【今日の1枚】Il Balletto Di Bronzo/YS(イプシロン・エッセ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Il Balletto Di Bronzo/YS
イル・バレット・ディ・ブロンゾ/イプシロン・エッセ
1972年リリース

ヨーロッパの美意識と狂気を前面に押し出した
クラシカルかつハードなトータルアルバム

 バロック音楽の哀愁とへヴィなクラシカルなパートを乗せつつも、無調音楽や現代音楽の要素を多分に取り入れた実験的・知性的なサウンドが最大の魅力であるイル・バレット・ディ・ブロンゾのセカンドアルバム。イタリアシンフォニックロックの名盤であるムゼオ・ローゼンバッハの『ツァラトゥストラ』のサウンドとオザンナのダークなロックサウンドを合わせつつ、より不気味さと狂気さを加味したアヴァンギャルドなサウンドは、当時のイタリアンロックシーンのみならず、ヨーロッパ中にカルト的な人気を博した名盤である。

 イル・バレット・ディ・ブロンゾの前身は、1960年代末期のナポリで活躍していたバッティトーリ・セルヴァッジという専任のヴォーカリストを含む4人編成のグループである。そのグループには後に人気DJとなるギタリスト、ラファエレ・カスコーネやレコード会社BMIの重役となるドラマーのフレディ・キャノンが一時的に在籍していたことで知られており、主にイタリアのNato軍基地で演奏をしていたという。1969年にグループ名をイル・バレット・ディ・ブロンゾとし、RCAイタリアーナと契約して『Neve Calda/Comincio 'Per Gioco』と『Si, Mama Mama/Meditazione』の2枚のシングルをリリースしている。そして1970年にはデビューアルバム『シリウス2222』をリリース。このアルバムはヤードバーズからレッド・ツェッペリンでプレイしていた初期のジミー・ペイジを思わせるようなギターをメインにしたハードロックになっており、アルバムの収録曲「Ti risveglierai con me」は、1970年8月公開の映画『ファイブ・バンボーレ (Five Dolls for an August Moon)』のエンドロール・クレジットに使われている。この時のメンバーはマルコ・チェチオーニ(ヴォーカル、ギター)、リノ・アイェーロ(ギター)、ミシェル・クパイオーロ(ベース)、ジャンキ・スティンガ(ドラム)というラインナップだった。アルバムをリリース後、マルコ・チェチオーニとミシェル・クパイオーロが脱退することになり、グループは解散状態に陥るが、新たにチッタ・フロンターレで演奏していたキーボーディストのジャンニ・レオーネと、かつてローマのクエル・ストレーン・コーズ・チェ (Quelle Strane Cose Che)に在籍していたベーシストのヴィト・マンザリの両名をメンバーに迎える。とくにキーボーディストのジャンニ・レオーネが加わったことで、グループのサウンドが大きく変化し、キーボードがイニシアチブを握る実験的なシンフォニックロックグループに生まれ変わることになる。そして翌年の1972年にイタリアのシンフォニック・ロックにおいて最も高く評価されている本アルバム『YS(イプシロン・エッセ)』がポリドールからリリースされる。

★曲目★
01.Introduzione(イントロダクション)
02.Primo Incontro(第一部)
03.Secondo Incontro(第二部)
04.Terzo Incontro(第三部)
05.Epilogo(エピローグ)
★ボーナストラック★
06.La Tua Casa Comoda(安息の家)
07.Donna Vittoria(ヴィクトリア夫人)

 本アルバムはジャンニ・レオーネが中心となって作詞作曲を行っており、1曲目から5曲目までひとつにまとめられたトータルアルバムとなっている。1曲目の『イントロダクション』は不気味ともいえる女性スキャットから始まり、オルガンや怪しいノイズに彩られながら徐々に高揚していく15分に及ぶ大作。曲の途中でへヴィなギターと美しいピアノが絡み合いながら頂点に達し、そこから緩やかなヴォーカル、美しくも妖しいチェンバロといった落ち着きのない展開が交互に入れ代わるナンバーである。2曲目の『第一部』は、ヴォーカルをメインとしたダークなハードロック調の楽曲になっており、ギターがとにかく破壊的である。しかし、急に気品に満ちたチェンバロが響くなどすさまじいコントラストに彩られており、混沌とした中でもキーボードとリズムセクションが安定しているため、逆に心地よい曲になっている。3曲目の『第二部』は、どこか儚げで力強いヴォーカルをメインとした楽曲だが、暴力的なエネルギー感が1972年頃のキング・クリムゾンを彷彿させるダークめいた内容になっている。4曲目の『第三部』は、ジャジーな展開の中でミステリアスなキーボードとリズムセクションが光るナンバーであり、後半は疾走するキーボードによるアンサンブルが壮絶である。4曲目の『エピローグ』は、ピアノとオルガンによる壮大な幕開けと共に、中盤の緩やかでどこか不安定なピアノ演奏と即興的なアンサンブルが聴き応えのあるナンバー。最後は1曲目の『イントロダクション』にあった女性のスキャットで幕を閉じる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ジャンニ・レオーネが当時、興味を示していた無調音楽、12音階技法からのフィードバックを得ながら、暴力的ともいえるリズムセクションに支えられた類の無いアイデンティティに満ちた内容になっている。捉え方は人それぞれだが、ロック特有の暴力的で破壊的なサウンドと伝統的なクラシックの優美なサウンドが織り交ぜられ、どこかエキゾチックで神秘的であり、知性すら感じられる作品ともいえる。

 グループはちょうどイタリア全土を一週間に3回以上ライヴを行うほどの絶頂期を迎えており、耳に心地よい音楽しか求めていなかった人にとって、彼らのサウンドは衝撃的であり、後にカルト的な人気を博するようになる。しかし、1973年のイタリアのツアー中にジャンニ・レオーネとジャンキ・スティンガ以外のメンバーが脱退してしまい、残されたツアーを2人で続けることになったという。また、契約が残っていたためにシングル『La Tua Casa Comoda(安息の家)/Donna Vittoria(ヴィクトリア夫人)』をリリースしている。この2曲については2001年のヨーロピアン・ロック・レジェンド・シリーズのリマスター盤に収録されている。こうしてグループは解散することになるが、ジャンニは1977年に単身ニューヨークに渡り、レオ・ネロと改名してソロアルバム『VERO』をリリースしている。このアルバムはポップな中にシンフォニックロックの要素が散りばめられたインストゥメンタル作品となっており、イル・バレット・ディ・ブロンゾ時代の最後のシングルにあったリズムセクション以外で録音した経験と自信から生まれた内容になっているという。また、1981年にはニューウェイヴの影響を受けた2枚目となるソロアルバム『MONITOR』をリリースするなど、精力的に活動していたがその後はしばらく活動は休止。彼らの名が再び表舞台に出るのは、1995年のイタリアの音楽誌『アルレクイン』主催のプログレッシヴロック・フェスティバルである。そのフェスティバルには解散から20年近く経ったイル・バレット・ディ・ブロンゾの名があったという。ジャンニ・レオーネ以外は若いシンフォニックロックグループの“ディヴァエ”のメンバーだったが、当時の楽曲を演奏したことでファンは大いに喜んだという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はカルト的な人気を誇ったイタリアのシンフォニックロックグループのイル・バレット・ディ・ブロンゾの『YS(イプシロン・エッセ)』を紹介しました。イル・バレット・ディ・ブロンゾとはイタリア語で「青銅のバレエ」という意味だそうです。まさに工芸的なサウンドの中に歪んだ異形の美しさ、神秘的でありながら不気味で狂気に満ちた世界が、これまでの伝統的なロックやクラシックの音楽性を破壊した画期的な作品だと思います。最初はその難解なサウンドに取っ付きにくさがありますが、聴いているうちに不思議とその独特の世界観に飲み込まれていきます。このグループは当初、キング・クリムゾンとエマーソン・レイク&パーマーをブレンドしたような作品であると紹介されたそうですが、すでに○○風という形容できる他のグループとは明らかに一線を画する類を見ないサウンドだと思います。そういう意味では、怖いもの見たさに通じる狂気さがこのグループにはあります。

 本アルバムの『YS(イプシロン・エッセ)』の作詞作曲は、先にも述べたようにジャンニ・レオーネが中心となって作成されたものですが、クレジットに「N.Mazzocchi」とあります。これはジャンニたちが当時のSIAE(イタリア音楽著作権協会)に加盟しておらず、便宜上あるナポリの婦人の名を借りたということらしいです。また、『YS(イプシロン・エッセ)』という謎めいたタイトル名は、ジャンニが当時住んでいた田舎の小さな家で読んでいた魔術、もしくは神話の中に出てきたミステリアスな島の名前からとったものだそうです。その島にまつわる幻想的なストーリーのコンセプトは、「人々の間のコミュニケーションの断絶」らしいのですが、アルバムのイメージに何となく則している感じがしますがどうでしょうか?

 ちなみに最近聞いた話ですが、アルバムタイトルの『YS』は、ゲーム業界で有名な日本ファルコムが開発、リリースしたアクションRPG『イース』の着想の元ネタと言われています。確かに主人公のアドルが活躍する舞台は、まだ交通手段が徒歩と船のみという世界と断絶された島ですが、一方でフランスのブルターニュ地域圏に伝わる伝説の都市「イス」が元ネタとも言われているので、真相は当時の開発者に聞かないと分かりませんね。

それではまたっ!