクラシック、ジャズなどを組み合わせたような展開は聴きどころである。3曲目の『栄光』は、一転してスティーヴ・ハウっぽいアコースティックギターをバックにしたヴォーカルハーモニーが美しいナンバー。さらに背景に流れるメロトロンが、スイス的な牧歌的な印象を与えてくれる。4曲目の『チェイン・オブ・デイズ』は、ファンクを取り入れたナンバーで、アコースティックギターのカッティングとメロトロンに乗せたアップテンポのヴォーカル、スクワイア的なベース、モーグ・シンセサイザーのソロといったイエスの全盛期のサウンドをまとめたような曲になっている。5曲目の『葬送歌』は、こちらもイエスの全盛期をまとめあげたようなサウンドになっており、アコースティックギターをメインに三声のヴォーカルハーモニー、クラシカルなピアノで展開される牧歌的な内容になっている。後半ではイエスの『危機』を思わせるようなメロトロンとシンセサイザー、そしてハードなドラミング、エレクトリックギターが奏でられ、美しいアンサンブルと力強いヴォーカルと共に幕を閉じる。こうして聴いてみると、すぐに感じられるのがイエスからの強いリスペクトであろう。スティーヴ・ハウ的なアコースティックギター、クリス・スクワイア的なベース、ジョン・アンダーソン的なヴォーカル、リック・ウェイクマンばりのキーボードなど、楽曲そのものがイエスを踏襲しているといっても過言では無い。しかし、単にイエスからのリスペクトで終始せず、牧歌的な要素が散りばめられている点はウェルカムならではのオリジナルであり、彼らの類い稀なるテクニックで1970年代のあらゆるグループのキーボードプレイを取りまとめている点も好印象である。

 本アルバムがリリースされると、すぐにバーゼルにあるコメディ・シアターを含むいくつかの会場でプロモーションギグが行われる。しかし、レーベルやディストリビューターが力を入れなかったため、デビューアルバムの売れ行きは芳しくなかったとされている。1978年にはベーシストのフランシス・ジョストが脱退し、代わりにヘルミ・エルディンガーが加入。グループは新たなラインナップでギグを行い、1979年にセカンドアルバム『You're Welcome』をリリース。前作同様、プログレッシヴロック志向の強い作品だったが、ポップな曲を取り入れてチャート向けのナンバーにしたことで、ここでやっとグループの人気を得ることになる。この『You're Welcome』のピクチャーディスク盤を制作中に、元MAGMAのギタリストであるジャン・ド・アントニーがメンバーとして加わっている。しかし、中心的存在だったバーニー・クラウアーとヘルミ・エルディンガーが家庭の事情でグループから離脱。新しくメンバーを募ってサードアルバムの録音を開始したがリリースに至ることはなかったという。ウェルカムは惜しくも1981年に解散することになるが、その芸術的ともいえる演奏はアルバムを通してしっかりと足跡を残している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスイスの技巧派プログレッシヴロックグループのウェルカムのデビューアルバムを紹介しました。本アルバムはSHM-CDで入手して初めて聴いた作品です。聴いてみるとイエスの『サードアルバム』、『こわれもの』、『危機』あたりの全盛期のアルバムをリスペクト、というか強く影響を受けたアルバムだと感じます。とくにキーボードやヴォーカル、果てはリズムセクションまでイエスっぽいです。他にもイエスをリスペクトしているグループは数多くいますが、ここまでイエスのポイントを突いた楽曲はそうそう無いと思います。とはいえ、多彩なキーボード類を駆使して演奏するバーニー・クラウアーが、当事のキーボードをメインとする数々のグループを良く研究しているな~というのが率直な感想です。聴き方を変えれば、イエスのみならず、1970年代のシンフォニックなプログレを取りまとめたような印象すら持ちます。そういう意味では学生グループからデビューしたとは思えない完成度の高いアルバムだと思います。

 ウェルカムは1981年に惜しくも解散してしまいますが、その後のメンバーの動向は不明です。しかし、唯一判明しているのはドラマーだったトミー・シュテベルが、1978年のパトリック・モラーツのファーストアルバム『Patrick Moraz』にスネア・ドラム担当としてクレジットされているそうです。パトリック・モラーツといえばイエスの『リレイヤー』のキーボーディストとして知られています。ここでもイエスつながりか~と思いきや、そういえばパトリック・モラーツはスイス出身だったことを思い出しました。どちらかといえば出身つながりのほうが大きかったのかもしれませんね。

それではまたっ!