【今日の1枚】Kansas/Leftoverture(カンサス/永遠の序曲) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Kansas/Leftoverture

カンサス/永遠の序曲

1976年リリース

衝撃のハードロック・オーケストラに昇華した

カンサス4枚目のアルバム

 フォークロック、ソウル、カントリー・ミュージックの根強いアメリカで、ツインボーカル、ツインキーボード、ツインギターにヴァイオリンを加えたメンバー構成で独自の音楽性を追求してきたカンサス。4枚目にあたるアルバム『Leftoverture(永遠の序曲)』は、グループを一躍有名にしただけではなく、彼らが根付かせようとしていたアメリカンプログレッシヴロックの代表格となった歴史的名盤である。また、シングル「伝承」が映画の『幸せの旅路』の主題歌に起用されるなど、全米ビルボードチャートで11位まで上がり、グループにとって初のヒット曲となる。アルバムもチャートで最高5位まで上昇して売り上げ100万枚を突破し、1995年までに最終的に400万枚を売り上げる驚異の大ヒットとなった。

 カンサスは元々、1969年頃からギタリスト兼クラリネット、シンセサイザーのケリー・リヴグレンとベーシストのデイヴ・ホープ、ドラマーのフィル・イハートの3人を中心に、カンサス大学の音楽教授の息子のヴァイオリン兼ヴォーカルのロビイ・スタインハートを加えたホワイト・クローヴァーという名のグループで、メンバーを代えながら活動していた。ミクスチャー・ミュージックの先駆的ミュージシャンであるフランク・ザッパに触発された演奏を続けていたが、後にフィル・イハートがイギリスに音楽留学した際、全盛期だったプログレッシヴロックを目の当たりにし、フィルはその音楽性に衝撃を受けてすぐさま帰国。1973年にグループ名をホワイト・クローヴァーから“カンサス”に改めてプログレ路線に変更している。こうしてカンサスはカンサス州を拠点として、一時脱退していたロビィ・スタインハートを呼び戻し、ヴォーカル兼キーボードのスティーヴ・ウォルシュ、ギタリストのリッチー・ウイリアムスを加えた6人で、1974年の『カンサス・ファースト・アルバム』でメジャーデビューを果たす。彼らの音楽はイギリスのイエスやキングクリムゾンといった王道のプログレッシヴロックとクラシカルなヴァイオリンをフィーチャーしたアプローチに加えて、世界的に旺盛だったハードロックが融合したもので、そのテクニカルな演奏とアグレッシヴなサウンドに高い評価を得ることになる。翌年にリリースされたセカンドアルバム『ソング・フォー・アメリカ』は、カントリーミュージックが混在する曲調ながら、10分を越える大曲があるなど、よりプログレ色が強いアルバムとなっている。同年にサードアルバム『仮面劇』を立て続けにリリースするなど精力的に活動し、1976年に4枚目のアルバムとなる『永遠の序曲』がリリースされる。本アルバムはこれまでのアルバムとは一線を画するほど、メロディ、テクニック、アンサンブルが充実しており、イギリスのプログレッシヴロックには無いオリジナリティにあふれた素晴らしいアルバムである。

 

★曲目★

01.Carry on Wayward Son(伝承)

02.The Wall(壁)

03.What’s on My Mind(深層心理)

04.Miracles out of Nowhere(奇跡)

05.Opus Insert(挿入曲)

06.Questions of My Childhood(少年時代の謎)

07.Cheyenne Anthem(黙示録)

08.Magnum Opus(超大作)
 a. Father Padilla Meets The Perfect Gnat(ファーザー・パディラと完全なるブヨの対面)
 b. Howling At The Moon(月に吠える)
 c. Man Overboard(船から落ちた男)
 d. Industry On Parade(メカニック総出演)
 e. Release The Beavers(ビーバーを自由に)
 f. Gnat Attack(ブヨの襲撃)

 

 本アルバムはツインボーカル、ツインキーボード、ツインギターという厚みのある圧巻の演奏だけではなく、複数の楽器を扱えるメンバーの利点を活かした次々と変化する曲調が最大の聴きどころだ。とくにプログレッシヴロックだけではなくハードロックの名曲とも言われている1曲目の『Carry on Wayward Son(伝承)』が顕著であり、アメリカらしいコーラスワークからドラムに導かれる緊張感のあるツインギターとキーボード、さらにスティーヴ・ウォルシュのハイトーンのヴォーカルが心地いい洗練されたアンサンブルになっている。2曲目の『The Wall(壁)』は、甘美なギターのイントロから始まるクラシカルなナンバーで、ヴォーカルとヴァイオリンの絡みが聴きどころになっている。3曲目の『What's On My Mind(深層心理)』は、アメリカらしいギターを中心としたロックナンバーで、4曲目の『Miracles Out Of Nowhere(奇跡)』は、キーボードとヴァイオリン、そしてヴォーカルのアンサンブルとなっており、後半のドライヴ感は彼らの演奏技術の高さを物語る一曲になっている。5曲目の『Opus Insert(挿入曲)』と6曲目の『Questions Of My Childhood(少年時代の謎)』は、スティーヴ・ウォルシュのヴォーカルとキーボードが冴えたメロディアスな曲になっており、所々にヴァイオリン、ピアノが効果的に使われてリリカルで透明感のある内容になっている。7曲目の『Cheyenne Anthem(黙示録)』は、アコースティックギターのイントロから始まり、ピアノ、シンセサイザーへと音の空間が広がっていく曲になっており、最後の曲の『Magnum Opus(超大作)』は6つのパートから成る8分を超える大作であり、変則的なテンポと緻密な構成からなるドラマティックな曲となっている。こうして全体を聴いてみると、彼らの巧みな演奏は申し分なく、何と言っても楽曲の構成とそのセンスが素晴らしい。アメリカンプログレッシヴロックとはとはこういうものであると、ひとつの答えを提示したアルバムと言っても過言ではないだろう。

 イギリスのプログレッシヴロックが歴史や伝統を重んじたクラシカルなアンサンブルを基調としているのに対して、カンサスの曲はアメリカのフォークやカントリーミュージックをベースにしたロック調であり、さっぱりとした明るい曲が多い。テクニカルで変則的な曲調にあふれているものの難解さは少なく、比較的聴きやすい内容であるカンサスがプログレッシヴロックとしてはあまり認識されていない。理由は1970年代後半から誕生するジャーニーやTOTO、ボストンといった産業ロックの1グループとして扱われてしまうところにある。それだけアルバムの完成度が高く、彼らの多彩なアプローチを盛り込んだ楽曲が功を成したということだろう。商業的に成功したカンサスは5枚目のアルバム『Point Of Know Return(暗黒への曳航)』、6枚目のアルバム『Monolith(モノリスの謎)』と次々とリリースしたアルバムがヒットし、アメリカを代表するロックアーティストへと登りつめていく。しかし、その後のポップ路線への変更とスティーヴ・ウォルシュの脱退によってアルバムのセールスは落ち込み衰退の一途を辿ることになる。とどめは1983年に初期メンバーだったロビィ・スタインハートと、ケリー・リヴグレンの脱退によって、グループは活動停止に追い込まれることになる。しかし、3年の沈黙を経て、1986年にスティーヴ・ウォルシュが復帰し、リッチー・ウィリアムス、フィル・イハートの3人と、元ディキシー・ドレックスに在籍していた天才ギタリストのスティーヴ・モーズを迎えて、アルバム『パワー』で華々しい復活を遂げる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアメリカンプログレ第一弾としてカンサスの4枚目のアルバム『永遠の序曲』を紹介しました。カンサスは音楽評論家の渋谷陽一氏の言葉を借りれば、まさに産業ロックにどっぷり浸かっていた時期に聴いていたグループです。カンサスは1986年にリリースされた『パワー』のアルバムが初めてで、確かボストンの『サードステージ』やジャーニーの『レイズド・オン・レイディオ』と一緒に聴いていた記憶があります。あの時代の音楽は良くも悪くも凄かったです。キラ星のようにキャッチーなメロディのポップやロックがあふれてて、ラジオで湯川れい子氏の全米トップ40やビルボードのランキングを追っていて、たぶん私の人生でも一番音楽を聴いていた時期だったと思います。本アルバムもその時にレンタルレコード屋で借りてカセットテープに録音して聴いていました。

 

 ブリティッシュプログレと比べてアメリカンプログレは一段劣るとされているためか、イマイチ評価が低くされているのが気になります。個人的にはもっと注目されても良いと思います。とくに本アルバムの『永遠の序曲』は、ブリティッシュプログレのイエスやジェネシスにある変則的でテクニカルな要素と、洗練されていながらやや泥臭いアメリカンロックが同居する独自性のあるサウンドがとても魅力的になっています。ヒットした1曲目の『Carry on Wayward Son(伝承)』に目が行きがちですが、私としては最後の曲の『Magnum Opus(超大作)』がカンサスというグループをよく表している名曲だと思います。今でもドラマティックな曲といえばこれと言えるくらい、曲の内容に感心しまくりです。

 

 さて、アメリカンプログレの旗手として実績を上げたカンサスですが、彼らの音楽性はアメリカやカナダのロックシーンに影響を与えています。デビューが同年だったカナダのラッシュや後のドリーム・シアター、スポックス・ビアードなどが、カンサスの変則的なリズムを自然に聴かせる音楽性を継承しています。また、かのギタリストであるイングウェイ・マルムスティーンもカンサスのライヴアルバム『偉大なる聴衆へ』を聴いて、それまで聴いていたスティクスが小さく思えてしまうほど大きな衝撃を受けたそうです。彼らの知的な感性と繊細でありながらスケール感のある本アルバムは、今聴いても十分に価値があります。

 

それではまたっ!