【今日の1枚】Hatfield and The North/The Rotter's Club | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Hatfield and The North/The Rotter's Club

ハットフィールド&ザ・ノース/ロッターズ・クラブ

1975年リリース

知性と感性が散りばめられた

カンタベリーミュージックの最高峰であり歴史的名盤!

 集合離散を繰り返すカンタベリーシーンにおいて、奇跡のグループと評されたハットフィールド&ザ・ノースのセカンドアルバム。シンプルでポップでありながらも、ストーリーのような計算された流れの中で、多彩な楽器によるユーモアあふれる緻密で独特な楽曲(ハーモニー)は、聴くものに甘美な印象を与えてくれる歴史的名盤である。

 ハットフィールド&ザ・ノースは1973年6月に名門ヴァージン・レーベルと契約するが、ファーストアルバムをリリースするまで休む間もなくオランダからフランスを回るヨーロッパツアーを行っている。これほど精力的にライヴツアーを続ける理由は、日銭を稼ぐという経済的な理由のほかに、彼らがステージ上で試行を経ながら楽曲を完成させるという方法を取っていたからだという。10月にデビューアルバムのレコーディングに突入するが、その間もライヴ活動を止めていないというから驚きである。1974年3月にファーストアルバム『ハットフィールド&ザ・ノース』を完成させ、リリース記念のスペシャルステージを何度か実践し、中でもロンドンのラウンドハウスの公演では、セカンドアルバムのも収録される『Mumps』や『Your Majesty Is Like A Cream Donuts』、『Prenut』のナンバーが試行されたという。しかし、精力的にライヴ活動していた最中にブランクが生じる。それはヴォーカル兼ベーシストのリチャード・シンクレアが、事故で下半身不随となったロバート・ワイアットのアルバム『Rock Bottom』に参加したり、ディヴ・スチュワートがかつて在籍していたエッグの再編成アルバム『The Civil Surface』の制作に取り掛かったりと対外活動が増えたからである。ステージ数は激減し、さらにレコーディングに3万ポンドを費やしたにも関わらず、セールス的に芳しくなかったことからレーベルサイドからのグループへの経済的支援を渋るようになったという。3曲のシングルをレコーディングしたり、セッションを行ったりとレーベルサイドと妥協したコマーシャル的な活動を行うようになったのは、明らかに経済的な困窮からである。

 

 レーベルがブッキングしたケヴィン・コイン・バンドとロル・コックスヒル&スティーヴ・ミラーのジョイント・ツアーでイギリスからベルギーを回った中でセカンドアルバム用に書き溜めたナンバーを試行している。その骨子を元に短期のスペインからフランスツアーをこなしながら西サセックスのサターンスタジオでセカンドアルバム『ザ・ロッターズ・クラブ』のレコーディングを実施。時間と予算をかけたファーストアルバムと比べてシンプルな録音方法をとり、1975年3月にリリースされる。本アルバムはリチャード・シンクレアの優しい歌声、フィル・ミラーのジャズとロックを融合したようなギター、そしてディヴ・スチュワートの奏でるエレピ、オルガンの美しさなど非の打ち所の無い楽曲群は、ポップとジャズ、またはクラシックの新たな融合とセンスを打ち出した作品といえる。とにかくフィル・ミラーとディヴ・スチュワートの競うように持ち込んだテンションコードが洒落ており、さらに多用したユニゾンが極上のサウンドを強固にしているといって良い。

 

★曲目★

01.Share It(シェアー・イット)
02.Lounging There Trying(ラウジング・ゼア・トライイング)
03.(Big) John Wayne Socks Psychology On The Jaw(ビッグ・ジョン・ウェイン・ソックス・サイコロジー・オン・ザ・ショー)
04.Chaos At The Greasy Spoon(カオス・アット・ザ・グリージィ・スプーン)
05.The Yes No Interlude(ザ・イエス・ノー・インタールード)
06.Fitter Stoke has a Bath(フィッター・ストーク・ハズ・ア・バス)
07.Didn't Matter Anyway(ディドント・マター・エニウェイ)
08.Underdub(アンダーダブ)
09.Mumps(マンプス)
a) Your Majesty Is Like A Cream Donut ~Quiet~(ユア・マジェスティ・イズ・ライク・ア・クリーム・ドーナッツ~クワイエット~)
b) Lumps(ランプス)
c) Prenut(プリナッツ)
d) Your Majesty Is Like A Cream Donut ~Loud~(ユア・マジェスティ・イズ・ライク・ア・クリーム・ドーナッツ~ラウド~)

★ボーナストラック★
10.Halfway Between Heaven and Earth ~Full Version~(ハーフウェイ・ビトウィーン・ヘヴン・アンド・アース~フルバージョン~)
11.Oh, Len's Nature!(オー・レンズ・ネイチャー!)
12.Lything And Gracing(ライシング・アンド・グレイシング)

 

 本アルバムの1曲目の『Share It』は、優しく伸びやかなリチャード・シンクレアのヴォーカルが冴えたナンバーであり、2曲目の『Lounging There Trying』は、ギターとエレクトリックピアノによるユニゾンであり、即興的な演奏にも関わらず美しく耳に響く極上のインストゥメンタルである。3曲目の『(Big) John Wayne Socks Psychology On The Jaw』と4曲目の『Chaos At The Greasy Spoon』、5曲目の『The Yes No Interlude』は、ファズ・オルガンとファズ・ベースを中心としたユニゾンで、複雑な展開ながらも絶妙なバランスで計算されたような楽曲が組み合わさったようなナンバーであり、6曲目の『Fitter Stoke has a Bath』は、ヴォーカルとエレピを中心としたユニゾンで美しくまとめられている。7曲目の『Didn't Matter Anyway』は、ヴォーカルとフルートという流れで、とにかくユニゾンを多く使用し、執拗なくらい多数の楽器による旋律(ハーモニー)を作り出している。8曲目の『Underdub』は、エレピとフルート、ギターを中心とした見事なジャズアンサンブルが心地よいナンバーから、最後の大曲『Mumps』を迎える。『Mumps』は4つのパートからなり、彼らの音楽の集大成ともいえるナンバーである。バーバラ・ガスキンを中心とした女性コーラスから始まり、緊迫感のあるギターや手数の多いドラム、そして哀愁漂うエレピが緩急をつけながら、幾層にも重なるようなサウンドに心が奪われてしまう。多用したユニゾンが効果的であり、ポップでありながらサウンドの中に独特な浮遊感をもたらし、シンプルであるにも関わらず“だまし絵”のように入り組んだ印象を与えてくれる。アルバムを通して聴いてみると、彼らの作り出すサウンドがいかに知的で感性豊かであるかが良く分かる。

 アルバムをリリースした後は、プロモーションの一環としてドイツ~オランダ^フランスを回るヨーロッパツアーやイギリスのツアーが組まれていたが、グループのコンディションは最悪だったという。中でも幼い子と妻を抱えて住む場所を失ったリチャード・シンクレアは、レーベルに支援を求めたが断られ、まともな演奏が出来なくなるほど窮地に陥っていたという。解散は時間の問題であった。ハットフィールド&ザ・ノースは、2枚のオリジナルアルバムとたった3年という活動期間だったが、後にギルガメッシュのメンバーと合流して、ナショナル・ヘルスというグループを結成する。また、集合離散を繰り返すカンタベリーシーンにおいて、二大巨頭であるリチャード・シンクレアとディヴ・スチュワートが組んだ唯一のグループがハットフィールド&ザ・ノースであることは留めておきたい。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。初めて掲載させていただいたアルバムはハットフィールド&ザ・ノースの『ザ・ロッターズ・クラブ』です。ハットフィールド&ザ・ノースは、かれこれ20年以上、そして今でも聴き続けているアルバムの一枚です。当時、キング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー、イエス、ジェネシスといった大御所を中心にプログレッシヴロック(プログレ)を聴きはじめていましたが、カンタベリーミュージックに足を踏み入れた最初の作品がこの『ザ・ロッターズ・クラブ』でした。このアルバムを機にカンタベリーミュージックの作品群に触れることになるのですが、一気に自身のプログレの世界を広げた一枚といっても過言ではないと今でも思っています。

 

 カンタベリーミュージックを聴いていると、とにかくメンバーがあちこちのグループにクレジットされていたり、あのグループとあのグループのメンバーが新たなグループを結成したりと、まさに集合離散を繰り返しながら自分達のサウンドを練り上げていく職人気質あふれるミュージシャンの集まりなんだなと実感してしまいます。話は変わりますが、このハットフィールド&ザ・ノースは別名、ツアーバンドとも呼ばれています。その理由がステージ上で施行を経ながら楽曲を完成させるという方法論を取っていたというから驚きです。ステージ上でしか生まれない楽器の扱いやサウンドを試しつつアルバムに活かした点も凄いことですが、何よりもどんな楽曲でも演奏できるライヴで鍛えられたテクニックにあると思います。とにかくフィル・ミラーのギターとディヴ・スチュワートのエレクトリックピアノによるユニゾンはゾクゾクするほど美しいものです。

 

 少し気分が優れないときや沈んでいるときは、いつでも聴けるように、常にスマートフォンに入れています。

いや~ホントにいいですわ~。それとも年かな~。(笑)

 

それではまたっ!