しかし、強かった理由はもっと違うところにあった。
横の早稲田に、縦の明治、魂の慶應という特徴あるラグビーで、大学ラグビーはまさに絶頂の人気スポーツだった。当時の早明戦は6万人入る国立競技場が毎年のように超満員で、チケットを入手するのも大変なくらいだったのだ。
「自主性ほどしんどいものはない」
「学生を信じるのかどうか、信じられなかったら指導者はやめないといけない」
講演家であり、人間力大學理事長の大嶋啓介さんがこんな話をしている。
「目標達成のコツも、問題解決のコツも、夢をかなえるコツは、ワクワクすることです」
目標を立てるだけではダメで、目標に対してワクワクできるかが大事なんだと。やる気のない選手がいたら、「この選手がやる気になったらどんなに凄いことなんだろう」と、そのことを想像してワクワクする。
私は、自分で言うものなんだが、そうとう楽観的で、物事をポジティブに考えられるタイプだ。だが、あまり未来に向けて何かができているイメージを持とうとしたことがなかった。常に、目の前のことを受け入れてポジティブに考えようと。だから、やる気のない選手がいたら、「今、自分のベストを尽くさないと、人生はもったいないよ」と、そんな説教臭いことを話してしまうのだ。たいてい、選手からは、「森下さんのようにポジティブには考えられないです」と言われて終わってしまうのだ。
約20年、トレーニングコーチとして大学生や高校生と接して、ずっと考えていることがある。
どうしたら、選手たちが主体的にトレーニングに取り組んでくれるか、それがテーマだ。言い方を変えれば、主体的に取り組んでくれさえすれば、指導の8割は終わったようなものだと思っている。
「良い先生は、かみ砕いて教える。優れた先生は、考えさせる。偉大な先生は、心に火をつける」
とは、教育学者ウィリアム・アーサー・ワードの有名な言葉である。
どうしたら、選手たちの心に火をつけることができるのか、そのことを求めて、本を読み、様々な先人たちの言葉によって励まされ勇気をもらってきた。しかし、言うは易しで、実際に現場で、あからさまに態度の悪い選手や、あきからかにやる気のない選手を見ると、イライラしてしまう自分がいる。挙句の果てには説教を始めてしまい、時には反発され言い合いになってしまうのだ。
もちろん、私が説教をした選手が、翌日から態度が変わりやる気になるのかと言えば、ほとんどそんなことはない。下手をすると、また翌日から同じようなことで怒られる始末なのだ。どうしたらよいのか。
目標を立てる、なんのためにやっているかを問う、選手との関係性を築く、環境を整える、自分がお手本になる、何がきっかけで選手の心に火をつけるか、それはわからない。ならば、目の前の1人でも多くの選手が、目を輝かせて夢中になって取り組めることを追い求めたいと思う。
そのきっかけの一つに、大嶋さんの言葉が仲間入りする。
大切なのは目標に向けて、問題解決したことを想像してワクワクすること。未来にできたことをイメージすることを予祝というらしいのだが、今だけでなく、未来を想像してみること。ずっと、目の前の今、その瞬間こそが大切と考えて生きてきた私にとっては、この発想は新たな可能性を広げてくれるかもしれない。
昨日、4か月ぶりに現場での、高校野球部のトレーニング指導があった。
4月中旬より6週間にわたり、Zoomセッションを週1回の頻度でやらせてもらったチームだ。
目標であった甲子園大会が無くなったときでも、3年生を中心に真摯にトレーニングに取り組んでいてくれた選手たち。やっと現場で会えることを心待ちにしていた。まずは、2・3年生のムーブメントトレーニングから始めることにした。しかし、なんだかどうもしっくりこない。きっとマスクをしているせいもあるのだが、声のトーンだったり、リズム感だったり、あまりに久しぶりすぎてなんだか居心地が悪いのだ。このチームは年に8~10回くらいの頻度で、なんと20年目のサポート。こんなに間隔が空いたのは初めてのこと。
自分でもびっくりするくらい感覚が狂っていた。それでも、途中から徐々に感覚が戻っているのを感じながら、後半は1年生のセッション。ようやく、ここからは違和感なく進められている自分がいる。
練習後、3年生と会うのは最後だからと、監督が「森下さんからひと言お願いします」と。
円陣を組んでいる選手たちの前で話し始める。「俺もね、50年生きてきてこんなことは初めてだった。みんなも知っているように、スポーツ業界は大変な状況で、俺の知り合いのトレーナーの人でも解雇された人もいる。そして、皆は甲子園という大会が無くなってしまった。でも、皆は一生懸命にZoomセッションに取り組んでくれた。正直さ、俺もむちゃくちゃ不安だったんだよな。俺の仕事はどうなるんだろうかって。だから、皆のおかげで頑張ることができたんだよな。こうしてここに立てていることは当たり前のことではないんだなって、改めて思った」 途中からは、鼻水が出て涙が出て、もう何を話しているのかわけわからない状態に。大会が無くなり、泣きたいのは選手なのに、しかも3年生に向けた最後の言葉が、ことばにもならない。
私が話し終わると、主将が3年生が書いてくれた色紙をプレゼントしてくれた。いやー、本当に嬉しかった。まさに指導者冥利に尽きる。昼食をすまし、帰ろうとすると、監督の先生が、「森下さん、今日は私が送りますよ、新車に換えばかりなのでドライブがてら」 私は監督の自宅付近までのつもりで「はい、宜しくお願いします」と答えたのだが、実は私の自宅の立川までのことだったのだ。「え、ちなみに何時間かかる予定ですか」「3時間あれば行けると思います」
結局、お言葉に甘えて、水戸から立川までの2人旅に。道中、いろんなお話を聞くことができて、やっぱり、この先生だったから選手たちは、気持ちを切らさずに前向きにいられたんだなと、再確認することができた。いやー、現場復帰の最初の仕事が、このチームで本当に良かったと思う。
また、自分が前向きに仕事に取り組めるエネルギーをたくさんもらうことができた。
トレーニングコーチという仕事、正直、来年がどうなるかさえわからない不安定な仕事。それでも、20年続けてこれているのは、間違いなく、出会った選手たちと、指導者の方々のおかげである。決して、私は稼ぎが良いコーチではない。なんとか、カミさんが働いてくれているからやってこれている。それでも、やっぱり、私は高校生や大学生たちと共に、同じ空間、同じ時間を共有し続けたいと思う。
今、ここにいること、それは当たり前なことではないのだから。
Zoomセッションも、毎朝月曜日から金曜日まで6週間も続くと、あきらかに気持ちが切れてしまった選手とそうでない選手に分かれてしまうようだ。もちろん、こちらの指導力の無さは棚に上げておくが。
そんなわけで、今朝は、自分を見つめなおすことを少しでもやれないかと思い、急遽、座学というか、問いかけの時間に変えてみた。
前日の夜に、「明日は紙とペンを用意して、必ず机といすで待機するように」と主将にラインを送る。
同じく前日の夜に、資料を慌てて作る。と言っても問いかけがほとんどなので、大したことはないのだが。
枕をどうするか?
朝、8時開始とは言え、ほとんどの選手は寝起きの状態。久しく、こんな時間に何かペンをとり勉強してはいない強敵ばかり。
いいアイデアがあった。目標の確認を選手にして欲しかったので、まずはパワーポイントの資料の最初の言葉はこれだ。
〔車のナビには何が出てる?〕
「地図です」
「おー、そうだな。あとは何が出てる?」
「道?」
「ナビは何のためにあるの?」
「行く先」
「そう、目的地だよね、ゴール」
そう言って、地図のあとにゴール地点を出して見せる。
「あとは?」
「現在地」
「そうだよな、現在地を入力しないと目的地までの道順出てこないよな」
画面に現在地を示す。
そして、次のスライドを見せる。
〔目標は何ですか?〕
「書いてみて」
「現在地はどこですか?」
「書いて」
このナビの話は、昨年受講した講習会で教わったのだが、むちゃくちゃわかりやすい。
ゴールに行くためには現在地の把握が必要なことが、一目瞭然にわかる。
目標と現在地がわかれば、あとは、どうやったら目標が達成できるかを具体的に考えていく。
〔いつまでに?〕
「目標を実現するには、期限を決めるといいらしいよ」
〔いつからやるの?〕
「〇〇、いつからやるの」
「今ですかね」
〔今でしょ!〕
「おー、ここは笑うところだ」
そして、3分ほどのスーパープレイの動画を見て小休止。
実はここからが今日の本題。
〔では、もっと掘り下げます〕
〔目標よりも大切なことです〕
〔なぜ、〇〇をするんですか?]
〔なんのために、〇〇をするんですか?〕
〔誰のために、〇〇をするんですか?〕
〔〇〇をやる目的は何ですか?〕
〔徹底的に考えてみてください〕
〔なんのために、〇〇をするんですか?〕
3分ほど時間を与える。
続けて、ウエイトルームにも貼っている私の好きなガンジーの言葉を紹介する。
〔明日死ぬと思って生きなさい、永遠に生きると思って学びなさい〕
「俺は50過ぎてるからさ、たぶん皆より、1日1日が大切に感じるんだよ。おれも、みんなくらいの時はさ、そんなこと考えたことなかったよ。でもさ、俺もみんなも明日死ぬかもしれないんだよ。そう考えるとさ、大事なのは今、この瞬間しかないと思うんだよ」
あとから、主将から聞いた。
「ナビの話と、最後のなんのために、っていうの、凄く良かったです。もう、あれは3分で考えるのは無理でした」
どれほどの選手が主将のように、自分と向き合うことができたかはわからない。
でも、少なくとも主将の心には、何か感じるものがあったのだから、もうそれで十分だ。
最後の主将の締めの言葉は、本当に気持ちのこもった良い言葉だった。
私の話より、彼の言葉を聞いて、何かを感じた選手はたくさんいたに違いないのだ。
最後に、おそらくこうした時間、自分と向き合うにはオンラインセッションの方が良いように感じる。