Eskaton/Ardeur
エスカトン/情熱
1980年リリース
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躍動感あふれるキーボードと女性スキャットによる
ズール系シンフォニックロックの傑作
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1980年代に登場したマグマ影響下のフランス産ヘヴィ・プログレッシヴロックグループ、エスカトンのデビューアルバム。そのアルバムは脈打つベースライン上でジャズ要素のあるエレクトリックピアノやオルガンを中心としたキーボード、クラシカルなヴァイオリン、そしてニ声の女性スキャットによるハーモニーが渾然一体となり、独自のシンフォニックロックを形成した傑作である。躍動感あふれるリズムセクションやインテリジェンスなキーボード、そして情熱的なスキャットを軸とした彼らの渦巻く宇宙的なサウンドは、マグマとは一線を画するズールフュージョンと呼ばれることになる。
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エスカトンは1970年にフランスのイル=ド=フランス地方パリで結成されたグループである。結成時のメンバーはアンドレ・ベルナルディ(ギター)とマルク・ローゼンバーグ(ベース)、元ミュージック・ノイズ・グループ出身のジャン=フィリップ・ガレ(キーボード、ヴォーカル)、フィリップ・ザルカ(ドラムス)の4人編成であり、当初はエスカトン・コマンドケストラというグループ名だったという。彼らはクリスチャン・ヴァンデ率いるマグマが先導したズール派の伝統を継承したが、より親しみやすい音楽を目指すためにコバイア語の歌詞を廃止し、母国語であるフランス語を採用している。1973年になるとメンバーチェンジがあり、キーボード奏者のジャン=フィリップ・ガレとドラマーのフィリップ・ザルカが脱退。ザビエル・デ・レイモンド(フェンダーピアノ)、ジェラール・ケーニグ(ドラムス)、アラン・ブレシング(ギター)が加入。さらに1974年にはポール・クライナートとアマラ・タヒルという2人の女性ヴォーカリストをはじめ、エリック・ギヨーム(キーボード)が加入し、8人編成で主にライヴグループとして活躍するようになる。この時にグループ名をエスカトンと短くしている。約5年をかけてライヴで評判を築いた後、彼らは1979年に自主レーベルから最初のシングル『ミュージック・ポスト・アトミック』をリリースしている。彼らはシングルの売り上げや評判が上々だったこともあり、同年11月にStudio MELODYでアルバムのレコーディングを決行。タイトルは4曲入りの『4ビジョン』と命名してリリースしたが、アメリカではオーディオカセットでのみ発売されていたという。このアルバムは、実にテンポが速い型破りな楽曲となっており、催眠術のようなスタイルで演奏するアンドレ・ベルナルディのベースが主流となったサウンドになっている。その後、彼らの『4ビジョン』が話題となったことで、彼らは正式にアルバムレコーディングを行うことになる。彼らはパリにあるスタジオ・ラムセスに入り、プロデューサーにブノワ・ルーセルを迎えてレコーディングを開始。この時のメンバーはアンドレ・ベルナルディ(ベース)、ジェラール・ケーニグ(ドラムス)、マーク・ローゼンバーグ(エレクトリックピアノ)、ジル・ローゼンバーグ(ギター、オルガン、シンセサイザー)、パトリック・ル・メルシエ(ヴァイオリン)、そしてアマラ・タヒル、ポール・クレインナート(ヴォーカル)である。こうして1980年に彼らのデビューアルバムである『熱情』がリリースされることになる。そのアルバムはエレピ軸の反復リフをはじめ、低音を重視した脈打つベース、そして焦燥感を煽るヒステリック&オペラティックな女声スキャットによるマグマから強く影響を受けたヘヴィ・フュージョン志向の傑作となっている。
★曲目★
01.Ardeur(情熱)
02.Couvert De Gloire(栄光に包まれて)
03.Attente(待っている)
04.Eskaton(エスカトン)
05.Un Certain Passage(ある通路にて)
06.Pierre Et L'ange(ピーターと天使)
07.Dagon(ダゴン)
アルバムの1曲目の『情熱』は、煌びやかなキーボードと女性スキャットによるアップテンポな楽曲。全体的にポジティヴな躍動感があり、より洗練された明快なサウンドになっている。2曲目の『栄光に包まれて』は、シングルでリリースされた『イフ』のアレンジ版。疾走感のあるリズムセクションとキーボード上で、スキャットを交えて歌う女性ヴォーカルが素晴らしい楽曲。1分半あたりからキーボードやヴォーカル、ヴァイオリンが響き合い、ジャズフュージョン的な展開となるが、曲はどこかコラージュチックでありながらドラマティックである。3曲目の『待っている』は、アルバム『4 Visions』にも収録されている楽曲。変拍子のあるリズムや攻撃的なベースがあるものの、焦燥感を煽るようなヒステリック&オペラティックな女声スキャットと共に渦巻くような暗黒性のあるサウンドが特徴であある。4曲目の『エスカトン』もアルバム『4 Visions』にも収録されている楽曲であり、アネクドデン風のヘヴィなギターメロディが交互に現れるのが特徴的である。緊張感あふれるシンセサイザーとジャズ的なエレクトリックピアノによる複雑なサウンドとなっているが、素晴らしい2人の女性スキャットが聴きやすくしている。後半の畳み込むようなベースリフは強烈だ。5曲目の『ある通路にて』は、ヴァイオリンやヴォーカル、そしてキーボードがサウンドスケープを創り出したメロディアスな楽曲。そして女性スキャットと軽やかなリズムセクションが重なり、重厚なシンフォニックロックへと形成していっている。6曲目の『ピーターと天使』は、渦巻くようなシンセサイザーの音色からドラムスと女性スキャット、そしてキーボードがリードした楽曲。オペラチックな女性スキャットによるクラシカルな雰囲気のある10分近い楽曲だが、4分半あたりから曲調が変わり、力強いベースとドラミングを中心としたヘヴィな展開となる。7曲目の『ダゴン』は脈打つエレクトリックピアノと軽やかなリズムセクション、そして女性スキャットによるスペイシーなサウンド。後にスキャットとキーボードが美しく融合し、5分半を過ぎる頃には、素晴らしいドラミングとビートがリードしつつ一気に盛り上がっていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、確かに『呪われし地球人たちへ』時代のマグマの影響下にあるサウンドになっているが、エレクトリックピアノをフィーチャーし、非常にダンサブルなポップスとジャズテイストが混じり合ったメロディアスなサウンドになっている。前作よりも曲は短く、アレンジはよりタイトになった作品だが、ポジティヴで躍動感のある彼らのサウンドは、今なお熱狂的なファンが多い。
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本アルバムはマグマに強く影響を受けつつも、音数を抑えた事による浮遊感のある1980年代のフレンチ・プログレを代表する1枚として評価される。このアルバムの成功に後押しされるように、1981年に彼らの事実上のデビューアルバムである『4ビジョン』がリリースされ、エスカトンはフランスのプログレッシヴロックの代表的な存在となる。しかし、フランスでもニューウェーヴやポップ指向のサウンドが主流となり、1983年に『Fiction』をリリースしたものの、あまり注目されなかったという。1984年にはジル・ローゼンバーグが脱退し、残ったメンバーで1985年に『 I'Care』がレコーディングされたが、こちらはアルバムがリリースされないままグループは活動停止することになる。その後、エスカトンはプログレ愛好家たちのあいだで囁かれる存在として続いていたが、1994年にアンドレ・ベルナルディを中心に再結成される。メンバーはオリジナルメンバーのアンドレ・ベルナルディ(ギター)とマーク・ローゼンバーグ(ドラムス)に加え、ミュージック・ノイズからフレデリック・ユイン(ベース)とデニス・ルヴァッサー(キーボード)の2人のミュージシャンが加入。彼らによって1985年にレコーディングしつつも未発表だったアルバム『I'Care』をリリースしている。その後、再度活動停止となったエスカトンだが、アラン・ルボンと彼のレーベルであるソレイユ・ズールによって、マーク・ローゼンバーグとアンドレ・ベルナルディは、エスカトンの全作品のリマスタリングに着手。『4 Visions』と『Ardeur』、『Fiction』の順にリイシューされ、マスタリングを行ったウディ・クームランとカヴァーイラストを手掛けたティエリー・モローが監修を務めたという。2011年にはマーク・ローゼンバーグとアンドレ・ベルナルディを中心に再びエスカトンは結成され、ジーン・フィリップ・ギャレット(ヴォーカル、キーボード)、ドゥニ・ルヴァスール(キーボード)、そしてフィリップ・ゼルカ(ドラムス)が参加。2013年10月ドゥニ・ルヴァスールは他のプロジェクトに専念するためにグループを脱退してしまうが、新たなメンバーを加えつつ、ポール・クライナート(ヴォーカル)、マーク・ローゼンバーグ(キーボード)、アンドレ・ベルナルディ(ベース)の3人を中心に現在でも活動を続けているという。
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皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はマグマの影響下でありながら独自のズール派の伝統を継承したフランスのプログレッシヴロックグループ、エスカトンのデビューアルバム『熱情』を紹介しました。実際のデビューアルバムは前年にカセットテープでリリースされた『4ビジョン』になりますが、ズールサウンド愛好家たちによると『4ビジョン』こそ極めてマグマサウンドを体現していると呼ばれています。元々、コバイア語という架空言語を用いた変態グループ…もとい、プログレグループのマグマがちょっとだけ苦手だった私ですが、逆にポジティヴでシンフォニックロックの感性を持った本アルバムこそ聴きやすいと感じたまでです。彼らは結成した1970年にキーボード主体のプログレッシヴロックを演奏していましたが、メンバーチェンジの末、マグマの影響を受けたズール派の伝統を継承するというユニークな経歴を持っています。その後、より親しみやすい音楽を目指すためにコバイア語の歌詞を廃止し、母国語であるフランス語を採用したことから、エスカトンがフランス語のマグマと呼ばれている所以でもあります。1985年に時代の流れに逆らえず、活動停止に追い込まれますが、マーク・ローゼンバーグとアンドレ・ベルナルディを中心に何度もエスカトンを復活させ、現在でもメンバーを替えながら活動を続けているというのは凄いことです。個人的に改めてマグマを含めたズール派の音楽をもっと聴いてみようと思いました。
さて、本アルバムですが、呪術的な反復と暴力的なベースサウンドが顕著だったマグマの作品と似ている点があるものの、脈打つベースラインやエレクトリックピアノ、そして2人の女声スキャットを加えることで、ジャズやクラシック、オペラの要素を融合したテンポの速い魅力的なサウンドになっています。緊張感あふれるシンセサイザーとリズミカルなエレクトリックピアノによるジャズの風味が効いた力強いオーケストレーションが、彼らの挑戦的で複雑な音楽への道を開いていると感じます。エレクトリックギターは特に目立ちませんが、より密度の高いサウンドが補われ、同時に演奏されるキーボードの音色が活きています。とにかく躍動感あふれるキーボードに合わせて歌う2人の女性スキャットは、情熱的でありながら説得力のあるプログレサウンドに貢献していると思います。これがマグマ系ズールの領域を飛び越えたズールフュージョンと呼ばれる所以なのかも知れません。
エスカトンは現代的なシンセサイザーによるリズミカルなサウンドを追求したことで、インスピレーションの源泉となったマグマとは一線を画したインテリジェンスなズール派サウンドに位置づけられています。ぜひともマグマファンにも通じる独創的なズールフュージョンを聴いてほしいです。
それではまたっ!





























































