【今日の1枚】England/Garden Shed(枯葉の落ちる庭園) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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England/Garden Shed
イングランド/ガーデン・シェッド(枯葉の落ちる庭園)
1977年リリース

プログレッシヴロックの終焉において
強烈な残り香を漂わせた歴史的名盤

 イギリスのミュージックシーンにおいてパンク/ニューウェイヴが席巻し、プログレッシヴロックが衰退し始めた1970年代後期に、キラ星の如く出現したイングランドのデビューアルバム。大英帝国の残り香が漂う正統派ブリティッシュロックでありながら、これまで完成させてきたプログレッシヴロックのあらゆる要素が詰まった歴史的名盤である。また、あまりにも内容の素晴らしいのにも関わらず、たった1枚のアルバムと1枚のシングルを発表した後に姿を消してしまったために長らく伝説のバンドとされ、ファンの間ではイエスやジェネシスといったビッググループを押さえて高い人気を誇ったアルバムでもある。

 イングランドはマーティン・ヘンダーソン(ベース、ヴォーカル)、フランク・ホランド(ギター、ヴォーカル)、ロバート・ウェップ(キーボード、ヴォーカル)、ジョード・リー(パーカッション、ヴォーカル、ベース)の4人編成によるグループである。全員がヴォーカルを兼任し、作曲から作詞、アレンジ&プロデュースに至るまで、すべてメンバー自身が手がけている。彼らの経緯については、1970年代初期のイエスやジェネシスをはじめとするプログレッシヴロックに影響された新人グループであることしか分かっていない。それでも、メロトロンやオルガン、アナログシンセサイザーといったキーボード類を多用しながら、スティーヴ・ハケットのような流麗かつ叙情的なギター、ビル・ブルーフォードのようなタイトで固いドラミング、ジョン・アンダーソンを思わせるようなヴォーカルなど、プログレッシヴロックのお手本ともいうべき緻密に練られたサウンドは他のグループとはひと味違う新鮮味にあふれている。また新人グループとは思えない高度な演奏テクニックは言うまでも無い。本アルバムのジャケットには、イギリスの老舗ジャムメーカーであるロバートソンのオレンジ・マーマレード・ジャム『Garden Shed』のデザインと商品名をモチーフにしており、彼らの英国に対する敬意と伝統が感じられる素晴らしい内容になっている。

★曲目★
01.Midnight Madness(ミッドナイト・マッドネス)
02.All Alone(Introducing)(オール・アローン)
03.Three Piece Suite(スリー・ピース・スィーツ)
04.Paraffinalea(パナフィナレア)
05.Yellow(イエロー)
06.Poisoned Youth(ポイズンド・ユース)
★ボーナス・トラック★
07.Nanagram(ナナグラム)

 本アルバム『ガーデン・シェッド』は1977年にアリスタ・レーベルと契約してリリースされたものである。これまで多種多様なグループによるプログレッシヴロックのアルバムがリリースされてきたが、本アルバムの凄さは全6曲を構成する楽曲の完成度の高さにある。1曲目の『ミッドナイト・マッドネス』は、叙情的な雰囲気からビル・ブルーフォード風のドラミング、イエスのようなコーラスワークが特徴のナンバー。レトロなブリティッシュロックを思わせつつ、重厚なアンサンブルによる高揚感のある音世界であり、彼らの楽曲に対する一体感が堪能できる傑作である。2曲目の『オール・アローン』は、ロバート・ウェッブの美しいピアノに合わせたヴォーカルが特徴のナンバー。2分足らずの曲だが、叙情的な気分に浸らせてくれるメロディアスな作品となっている。3曲目の13分にも及ぶ『スリー・ピース・スィーツ』は、リヴァーブをかけないメロトロンサウンドとむせび泣くギターが秀逸であり、少し切なくなるほどのメランコリックなメロディーにあふれたナンバー。やや複雑なリズム展開のあるフレーズがありつつも躍動感があり、全体的に各パートの力量が遺憾なく発揮された大作である。4曲目の『パナフィナレア』は、ジェネシス風の憂いを帯びたコーラスワークとギターを中心としたポップナンバーになっており、夢の中の出来事を綴った歌詞ような明るくも悲しい不思議な曲調になっている。5曲目の『イエロー』は、美しい12弦ギターと叙情的なヴォーカル、リリカルに奏でられているピアノによるアンサンブルで、どこかノスタルジックな雰囲気が漂うナンバーである。6曲目の『ポイズンド・ユース』は、力強いドラムソロと重いベースから始まり、ダークさがにじみ出たへヴィなナンバー。緊張感のある曲調の中で時折、緩やかで優しいフレーズがたまらなく、中盤はメロトロンをふんだんに駆使したアンサンブルと緩急をつけた曲調、そして変拍子があり、後半は悲壮感あふれるオルガンとギターでスリリングに展開しながら幕を閉じる。こうして聴き終えると、ポップでありながらもメロトロン、ハモンドオルガン、アナログ・シンセサイザーといったキーボード類を駆使した音世界は、プログレッシヴロックにありがちな異空間、精神世界へ誘うような実験的で哲学的な要素はほとんど無く、普遍的な美しいサウンドに終始しているところが最大の魅力である。また、どこか懐かしく英国の田園風景を思わせる牧歌的なメロディが、今でもプログレッシヴロックやブリティッシュ・ロック両方のファンに愛される理由となっているのかもしれない。

 本アルバムはリリースされたものの注目されることはなかった。それはパンク・ムーブメントの真っ只中にあった当時、英国ならではのファンタジックを喚起させるようなメロトロンやモーグなどをふんだんにフィーチャーした“オールド・ファッション”であるプログレッシヴロックの作品、ひいては新人グループの作品を受け入れてくれる土壌など無かったからである。後年、リーダー格だったロバート・ウェップも「ライヴをしようとしてもどこも会場を貸してくれなかったし、レコード会社の体制もすでにパンク・ロックにシフトしていた」と語っている。1977年冬にエンジニアのナイジェル・グレイによってサリー・サウンド・スタジオで次の作品に向けた録音を開始するが、奇しくもグループは自然消滅に近い状態で解散を余儀なくされることになる。黙殺されたに等しい本アルバムだが、その後のプログレッシヴロックの再評価の機運に後押しされるかのように、このイングランドの『ガーデン・シェッド』も注目されるようになる。長らくブートレグ(海賊盤)が出回り、レアアイテム化していたが、日本のレコードショップによるCD化で復刻し、1995年には未発表音源をまとめたアーカイヴ盤『ザ・ラスト・オブ・ザ・ジュビリーズ』がリリースされる。さらに2005年にはアリスタ・レーベルのカタログを所有するBMGからの初のリマスター盤が復刻され、その余韻が冷めやらぬうちに実現した2006年の来日公演は記憶に新しい。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はブリティッシュロックの名盤中の名盤、イングランドの『ガーデン・シェッド』を紹介しました。この『ガーデン・シェッド』というアルバムは、異常なほど好きな友人に強く勧められて聴いたというのが記憶としてあり、長らくCD棚の隅のほうに置いやっていたんですが、かれこれ10数年前に整理をしていたところで再発見し、今ではすっかりマイフェバリットアイテムとなってしまってます。イエスとジェネシスの両グループを彷彿とさせるサウンドと英国の叙情性をプラスした内容は素晴らしく、プログレッシヴ・ロックの方面とブリティッシュ・ロックの方面のどちらから聴いても魅力的なサウンドです。それだけ過去のあらゆるグループの楽曲のポイントを抑えており、なおかつ昇華させているのが名盤と呼ばれている理由なのかも知れませんね。

 同じ1970年代後半に誕生したジョン・ウェットン率いるU.K.というグループは、パンク/ニューウェイヴに対抗する形で、強烈な演奏テクニックを披露してプログレッシヴロックを印象付けましたが、このイングランドというグループは伝統的な英国のポテンシャルを集約した強烈なブリティッシュロックの香りを残したように感じられます。それでもファンタジックでありながら、どこか哀愁のある楽曲は、プログレッシヴロックの終焉を物語るU.K.とはまた違った悲壮感を漂わせるものです。まさにアルバムの邦題に「枯葉の落ちる庭園」なんて付けているあたり、拍車をかけているとしか思えません。でも、レコードショップでこのオレンジ・マーマレードのデザインと商品名『Garden Shed』をモチーフにしたレコードジャケットを見かけると、無性にブリティッシュロックやプログレッシヴロックを聴きたくなる衝動にかられます。やっぱり私はこういったサウンドが好きなんだな~と、改めて思った今日この頃です(笑)。

 ちなみに、先に述べた未発表音源をまとめたアーカイヴ盤『ザ・ラスト・オブ・ザ・ジュビリーズ』は、『ガーデン・シェッド』の曲に劣らない英国然とした素晴らしい楽曲になっています。ブリティッシュロック好きな方はぜひ聴いてほしいです。

それではまたっ!