【今日の1枚】Anyone's Daughter/Adonis(エニワンズ・ドーター/アドニス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Anyone's Daughter/Adonis
エニワンズ・ドーター/アドニス
1979年リリース

プログレの終焉期にドイツから誕生した
衝撃のシンフォニックロック

 パンク/ニューウェイヴがロックやポップの中心となり、プログレッシヴロックやハードロックがオールドウェイヴとして淘汰されつつあった1970年代末に、キラ星のごとく登場したドイツのシンフォニックロックグループ、エニワンズ・ドーターのデビューアルバム。まさに枯れつつあった泉に清らかな水が湧くように、プログレッシヴロックファンの渇きを癒すような完成度の高い楽曲に注目が集まり、ジャーマン・シンフォニックロックの代表格と呼ばれるほどの名盤として讃えられた1枚である。

 エニワンズ・ドーターの結成はプログレッシヴロックの全盛期だった1972年に行われている。前年にハンブルクからシュトゥットガルトに引っ越してきた当時13歳のウーヴェ・カルパが、その地で出会った同じ年のマティアス・ウルマーと意気投合したのがきっかけである。グループ名はイギリスのハードロックグループであるディープ・パープルが1971年に発表したアルバム『ファイアーボール』に収録されている曲『エニワンズ・ドーター』から取っており、当初はディープ・パープルのカヴァー曲を中心に演奏していたという。やがて彼らはイギリスで席巻していたエマーソン・レイク&パーマーやジェネシス、イエス、オランダではフォーカスといったグループに影響を受けたオリジナル曲を作るようになり、次第にプログレッシヴ色の強い演奏にシフトしていくことになる。1975年当時のドラマーだったハンス・デラーの紹介でベース&ヴォーカリストのハラルド・パレスが加入し、学生の傍ら積極的にライヴ活動やリハーサルを重ね、ついに学業を終えた1978年にブレイン・レーベルと契約。この時のメンバーはハラルド・パレス(ベース、ヴォーカル)、ウーヴェ・カルパ(ギター)、マティアス・ウルマー(キーボード、ヴォーカル)、コノ・コノピク(ドラム)の4人である。コノ・コノピクは元パンケーキ出身のドラマーで、グループにとって3代目となっている。レコーディングプロデューサーに、パンケーキのヴォーカル兼ベーシストのヴェルナー・バウアーに依頼し、1979年に念願のデビューアルバム『アドニス』をリリースする。

★曲目★
01.Adonis PartⅠ:Came Away(アドニス・パート1:カム・アウェイ)
02.Adonis PartⅡ:The Disguise(アドニス・パートⅡ:仮面)
03.Adonis PartⅢ:Adonis(アドニス・パートⅢ:アドニス)
04.Adonis PartⅣ:Epitaph(アドニス・パートⅣ:碑銘)
05.Blue House(青い家)
06.Sally(サリー)
07.Anyone's Daughter(エニワンズ・ドーター)
★ボーナストラック★
08.The Taker(Live in Schorndort 1977)(ザ・ティカー(ライヴ))
09.The Warship(Live in Schorndort 1977)(ザ・ウォーシップ(ライヴ))
10.Adonis PartⅠ(Studio Schorndort 1977)(アドニス・パートⅠ(ビデオ))
※PCで再生可能なムービークリップ。

 結成当時からシュトゥットガルトを中心にライヴ活動を行って腕を磨いてきただけあって、その演奏テクニックはもとより、練りに練られた音楽性はデビューアルバムながら高い完成度に達している。その彼らの高い音楽性を大きく表しているのが、レコードのA面すべてを費やした大曲『アドニス』だろう。ギリシア神話の美の女神アフロディーテに愛された美少年アドニスをテーマにした組曲であり、アドニスは女神が止めるのを聞かずに狩りに出て猪の牙に突かれて命を落としてしまうが、その流れた血からアネモネの花が咲いたという悲しい神話である。パートⅠからⅣからなる『アドニス』は、センシティヴなヴォーカルと美しい旋律のキーボードから始まり、甘美で叙情性たっぷりのギターによるアンサンブルが植物変身、輪廻転生をテーマにしたアドニスの物語を盛り上げている。パートⅡでは変拍子を兼ねたテクニカルな演奏が縦横無尽に展開し、まさしくプログレッシヴハードロックを思わせる内容になっている。パートⅢでは柔らかなキーボードとヴォーカルからなるナンバーで、バックで響く伸びやかなギターに心が洗われるようなドラマティック性がある曲である。パートⅣではピアノによるクラシカルな曲であり、死んだアドニスの血からアネモネの花が咲く流れを優しいヴォーカルとシンセサイザー、ギターで美しくまとめられている。5曲目の『青い家』は、彼らがリハーサルで使用していた青い家をモチーフにした曲になっており、荘厳なシンセサイザーから始まり、クラシカルなギターとキーボードが織り成すファンタジックなインストゥメンタル曲になっている。6曲目の『サリー』は、コンパクトな楽曲の中にサックスをフィーチャーしたキャッチーなメロディにあふれた曲。7曲目はグループ名を冠した曲『エニワンズ・ドーター』は、彼らの魅力が凝縮された透明な詩情とギターとシンセサイザーによる壮大なシンフォニックになっており、繊細に紡がれ折り重なりながら奏でる楽曲は清涼感あふれた素晴らしい内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、デビューアルバムとは思えないクオリティの高い演奏と叙情性を秘めた音楽性は、渇望していたプログレファンにとって狂喜したに違いない。特に曲のコンパクト化が進んで長大な曲が無くなりつつあった中で、24分を越えるアドニスの組曲や9分を越える7曲目の『エニワンズ・ドーター』などを収録するなど、彼らの挑戦的ともいえる意気込みは凄まじいものがある。

 エニワンズ・ドーターは冬の時代と言われた1979年にデビューして以来、コンスタントにアルバムを発表している。1980年には優美さと巧みさを兼ねそろえたアンサンブルに定評のあるセカンドアルバム『エニワンズ・ドーター』を発表し、続く1981年には文豪ヘルマン・ヘッセの『ピクトルの変身』をテーマにしたトータルアルバムをリリースしている。アルバムはリリースするごとに洗練さが増し、その存在はヨーロッパだけではなく、世界中のプログレファンから支持されるようになる。1986年に解散してしまうが、メンバーそれぞれはセッションミュージシャンとして数々のアーティストのアルバムに参加。そして2000年に入り、ウーヴェ・カルパ、マティアス・ウルマーの他に新たにアンドレ・カースウェル(ヴォーカル)、ラウル・ウォルトン(ベース)、ペーター・クンフ(ドラムス)を加えた新生エニワンズ・ドーターの再結成を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はドイツの技巧派シンフォニックロックグループ、エニワンズ・ドーターのデビューアルバム『アドニス』を紹介しました。エニワンズ・ドーターのグループ名はプログレを聴き始めた時から知っていましたが、長らく視聴する機会が無く、今回SHM-CD盤で初めて聴いた次第です。たぶん、70年代のプログレというより80年代に活躍したネオプログレのイメージが強かったからかも知れません。実際に聴いてみて、ジェネシス風の抒情性の富んだメロディとイエスやU.K.の技巧的な変拍子の展開を合わせたようなシンフォニックなロックであり、その洗練されたサウンドはかつてのプログレの利点を活かしつつ、次世代のネオプログレにも通じる楽曲になっていると思います。同じドイツのグループであるエロイやノヴァリスとは違った卓越なセンスに満ちており、特にキーボードとギターによる叙情的な演奏はダントツです。また、セカンドアルバムの『エニワンズ・ドーター』もエレガントで優美に包まれた楽曲にあふれていて、こちらも私にとって好きなアルバムになっています。

 今回購入したSHM-CD盤では、リマスターによる高音質になっているほかに、彼らがデビューする前の1977年のシュトゥットガルトでライヴをしていた2曲の音源が収録されています。さらにもう1曲は1978年にスタジオライヴを撮影した『アドニス・パート1:カム・アウェイ』の映像も収録しています。どれも音質が良くて、彼らが当時から高い演奏テクニックを誇っていたのが良く分かる貴重な音源になっています。機会があればこちらも聴いてみてくださいなっ!

それではまたっ!