イングランドとの決戦を制して、ついにクロアチアがW杯決勝進出を果たしましたね。
レアルマドリードのモドリッチ、バルセロナのラキティッチという世界屈指の中盤デュオを中心にゲームを掌握し、ユベントスのマンジュキッチ、インテルのペリシッチ、フランクフルトのレビッチの攻撃陣が鋭い矢となって何度も相手ゴールを襲撃。ロブレン、ビダの屈強なCBコンビが攻撃を跳ね返し、ブルサリコ、ストリイッチの両サイドバックが派手さはないが攻守に起点を作っていく。そして最後尾ではGKスパシッチが冷静で狡猾な判断から鋭く正確なセービングでゴールを守る。また相手や試合展開に応じてブルゾビッチ、コバチッチ、クラマリッチというカードを使い分けるチームとしての戦い方の柔軟性も見事。ここでいう柔軟性とは「対応する」という受け身的な意味だけではなく、そこから新しい力を生み出すうえでベースとなる「反発力」という意味も含まれています。
全人口430万人のクロアチアが成し遂げているセンセーション。いや、興奮しますよね。そして、こうした展開になると、「強さの秘密は?」「クロアチア式育成法」という言葉が躍りやすくなるものですが、彼らには何か特別なものがあったのでしょうか。
最先端のデータ分析?
最新鋭のトレーニング施設?
画期的なトレーニング理論?
クロアチアのスポーツは非常に優れていると世界でも高い評判を受けています。サッカーだけではなく、バスケットボール、ハンドボール、テニスも強い。そんなクロアチアのスポーツ事情について元代表FWで現在アシスタントコーチを務めるイビチャ・オリッチがビルト紙のインタビューでこんな答えをしていました。
「クロアチアにはドイツのスタジアムと比肩できるものは一つもない。インフラは最悪なんだ。政府はスポーツにほとんどお金を出してくれない」
先日W杯親善試合取材で現地に行きましたが、確かにW杯壮行試合として行われたオシジェクのスタジアムは老朽化が進み、また隣にあったグラウンドはぼこぼこで、ネットの破れた錆びついたゴールが転がっているありさま。
同じ町にあるクラブの練習場にはきれいなグラウンドがありました。でも一面。他のヨーロッパ諸国と比べたら恵まれているとは言えない。
サッカー協会にも課題はたくさんあります。山ほどある。スキャンダルがメディアを騒がすのも珍しいことではないですし、マフィアやフーリガンの騒動も悩ましい問題。「完備されている」とはとてもいないサッカー環境です。
でも、誰もそんな環境のせいにしたりはしない。ないことを嘆くのではなく、ある中でできることに取り組んでいく。アイディアを出し合っていく。立ち止まるのではなく、前へと進もうとする。その精神が彼らのよりどころ。
決勝トーナメントに入ってからは3試合連続の延長戦となりながら、クロアチア代表選手の足は止まることがなかった。疲れてないはずがない。ボールがピッチ外に出るたびに、膝に手をつき、大きく息を吸い込む選手たちだが、再開されるとすぐにまた走り出す。全精力をかけて戦い続ける。最後の最後まで途切れることのない懸命なプレーに僕はほんとうに胸を打たれました。
決勝ゴールを決めたのはマンジュキッチ。その直前のシーンではGKと激しく交錯し、痛そうに地面に倒れこんでいたのに、目の輝きは消えることなく、さらに燃え上がっているようでした。監督のダリッチは「何人かの選手は片足でプレーしているようなものだった。
何が彼らを走らせるのか。何が彼らを突き動かすのか。
オリッチはこんな言葉を残しています。
「僕らクロアチア人はみんなファイターなんだ。才能だけじゃない。僕らはハードに取り組んでいるんだ、すごくハードに。だって、スポーツは僕らの情熱そのものだから」
ハングリー精神という言葉を使う人がいます。メンタルこそがすべてと声を大にする人がいます。僕も大事だと思います。とても、とても大事だと思います。
でも、その言葉に逃げ込んではいけないんです。だからこそ、です。だからこそ、正しい頑張り方を見つけて、身に着けていかなければならないと思うのです。ハングリー精神とは、大舞台で求められる強いメンタルとは、「追い込まれた先にあるもの」ではなくて、自分が心底ほれ込んだものと、どこまでもがむしゃらに向き合っていきたいという決意であり覚悟から生まれてくるものだと思うのです。
彼らがハードに取り組んできたのは「サッカー」です。「メンタル」はその結果。選手も指導者も関係者も、サッカーと真剣に、情熱的に向き合っているわけです。真剣にやれば当然ぶつかりあうこともありますよね。でもそのぶつかりから新しいアイディアが生まれてくるはずです。子どもでも大人でも、その中で活路を見出していく。駆け引きで優位に立つための経験が貯蓄されていくわけです。ハード面での環境は恵まれていないのかもしれない。でも、人として成長するための環境がそこにある。だから向上心は枯れることなく、野心を損なうことなく、タレントは花開いていく。僕はそのように感じています。
そのすべてがかみ合った時に本物のチームというのは生まれるのかなと思いました。モドリッチは「僕が代表チームでプレーするようになってから、今ほどみんなが一致団結していることはなかったよ。スペシャルなことだ」とコメントしていましたが、その道のりを考えると、ただただ感嘆の思いでいっぱいです。
上を目指すことは大切ですし、そのための準備を整えること、環境を作り上げることも必要でしょう。「育成哲学が・・・」「練習施設が・・・」。取り組まなければならないことでしょう。でも、それがないからできないというのでは先には進めない。道に沿って歩くだけが人生ではないし、道を作るのは誰かではない。なければ作ればいい。切り開けばいい。一人でできなければ手を取りあえばいい。つながりが生まれたらそれを広げいけばいい。その一つ一つが素晴らしい出会いであり、経験であり、チャレンジではないですか。
とりあえず僕はまたクロアチアに行ってみたい。もっと身近で感じてみたいなと思っています。
決勝戦、どんな戦いになるんでしょうね。楽しみです!