【今日の1枚】Tritonus/Tritonus(トリトナス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Tritonus/Tritonus
トリトナス/ファースト
1975年リリース

バロックの華麗さと即興性が魅力的な
ジャーマン・キーボードトリオ

 同じキーボードトリオグループであるトリアンヴィラートと並び、ドイツのEL&Pと呼ばれたトリトナスのデビューアルバム。そのアルバムはハモンドオルガンやモーグ・シンセサイザー、チャーチオルガンなどといった多種多様なキーボード類を駆使し、脈動するクラシックをテーマにした即興性の高いシンフォニックサウンドとなっている。その気品あるコンチェルト形式のオルガンロックや華麗なバロック調の楽曲は、後にクラシックファンをもうならせる秀逸な作品として高く評価された1枚。

 トリトナスはドイツの南西部にあるフランクフルトとシュトゥットガルトの間にある都市マンハイムで、キーボード奏者であるペーター・K・ザイラーを中心に結成されている。ペーターは幼少の頃からピアノのレッスンを受け、学生の頃にはクラシックの理論を学び、1971年には開発されたばかりのモーグ・シンセサイザーの研究や実験を始めていたという。彼は在学中にMOHN+GRAECHTNISというグループで、プログレッシヴロック、またはサイケデリックロック的な演奏していたが、自分の音楽を追究するために数ヶ月で脱退している。彼がマンハイムのジャズクラブを回っていた時、ベーシスト兼ヴォーカリストのロナルド・JD・ブラントと出会い、お互いが同じような音楽に関心があることに気付いて、クラシックをベースにしたオーケストレイション的なロックトリオを目指すことになる。そして2人の知り合いであるドラマーのチャーリー・イェストを迎えて、1972年にトリトナスが結成される。

 結成時は自作曲に加えて、シベリウスをロック調にアレンジしたナンバーを演奏しており、1973年初頭に自主的にファーストシングル『The Way Of Spending/Kite』をリリースしている。これを皮切りにドイツのラジオ局を回ったり、地元でギグを行ったり、9月にはベルリンで行われたワークショップで演奏するなど活動の幅を広げていったという。そして200にのぼるロックグループによるコンテストに勝ち抜いて優勝するなど、トリトナスの知名度は国内で注目されるようになる。その結果、複数のレコード会社よりオファーを得ることができたが、自分たちが目指すオーケストフルなロック、またはクラシックの音楽性に理解が得られず、ついに契約には至らなかったという。1974年にはドイツ国内とルクセンブルクの長期ツアーを行うかたわら、ペーターとロナルドは自主的にファーストアルバムの制作、レコーディングを行っており、そのデモテープを引っさげて改めてレコード会社と交渉している。最終的にBASFというレーベルと契約を結び、ついに1975年4月にデビューアルバムである『トリトナス』がリリースされる。

★曲目★
01.Escape And No Way Out(エスケイプ・アンド・ノー・ウェイ・アウト)
02.Sunday Waltz(サンディ・ワルツ)
03.Lady Madonna(レディ・マドンナ)
04.Far In The Sky(ファー・イン・ザ・スカイ)
05.Gliding(グライディング)
06.Lady Turk(レディ・ターク)

 本アルバムのオリジナル曲はペーターとロナルドの2人が作曲を行い、作詞はペーターが手がけている。1曲目の『エスケイプ・アンド・ノー・ウェイ・アウト』は11分に及ぶ大作であり、ドラムロールから始まって荘厳で美しいクラシカルなオルガンやピアノソロと続きながら、リズムセクションやヴァイブ、シロフォンといった楽器が絡み、哀愁に満ちたヴォーカルによるオルガンロックになっている。途中から曲調が変化し、ゆったりしたハモンドオルガンのソロを中心としたサイケデリックさのある楽曲があり、ユーモラスな展開が特徴のナンバーである。2曲目の『サンディ・ワルツ』は、スパニッシュ風のアコースティックギターによるソロを中心とした楽曲であり、ロナルドのEL&Pのグレッグ・レイクを思わせる切々としたヴォーカルを披露している。3曲目の『レディ・マドンナ』は、ジョン・レノン=ポール・マッカートニー・ナンバーのカヴァー曲であり、エレピを中心にSEが使用されたポップなインストゥメンタル。牧歌的な曲でありながら、どこか楽しい雰囲気にさせてくれるナンバーだ。4曲目の『ファー・イン・ザ・スカイ』は、全体的にクラシカルで荘厳なチャーチオルガンを駆使した9分に及ぶ大作。チャーチオルガンのイントロの後には、手数の多いドラムとうねるようなシンセサイザーをはじめ、メロトロンに乗せたシンフォニックなパートから、サイケデリック風のシンセサイザーによる実験的なパートに変貌していくのが面白い。5曲目の『グライディング』は、ロナルドのヴォーカルとメロトロンを含む静かなキーボードによる叙情的なナンバーであり、後半では曲調が一転してR&B風のジャジーなサウンドになっていく。6曲目の『レディ・ターク』は、ペーターが作曲した軽快なオルガンロックであり、ドライヴの効いたオルガンソロから実験的なモーグ・シンセサイザーを起用し、最後にジャジーなオルガンとシンセサイザー、ベースソロを経て締めくくっている。こうして聴いてみると、エマーソン・レイク&パーマーを意識した大胆なクラシックを中心とした楽曲が並び、ペーターの気品あるシンセサイザーやオルガンが引っ張りつつも、リズムセクションがテクニカルであり、幅のある演奏が堪能できる優秀なアルバムになっているといえる。

 本アルバムがリリースされるとすぐにフォローアップツアーが開始され、スモークを使用した派手なステージを80近く公演している。そのコンチェルト形式のオルガンロックや華麗なバロック調の楽曲、ジャジーな即興などが高く評価され、多くのメディアが取り上げたという。しかし、セカンドアルバムの制作に取り掛かろうとした矢先にメンバーの変動があり、ドラマーのチャーリー・イェストからブルーノ・ペローザに代わり、さらにブルーノもすぐに辞めてベルンハルト・シューへと交替している。また、これまで使用してきたキーボード類もシンセサイザーの比重がより高まり、即興から曲中心のスタイルへと変わっていくことになる。そして1976年にクラシックの合唱隊を起用し、さらに英国人のシンガー、ジェフ・ハリスンがヴォーカルで参加したセカンドアルバム『Between The Universes』がリリースされる。しかし、翌年に結成時のメンバーだったベーシスト兼ヴォーカリストのロナルド・JD・ブラントが脱退。代わりにロルフ・ディーター・シュナプカが加入して、EP盤の『The Trojan Horse Race/Timewinds Of Life』をリリースするが、今度はドラマーのベルンハルト・シューが脱退して最終的にはアルフ・シュナイダーラントがメンバーとなっている。彼らは大手レコード会社であるBellaphonと契約することに成功したものの、ペーターは初期のトリトナスのサウンドが反映することが出来なくなったと判断して、サードアルバムは作られることなく、1979年にグループは解散することになる。以降、ペーターはスタジオミュージシャンとなり、後にドイツの大手のラジオ局のジングル曲を手がけ、共作を含めた17枚に及ぶCDをリリースしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はトリアンヴィラートと並ぶドイツのシンフォニックキーボードトリオ、トリトナスのデビューアルバムを紹介しました。中心人物のペーター・K・ザイラーの造詣の深いクラシックを主軸に置いた楽曲は素晴らしく、多彩なキーボードやオルガンを利用しつつもサイケデリックなフレーズやR&Bの曲も手がけているなどアレンジ力がすごいです。同じドイツのキーボードトリオであるトリアンヴィラートと比べられますが、トリアンヴィラートはキーボードによるメロディアスなアンサンブルを主体とした楽曲が多く、一方のトリトナスは大胆にバロック風のクラシックを取り入れつつもソロパートが多く、全体的にジャジーな即興風の演奏に主軸を置いているところに違いがあります。どちらかというとトリトナスのほうがエマーソン・レイク&パーマーに近くて、即興風なところはグリーンスレイドっぽいかなと思います。ペーターが自分の追求する音楽性が実現できないと思いきや、スパッとグループを解散してしまう点もトリアンヴィラートとは大きな違いですね。

 トリトナスの各メンバーのその後の動向は不明ですが、中心人物のペーター・K・ザイラーは先に述べたドイツの大手ラジオ局のジングル曲を作曲して17枚のCDをリリースしているほか、GRAND CRU-SERIEとして5作をリリースし、アンビエント系のミュージシャンであるリサ・フランコの5枚のアルバムにも参加したそうです。ちなみにセカンドアルバム『Between The Universes』は、よりクラシカルでファンタジー性に富んでいるということなので、こちらも機会があれば紹介しますね。

それではまたっ!