【今日の1枚】Atoll/L'araignee-Mal(組曲「夢魔」) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Atoll/L'araignee-Mal

アトール/組曲「夢魔」

1975年リリース

耽美なメロディと緻密なアンサンブルを湛えた

フレンチプログレッシヴロックの名盤

 ダイナミックかつ、緻密なアンサンブルと独特のメロディに定評があるアトールが、1975年にリリースしたセカンドアルバム。本アルバム『組曲「夢魔」』は、ジャズフュージョン的な技巧とヴァイオリンやメロトロン、ストリングを駆使したシンフォニック的な壮麗さが組み合わされたサウンドに人気が高まり、フレンチプログレッシヴロックシーンの頂点に君臨した最高傑作である。

 アトールは1972年にアンドレ・バルゼ(ヴォーカル)を中心に、フランスの北東部の都市メスで結成されている。初期のメンバーはアンドレ・バルゼ以外に、ジャン=リュック・ティヨ(ギター、ボーカル)、アラン・ゴッツォ(ドラム、パーカッション)、リュック・セラ(ギター)、フラシス・ポール(ベース)の5人編成であり、キーボード奏者は存在してなかったようである。当時、アンジュやマルタン・サーカスといったフランスの人気グループが出演していたクラブ“Golf Drouot”にアトールも出演して国内で知名度を上げ、1973年にイギリス公演を行った際にユーロディスクと契約している。その時、メンバーだったギタリストのリュック・セラとベーシストのフラシス・ポールが脱退し、代わりにミッシェル・タイレ(シンセサイザー、クラヴィネット)が加入し、ファーストアルバム『ミュージシャンズ・マジシャンズ』をリリースする。アルバムは三部構成の組曲『Le baladin du temps』を筆頭に、荒削りながらも楽曲と構成、アンサンブルのクォリティの高さを見せつけ、すでに後のアトールのサウンドとスタイルが形成された傑作として名高い。ファーストアルバムの成功を受けて、メンバーにマグマともツアーを経験したテクニック重視のクリスチャン・ベヤ(ギター)が加入し、ギタリストだったジャン=リュック・ティヨはベースに専念しつつセカンドアルバムの制作に動くことになる。そしてアルバム制作中にゲストにリチャード・オベール(ヴァイオリン)を迎えて、本アルバム『組曲「夢魔」』を1975年にリリースする。このヴァイオリン奏者とギタリストの加入は、技巧的なアンサンブルの表現と即興的な緊迫感をもたらし、サウンドに大きな影響を与えることになる。

 

★曲目★

1.Le Photographe Exorciste(悪魔払いのフォトグラファー)
2.Cazotte No.1(カゾットNo.1)
3.Le Voleur d’Extase(恍惚の盗人)
4.L’Araignee-Mal(組曲「夢魔」)
 i. Imaginez le temps(思考時間)
 ii. L’Araignee-Mal(夢魔)
 iii. Les robots debiles(狂った操り人形)
 iv. Le cimetiere de plastique(プラスチックの墓碑)

 

 アルバムの1曲目の『悪魔祓いのフォトグラファー』は、4つのパートに分かれたエクソシストをテーマにした曲。アトールはこのような複数のパートに分かれた楽曲が多く、最初はストリング・シンセサイザーの旋律上で、アンドレ・バルゼの語りかけるようなヴォイスから始まり、だんだんと狂気に満ちた高らかな笑い声に変わっていく。後半では手数の多いドラムとリリカルなギター、美しいシンセサイザーが合わさったアトールならではのアンサンブルが堪能できる曲になっている。2曲目の『カゾットNo.1』は、テクニカルなジャズフュージョンをベースにしたインストゥメンタルナンバーで、即興的なリチャード・オベールのヴァイオリンを中心に、ギター、エレクトリック・ピアノがめぐるましくテンポを変えつつ前衛的なアプローチで演奏している。3曲目の『恍惚の詩人』は、アンドレ・バルゼのヴォーカルを中心としたムーディーなナンバーになっており、後半では2曲目と同じような各楽器による動きの激しいインタープレイとなっている。アルバムの中でも最もまとまりのある緻密なアンサンブルは舌を巻くほど緊迫感があり、クリスチャン・ベヤの圧巻のギターソロは必聴である。4曲目からは4つのパートに分かれた組曲形式『夢魔』になっており、当時のレコードのB面をまるまる使用した大作となっている。パート1の『思考時間』は、最初はパーカッションとヴァイオリンの響きの中でつぶやくような呪術的な内容から始まり、後半ではギターとシンセサイザーによる静と動のアンサンブルと、優しく包むようなヴォーカルが幻想的な雰囲気にさせてくれるナンバーになっている。パート2は『夢魔』であり、優しいエレクトリック・ピアノと穏やかなヴォーカルを中心としたメロディアスな楽曲から始まり、高らかに鳴り響くシンセサイザーと情熱的に歌うアンドレ・バルゼのヴォーカルがドラマティックで、もっともシンフォニック的なナンバーとなっている。パート3の『狂った操り人形』は、リズムセクションとエレクトリック・ピアノ、シンセサイザーを中心とした楽曲で、大胆な変拍子を巧みに利用した展開は、いかにもプログレ的なクリエイティブさを表した内容になっている。パート4の『プラスティックの墓碑』は、悲哀に近いヴォーカルとストリングス、泣きのギターから始まり、やがて複雑なベースライン上でギターやヴァイオリン、キーボードが絡み合う見事なアンサンブルに変化していきながら幕を下ろしている。今回のアルバムは前作よりもインストゥメンタルパートとヴォーカルパートの配分が理想的であり、とくにシアトリカルな熱情もあわせもつアンドレ・バルゼの歌唱力が際立った作品になっている。また演奏面ではギタリストのクリスチャン・ベヤと、ヴァイオリンのリチャード・オベールの加入によって、マハビシュヌ・オーケストラを彷彿とさせる超絶的なテクニックとキング・クリムゾンを思わせるようなシンフォニック的な優雅さを兼ねそろえた内容になっていることが、本アルバムが名盤として言われる所以であろうと思われる。

 アトールは本アルバムのリリースで一躍フランスのトップグループとなり、音楽誌ではフレンチ史上最高のアルバムと褒めちぎられるほど称えられる存在となる。しかし、この高い評価は後に大きな壁となってしまう。しばらくステージでライヴを行うものの次なるアルバムの制作に時間がかかり、サードアルバム『Tertio』がリリースされたのは1977年となる。このサードアルバムにはシングルカットされてヒットした『Paris Clest Fini』が収録されており、セカンドアルバムのメロディーに勝るも劣らない高水準の仕上がりであったものの、次の1979年にリリースした4枚目のアルバム『Rock Pazzle』の後にグループは活動休止となってしまう。なお、『Rock Pazzle』のアルバムでは、ジョン・ウェットンがエイジア結成直前に参加してレコーディングした音源が残っており、後にCD化されたボーナストラックに収録されている。その後、アトールは1989年にギタリストのクリスチャン・ベヤを中心に再結成され、アルバム『L'Ocian(オーシャン)』をリリースしている。また、2015年にアンドレ・バルゼを中心とした編成で来日公演を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフランス屈指のプログレッシヴロックグループ、アトールのセカンドアルバム『組曲「夢魔」』を紹介しました。アトールはフランスでやや破壊的で変態ちっくなマグマと双璧する人気グループであり、その卓越したテクニックとユーロ的な叙情あふれるシンフォニックなサウンドに未だ高い評価を得ているグループです。日本ではフレンチロックとして、ゴングやアンジュ、タイ・フォン、ピュルサー、モナ・リザなど多くのグループが比較的早い段階で紹介されていたにも関わらず、このアトールだけは輸入盤頼りで後にキングレコードから発売されるまで存在すら知らなかった人も多かったようです。当時のライナーノーツや音楽雑誌から鑑みると、このアルバムを聴いた人は、その演奏力や表現力、曲の構成力の素晴らしさにかなり衝撃を受けたらしく、本アルバムをはじめとする1970年代にリリースした彼らの4枚のアルバムは、今でも根強いファンが多くいると聞いています。

 

 さて、当時のアトールの日本での評価が、“フランスのイエス”という形容で多く紹介されていたようです。実際聴いてみてもイエス特有のスキルフルな中にも緻密なアンサンブルが随所にあったとしても、どちらかといえばアメリカのジャズフュージョンの先駆者であるマハヴィシュヌ・オーケストラやキング・クリムゾンの『太陽と戦慄』のアルバムを彷彿している点が多く、強いて言うのであればジェネシスのシアトリカルさがあるぐらいかなと思います。この“フランスのイエス”というフレーズが強調された理由は、ヴォーカリストのアンドレ・バルゼをはじめとしたメンバーがイエスを尊敬しており、グループ結成以前にイエスのコピーをしていたことと、アンドレ・バルゼのヴォーカルがイエスのジョン・アンダーソンを思わせるようなクリアーヴォイスであるということが理由らしいです。確かにアンドレ・バルゼのヴォーカルは素晴らしく、その部分だけで言えば全く否定はしないものの、やはりアルバムの出来が素晴らしいあまりに、当時人気絶頂だったイエスを引き合いにしたのではないかと思われます。

 

 それにも増して本アルバムの『組曲「夢魔」』は、個々の超絶的なテクニックは申し分なく、アルバムで重要な構成力や表現力を兼ねた傑作であることは間違いないです。最後まで一気に聴けるドラマティックな展開は素晴らしいの一言です。

 

それではまたっ!