【今日の1枚】Iceberg/Coses Nostres(イセベルグ/コセス・ノストレス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Iceberg/Coses Nostres
イセベルグ/コセス・ノストレス
1976年リリース

幻想的でテクニカルサウンドが魅力の
スペインのプログレッシヴジャズロック

 アメリカのフュージョングループであるリターン・トゥ・フォーエヴァーやマハヴィシュヌ・オーケストラと並ぶ、スペインが世界に誇るプログレッシヴジャズロックグループ、イセベルグが1976年に発表したセカンドアルバム。本アルバムよりヴォーカリストが抜けたことで、より演奏に比重を置いたインストゥメンタル作品となり、幻想的でありながら硬派なテクニカルジャズロックに昇華した傑作である。

 イセベルグはスペインのバルセロナで1973年に結成したグループである。元々は1960年代から活躍するスペインのポップシンガー、トニー・ロナルドのバックバンドとして集められたグループで、メンバーはマックス・スニェール(ギター)、ホセプ・マス(キーボード)、アヘル・リパ(ヴォーカル、サックス、ギター)、プリミティウ・サンチョ(ベース)の4人である。そして1974年にはシンフォニックスタイルの音楽を演奏するプロジェクトのため、ドラムスにホロディ・コロメルを加えて5人グループとしての活動を開始している。しかし、シンフォニックスタイルの音楽はスペイン国内でも過去になりつつあり、ジャズスタイルを経験しているのはギタリストのマックス・スニェールのみだったため、デモテープを何本かEMI-Odeonに届けるも契約には至らなかったという。EMIと契約ができなかったが、デビューコンサートを行い、制作会社を立ち上げていた知り合いのマリア・アルベロを通じて、マドリードのキリオス・スタジオでファーストアルバム『Tutankarmen(ツタンカーメン)』を録音する。このアルバムでは伸びやかなシンセサイザーによるシンフォニックな要素と、ギタリストのマックス・スニェールを主軸においたジャズロック要素を新たに加味したサウンドとなっており、その時、プロデューサーであったアラン・ミローが作品に興味を抱き、CFEというレコード会社と契約することになる。CFEの力によってライヴコンサートの開催、ラジオによる宣伝が成功し、1975年6月のアルバムリリース時には一躍トップグループの仲間入りを果たすほど知名度は国内を駆け巡ったという。また、スペイン版のウッドストックと呼ばれたCanet Rock Festivalに出演し、2万人の聴衆の前で演奏を行ったことも彼らの人気を決定付けている。たった1枚のアルバムでスペインの重要グループとなったイセベルグだが、1976年にヴォーカル要素を無くし、今度はインストゥメンタルに比重を置いたのが、本セカンドアルバム『Coses Nostres(コセス・ノストレス)』である。

★曲目★
01.Preludi I Record(プレリュードと記録)
02.Nova~Musica De La Llum~(新星~光の音楽~)
03.L'Acustica~Referencia D'un Canvi Interior~(音響学~内部変更のリファレンス~)
04.La D'en Kitflus(ラ・デン・キトフルス)
05.La Flamenca Electrica(エレクトリック・フラメンコ)
06.A Valencia(ヴァレンシア)
07.11/8~Manifest De La Follia~(11/8~狂気の声明文~)

 本アルバムでは、まさしくマハヴィシュヌ・オーケストラのジョン・マクラフリンを彷彿させるようなマックス・スニェールのギターが、即興の中でアグレッシヴに弾きまくっており、そんなギターに合わせるようにホセプ・マスのキーボードやハモンドオルガンとの高速ユニゾンが最大のポイントとなっている。1曲目の『プレリュードと記録』は、シンフォニック的なオープニングからシンセサイザーとギターによるジャズロックになっており、この1曲目から本アルバムの基調となるサウンドが展開している。2曲目の『新星~光の音楽~』は、神秘的なイントロからミニモーグを使用したシンセサイザーとギターのインタープレイ、ドラムソロといったメンバーのセンスあふれるテクニカルな演奏が発揮されたナンバー。各メンバーのソロの応酬が切れ味抜群で、即興の中で生まれるスリリングな演奏が魅力となっている。3曲目の『音響学~内部変更のリファレンス~』は、静かなギター・アルペジオとエレクトリック・ピアノから始まり、モダンジャズを思わせるピアノとアコースティックギターのソロへと移行していく。テクニカルなマックス・スニェールのギターが、スペインらしいエキゾチックさが増して美しさすら感じるナンバーである。4曲目の『ラ・デン・キトフルス』は、ホセプ・マスのキーボードが冴えたナンバーであり、タイトなリズムの中でシンフォニックでスペイシーなシンセサイザーと情熱的なギターによるユニゾンが素晴らしい。5曲目の『エレクトリック・フラメンコ』は、シンフォニックなロック調でありながら、スペイシーな感覚を取り入れたフラメンコ・ジャズロックであり、天翔るマックス・スニェールのギターが鳴り響くナンバーになっている。6曲目の『ヴァレンシア』はエレクトリック・ピアノとギター、シンバルを中心としたドラミングで始まるメロディアスなナンバー。抑制の効いたギターとモーグ・シンセサイザーがロマンティズムあふれるサウンドになっている。7曲目の『11/8』はドラムソロから始まり、11/8拍子をベースに高速ギターとモーグ・シンセサイザーが激しく絡み合うナンバーになっている。アルバムを通して聴いてみると、各ナンバーともテクニカルな中にユニークともいえる展開や即興が随所にあり、知性すら感じられるシンフォニック・ジャズロックに昇華しているのが分かる。何よりも天才ギタリストであるマックス・スニェールのエモーショナルなギタープレイは圧巻であり、それを支える色彩豊かなホセプ・マスのシンセサイザーやキーボードがより楽曲に深みを与えている。

 本アルバムをリリースしたイセベルグはスペインでの人気を不動のものとし、ヨーロッパだけではなく遠くアメリカにまで注目され、グループにとって最高のアルバムの売り上げとなったという。また、イセベルグは同年のポピュラーワン誌での読者投票でスペイン国内のベスト・グループに選ばれている。一年後となる1977年には、サードアルバムとなる『Sentiments(感傷)』をリリースするが、前作より売り上げは落ちるものの、よりへヴィなジャズロックとなり、相変わらずマックス・スニェールのギターが冴え渡ったアルバムとなっている。イセベルグは後にレアル・マドリードのスポーツ・パビリオンで開催されたスペイン・ロック・フェスティバルに出演し、スペインのロックグループと共に全国ツアーに参加するなど精力的な活動をしている。しかし、1979年にリリースしたアルバム『Arc-En-Ciel』を最後に解散することになる。理由はマックス・スニェールとホロディ・コロメルの家庭の事情、そしてホセプ・マスがホアン・マニュエル・セラトというグループに加入してしまったのがきっかけだが、一番の原因は結成から5年の間に休みの無い演奏活動の疲れだったという。しばらくしてからマックス・スニェールとホセプ・マスがペガサスというグループを結成し、1980年代のジャズロック/フュージョンシーンを10年近く牽引することなる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスペインのシンフォニック・ジャズロックグループ、イセベルグのセカンドアルバム『コセス・ノストレス』を紹介しました。ちなみにICEBERGでイセベルグと読むそうです。輸入盤で購入したとき、普通にアイスバーグと読んでいた私の過去を消したい!戻したい!orz イセベルグといえばギタリストのマックス・スニェールの存在は大きく、マハヴィシュヌ・オーケストラのジョン・マクラフリンとアイソトープのゲイリー・ボイルの2人を割ったようなギタリストであると良く言われます。それでもスペインならではのエキゾチックな旋律と、地中海の太陽と風を思わせるような爽快感のあるギターが非常に魅力的です。また、マハヴィシュヌ・オーケストラとアイソトープがジャズロック/フュージョン寄りのグループであるのに対して、イセベルグがプログレッシヴロック寄りのグループであるのは、やはりホセプ・マスのシンフォニックなキーボードプレイの存在も欠かせないと思います。彼は本アルバムでミニモーグ、エレクトリックピアノ、そしてハモンドオルガンを自在に駆使して演奏しているそうです。しかし、それにも増してマックス・スニェールとホセプ・マスの高速ユニゾンはいつ聴いてもゾクゾクしてしまいます。

 スペインは1975年までフランシスコ・フランコによる長期独裁政権が続き、特に民族音楽が弾圧されていた歴史があります。フランコが死去して後継のフアン・カルロスⅠ世が政権に担うと一転して政治の民主化を推し進めるようになります。その中でイギリスやアメリカの音楽が流入し、影響を受けたグループが次々と誕生することになります。イセベルグはそんな抑圧されていた時代から自由になった時代に活動していたグループであり、地道なバックバンドからトップグループに躍り出た稀有なグループでもあります。ファーストアルバムの『Tutankarmen(ツタンカーメン)』やセカンドアルバムの『Coses Nostres(コセス・ノストレス)』、サードアルバムの『Sentiments(感傷)』は、まさに彼らの自由を謳歌するかのような開放感と爽快感に満ちた作品だと思っています。スパニッシュ・ジャズロックの最高峰と呼ばれるイセベルグの3枚のアルバムは、マハヴィシュヌ・オーケストラとアイソトープ好きな人にはオススメですよ!

それではまたっ!