【今日の1枚】Phil Manzanera/Diamond Head(ダイアモンド・ヘッド) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Phil Manzanera/Diamond Head

フィル・マンザネラ/ダイアモンド・ヘッド

1975年リリース

多彩なアーティストが参加した

フィル・マンザネラの初ソロアルバム

 イギリス人の父とコロンビア人の母とのハーフであり、ロキシー・ミュージックのリードギタリストとして知られるフィル・マンザネラの初ソロアルバム。本アルバムではロキシー・ミュージックの人脈をはじめ、カンタベリーシーン、プログレッシヴロックシーンで活躍する多彩なミュージシャンが参加した作品として大きな話題となった名盤である。

 フィル・マンザネラは1951年1月31日に生まれ、イギリス人の父とコロンビア人の母を持ち、両親の影響から幼少時代を主にキューバやベネズエラで過ごしていたという。そのキューバで暮らしていた6歳のときにスパニッシュギターを手にしたことが音楽の道に進んだきっかけとなっている。8歳の時にジミ・ヘンドリックスの影響からエレクトリックギターに目覚め、1970年にダリッチ・カレッジに在学していた仲間と共に結成したクワイエット・サンというジャズロックグループでギタリストとして活動を始めている。その頃はロンドン周辺にソフト・マシーンのメンバーが住んでいた影響からか、クワイエット・サンの音楽もジャジーなインプロゼイションを試みた実験的なサウンドだったらしい。リハーサルセッションとデモテープを作りに励んでいた彼らだったが、話を進めていた契約先のワーナーとの折り合いがつかず決裂。そのうち、フィルは脱退したデヴィッド・オリストの後釜としてロキシー・ミュージックのリードギタリストに採用され、グループは空中分解することになる。メンバーだったドラマーのチャールズ・ヘイワードはマル・ディーンのアメイジング・バンドでプレイし、ベーシストのビル・マコーミックはロバート・ワイアット率いるマッチング・モウルに参加。キーボードのディヴ・ジャレットは学生に数学を教える教師となっている。フィルはロキシー・ミュージックのアルバム『カントリー・ライフ』の発表後、円熟していたグループとは別に新たな挑戦をするべくソロアルバム『ダイアモンド・ヘッド』の制作を始める。これは彼の多岐に渡る交友関係に後押しされるようにして動き始めたものだが、何よりもカンタベリーミュージックやプログレッシヴロックの先人に対する生真面目なほどのリスペクトとラテン気質からなる彼の人柄によるものが大きい。

 

 本アルバムではブライアン・イーノ(ギター、ヴォーカル)、ジョン・ウェットン(ベース、ヴォーカル)、アンディ・マッケイ(サックス、オーボエ)、ポール・トンプソン(ドラム)、エディ・ジョブソン(シンセサイザー、ストリングス)といったロキシー・ミュージックの人脈勢の他に、イアン・マクドナルド(バグパイプ)、ロバート・ワイアット(カバサ、シンバル、ヴォーカル)など、多数のミュージシャンがゲストで参加している。とくに注目したいのが、元クワイエット・サンのメンバーだったチャールズ・ヘイワード、ビル・マコーミック、ディヴ・ジャレットの3人がレコーディングに参加していることだろう。3人はフィルの強い要望と働きかけで招聘されたものである。

 

★曲目★

01.Frontera(フォンタナ)

02.Diamond Head(ダイアモンド・ヘッド)

03.Big Day(ビッグ・デイ)

04.The Flex(ザ・フレックス)

05.Same Time Next Week(サム・タイム・ネクスト・ウィーク)

06.Miss Shapiro(ミス・シャピロ)

07.East Of Echo(イースト・オブ・エコー)

08.Lagrima(ラグリマ)

09.Alma(アルマ)

 

 アルバム『ダイアモンド・ヘッド』は、フィルの生い立ちからなるエスニックなセンスを加味した独特なギターが聴きどころで、ギタリストのソロ特有のギンギンに弾きまくる展開は無いに等しい。1曲目の『フォンタナ』はスペイン語の歌詞になっており、ロバート・ワイアットがヴォーカルで参加したラテン風のナンバー。2曲目のタイトル曲『ダイアモンド・ヘッド』は、フィルの美しい旋律のギターと、エディ・ジョブソンのキーボードとのハーモニーが聴きどころのインストゥメンタル曲。3曲目の『ビッグ・デイ』はブライアン・イーノのポップセンスあふれるヴォーカルが聴けるナンバー。4曲目の『ザ・フレックス』はファンキーなナンバーで、ジョン・ウェットンのベースとアンディ・マッケイのサックスの絡みが心地いいインストゥメンタル曲。続く5曲目の『サム・タイム・ネクスト・ウィーク』もジョン・ウェットンの叙情的なベースとヴォーカルを中心に、フィルのカッティングするギターがかっこいいナンバー。6曲目の『ミス・シャピロ』は、味のあるギターイントロから始まり、イーノの独特過ぎるヴォーカルとフィルのエッジの効いたギターが共鳴するような曲になっている。特に次の7曲目の『イースト・オブ・エコー』は、クワイエット・サン名義の曲であり、元メンバーが中心に演奏している。この曲はカンタベリー風でありながら同時に個性的でもあるアンサンブルが特徴で、アルバムの中でもひときわ異彩を放っている。こうして全11曲からなるアルバムだが、ゲスト参加したアーティスト達の個性を活かしつつ、フィルのラテン気質からなる味わい深いギターセンスが随所に光っているのが最大のポイントである。

 フィルはレコーディングで元クワイエット・サンのメンバーだったチャールズ・ヘイワード、ビル・マコーミック、ディヴ・ジャレットと顔を合わせたのをきっかけに、本アルバムと同時並行でクワイエット・サンのアルバムを制作する。それが同年にリリースされた『メインストリーム』である。グループはこの時の単発で終わってしまったが、歴史の闇に埋もれるはずだったアルバムがこうして脚光を浴びることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は初ソロアルバムにしては、あまりにも豪華なゲスト陣に恵まれたフィル・マンザネラの『ダイアモンド・ヘッド』を紹介しました。フィルのギターを初めて聴いたのは、1986年にジョン・ウェットンと共演したアルバム『ウェットン/マンザネラ』(※改題再発:ワン・ワールド)です。この時に聴いたフィル・マンザネラの一言ではなかなか言い表せない独特なギターの音色と旋律が忘れられません。ポップでありながらどこかエキゾチックですらある彼のギターは、キューバやベネズエラといった生い立ちの影響もありますが、何よりもどんな曲でも溶け込める不思議な魅力を持っています。その陽気ともとれる明るいギターフレーズは彼の持ち味となって、ロキシー・ミュージックや801においても発揮します。彼のエスニックで技巧的なギターを陽とするならば、ブライアン・イーノという鬼才が描く陰のポップとの相性は抜群です。

 

 さて、フィル・マンザネラは『ダイアモンド・ヘッド』のレコーディングのさなか、ちゃっかり旧メンバーとクワイエット・サンのアルバムも制作していますが、これは彼が最初から考えていた可能性があります。『ダイアモンド・ヘッド』を制作するためにスタジオを26日間予約するのですが、そのセッションの合間にメンバーとクワイエット・サンの再編を行いつつ、リハーサルと録音を行っていたそうです。普通じゃなかなかできません。では完成したクワイエット・サンのアルバム『メインストリーム』の出来はというと、とても短期間で録音されたと到底思えないような内容になっていて、ジャズ要素とキーボード群を組み合わせた複雑なカンタベリーサウンドになっています。このあたりからギタリストだけではなくプロデュース能力も長けたミュージシャンであったことが分かります。

 

 後にフィル・マンザネラはソロ活動を中心に、様々なアーティストと共演するようになります。1990年代はスペインのセビリア5泊にわたって開催されたコンサート「ギター・レジェンド」では音楽監督を務めたり、先に述べたジョン・ウェットンやアンディ・マッケイ、ロバート・ワイアットなどとアルバムを共作したりと多くの名作を残しています。2001年には再結成したロキシー・ミュージックが慣行した世界ツアーを行い、2019年にはロキシー・ミュージックのメンバーと共にロックの殿堂入りを果たすなど、華々しい経歴を刻んでいくことになります。

 

 ちなみにヘヴィメタルシーンでダイアモンド・ヘッドというグループがあるのですが、そのグループ名の由来が本アルバムのタイトルからパク……、もとい、拝借したことはとっても有名みたいです。

 

それではまたっ