【今日の1枚】Jean Pierre Alarcen/Tableau Nº 1(タブロー・アン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Jean Pierre Alarcen/Tableau Nº 1
ジャン=ピエール・アラルサン/タブロー・アン
1979年リリース

壮大なオーケストラと甘美なギターによる
劇的なコントラストを生み出した名盤

 サンドローズのメンバーとして活躍しただけではなく、多くのアーティストと共演を果たしてきたフランスの天才ギタリスト、ジャン=ピエール・アラルサンのセカンドソロアルバム。そのアルバムは3つの楽章による構成になっており、壮大なオーケストラをバックに強力なリズムセクションとアラルサンが奏でる甘美なギターによる劇的なコントラストを生み出したシンフォニックロックになっている。ソフトなアンビエントミュージックがジャズ風のギター主体のロックに変わる音世界は、アラン・ホールズワースやジョン・マクラフリンを彷彿とさせ、ギターアルバムにはとどまらないフレンチシンフォニックロックの傑作の1枚となっている。

 ジャン=ピエール・アラルサンは、1948年1月9日にフランスの中北部の都市ブーローニュ=ビヤンクールで生まれたギタリストである。幼少のころからクラシックギターを学んでおり、彼が頭角を現し始めたのが、18歳になった1966年にフランスのシンガーソングライターであるアラン・レゴヴィック(アラン・シャンフォール)と共にモッズを創設した時である。シングル『Je Veux Partir』ほか2枚に参加し、その後もジャック・デュトロンやミシェル・ペレー、ジェラール・カウチンスキーらと共演している。彼は2年後にグループを脱退し、ロックグループのザ・クラプチック・システムというグループを結成し、1969年にアルバム『Aussi Loin Que Je Me Souvienne...』をリリースする。アラルサンはすぐにグループから離れて、セッションミュージシャンとして活動していた際、アルバムをレコーディングするためにパリに赴いていたマルセイユ出身のクリスチャン・クレールフォン(ベース)、アンリ・ガレラ(キーボード)、ミシェル・ジュリアン(ドラムス)と知り合う。アラルサンは3人と意気投合して1970年3月にエデン・ローズを結成し、小さなレーベルであったKatemaで唯一のアルバム『On The Way To Eden(エデンへの道)』をレコーディングしている。後にメンバーと共にフランス全土をツアーし、アルジェリアでもコンサートを行うなど精力的な活動を行ったが、レーベルとの関係が悪化したために敢え無くグループは解散。アラルサンは腕のあるミュージシャンであった3人と新たなアプローチを試み、女性ヴォーカリストであるローズ・ポドウォジニーをメンバーに招いてサンドローズを結成することになる。アラルサンは自身で作成した楽曲を元にメンバーと共にリハーサルを行い、彼が目標としていたクラシックとロックを融合したアルバム『サンドローズ』を1972年にリリース。そのアルバムは絶え間なく漂うメロトロンの音やアラルサンの甘美なギター、そしてシンガーであるローズ・ポドウォジニーの力強く澄んだ声をベースにしたフレンチプログレッシヴロックの傑作となっている。しかし、メンバー間の意見の相違や思想的な対立が起こり、結成してわずか1年余りの活動期間でサンドローズは解散することになる。

 アラルサンは再度セッションミュージシャンの道に進み、シンガーソングライターのフランソワ・ベランジェと共に活動し、3枚のアルバムに貢献。他にもベルナール・ルバやミシェル・ザシャのNOVA(ボサノバ・ラテンスタイルのジャズグループ)など、多くの尊敬されるフランスのミュージシャンや作曲家と仕事をしている。さらにミュージカル『HAIR』のフランス語のレコーディングにも取り組むなど、作曲家兼ギタリストとしてフランスを代表するアーティストの1人となっている。1978年に表舞台から遠ざかっていたアラルサンにソロアルバムの話が持ち上がり、ジェラール・コーエン(ベース)、ジャン=ルー・ベッソン(ドラムス)、セルジュ・ミレラ(パーカッション)と共に、プロデューサーにジル・ブレイヴェスを迎えて、初のソロアルバム『ジャン=ピエール・アラルサン』をリリースする。そのアルバムは主にジャズロックでありながらファンクやブルース、アンビエント、ラテンアメリカの音楽スタイルが盛り込まれており、チック・コリアやサンタナの影響が感じられる内容になっている。彼はその後もフランソワ・ベランジェとの活動を続けながら作曲活動を行っており、今度は西洋のクラシックスタイルを盛り込んだアルバムを制作しようと考え始める。今度はキーボード奏者にダニエル・ゴヨネを招き、リズムセクションを強化するためにフィリップ・ルルーが参加し、1979年8月にファミリーサウンドスタジオで録音されたのが本アルバムの『タブロー・アン』である。そのアルバムはジャズロックとズーリッシュ要素が強かった前作から、壮大なオーケストレーションを擁した3つの楽章からなるシンフォニックスタイルになっており、甘美なギターが所狭しと鳴り響くフレンチロックの傑作の1枚となっている。

★曲目★
01.Tableau Nº 1 - Premier Mouvement(タブロー・アン 第一楽章)
02.Tableau Nº 1 - Deuxième Mouvement(タブロー・アン 第二楽章)
03.Tableau Nº 1 - Troisième Mouvement(タブロー・アン 第三楽章)

 アルバムの1曲目の『タブロー・アン 第一楽章』は、壮大さのあるオーケストレーションに幽玄なギターが響き渡った20分強の楽曲。その後はシンセサイザーのソロが続く宇宙的なサウンドとなり、3分半からリズムセクションが加わって、エレクトリックピアノを交えた技巧的なジャズロックに変貌する。この時のアラルサンのギターは慟哭のような情感的なギターとなっており、緊迫感あふれる演奏になっている。再び深淵の中のような静けさのあるサウンドになり、オーケストラとギターによる神聖な音世界になっていく。最後は安らぎに近いギターの響きで締めている。2曲目の『タブロー・アン 第二楽章』は、シンセサイザーをベースによりシンフォニックな領域に踏み込んだ透明感のあるサウンドとなった楽曲。ニューエイジを小さなヴォリュームで聞いているかのように弱く儚い音から、後半のアラルサンのギターは暗闇の中からの一筋の光が差したような響きを持っている。3曲目の『タブロー・アン 第三楽章』は、重厚なシンセサイザーの響きからうなるようなギターを中心とした激しいジャズパートに変化する15分強の楽曲。まるで幻想的なシンフォニックの海の中で、激しいジャズ演奏が漂うような印象があり、極端なまでの静と動の演奏が交互に繰り返される。最後の哀愁漂う曲調を縫うように流れるギターが感動的である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ジャズロックの要素を加味したアンビエントとシンフォニックの両方をより強めた独自性のあるサウンドになっている。まるで幽玄なアンビエントミュージックが、激しいジャズ風のギター主体のロックに変わるのが印象的である。それでも前作よりもロマンティックな「クラシック」の中でロックスタイルを組み込み、静と動の音のコントラストを最大限に活かしたアラルサンの美学が詰まった逸品になっていると思える。

 アラルサンはアルバムリリース後もセッションミュージシャンの仕事に戻り、ワールドミュージックのシンガーソングライターであるジェフリー・オリエマやフランスのシンガー兼俳優のルノー・セシャンなどをはじめ、多くのアーティストとコラボレーションを行っている。1980年代からは1990年代はセッションミュージシャンとして活躍する一方で、作曲家としても多くのアーティストに提供している。中でもジーン・スミス・ミレシ監督の映画『Intimité(蚤の市)』の音楽を担当したことだろう。1998年には本アルバムの続編にあたるソロアルバム『Tableau Non. 2』をリリースしており、このアルバムで彼はよりアカデミックな交響曲の領域に踏み込んでいる。ソロアルバムの制作はその後は行っていないが、ミシェル・ヴィヴーとレ・シャ・メグルとのツアーを行っているなど、フランスの音楽界でアーティスト兼作曲家として現在でも精力的に活動をしているという。なお、本作の『タブロー・アン』は、2001年にリミックス化され、初ソロアルバム『ジャン=ピエール・アラルサン』とのカップリングCDとして発売されている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフランスで神聖なギタリストとして尊敬されているジャン=ピエール・アラルサンのセカンドソロアルバム『タブロー・アン』を紹介しました。彼はプログレのリスナーからしたらサンドローズのギタリストとして著名ですが、実は1960年代からセッションミュージシャンとして名を馳せた作曲兼アーティストとして非常に有名です。特にフランスにロックを根付かせたアーティストとして、多くのフランスのミュージシャンから尊敬されており、表舞台にあまり出ないことから神聖なギタリストと呼ばれていたそうです。そんなアラルサンが満を持して1978年にソロアルバムを出すことになり、ジャンルをものともしないそのプレイスタイルに多くの評論家から称賛されることになります。当初はジャズロックをベースにした音楽が中心でしたが、本アルバムの『タブロー・アン』は弦楽オーケストラを前面に出したシンフォニックロックの領域に踏み込んだ作品になっています。前作がマグマのようなズーリッシュスタイルを加味した内容だったのに対して、本作品はエニドタイプのシンフォニックスタイルを加味した内容と言っても過言ではないと思います。この作品からアラルサンはクラシックに傾倒して、ロックの領域から離れてよりアカデミックな音楽へと変わっていくことになります。

 さて、そんな本アルバムですが、20分近くの曲がある3つの楽章からなる構成になっており、クラシックの手法を前面に出した内容になっています。いずれもジャズロックとシンフォニックが交互に出てくる展開になっていて、ジャズの部分はオルガンソロが配置され、圧倒的なパフォーマンスを魅せてくれます。一方のシンフォニックな要素は透明感あふれる静を表現したような内容になっていて、シンセサイザーをうまく活用した幻想的なサウンドになっています。そんな激しいジャズパートと静寂なシンフォニックパートが交互に展開されたことによって、彼のギターが静謐な悲しみの淵から天空へと逆巻く慟哭のような感情を表現したようなサウンドになっています。アラン・ホールズワースやジョン・マクラフリン的な要素も聴き取れますが、この美しくも儚い甘美なギター演奏はアラルサンならではの唯一無比の音世界だと思っています。

 本アルバムはジャズロックをベースにした前作からシンフォニックな手法を多く組み入れた、アラルサンの美学が詰まったプログレッシヴロックの逸品となっています。壮大なオーケストレイションの中でフランスらしい幽玄で儚さを持った彼のギターをぜひとも味わってみてください。

それではまたっ!