「10年、一つのチームにいれたら、たいしたもんだよ」
個人事業主になりたてのころ、師匠にそう言われた。師匠は、メインの社会人の強豪チームに20年も携わった。
しかし、気づけば、私も10年以上サポートするチームがいくつか出てきた。当時を思えば、信じられない。20代後半に、他業種から転職した私。体育系の大学を出たわけでもなく、選手としてもまったくの3流だった私が、まさかトレーニングコーチとして、10年以上も携わるチームを持てるとは。なぜ、私のような凡人に、それが可能になったのか。自分で、自分のことを客観的に評価するのは難しいが、ひとつだけ、私には武器がある。それが自分の武器とは、以前は考えたこともなかったのだが。もし、私のような者が、仕事が継続している理由があるとしたら、このことしかないように思う。
自分で言うのもなんだが、私のストロングポイントは何か。
それは、「自信がないこと」である。なに、自信がないことが武器とは、とうとう森下、頭までおかしくなったのか、と思われるかもしれない。そういう、私もこのことに気づいたのは、おそらくこの数年のことだ。高校時代から読書が趣味になっていた。趣味というよりも、自分に自信のかけらもなかった私は、本にその拠り所を求めた。野球部の副主将になるも、レギュラーには程遠い存在。それなのに、リーダーとして何ができるのか、何をすべきか、もちろんわからない。そして本に出会った。まずは、スポーツ選手や監督が書いたものを読んだ。そして、名言集みたいなものも好きで、その中の言葉の数々が自分を励ましてくれた。時には本の中で出会う言葉にさらに自信を失うこともあった。しかし、たいていの言葉は、弱い自分を後押ししてくれた。その習慣は社会人になっても続いていた。とくに、30手前で指導者の道を歩み出してから、その習慣は加速していった。
まだ、この仕事に就いてまもない頃、指導先の尊敬する先生が、私のことをこんな風に言ってくれた。
「森下さんは、謙虚だからいいんですよ」と。
すかさず、私は答えた。
「いえいえ、ただただ自信がないだけなんです」と。
ほんとうに、本心からそう答えた。しかし、そのときは気づかなかったのだが、どうやらそれが私の武器なのだ。
それは、私でなく、私の出会った数多くの本の中で、先人の方々が教えてくれた。(以下、出典不明、敬称略お許しください)
「学ぶことがなくなったら指導者をやめるべき」
(元サッカーフランス代表監督 ロジェ・ルメール)
「謙虚さこそが、人間を一流に導く根源」
(野村克也)
「聞く耳を持つんや。それが『成長』するための最大の秘訣やで」
(『夢をかなえる像』 飛鳥新社 水野敬也著 ガネーシャ主人公ガネーシャの言葉 )
「自分が不完全であると謙遜せずに言うことは、大切だし意外に難しい。それはコミュニケーションノ段位になるほどかもしれない。それほど人は他人を虚飾で見てしまう」
(精神科医 名越康文)
「自分の言葉に違和感を抱いているという君は、見込がある。言葉に疑いを抱かない人間の書く文章なんてろくなもんじゃない」
(随筆家 田村隆一さんの言葉)
「人間の偉大さは、人間が自分の惨めなことを知っている点で偉大である。樹木は自分の惨めなことを知らない。だから、自分の惨めなことを知るのは惨めであることであるが、人間が惨めであることを知るのは、偉大であることなのである」
(哲学者 ブレーズ・パスカル)
「自分の正しさを雄弁に主張することのできる知性よりも、自分の愚かさを吟味できる知性のほうが、私は好きだ」
(武道家の内田樹)
「わからないことがあるということを、必ず留保としておいていないと謙虚にならないんです」
(解剖学者の養老孟司)
20年、指導者としてやってきて、唯一自信をもって言える事。
それは、自分があまりにも、知らない、できないことが多すぎて自信を持てないことである。でも、もしかしたら、そのことが仕事が継続していることの最大の理由なのかもしれない。
師匠は言った。「勝負事だから、勝つこともあれば負けることもある。でも勝ったら、監督や選手のおかげで、決してお前のおかげだと思うなよ。その代わり、負けたらお前のせいだと思え。では、我々に対する評価は何か。それは勝っても負けても仕事が継続していくことだよ」と。
おかげさまで、ほとんどの仕事が長いこと継続している。そのことで満足してはいけないが、少しは自分を褒めてもいいですかね、師匠。「お前、そんなことで満足した瞬間成長はとまるぞ」と、師匠から怒られそうである。あと、10年続いたら、そのときは褒めてくださいね。