【今日の1枚】FM/Black Noise(FM/暗黒からの使者) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

FM/Black Noise
FM/暗黒からの使者
1977年リリース

電子ヴァイオリン&シンセサイザーを擁した
超技巧派トリオによる衝撃のデビュー作

 後にナッシュ・ザ・スラッシュという芸名で一世風靡するマルチ楽器奏者、ジェフ・プルーマンが在籍していたカナダのプログレッシヴロックトリオ、FMのデビュー作。そのアルバムはエレクトリックヴァイオリンとムーヴシンセサイザーを大胆に使用したSF的でスペーシーなプログレハードサウンドとなっており、トリオとは思えない壮大且つ綿密な音世界を演出した内容になっている。元々は限定500枚のラジオ番組の通信販売のみだったが、反響が大きく急遽米国ではVisa Recordsから、カナダではPassport Recordsからリリースされることになった傑作アルバムでもある。なお、本アルバムは2015年のローリングストーン誌「史上最高のプログレッシヴロックアルバム50選」で48位にランクインしている。

 FMは1976年にキャメロン・ホーキンス(シンセサイザー、ベース、リードヴォーカル)とジェフ・プルーマン(エレクトリックバイオリン、エレクトリックマンドリン、バックヴォーカル)によって、カナダのトロントで結成されたグループである。プルーマンはトロントのオリジナル99セント・ロキシー劇場でルイス・ブニュエルの1929年の無声映画『アンダルシアの犬』のサウンドトラックを演奏するなどソロアーティストとして知られた存在であったという。一方のホーキンスは地元でマルチ楽器奏者のソロアーティストとして活動しており、2人は1975年にClearというグループでジャムセッションをしていた時に出会っている。2人は意気投合してそれぞれの楽器をうまく活用した、ギターレスのグループであるFMを結成することになる。彼らは1976年7月に、トロントにあるサウンズ・インターチェンジというレコーディングスタジオに入り、数曲を録音している。また、TVオンタリオで11月3日に初放送されたテレビ番組「Night Music Concert」のために録音演奏をしており、コマーシャルなしの30分の番組の中で本アルバムにも収録されている『フェイサーズ・オン・スタン』や『ワン・オクロック・トゥモロウ』、『暗黒からの使者』という3曲を演奏している。この頃のFMはSF的なシンセサイザーとプルーマンの巧みなエレクトリックヴァイオリンとマンドリンが映えたややサイケデリックでユニークなグループとして認知されていたという。そしてテレビ番組が初めて放送された直後の1976年11月に、トロントのAスペースアートギャラリーでFMとして最初の公演を行っている。翌年の1977年2月にプルーマンと共演したことのあるマーティン・デラー(ドラムス)が加入し、トリオ編成となった彼らは、カナダ放送協会のバラエティ番組『Who's New』に出演。その後、カナダ放送協会(CBC)が所有・運営をするレコードレーベルからアルバム制作の打診を受けることになる。それが本アルバムの『Black Noise(暗黒からの使者)』である。レコードプロデューサーはキース・ホワイティングが担当し、レコーディングエンジニアにはマイク・ジョーンズとエド・ストーンが行い、1977年末に8曲入りのアルバムが完成。彼らは無論、通常リリースのように店頭で配布されると予想していたが、CBCは通信販売を選択。限定500枚でいくつかのラジオ番組でのみの販売を発表したという。しかし、そのアルバムを聴いたリスナーからの反響は大きく、1978年に米国ではVisa Recordsから、カナダではPassport Recordsから急遽リリースが決定することになる。本デビューアルバムはギターレスという変則的なスタイルでありながら、エレクトリックヴァイオリンとシンセサイザーを駆使したスペイシーなサウンドを展開しており、説得力のあるSFをテーマに近未来的な音世界を作り出した傑作である。

★曲目★
01.Phasors On Stun(フェイサーズ・オン・スタン)
02.One O'Clock Tomorrow(ワン・オクロック・トゥモロウ)
03.Hours(アワーズ)
04.Journey(ジャーニー)
05.Dialing For Dharma(達磨に電話)
06.Slaughter In Robot Village(ロボット村へ舞い降りて)
07.Aldeberan(アルデバラン)
08.Black Noise(暗黒からの使者)

 アルバムの1曲目の『フェイサーズ・オン・スタン』は、シンセサイザーとドラミングによる耳に心地よいオープニングから、ホーキンスの素晴らしいヴォーカルが堪能できる楽曲。舞い上がるようなエレクトリックヴァイオリンが効果的なコントラストをなしており、非常に高揚感をもたらせてくれる。2曲目の『ワン・オクロック・トゥモロウ』は、 ARP2500のシンセサイザーも演奏するドラマーのマーティン・デラーが加わった2台のキーボードによるスペイシーな楽曲。グロッケンシュピールのキラキラした音色と囁くようなヴォーカルが夢心地の雰囲気を作り出しており、ギターのような演出をするプルーマンのエレクトリックヴァイオリンが巧みである。複数のキーボードとベースを含めたリズムセクションによって、かなり重層的な音像となっている。3曲目の『アワーズ』は、エレクトリックヴァイオリンを中心にピアノ、ドラミングによるインストゥメンタル曲。中盤にはドラムソロが展開しており、心地よいテンポの速い楽曲になっている。4曲目の『ジャーニー』は、ドラムスとシンセサイザーがリードするヘヴィなアップテンポの曲。エフェクトをかけたヴォーカルやハードな楽曲は英国を意識した雰囲気になっており、伸びやかなエレクトリックヴァイオリンによるソロが素晴らしい。5曲目の『達磨に電話』は、エキゾチックなリズムとダリル・ウェイを思わせるヴァイオリンが特徴のエレクトロニックな楽曲。独特な楽曲でもまったくブレないマーティン・デラーのドラミングは注目に値する。6曲目の『ロボット村へ舞い降りて』は、近未来的なエフェクトから始まり、イエスのクリス・スクワイアばりのベースラインとエレクトリックヴァイオリンがリードするプログレッシヴな楽曲。重厚なスペースロックでありながら、緊迫感と激しいパワーに満ちた内容になっている。7曲目の『アルデバラン』は、軽快なリズムと美しいメロディ、そしてヴォーカルからなるバラード曲。ここでのプルーマンのエレクトリックマンドリンはジェネシスのスティーヴ・ハケットのギターに少し似ている。8曲目の『暗黒からの使者』は10分に及ぶ大曲になっており、長いアンビエントのパッセージや催眠的なヴォーカル、マントラのように高まるヴァイオリン、技巧的なドラミングからなる宇宙的な叙事詩である。後半はベースを活用した重厚な音世界を創生しており、静と動というコントラストを巧みに利用したドラマチックな展開になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、サウンド自体はアンブロージアやカンサス、U.K.を合わせたような感じであり、全体を通して強力なシンセサイザーとエレクトリックヴァイオリン、ギターの代わりにエレクトリックマンドリンを多用したメロディアスな楽曲に仕上げている。電子楽器の音を組み合わせたエレクトロニックなサウンドスケープと言っても過言ではないが、宇宙的というよりも、どこか孤立した心地よい空虚さを感じさせるサウンドこそFMの大きな特徴と言える。

 本アルバムは米国ではVisa Recordsから、カナダではPassport Recordsからリリースされたこともあり、飛躍的にFMの知名度はアップしたという。また、シングル『フェイサーズ・オン・スタン』はアルバムのプロモーションに役立ち、FMはゴールドレコード賞を受賞することになる。しかし、アルバムの録音直後にジェフ・プルーマンはグループから離脱し、再度ソロ活動を行うようになる。彼は1977年に深刻なバイク事故から回復したものの、その後遺症でメンバーと共に活動が出来なくなってしまったのが原因とされている。プルーマンはスリーマイル島原発事故の脅威を訴えるジ・エッジでのライヴで、彼はリン塗料に浸した包帯を巻いてステージに登場し、1979年からナッシュ・ザ・スラッシュという芸名で外科用包帯を巻いたアーティストとなる。残ったメンバーは新たに同じくエレクトリックバイオリンとエレクトリックマンドリンを演奏するベン・ミンクを加入させている。このメンバーで1977年後半にアルバムのレコーディングを行い、『Direct to Disc(またはHead Room)』を1978年にリリースしている。このアルバムは録音テープを使用しないダイレクト・トゥ・ディスク録音方式を使用して制作されたもので、15分間の2曲をオーバーダブなしでスタジオでライヴ演奏したという。1979年夏には3枚目のアルバムとなる『サーベイランス』をリリース。しかし、Passport Recordsが予定リリース日の1週間前に倒産したことでリリースが遅れるハプニングが発生。一時、Passport Recordsはアメリカのキャピトルレコードに買収されるが、翌年カナダの新配給会社A&Mレコードに救済されている。1980年にはラリー・ファストがプロデュースした4枚目のアルバム『City of Fear』をリリースするが、1983年にソロアルバムにも力を入れていたベン・ミンクが脱退。また、1984年に新しいアルバムの作業が始まった時に、ついにPassport Recordsが廃業となってしまう憂き目に遭っている。そんな時、ナッシュ・ザ・スラッシュとして活躍していたプルーマンから、自身のレコードレーベルであるクオリティレコードを紹介している。ナッシュは、FMとの将来的なダブルビル・ツアーを提案しており、最終的に彼がグループに復帰することでクオリティレコードとの契約。1985年の5枚目のアルバム『Con-Test』ではナッシュの復帰作として注目されたという。しかし、今度はクオリティレコードが廃業することになり、グループはレコードレーベルの倒産に悩まされることになる。MCAと契約した彼らだったが、レコードレーベルの突然の変更によってほとんどプロモーションは行われなかったという。1986年にはドラマーのマーティン・デラーがツアーの最後に脱退。代わりにグレッグ・クリッチリーを迎え、新たにギタリストとしてサイモン・ブライアリーを加入させている。ギタリストの加入はギターレスだった彼らのサウンドに大きく影響を及ぼしたという。その後もメンバーチェンジを繰り返しながらアルバムをリリースするが、1988年のアルバム『Tonight』のツアー後に解散している。その後もホーキンスを中心に新たなラインナップで離合集散を繰り返していたが、2006年にキャメロン・ホーキンスとマーティン・デラー、そしてイタリア人ミュージシャンであるクラウディオ・ヴェナを加えたトリオで再結成し、6月24日に米国ペンシルベニア州ベツレヘムで開催されたNEARfestでライヴを行っている。その後もメンバーを替えながらライヴ活動を続け、2015年に28年ぶりとなるアルバム『Transformation』をリリースするなど健在ぶりをアピールしている。なお、作曲家、演奏家、プロデューサーとして、また古典的な無声映画の音楽も作曲するなど、カナダの偉大なミュージシャンの1人として活躍してきたナッシュ・ザ・スラッシュ(ジェフ・プルーマン)は、2014年5月12日にトロントの自宅で心臓発作の疑いで亡くなっている。66歳である。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はカナダの技巧派プログレッシヴロックトリオ、FMのデビューアルバム『Black Noise(暗黒からの使者)』を紹介しました。今でこそFMはカナダの偉大なプログレグループとして認知されていますが、1990年代までラッシュやマネイジュ、トライアンフ、サーガといったカナダのプログレ、ハードロックに押される形で、どちらかというとマイナーなグループとされてきた経緯があります。もっと、メジャーになっても良いグループだったはずですが、この記事を書いている途中で何となく理解してしまいました。契約したレコード会社が2回も倒産していたのですね。しかもリリース直後ということで当然、ほとんどプロモーションなど行われなかった可能性があります。その中でもデビューアルバムである本作の『Black Noise(暗黒からの使者)』は、CBCが権利を持ち続けつつ、その後も再発を繰り返してきましたが、 キャメロン・ホーキンスいわく、グループはカナダ版のLPから著作権料を受け取ったことは一度もないと主張していたそうです。この状況を打破するべく、ホーキンスは1994年にNow See Hear Recordsという新しいレコード会社を設立して、CBCがまだ所有していた本アルバムの『Black Noise(暗黒からの使者)』の権利を購入しています。実はこの時までにCBCはもはやアルバムのマスターテープを持っておらず、CBCでテープを探したところ、粗悪なカセットコピーが入ったリール式テープボックスが見つかっただけだったそうで、さらに旧Passport Recordsの金庫室でも音源を探したらしいのですが結局見つからなかったというから驚きです。一体マスターテープはどこに行ってしまったのでしょう? 最終的にNow See Hearによって『Black Noise(暗黒からの使者)』の再発は、ビニール盤からの転写で行われたそうです。レコードレーベルの倒産に悩まされたグループはいくつかあるでしょうが、ここまで酷いのはあまり聞いたことがありません。

 さて、本アルバムはそんな憂き目に遭ってきたFMのデビュー作ですが、このアルバムもグループが意図していない500枚限定のラジオ番組の通信販売のみだったそうです。当然、大きな反響となってアメリカとカナダのレコード会社からリリースされることになり、アルバムからのシングル『フェイサーズ・オン・スタン』が大ヒットして、カナダのアルバムチャートでもランクインすることになります。ちなみに当初のCBC盤のアルバムジャケットはマンホールの蓋をイメージしたデザインでしたが、1978年以降のすべてのレコード盤ではポール・ティルによるSFチックなジャケットアートになっています。そんな本アルバムの歌詞や曲はすべてSFをテーマにしていて、スタートレックの未来的な兵器への言及となった『フェイサーズ・オン・スタン』やトム・スナイダーの「トゥモロー・ショー」で放送されたティモシー・リアリーの宇宙旅行についてのインタビューに触発された『ワン・オクロック・トゥモロウ』、そして他の惑星への大量脱出に関する歌詞のある『ジャーニー』や『アルデバラン』などが顕著です。曲の方はホーキンスのスペイシーなムーヴシンセサイザーとギターレスの代わりに活躍するプルーマンのエレクトリックヴァイオリンが巧みであり、手数の多いドラミングを披露するマーティン・デラーがしっかり脇を固めています。技巧的な演奏が目立ちますが、繊細なグロッケンシュピールの心地よいメロディも素晴らしく、スピード感のある中で壮大且つ綿密な音世界を描いており、かなり惹きこまれること間違いないです。特に最後のタイトル曲の『Black Noise(暗黒からの使者)』のドラマティックな展開は感動モノです。

 本アルバムはニューエイジとテクノっぽい浮遊感のあるキーボードと、エレクトリックヴァイオリンをフィーチャーした重層的なプログレサウンドになっています。後に2015年のローリングストーン誌「史上最高のプログレッシヴロックアルバム50選」で48位にランクインすることになる傑作をぜひとも聴いてほしいです。

それではまたっ!